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小話集
もしも、出逢いが『普通』だったなら…(後)
しおりを挟むその姿を見た相手側はザッと居並び『お嬢!』と一礼する。
「エネッツァさん…どうしてこんな事するんですかっ?私は大丈夫とお祖父ちゃんにも伝えてありますっ。」
「…お嬢。貴女がそう望もうとも、そういう訳には参りません。…ボスが大層ご心配をなされております。」
「だからと言って…お相手に失礼です。しかもこんな大勢で…」
「全てはお嬢をお守りする為。ボスは貴女を守れるならば日本の極道であろうとも事を構えても構わないと仰せです。」
「…、…」
「お嬢…お願いです。一度ロシアに戻り、ボスを安心させて差し上げて下さい。夜も眠れず貴女の事ばかりご心配なされているのです。当然、我々も案じられてなりません。」
黒服集団の中から1人が進み出て美優に対し進言すると、その他の黒服らも『お嬢!』と声を揃え再び頭を下げる。…どうやら美優に接する人間は日本語をマスターし話せるようだ。
そんなやり取りを呆然とあんぐりしながら見ていた清水だったが、ハッと我を取り戻し輪に入る。
「…あのよ。そういう内輪な話は別でやってくんねぇか。…わざわざ付いて来てまでも言う事か?」
「お前にはわからないだろうな…我々はそれだけ必死だ。我がボスにとって美優お嬢はたった1人の孫娘、亡き娘マリアお嬢より託された至極の宝物。また我々にとっても希望なのだ。」
「…、…」
「悪い事は言わない、ミスターシミズ。…お嬢と出逢った事は“忘れて”欲しい。…それとも今の平和なご時世、この『北海道』を銃弾飛び交う火の海にしたいか。」
「ッ!」
「エネッツァさん、何て事を言うの?!そういう事を言うのは止めて下さい。」
「…失礼しました、お許し下さいお嬢。」
「…、…清水さん。すいませんでした…せっかく連れて行ってくれると言ってもらったのに。今日はこのままお帰り下さい。」
「……。」
「エネッツァさん。皆さんの進言通り、一度ロシアに戻ります。手配をお願いしてもいいですか。」
「承知致しました…喜んで。…お嬢が戻られる、急いで手配しろ。」
清水にペコリと頭を下げた美優が、エネッツァと呼んだ男に添われ車に乗り込む。その表情が彼が初めて見る悲しげな表情で…ただ黙って見送るしかなかった清水は、ひっそりと拳を握り込んだのだった。
その後…彼女雪吹美優が、ロシアマフィアを一手に牛耳る組織『デーモンチマー』のドン“ミハエル・ロゼーニョ”の実の孫娘である事がわかった。
そしてその頃の美優は母の祖国であるロシアに降り立ち、祖父のミハエルと対峙していた。
「ハイ!マイエンジェル!ゲンキデシタカ?」
「……、…」
「オヤ?…オコッテル、デスカ?」
「…お祖父ちゃん。何故エネッツァさん達に“あんな事”命じたの?…そんなに私が心配?」
「モチロンデス。アナタハワタシノ、カワイイマゴムスメ。ソレニ…『ジャパン』ハ、オソロシイデスカラネ。」
「…、…お祖父ちゃん…」
「アナタノ『ノゾミ』ノタメ、ジャパンデクラスコトヲユルシマシタ。…アノオトコトアワセルタメ、チガイマス。」
「……。」
祖父ミハエルのこの言葉は、殊の外胸に突き刺さり…美優は何も言えなくなってしまった。
「サァ、ユウショクニシマショウ。タノシイデスネ!…エネッツァ。」
「はい、ボス。…お嬢、今夜はお嬢がお好きな物ばかりご用意しております。どうぞお楽しみ下さい。」
孫娘を猫可愛がりする祖父の、もう一つの“顔”を目の当たりにして複雑な思いが混沌とする。その彼女の心を変えたのは間もなくの事。…与えられている部屋に入った美優のスマホが着信を告げた。
「はいもしもし…」
『…、…オレだ。』
「…清水、さん?」
掛けてきた相手は清水だ。彼女はふと時間が気になり、壁にある時計を見上げる。…ロシア時間で現在19時…時差がマイナス6時間なので、日本時間ならば深夜1時を回っている頃だろう。
『今、大丈夫か…そっちが何時かはわからねぇが…』
「大丈夫です。こっちは今19時過ぎました。…日本は深夜、ですよね?」
『あぁ。…、…あれから、色々とオレなりに考えてた。…まさかアンタが、同業者の孫娘だったとはな…』
「…すいません…」
『別に謝るこたぁねぇだろ。生きてりゃこういう事もあんじゃねぇの?』
「…、…」
『…まぁ何より…オレがはっきりとしてなかったせいで、あの男に言い返す事も出来なかったけどよ。』
「…?」
美優には清水が言わんとする事がさっぱりとわからず首を傾げる。すると…
『…アンタ、男いんのか?…って、いる訳ねぇか…』
「あ、あの…清水さん?」
『こんな男だけどよ…オレの“女”にならねぇか。…お前の事はオレが身体張って守ってやる。』
この言葉は美優の心を落ち着け、今後の方向性を決定づけた。翌朝、祖父に『お祖父ちゃんが何と言っても、私はあの人が好きですから。』と一方的に押し付ける形でそのままロシアを離れる。
そんな彼女を北海道の空港では
「美優!」
「圭介さん!」
僅か照れ臭げに笑った男(ひと)が出迎えるのだった。
・・・・・
「つうかちょっと待てー!」
「…はい?」
「どこが『普通』なんだよ!どこが!クソも普通じゃねぇだろがっ。」
「え…出逢いは『普通』にありがちな感じじゃありません?」
「いやっ、そこは普通なんだけどよ…出逢った女が実は同業者の孫だったとかあり得ねぇだろよ。速攻で全面抗争になっちまうって。」
「…むぅーん…」
今にも昔懐かし『ちゃぶ台返し』を始めそうな勢いで圭介が叫ぶ。出来上がった食べかけの夕飯を前に、箸を右手にプルプルと握り締めた彼は尚もツッコむ。
「しかもだ!何でジジイとエネッツァまで絡んでくんだよ!ただただ面倒くせぇだけだぞっ。」
「…?…何となく?」
「何となくで絡めるなっての!」
「え、へへ♪…なんか妄想してる内に楽しくなっちゃいまして。」
「…。楽しんだようで何よりでござんすよ…」
『もう疲れたぜオレは。』という心の声を顔に貼り付けながらも、もぎゅもぎゅと再び食べ始めた彼。手作り餃子は中にチーズを入れた変わり種も混じっており、麻婆豆腐はピリ辛で炒飯とも相性バッチリだ。
“まるでオレと美優みてぇだなぁ”…と僅か逆立っていた機嫌が真っ直ぐになり始めた時、美優が圭介の口へ次を放り込もうとしていて『あーん』と口を開けた。
…だがもうちょっとで入るという土壇場になって、美優の手がピタッと止まってしまった。何故なら…
「あ、電話が鳴ってる。」
「…、…あァん?」
そのまま入れてしまえば良かったのに…美優は摘んでいた餃子を皿に置き、パタパタとソファーへと駆け寄ってしまった。
「はいもしもし…あ、お祖父ちゃん。こんばんは♪」
「…おい、コラ美優っ…はぁ、ったくなぁ~…」
(オレは妄想でも現実でもジジイに邪魔されんのか!)
…そんな圭介の心の叫びは、誰にも聞こえやしないのだった。チャンチャン♪
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