Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

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3人の父と子育て展望

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極道組織『北斗聖龍会』には、3人の父がいる…

「…あぁほっとけ、ンなガキ共なんか。玄武にくっついてる時点で『終わってる』んだからよ…」

この界隈に知らない人間などいない会の2代目会長清水圭介。根っからの札付きワルも、今や2児の父となりすっかり子煩悩になった。

「…ではこの人についてはこの内容で。判をもらう前に『丁重』に説明して、内容を良く『理解』してもらうようにして下さい。」

時折含みを持たせて語気を強め、同時に眼鏡の端を光らせるのは会の若頭霧山悠斗。色々と謎だらけだったこの男も、双子の子を持つ父である。

「いやぁー、良かったですね。意外に早い回復となって。とはいえ自宅に戻っても無理はなさらないで下さいね。」

そしてこちらは会長の盟友にして相談役であり、病院を経営する医師でもある南雲瞬。結婚して十数年…半ば諦めモードだった子宝にようやく恵まれ晴れて父となった。

…と、三種三様の父たる者達だが共通するのは『己の子が1番』である事と、普段の姿とは裏腹に『嫁に頭が上がらないながらも嫁が1番』という事だ。

そんな男達の妻となった女性…彼女らも彼女らで、幼い子を持つ母という共通点から仲が良い。

この日、清水家のドアフォンをまず鳴らしたのは…

「こんにちわ!」
「こんちゃ!」

「わ!びっくりしたっ…若様にお嬢様こんにちわ!お出迎えありがとうございますっ。」

若頭霧山の妻ほのかは、逞しくも両腕に双子を抱きかかえてやって来た。双子ゆえに全てが“2倍”な彼女は必要な荷物も満載だ。

「こんにちわほのかさん、いらっしゃいませ。どちらか抱っこしましょうか?」

「…。でもっ…美優さんお腹…」

現在圭介の妻美優は3子目を妊娠中。安定期とはいえ抱っこは憚られる。

「りゅうがする!」

「え。」
「え?!」

「り、流くんっ…大丈夫?」

「うん!うーちゃんもだっこできるもん!だいじょうぶ!」

母2人の会話を聞き、出番とばかりに名乗り出た清水家の長男流がスチャ!と手を挙げた。妹小梅を日頃から抱っこしてるから大丈夫だと訴える。

「じゃあ…お願いします!若様っ。」

「はい!おいで♪」

「あーう♪きゃっきゃっ♪」

「…。やっぱり嬉しそう…まなちゃん。」

「…?」

流は双子の片割れである妹のまなかを抱き受けると、自分の妹小梅と共に中へと入って行く。…その姿が少々危うい。

「…。すいません、ほのかさん…さ、入って下さい。」

「いえいえ!こちらこそ逆にすいません!お邪魔します!」

中に入ると、リビングにはプレイマットが敷かれていて小さな子供への心配りがきっちりなされていた。流は小梅と一緒にまなかを抱っこしてそこへ座り、早速とあやし始めている。

