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小話集
北斗聖龍会流お礼参り〜成れの果て(後)
しおりを挟む離れた地で1人、愛しい女を想っていた圭介。正にその時鳴ったスマホの相手の名が同じである事が嬉しくて勇んで電話に出た。
「おう。どうした美優。」
『圭介さん?…今、お話してても大丈夫…ですか?』
「あぁ。さっきまで会長と一緒にいたが、今は部屋で1人だ。…なした?」
『…、…っ、…』
「…美優?」
『…ごめん、なさい…やっぱり何でもっ…ないです…明日、気を付けて…』
部屋に備え付けられている時計に目をやると23時になろうとしていた。病院の消灯時間は21時…彼女が何を思い行動を起こしたのかが圭介にはすぐにわかった。
「…。なぁ美優…言いてぇ事とか思ってる事があるんなら言ってくれ。オレがいないトコでお前が1人で泣いてるとかムリなんだよ…耐えれねぇんだ。それくらいなら、今泣かれた方がそれ相応の“言葉”を言ってやれる…」
『……っ…』
「…それにな。きっとオレも美優も、同じ事思ってるだろうからよ…」
『…。圭介さん…っ、寂しいです…早く帰って来て…っ。』
「……。…はぁ…」
『ごめ、なさいっ…無理なのはわかって、ます…ごめんなさいっ…』
「違うって、勘違いすんな。怒っちゃいねぇよ。…やっぱ同じだったなぁってホッとしたんだよ。」
『…っ、え?』
「オレも寂しい…美優。今すぐ帰りてぇ…お前の側に。」
『…っ、圭介さんっ…』
「むぅ、ちきしょう…飛行機でもチャーターすっか?どうせ会長だってとっとと戻りてぇだろうしよ。」
『ダ、ダメですよ!?そんな事にお金を無駄に使っちゃ…』
「わかってる。この時間になっちまったらさすがに無理だ。…、…ゴメンな美優。」
『圭介さんは何も悪くありません…1人でお留守番出来ずに泣く、私がいけないんです…小さな子供みたいです…』
「ンな事ねぇって。オレは美優に甘えてもらえて嬉しいぜ。何せ滅多にお目に掛かれねぇ『激レア美優』だからな。幹哉は何してんだ?」
『…。ドアの前の廊下で眠ってます…きちんとお布団で寝て下さいってお願いしたんですけど…』
「ヨシ。やっぱアイツに頼んで正解だった。」
『…ハイ?』
「いやこっちの話だ。…美優、明日の朝一の便でそっち戻るから。」
『…、はい…』
出来る事なら、すぐにでも側に帰りたい…それが出来ない今、せめて想いは…『心』は側にいるとわかっていて欲しい、安心して欲しい…そう願う圭介は、彼女にしか伝えない愛を囁く。
「愛してるぜ、オレの可愛い“モナムール”…着いたら速攻で病院行くから。寂しかった分以上に抱きしめてやる。」
『…はいっ。待ってます…圭介さん。』
東京と札幌…長い一夜はこうして明け、朝一の便で笛木と圭介は地元へと戻る。到着した2人を出迎えたのは圭介から連絡を受けていた司と将也、そして笛木を迎えに来た小田切だ。
「お疲れ様でした…会長、若頭。」
「「お疲れ様っす!」」
「ご苦労さん。…じゃ会長、すんませんが自分はここで。…おい、行くぞ。」
「「うす!失礼します!」」
「…ど、どうしたんですか若頭。何か急ぎの用事でも?」
「くっくっく。たった一晩離れていただけだというのに…堪え性のないヤツです、清水も。」
「…??」
そんな中、一方の美優はというと…
「いやぁ~、ガキの頃の圭介はマジで腹の立つクソガキっつうか『悪ガキ』でねぇー。こーんな頃からイタズラして歩いては近所のおっさん達に叱られてたんですよー。」
「ふっふふふ♪札付きワルは根っからって事ね。そういう貴方も…一緒になってワルやってたんでしょう?センセっ。じゃなきゃ、一緒にこっちに家出同然で来ないわよね?」
