Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

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番外編 本部長霧山悠斗の恋

この先も、共に笑おう

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「ふえぇ…うえぇ…」
「ぴぎゃ~!」

「はいはーいっ…どうしたのかな?おっぱい…はさっき飲んだよねー。…んー?」

「……、…」

霧山が生きる極道の世界も『殺るか殺られるか』などと良く言うが…今やある意味においてこの霧山家でも『やるか、やられるか』の状況である。

…やろうと思う事を先んじてやっても意味がなく、かと言ってやるタイミングを逃してしまったら大変な事になる、という解釈だ。

あの後を病院で無事に過ごし、晴れて退院したほのかと双子が帰って来てからしばらくが経っていた。

霧山はというと…事務所での仕事を自宅に持ち帰り、在宅で仕事をしながら育児に参加している。これもすっかり昔の鳴りが潜め『子煩悩』と化した会長清水の計らいのおかげ。

只でさえ1人でも大変な育児なのに、双子が産まれたのだから何もかもが『2倍』かつ『一緒』。とてもではないが慣れるまではほのか1人になんて出来やしない。

…只でさえ『斜めに抜けていて』何かとやらかす嫁なのだから。

「…。おい…泣いてるぞ。大丈夫か?」

「うん大丈夫っ。赤ちゃんはね、泣くのも大事なんだって。成長する為に必要なのよって、美優さんに教えてもらった。」

「いや、その話はわかるけどよ…ケツが気持ち悪りぃって泣いてんじゃねぇか?…どら、こっちは俺がやる。お前はそっちだ。」

夫婦は並んで床に座ると、双子を並べ寝かせて一斉にオムツ替えをスタート。ものの数分で終えると双子もスッキリしたのか“ほよん”とした表情が浮かんだ。

「すっきりしたねー、まなちゃん♪」

「…俺はかずのやたらとデカい、この『うずまき』がめちゃくちゃ気になる。…誰に似たんだ?お前は。」

「えー…それはやっぱ『パパ』でしょ。うずまきって自分じゃ見えないモンね~。悠斗さん、普段から髪長めだから分かりづらいけど、よくよく見るとぉ…ねぇ?」

「おいコラ。人の頭皮がヤバいみたいな言い方は止めろや。俺はまだハゲ散らかしてねぇぞ。」

「うぇっ、ハゲ散らかしちゃう『予定』があるの?!」

「「…。あっははは♪」」

…こんな感じで話し笑い合う2人は、何だかんだで楽しみながら育児をしている。

産まれた双子は先に分娩で産まれた長女が『まなか』、後に帝王切開で産まれた長男が『和斗(かずと)』という。

二卵性の双子は兄弟程度にしか似ていないと言われる中、面白い程に顔が瓜二つな顔を持って産まれ成長していく霧山家の双子。裸ん坊にしておくとたまにどっちがどっちなのか見分けが難しく、男女の違いが唯一の区別なので同性じゃなくて良かったと霧山はしみじみ思うのだ。

「こんちゃ。まなたん、かじゅくんっ。りゅうだよ?」
「うー!」

「あはは!まなちゃんもかずくんも、おめめがまん丸っ。2人ともー、流お兄ちゃんと小梅お姉ちゃんだよ?仲良くしてねー♪って。」

「ったく…朝から双子のとこに遊びに行くって騒ぎやがって。…悪りぃなキリ、邪魔しちまって。」

「いえ、気にしないで下さい。寧ろ何のお構いも出来なくて…」

「とんでもないです。…まなかちゃんも和斗くんも、だいぶ表情が豊かになりましたね。」

「…成長って奴なんですね。かなり『人間らしく』なりましたよ。」

この日、息子娘に強請られ一家で遊びにやって来た清水ら。ゆるりと成長を遂げていく双子を見て笑みが浮かぶ。

「南雲のトコも無事に娘が産まれたみてぇだし。会関係で『親父率』がだいぶ上がったな。」

「まだまだこれから、なんじゃないですか?会長。」

そんな会話をしながら、清水夫婦と霧山の視線はやがては遊び出した子供らに向けられる。

「…。どうよキリ…実際に親父になってみて。なかなか『乙(おつ)』なモンだろ?」

「ですね…自分にも、こういう幸せの形があったかと思う事はあります。」

「ふふっ♪ほのかさんに感謝ですね。」

「はい。」

「……。キリ…オレは、正直言ってお前が『嫌い』だったぜ。苦手っつっても良いな。」

「…何なんです、いきなり…」

「だってそうだろ。何かっちゃあ屁理屈ばっかで、あー言えばこう言う…」

「それは貴方が支離滅裂、無理難題…挙句には立場構わず特攻仕掛けてばっかりだったからですよ。」

「けどよ…今となっちゃあ、そんなお前が1番の『頼り』なんだよ。それが会長の椅子に座って真っ先に実感した事だ。…この先も頼むぜ、キリ。」

「…。はい…宜しくお願いします。」

「子供達も仲良くさせて頂いてますし、私もほのかさんと仲良くさせて頂けて嬉しいです。…宜しくお願いします、キリさん。」

「こちらこそ…姐さん。」

「私…初めてキリさんと病院でお会いした時、内心ではすごくビックリしてたんですよ?全く極道って感じがしなくて。…キリさんも、お若い頃は圭介さんみたいに爆音出してバイクで走ってたりしてたんですか?」