「ほのかママ!かずくんもココにおいて!いっしょにあそぶ!」

「優しい~♪若様!ありがとうございますっ。」

「ほのかママはかあちゃんとおはなし、してていいよ!」

「…。う、うん…」

流は両親を『とうちゃん、かあちゃん』と呼ぶ。今時には珍しい呼び方だが、そこは父親の口の悪さが原因だ。

ほのかがもう1人の双子和斗(かずと)を流に預け、背負っていた荷物を降ろし『ふぅ…』と小さく息を吐く。

「双子ちゃんは大変ですね、とにかく2倍ですもん。同時でしょうし。」

「大変ですけど…それより私は嬉しいです。 2人が産まれる前、ちょっとありましたから…」

「…ほのかさん…」

「何より悠斗さんの『子供』ですから。えへへ♪」

「ふふ、わかりますそれ。私も出産がどんなに大変でも、圭介さんの子供だから頑張れますし…何人でも産んであげたいって思いますよ。…でも…」

「…?、でも?」

「本当に…3人も産む事になるなんて、思ってませんでした…」

「…。あ、あは、は…」

「そういえば。今日ここに来る事…キリさんは?」

「知ってます。…念押されちゃいました…『ニコニコしてる人だが、会の“姐さん”なんだからな。失礼すんじゃねぇぞ。』…て。」

彼女は物がないにも関わらず眼鏡をクイと上げる仕草をし、両目を真一にして渋声で言う。…どうやら夫霧山の真似らしく、それを見た美優は手を口に当てて吹き出した。

「ぷふ!似てますっ。」

そこへ再びのドアフォンが鳴り、流が抜け出し走る。『こんにちは』の声の後、顔を出したのは…

「びっくりしちゃった!ドア開いたら流くんいるんだもの。相変わらず『お出迎え』は流くんのお務めなのね?」

「はい、人が来るのが嬉しいみたいで…って流くん!果穂ちゃんも抱っこしてきたの?」

「うん!りゅうに『だっこして!』って手のばしたから!かほちゃんもこっちー!」

「ふふ、お願いねー!流お兄ちゃん♪」

「はーい!」

「こんにちわ、志穂さん。」

「こんにちわ。早かったわね?」

「はは…双子がグズっちゃって。でも若様のおかげですごくご機嫌ですっ。」

「…ウチは瞬くんがグズっちゃって。『香穂を連れてくなぁ~。』って…まぁうるさい。抱きしめて離さないから奪って来たわ。」

「あはは…南雲先生も相変わらずですね。」

主役たちが揃ったところで、美優はジュースや飲み物、子供達にはおやつを用意し差し出す。おやつはお手製のサブレで小さな子供でも食べられる。…けれどその『色』が…。

「…。あの美優、さん?…何とも言えないこの色のサブレ…は?」

「コレですか?!コレは『お野菜』で作ったサブレなんですっ。…ピーマン、ブロッコリー、人参、ほうれん草…子供達が嫌う物をぶち込んで作ったんです!そしたら意外に美味しくて!」

「ぶ、ぶち込んでって…美優さんの口から意外な言葉が出て来たわ。」

「でもっ…すごく美味しい!さすが美優さん!」

「ウチの子達…お野菜、頑として食べてくれないんですっ…でもコレは喜んで食べてくれます!圭介さんも!」

「…。その野菜食べないのって、清水さんの影響よね?まるまる。」

「かあちゃんのさぶれ!うまい!」
「おいちい!」

「ふふふ、ありがとう流くんうーちゃん♪」

母達がふと見ると…流は1番のお兄ちゃんらしく、自分の妹だけでなくまなかや和斗、香穂にもサブレを小さく割って食べさせていた。小梅らが溢せば拾ってやり…という姿を見て、ホロリと呟く。

「…。なんか…鳥の給餌行動みたい、ね…」

「「……、…」」

「こ、こういうの…若様はどうやって覚えるんですか?」

「…。たぶん…圭介さんのを見てるんだと…」

美優の話によると…3度目の妊娠が発覚し、しばらくは悪阻で食事がまともに出来なかった彼女。流の時同様にギャーギャーと騒ぎ南雲兄弟に噛み付くや大暴れした夫圭介だったが、これ以上黙っていられないと心入れ替えて自らキッチンに立ち雑炊を作ると無理矢理に嫁の口に突っ込んだのだ。『吐いても良いから食え。頼むから食ってくれ。』と。

それが意外にも美味しく、そのまま食べさせてもらったのだったが…雑炊を作るところから食べさせるところまでを片時も離れず、流と小梅が側で見ていたという。

「流くんは『男の子』ですから…何でもお父ちゃんの真似をするんです。アレもたぶん、そうです…」

「「…なるほど。」」

ひと頻り食べ切るとジュースを飲み、子供ら5人は揃って『けぷ。』とゲップをする。双子の1人和斗は置いてあった車のオモチャで遊び出したのだが…

「あら?…ねぇねぇ2人ともっ、見て見てっ。」

「?…」
「はい?」

志穂に言われ、ほのかと美優が目を向けると…

「あーう♪」
「だう♪」

「…。ほえ?」

ジリジリとにじり寄ったまなかと香穂に挟まれ、流が困ったような顔で首を傾げていた。しかも女の子2人は両側の流の腕にヒシとしがみついている。流の顔が『動けない…』と訴えていた。