「い、いやぁー…それ言われちゃうと、俺のガラスのハートにヒビ入っちゃうなぁ…」
「まぁ、よく言うわよっ。」
「……、…」
美優の元には“念の為”と圭介から連絡を受けたみずきが見舞いと称して訪れていた。それを知って南雲と志穂までもが加わり、圭介の子供の頃の話などで場を繋いで彼女を和ませようと頑張る。だが…やっぱり美優の表情は暗く、僅か涙目だった。
「…姉貴。朝一の便なら時期にこっちに着きます。すぐに兄貴が来ますよ。」
「そうよ美優さん。しーくんの事だもの、すっ飛んで来てくれるわ。」
「…。はい…」
「…?、美優さん…さっきからずっと密かに気になってたんだけど…スマホ、どうかしたの?」
「え、い…いえ…」
「よく見てるわね、瞬くん…でも私も気になってたの。時間でも見てる?」
「いえ…あ、あの…あ。」
皆の話を聞きながらも、美優はスマホを大事そうに握り締めて時折その画面をタップしていた。それを見逃していなかった南雲と志穂が指摘した時、意図せず指が触れてしまい彼女がひっそりと『見ていた』物が露わになる。
「…おぉ。」
「あらあら♪」
「ラブラブ。」
三者三様の驚声が上がるのも無理はない。…そこに映し出されたのは、圭介が美優の背後から抱き着き顔を寄せ合って撮った『写真』だったからだ。
「…ンだよ、圭介のヤツ…イイ顔してんなぁ~おい!」
「写真嫌いなしーくんが珍しいわねぇ♪元が良いんだから、もっと愛想良くしていたらもっとモテたでしょうに。…残念な子よね。」
「ち、ちょっとみずきさんっ…今更モテてどうするんですかっ。美優さんいるのにっ。」
「あ、あらやだ…失言失言っ。」
「……。」
「や、やぁね…お酒の席でおじ様達をお相手してるとこうなっちゃうんだから…オホホ。」
その時…バン!と勢いよく病室のドアが開き、何事!?と思う間も無く旋風が巻き起こる。ハタと気付けば、美優の側にいたみずきが無遠慮に弾き飛ばされていた。
「ちょっと!何なのよいったいっ…て、あらあら♪」
「美優っ…戻ったぜ。仕事といえ1人にして悪かった…」
「…。圭介、さんっ…」
「あー…ゲフンゲフン!気のせいかなぁ~志穂ぉ、急に胸がムカムカと…」
「もう、人を突き飛ばすなんてっ。そんなに美優さんが恋しかったの?」
「ったりめぇだろが。美優はそんじょそこらにはいねぇ、オレの『自慢の』!『可愛い』!女だからな。…つうかみずき、お前いたのか。何で南雲と志穂までいんだよっ。」
「んまっ、その言い草!…私はね、貴方の話を聞いて心配して来たのよ?しーくんっ!」
「俺と志穂はみずきさんから話聞いて。美優さんが寂しがってるって言うからぁー。」
「…。あっそ、ご苦労さん。もういいぜ…美優にはオレがいるから。」
さっさと2人になりたい圭介はシッシと手を振って3人をぞんざいに追い払う。だが…ハイそうですかと黙って引き下がらないのが、揶揄いたくてウズウズとする南雲である。
「ンなんだよ…ったくなぁー。せっかくお前のガキの頃の話で盛り上がってたのによぉ~。…じゃあまた話しようね美優さん♪」
「…。おいコラ、待てや。今何つった…オレのガキの頃の話だぁ?」
「あぁそうだよ?とんでもねぇ悪ガキだったって話をしてたんだ。楽しかったねぇー♪」
「るせぇよ!またなんかあるかっ。…何を話したんだよ南雲っ!」
「別にコレといって。…あ、それとも!お前のド派手な女遍歴の話の方が良かったかぁ?初体験のヤツとか♪」
「…て~めぇ~…なーぐーもぉーっ!」
「あら気になる。清水さんの初体験♪」
「気にすんな志穂!」
「えー、ではリクエストにお応えしまして…あれは今から十何年前の事。清水圭介クンは当時中学2年、反抗期の真っ只中でありましてぇ…」