「…。美優…もしかして『族』って言いてぇのか?」

「はい、それです。『族』です♪」

「い、いえ…自分はそういうアレではなくて…」

「…??」

「コイツは根っからのワルってガラじゃねぇよ。…ウチの会に入ったのだって、八雲さんにスカウトされてだからな。…『ココ』を買われてよ。」

「…なるほど。そうだったんですね。」

清水が『ココ』と言いながら自らのこめかみを指差して説明するのを聞いた美優は、納得したと言いたげに頷く。だが蚊帳の外にいたほのかはちゃっかりと聞いていて…

「うわ、そうなんですか?!…でも会長さん。『根っからのワルってガラじゃない。』って言ってましたけど…ウチの悠斗さんコワいですよ?何時ぞやの時だって、チンピラ相手にちょっと蹴っただけでボーン!て吹っ飛んじゃいましたしっ。」

「そらそうだろうぜ。極道になった以上は喧嘩出来なきゃ意味ねぇ。『やられたらやり返す』…しかも返す比率は倍以上にな。コイツは会に入った頃なんか人間殴る事なんか出来なかったんだ、喧嘩の仕方はオレが教えたんだぜ。」

「…おかげ様で、一端にやれてますよ。」

そんな大人達の思い出話も束の間…

「まなたん、かじゅくんっ。ちょこたべゆ?」

「り、流?!お前、ンなモンいつの間に…どこから出したっ。」

「う?…ぽっけ!“ぶー”のゆまえに、もってきた!」

「…はぁ。マジで『チョコ狂い』だな…流は。」

「わ、若…ウチの双子はまだ食えないんですよ。」

「…。しょうなの?きりにいたん。」

「ごめんなさい若様…もうちょっと大きくなったら、一緒に食べてあげて下さいね?」

「あい!…じゃあうーたん、あーん♪」
「あー♪」

流は手に持っていたチョコの小袋を起用に開けると、妹の小梅の口にポイと放り入れ自分も1コをはむはむと食べ始める。

清水の幼兄妹がもぐもぐと幸せそうにチョコを食べるそれを見て、父清水にはドッと疲れたようなげんなりした表情が浮かんだ。

「ったくなぁ…流の狂わんばかりのチョコ好きは誰似なんだよ…」

「さぁ…だ、誰なんでしょう。私もそんなに甘い物は食べませんし、圭介さんだって…」

「…オレはどっちかってぇと、甘いモンは『苦手』だ。…!ジジイかっ、ジジイが甘いモン好きなんじゃねぇか?」

「へ。お祖父ちゃんですか?」

「…。ミスターロゼーニョ…確かに可能性はありますけど。そうなると『祖母』という線も外せませんが…切りがないですね、考え出したら。隔世遺伝としか言えないでしょうから。」

「…いや、もう1人『甘いモン好き』がいた。…流平だ。」

「!?」
「流平さん…ですか?」

「…。アイツも…甘いモンなら何でもござれの奴で、メシよりデザートを優先するくらいだったからな。咲希とも…よくデザートバイキングとかに行ってたわ。…やっぱ同じ字を持つモン同士だな。」

「ふふふ♪ですねぇ~。」

こうして様々な話に花を咲かせた清水一家は、まだ帰りたくないとゴネて暴れる息子娘を両脇に抱えて退散していく。

その会長たる清水の姿が後には自分の姿ともなるのかと思うと、何故か冷や汗が伝うのだった。



霧山悠斗…類稀なる優秀な頭脳を持ちながら、極道組織へと身を投じ暗闇の道を自ら歩くと決めた男。

性格もさる事ながら、彼が置かれていた環境がしたくもない経験をさせ他人と一線を引かせた。そこは未だ謎が多い。

だがほのかと出逢い、共に過ごす中で霧山は少しずつ『変わって』いった。何より変わったのは、2代目会長となった清水との関係性だろう。

まるで犬猿の仲のように何かと言えばああだこうだとぶつかり合って来た2人は、今では互いに妻を持ち子を持つ父となった事も手伝って、繋ぐ信頼がより強固なものとなったのだ。

自分がこうなれたのも、僅か18ながらに壮大な覚悟を決めて側にいてくれる『嫁』のおかげ…そう思っている。

「んふふ♪若様やお嬢様みたいに、双子ちゃんも早くお話出来るようになって欲しいなぁ~。」

ベビーベッドの上で並んで寝ている双子の頭を交互に撫でながら、ほのかがこの先が楽しみだと言いたげに笑う。

「…。ほのか…ありがとな。」

「へ?…な、何?いきなり。」

「いや…何となくそう思ったから。言っとこうかと思ってな。」

「ふぅん…悠斗さんって、たまーに不思議な事言うよねー♪」

…霧山はほのかに対して感謝し尽くせない思いなのだ。

自分と出逢ってくれて『ありがとう』

自分を選び、側にいると誓ってくれて『ありがとう』

双子を産んでくれて『ありがとう』

そして…自分を愛してくれて『ありがとう』

ほのかへの感謝を挙げ始めると切りがなく止まらない程に『ありがとう』が湧いてくる。

…もう1つの『Hold on me』…

“お前がいれば、俺は変われる”

無邪気に笑う、その笑顔さえあれば…
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