「きゃ♪かーわーいーいっ♪香穂ちゃんとまなちゃんで若様の取り合いですっ。」

「流くん。乱暴しちゃダメよ?香穂ちゃんもまなかちゃんも小ちゃいからね。」

「うん!でも…りゅう、うごけない…」

「流くーんこっち向いて~。お写真撮るわよー♪」

「わ。私も!若様っ、撮らせて下さいねー♪」

「…。えっと…じゃあ、私も…」

まなかと香穂に抱きつかれ、モテモテの流をスマホで撮りまくる母3人。…その横で小梅と和斗がマイペースに遊ぶという構図は僅かの間続いた。

「…ねぇ、私思ってたんだけど…まなかちゃんって流くんの事『好き』なのかしら。ウチの香穂は好きみたいよ?流くんの顔見るとすっごく笑うの。」

「みたいです。さっきも抱っこしてもらえて嬉しそうで…これは早くも初恋?」

「え。まなかちゃんも香穂ちゃんも、まだ1歳ちょっとですよね?」

「恋に『歳』は関係ないわよ。美優さんだって、清水さんより3歳年上でしょう?」

「私と悠斗さんは7歳違います!」

「ホラ!…まぁ、霧山さんンとこは『例外』として…」

「例外って言わないで下さい志穂さんっ。」

「だって!霧山さんと知り合った時『JK』だったでしょ?!初めて会った時びっくりしたわよ!…あれでもね。」

「うぅ。だってぇ~、悠斗さんがぁ…」

「霧山さんが?」
「キリさんが?」

「すごくカッコ良かったんです!今もですけどー!きゃー♪」

「…。貴女達夫婦もラブラブねぇ…相変わらず。」

「いつも思います…ほのかさんって、キリさんとどうやってお知り合いになったんですか?何度か聞いてますけど、内緒ですって…」

「…えっと。私が高3の時、塾帰りに会の事務所の近くを通って帰る途中に、ガラの悪い奴らに絡まれちゃって…そのピンチを助けてくれたんです、たまたま通った悠斗さんが。」

「な、何でまた…ススキノの繁華街よ?」

「はいぃ…悠斗さんにも叱られちゃいました。『アホか!』って。でもバス停の近道だったんですよ。…で、颯爽と助けてくれた悠斗さんが『送ってやるから乗れ。』って車に乗っけてくれまして…」

「へー。じゃあ霧山さんから付き合おうって言われたの?」

「違います!私から言いました!ガンガン押して押して押しまくりました!その日の内にデートにお誘いしましてぇ…デートの日に『私と付き合って♪』って。」

「わぁ…頑張ったわねほのかさん。あの鉄仮面の霧山さん相手に。」

「頑張りましたっ!言ったら食べてたスパゲティ、鼻の奥に入っちゃったみたいで『グフッ』って!もう可愛いなぁ~悠斗さんってば♪」

「…。かなり重症ね…ウチの瞬くんにも治せないわ。きっと。」

「……いいですね…なんか羨ましいです。そういう、想い出…っていうんですか?あって、何年か経って楽しく語れるって…」

ほのかの話を聞いて、美優の表情に僅かな影が射す。何とも複雑だと言いたげだ。

「でも…美優さんにだってありますよね?会長さんとの想い出…」

「…。私と圭介さんは…『なし崩し』で始まった、というか…」

「え。どういう…?」

「ここの夫婦はね、それはまぁ複雑な…ある意味では清水さん『らしい』始まりなの。ほのかさんが思い描くような『アハハ♪ウフフ♪』なんてひとっつもない…ド直球な上、一歩間違えれば『犯罪なんじゃない?』っていう、ね…」

「……、…」

「…。さっぱりわかんない…」

「圭介さんとは、お仕事の関係で会いまして…私が知らない間に父が作った借金の取立てに来たんです。『こちら毎度お馴染み『北斗信用商会』の清水ってモンなんすけど。』…って。でも私が借りたお金ではないので話が全く見えなくて…」

