Hold on me〜あなたがいれば

紅 華月

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番外編 清水一家の長い春〜初めての誘拐

6 未来に幸あれ

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父と息子…寝姿までもがやはり似ている。互いに同じような格好で寝て、翌朝を迎えた。

だが父圭介、実はあまり寝ていない。…傷が痛むのと流が寝ながらに暴れまくったせいで。

けれども美優のその後をまだ何も聞いていないが為に心配でならない。自らの処置を終えるとすぐ様向かう。

「…とうたん。かあかん…おっきちてゆ?」

「どうだろな。でも流が起こせばすぐに目ぇ開けるさ。」

「ん…りゅうがおこしゅ。」

歩く度に脇腹に痛みが走るが、小さな息子の歩調が丁度良くゆったりと歩ける。流は身長のある父ちゃんと手を繋ぎたい一心で懸命にそれを伸ばして先導していく。

エレベーターに乗って数階下がると、産婦人科の入院フロアがある。通りすがりの看護士に聞いて尚も歩くと…この階の特別室があった。

「っ!会長っ…大丈夫なんすか、歩いて。」

「痛えが南雲に『歩け』ってな。…美優の事、何か聞いてっか?」

「腹の子は大丈夫す。けど…処置が終わってからはずっと眠ってるみたいで…」

「…そか。悪りぃな将也、番なんかさせちまって…幹哉は?」

「昨夜の内に手当て受けてるす。骨折とかもしてねぇんでマンションに帰って休んでるかと。」

「わかった。…後でキリに連絡して、来るように言ってくれ。」

「…うす。」

部屋の前で番をしていた将也と僅か話し、ドアを引くと…待ちきれないとばかりに流が中へテケテケと入って行く。

「…かあかん?」

「…。美優…」

「かあかん…おんも、あかゆいよ。おっきなの。」

息子の小さな手が母を起こそうと必死に上掛けの布団を掴み引っ張る。抱き上げ、ベッドに座らせてやろうかと圭介が動くが…強烈な痛みが走り断念した。

「とうたん…」

「…母ちゃん、起きねぇな。疲れてんだ…寝かせてやろうぜ。」

「…ん…」

そんな母ちゃんこと美優が目を覚まし起きたのは、その日の昼近く。健からの話で瞬時に青ざめた彼女は自らの腹に手を当てた。

もうすぐ6カ月を迎える存在にホッとした美優は医師の指示通りに安静を貫き、夫の圭介は逆に『動け』と言われているが為に嫁の元へと事ある毎に通った。

そんな父子の姿がまるで映画の『子連れ狼』のようで微笑ましいと、外科と産科の看護士らが噂し合う程。

…最も、圭介と流は別に恨みを抱いてチョロチョロとしている訳ではないのだが。

こんな日々を過ごして1週間程が経ち、美優が先に退院する事となった。

「圭介さん、流くんと先に帰ってますね。」

「あぁ。…流、父ちゃんいないんだからな…母ちゃんを困らせるなよ。わかったか?」

「あい!…とうたんも、はやく『たぢゃいま』ちて。」

「おう。頑張って早く帰っからな。美優…オレも時期に帰るから、あんま無理すんなよ。」

「…ありがとうございます。私もこの子も大丈夫ですから…心配しないで下さい。」

この後に圭介も順調に回復し、2週間後に無事に退院した。…3人の『家族の時間』が再び刻まれ始める。

仕事を霧山に任せきりではあるが、戻ればまた忙しくなる。そうなる前に圭介は、かつて息子と約束した事を実現させた。

「にゃーーははは!」

「コラ流!まだ走るのかっ…にゃろっ!」

その日、いつもの大通りの公園広場には元気に爆笑しながら走り回る流と、それを追いかける父圭介の姿があった。

さすがに28歳という、昨今の世間一般から見て若くに一児の父となり、10代の頃から暴れまくってきただけに体力には申し分ない程。…だが何故か不思議と3歳児に追い縋れない。

「待てっての!…ッ、あったま良いな!おいっ。やっぱ父ちゃんの『倅』だな!」

「なーははは!ちぇがえ~♪」

よく見ると、流はさっきからクネクネとあちこちを蛇行しながら走り回っている。おまけにすぐ足元を駆け抜けていく事もあるのだが、あまりにすばしっこく捕まえられない。

2人の楽しそうな姿はありがちでありながら中々なく…ベンチに座って見ている美優と傍らに側立つ幹哉に笑顔をもたらす。

「ふふふ♪とっても楽しそうです…流くん。」

「若はずっとこうして遊びたかったんですよ。…念願が叶って良かったです。」

「…あの走り方って、もしかして幹哉さんが教えたんですか?」

「まさか。若の『独流』ですよ。…やはり血は争えません。」

「流くんが成長したら…どんな『男性』になるんでしょう。楽しみですね♪」

「……。」

この時、幹哉は思う。

小さい今でさえ父にそっくりなのだから、さぞかし女からはモテるだろうし、喧嘩にも強い男となるだろう…と。

だが彼は敢えてそれを口にする事なく、静かに笑みを浮かべた。

それから数ヶ月…後を無事に過ごした美優は十月十日(とつきとおか)を経て第二子長女を出産した。

贈る名は『小梅』。梅の花咲く3月生まれであり、花言葉の『気品、高潔』を圭介自身が気に入ったが為だ。女が故に『こんな自分を父に持った事を恥じる事なく、己に自信を持ち気高く』あって欲しいと。

嫁の出産にも今回は無事に立ち会い、流を連れて帰宅しようと病院から出た際…

「…ん?」

「とうたん、なぁに?」

「おう。ほれ見てみ。花咲いてんぞ。」

「ほぁ~。かぁーいー!」

「こりゃ『梅』だな。…南雲のヤツ何を考えて…」

「かぁーいーね!とうたんっ。あかたんみたい!」

その倅のひと言も、圭介がした名付けの要因にもなったのだ。その流は産まれた『妹』が自分よりも小さく、もぞもぞと動く様が可愛くも物珍しいらしく中々離れようとしなかった。

「うーたん♪うーたん♪にいたんよ!」

…こうして辛くも長かったあの一日を経た清水家には、更なる笑顔と幸せが訪れたのだった。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

りん
2020.04.03 りん

3話連続の投稿ありがとうございます(*^^)
あいかわらず美優は天然でかわいいなぁ…とニヤニヤ再確認しましたw

2020.12.31 紅 華月

ありがとうございます(^^)来年もよろしくお願いします。

解除
りん
2020.02.14 りん

久しぶりの更新嬉しいです。
圭介の男気溢れる性格と美優のほわんほわんとしたやり取りが毎回楽しみです。子供たちの話し方や行動がめちゃくちゃかわいくて頭で想像しながらニヤニヤしちゃってます…。
これからの展開も楽しみにしてます。

2020.02.14 紅 華月

yokoさぁ〜ん(泣)!ご感想を頂きありがとうございます!
圭介の男気は元来持ち合わせているもので、素直な性格の美優といる事で徐々に滲み出てきてます。
美優もあの性格なので笑
これからも頑張ります。本当にありがとうございます。(まだまだ小話はありますよー^_^)

解除

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