「だぁ!!るせぇっ!何喋ろうとしてんだよっ。」
「お相手は歳上の女子高生、ちょっとヤンキーが入った人でぇ…ぐふ!」
「…てめぇ…沈めんぞ、マジで。」
「やーん♪怖いぃ~♪圭チャンたらぁ~っ。」
「キモいんだよ!!」
「…。何ジャレ合ってるのよ…」
「しーくんの『初めて』って…歳上だったのね♪何だか納得よ、ふふふ♪」
「…。…うぅ……ゔぅ…」
「み、美優っ…む、昔の事だ、昔のっ…今のオレには美優だけだっ。」
「いやいや。圭介がそんな焦るとはなぁ…良いモン見た!あははっ。」
「…あはは、じゃねぇよ南雲…美優を泣かすとは良い度胸してんじゃねぇか…あァ?」
「お、やるか?圭介…」
「やられたらやり返す!同じテでな!…志穂、瞬の『初体験』知ってっか?」
「…え?」
「っ?!ち、ちょっと待った圭介!」
「知る訳ねぇよな。コイツが童貞捨てたの…こっちに来てからなんだぜ。相手の女は…みずき、お前も知った顔だぞ。」
「やめてくれってぇ!」
「え…私も知ってる?…ってまさか…ウチのチームの子?」
「あぁ。名前は何つったっけなぁ…なんか知らねぇが、オレらが来るとすぐ姿隠す女いたろ。翠と仲良くてツルんでた…」
「…、…!あ…もしかして。」
「…その女だぜ、瞬の筆下ろしの相手。かといって付き合ってた訳でもなし…最悪だぞ瞬。まぁ…人の事を言えた義理ねぇけどよ…」
圭介の『仕返し』という爆弾投下に、南雲があちゃーと顔を隠す。いくらワルの集まりの『族』といえ、人聞きが悪いとひた隠しにして来た事が、よりにもよって女が所属する族の頭だった人にバレてしまったのだ。…コレは居た堪れない。
「…そう。そういうコト…ふぅ~ん…」
「最低…『類は友を呼ぶ』って言葉があるけど本当ね。」
「…、…っておい!そこにオレを入れんなっ。」
「瞬くんも清水さんも、私から言わせるとどっちもどっちよっ。…そうやって10代からお盛んに遊んできたんでしょう?」
「……っ…」
「…。おい南雲…てめぇのせいでこっちにまで飛び火して来やがったぞ…どうしてくれんだよっ。」
「だから止めろって言ったんだろがっ。」
「何ごちゃごちゃ言ってんのよ。…ま、別に良いけどね。昔の事に腹立ててイライラしたってキリがないもの。」
「そうね…昔は昔、今は今。今が良ければ全て良しとも言うし。…だから美優さんも割り切りましょ。」
「そうそう。無駄に疲れるだけよ。もし『今』他に走ったのなら、そうねぇ…罰としてアソコをちょん切ってやればいいわ。あ、大丈夫っ。健先生に後処理してもらえば死にやしないわよ。」
「ってオイ!?その前に死ぬわ!…おい南雲…なんかオレら、けちょんけちょんに言われ放題じゃねぇか?」
「あっははぁ~…、…なぁ圭介ぇ…今晩お前んとこに泊まらせてもらっても良いかぁ?」
「…。誰もいねぇけどな…ウチ。」
かくして逃げ場をあっさりと失った南雲は『くぅーっ』と咽び泣き、圭介はみずきと志穂からのジト目から逃避するかのように遠い目で視線を逸らした。
ケジメをつけるべく東京へ乗り込み、それ以上の“置き土産”まで成して来た『北斗聖龍会』の首脳陣ら。
その決の付け方に満足すると同時に得たものは、離れてみて実感した愛する女の存在の偉大さ。
『例え極道(こっち)の世界に引きずり込む事になっても…何があってももう2度と美優から離れない。』…そう改めて胸に思う圭介だった。
…何故なら、ちょっとでも自分がいないと美優に良からぬ吹き込みをされるからだ。
だがしかし…
行き着いた結末の成れの果てが、こんなお笑い交じりのスチャラカ騒ぎでマジで良いのか?…とも思ったのは言うまでもない。
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