「そりゃあわかる訳ないわよね。っていうか清水さん…そんな感じで債権者に接触してたの?…怖いっ。」

「色々話している内に私自身の借金ではないんですけど…返済責任者として名前があるんだからきっちり払え、それが筋だって…払えないなら風俗に行けとまで言われて。嫌ですって断固と断ってたら…っ、…」

「え、断ってたら…何ですか?何で赤くなるの?!」

「…。ハードル高いわよね、自分の事といえ美優さんには…代わりに私が。…美優さんが断固として風俗行きを嫌がるのは、男性経験が『ない』からと踏んだ清水さんは…その場で美優さんを『襲っちゃった』のよ。」

「っ!えっ、それってレイプ…婦女暴行ってやつじゃ。」

「そう!挙げ句にはその後、そのまま美優さんを自分のマンション…ココに否応無しに連れて来てほぼ監禁状態っ。呆れちゃうでしょう?」

「…ほぁー…」

「こ、ココに来た次の日に『オレの女になれ。』って言われましたけど…それまでは事態が飲み込めなくて、圭介さんも何を考えているのかさっぱりわかりませんでしたし…」

「今では2人の子供がいて3人目が産まれるラブラブ夫婦も、始まりはぶっ飛んでたってワケ。」

「でもそれって…会長さんにそこまでさせる『何か』が、美優さんにあった…って事ですよねー♪出逢っていきなりはちょっとですけど…でも会長さんやるぅー!」

「…。あ…」

ほのかの言葉に美優は目を丸くする。『そんな考え方もあるのか。』というような表情で、正に目から鱗だ。

「ふふ、新たな発見ね美優さん。」

「…はい、志穂さん。ほのかさんもありがとうございます。」

「へ?」

何で礼を言われたのか、イマイチよくわからないほのかだが…笑顔の美優を見て『こんなに綺麗な女性が旦那様に愛されていないワケがない!』と妙な確信を持った瞬間だった。

その一方。陽が落ち、辺りが暗くなり始めた頃…数台の黒塗り高級車がスナックバー『モナムール』の前に横付けされる。

その車から降り立ったのは会の会長清水と若頭霧山。何とも珍しい取り合わせの理由は僅か緊迫するものだった。

「…悪りぃなキリ。付き合わせちまってよ。」

「気にしないで下さい、会長らしくない。…参りましょう。」

中へ入ると出迎えるのは、ママであるみずきだ。

「いらっしゃいませ。ようこそ『モナムール』へ。」

「来てるか?」

「…。1番奥の部屋で、少し前からお待ちですわ『会長』。」

「わかった。…誰も来させないでくれ。」

「畏まりました…」

会長付きである幹哉がドアを開けると、室内で鎮座していたのは敵対する組織『玄武組』組長と若頭の京極だった。

「…お久し振りですね、玄武の組長。」

「おう、久しいの…北斗の2代目。相変わらず尖った目ぇしとるの。」

「そうすかね。…2人のガキの親父になってからってもの、すっかり丸くなっちまったって会の面子にゃ笑われてんすよ。」

「はっは!無理もねぇ。ヤクザもんだって『人間』だ…てめぇのガキが1番よ。そういや3人目が産まれるって耳にしたが姐さんは元気かい。」

「…おかげさんで。ちょっと前まで朝から晩までゲーゲー吐きまくって、寝たきりの病人みてぇだったってのに…今じゃ朝から晩まで倅と娘を追いかけ回して…ったく、心配するこっちの身になれってんすよ。」

「なっはは!良い事よっ…のう!京極。」

「…うす。」

「おい京極。てめぇもいい加減身ぃ固めろや。1人で死ぬ気か。」

「るせぇ!てめぇに言われる筋はねぇ!」

…と、和やかな会話はここまでで…会の長たる者として圭介の表情、こと目元がスッと細まる。

「…ところで組長、ちょいと良からぬ事を聞きましてね…『玄武が二分してる』ってのはマジなんすか。」

「……。」

「ここんとこ、ウチのシマで知らねぇ顔のガキ共が『迷子』になるのが多いモンで調べさせました。…跡目でも譲るつもりすか。」

「…ハッ!さすがは『北斗聖龍会』…長からして良い男揃いよ。初代笛木八雲に育てられただけあるわ…」

「舐めてもらっちゃ困りますねぇ。ウチには頭脳(ブレーン)と呼ばれる若頭の霧山と、今や愛弟子とも言える本部長の春原がいるんすよ?…これぐれぇの『情報』なんざ、すぐに入るんだよ。」

「…。本当に『良い男』だなぁ…2代目よ。男惚れたぁこの事だ。…儂はな、お前さんが族の頃から目を付けておった…霧山よ、お前さんもだ。だが儂が動く前に、笛木に動かれてしまった…敵ながら天晴れよ。」

「…話を摺り替えんで下さいよ、組長…」

ふむ、と唸りを上げた玄武の組長はウイスキーの水割りをひと口含むと小さく息を吐いた。

「…お前さんの言う通りよ。組が二分しておる…跡目を狙う倅側と、若頭京極側とでな…」

「……。」

「失礼ながら…組長に倅がいたとは思いませんでした。しかし何故急に?」

ようやくここで霧山が割って入る。今まで存在感のなかった組長の息子の『意図』が知りたくなったのだ。

「恐らく『金』だろうな。組では大金が動く…それが狙いじゃろ。」

「金…果たしてそれ“だけ”でしょうか。その先に透かし見える『薬(やく)』が本命な気がします。」

「…あり得るな。ウチのシマでもガキ共がヤクの売買を一丁前にやってるみてぇだからな。」

圭介が飲みかけのバーボンを飲み、しばしを考える事数秒…

「…春原。組長の倅の詳細聞いて、調べてマークさせろ。報告はオレとキリに上げてくれ。」

「うす…会長。」

「ッ、おい清水?!」

「るせぇな、組が二分してるってのに何もしねぇ奴に文句言わせやしねぇぜ。これが相当な事だって自覚して、若頭らしくてめぇの身体張れや。」

「ッ!…」

「…京極。てめぇを信じて付いて行こうっていう若ぇヤツらの気持ちだけは裏切んな。」

「組長、こういう訳で例外として今回のみ『助力』致します。…ウチの2代目は『熱血漢』なので。」

「…。おい、バカにしてんだろキリ。」

「まさか。バカにしてたら『単細胞』と言ってますよ。」

こうして、敵対する組織同士にも関わらず1度限りの『助太刀』に組長と京極は素直に礼を述べ去って行く。

春原には事務所の留守番という仕事と新たな調べ物の為にここで去り…残ったのは圭介と霧山、そして幹哉の3人となった。

「…おい、もうちょい付き合ってくれ。たまにゃいいだろ。」

そう言って部屋を出ると向かったのはカウンター席。カウンターにはバーテンダーとして真次と、マスターの笛木がいる。

「うす。」

「おや。帰らないんですか?子供らが待ってるでしょうに。」

「…今日はウチのが2代目のお宅にお邪魔させてもらってるんで。」

「あと南雲んとこの娘と志穂も…、…ッ?!」

「ゔぅ…かーほぉ~…」

「…。い、いたんですか…南雲先生…」

「やれやれですよ…ここに来てからずっとこの調子で、泣きながら飲んでます…何でも香穂ちゃんを無理矢理志穂さんに連れて行かれたらしくて。」

「…。な、何なんだよ!てめぇはよっ…女々しいんだよ!」

「るせぇ!娘の父親の気持ちをわかるかってんだ!」

「…。おい、オレも一応娘の親父だぞ。」

「…。同じく自分も。」

「……くっそー!!俺の香穂ぉー!」

「…、…ダメだなこりゃ。」

その時、霧山が自分のスマホを見て『ん?』と呟く。妻のほのかから何かが来てたようだ。

「どした。」

「いえ、ウチのヤツからメールが…動画撮ったみたいすね。」

「あ?マジか。」

どらどら見せてみろと顔を寄せると、小耳に挟んだ笛木や真次さらにはいつの間にか来たみずきや南雲までもが集まりワクワクと見つめる。再生が始まった動画には…

『みんな~♪おいしいですかぁー?おいしい人、手ぇ上げてー♪』

『はーい!』
『あい!』

『だよねー♪美優ママのごはん、おいしいよねー♪ほのかママも大好きだよー♪』

『ママじゃないよ!かあちゃんだよ!』

『あ…ご、ゴメンね若様っ!“お母ちゃん”だったねっ♪』

『うーちゃん、コレいやなの?』

『ヤ!』

『あう…おにいもヤダけどモグモグしよ?かあちゃんにメ!ってされちゃうから…』

『やん!』

『おにいもたべる!ほら、せーの!…もぐもぐっ…』

『…べぇ…』

『んぐ!?っあー!かあちゃん!うーちゃんがにんじん、べーってした!』

『わ。うーちゃんっ…』

『…うーん…嫌なモノは徹底して嫌なのね、小梅ちゃんは。』

『あ、アレ?!かずくんがいない!かずくーん!』

『ほのかママ!まなちゃんはりゅうのとこにいるよ?』

『うん!まなちゃんは流お兄ちゃんが“大好き”なんだもんねー♪…あ、いた!マイペースにどこ行くの?かずくんっ。』

「……、…」
「……。」
「…なんだコレ。」

皆が見る動画には現在、画面の端っこに霧山の息子和斗の小さな『うずまき』と『後頭部』が写り込み…移動している様が見て取れた。そして…

『かほちゃん!あーん!』

『あー♪』

『やだぁ♪ウチの香穂も人参嫌いなのにっ…流くんがあげたら食べたわ!ママ嬉しいっ!』

『あう♪』

『もうナイナイだよ?かほちゃん!はい、ごちそうさま!』

『…あ。まなちゃんも近寄ってった…』

『だう♪っだぁ♪』

『ほぁ…またうごけないっ…』

『ふふふ♪流くんモテモテねぇ。もう将来のカノジョ…ううん“嫁”は決まったわね!』

『えー!それじゃ…ウチと会長さんチがご親戚に?きゃ♪』

『え、何言っちゃってるのよっ。流くんの嫁はウチの香穂に決まってるじゃないっ。』

『えー!納得いきません!ウチのまなちゃんが選ばれますぅ!』

『あ、あのっ…ほのかさんっ…志穂さんもっ。』

…と、何とも中途半端なところで動画が終わってしまった。その後どうなったのかわからず、父3人は悶々とする。

「ち、ちょっと会長!!どういう事すかっ。」
「おい圭介ぇ!!どういう事だっ。」

「知らねぇわ!動画撮ったほのかと、場にいた志穂に聞けや!」

「てめぇの倅だろが!」

「…。ったく…父子揃って手の早いっ…」

「何の心配してんだよキリ!流はまだほんの『5歳』だぞ!お前の娘だってまだ1歳だろがぁ!」

「あっははは!流は圭介に似て切れ長の面立ちですからねぇ。カッコ良くて優しいお兄ちゃんが側にいれば、1歳とて寄っていきますよっ。」

「八雲さんっ…火に油!注いでるっ!やめてくれっ。」

「ウチの香穂はな!嫁にゃやらん!婿を取って病院継がせるんだ!だから圭介!…流をくれ!」

「やるか!バカやろ!!」

「…。ウチは別に嫁にやるのは良いんすけど…ただ『若の嫁』ってなるとちょっと…会長と親戚付き合いも出来るのかどうか…」

「おいコラ。そこまで細かく考えるなまだ。…っだぁ!!てかてめぇら!オレの倅の気持ちはどうでもいいのかぁ!!」

「ふふふ♪身近に女の子が2人も…って知った時、何となくこうなると思ったのよね~。将来が透けて見えるわねー♪」

「圭介。今から矯正して、流を奥手な男に育てなさい。」

「ンなのムリすよ…人間どう育つかなんてわかんねぇんすから。」

ひょんなコトから将来の息子を憂い、心を痛める父圭介。よもやこの数年後、微妙な三角関係が本当に成ろうとは…想像していなかったのだった。
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