異世界と英雄たちの終わり

氷晶 春妬

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第一章:旅の始まりと騎士の英雄

8話:白銀の日

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「――ごめんなさい、随分待たせてしまったわね」
 ドルチェの襲来から十分と経たず、ソフィアは俺の前に姿を現した。

「いやいい。色々あって暇はしなかったし」
「そう? それならよかった」

 微笑んだソフィアから、俺は目をそらしてしまう。
 ローブを着ていないソフィアを見るのは初めてだった。それに、これまでと違う髪型を見るのも。

 長い銀髪は後ろでまとめられており、いわゆるギブソンタックという髪型になっている。シャツは腰回りがきゅっとしまっている白地のもので、袖口にはフリル調の飾りがついている。やわらかそうな生地のスカートにはひだがおおく、腰は細長い皮ベルトで玉結びにされていた。

 上目遣いにこちらをうかがうようなそぶりをみせてくるたび、いい匂い――多分香水の匂いにドキドキしてしまう。
 はっきり言ってしまえば、今までの人生で見たことないと断言できるほど綺麗だった。

「変、だったかしら、私……」
 俺が視線をそらしてしまったことを悪い意味で受け取ってしまったのか、ソフィアの声色は悲しそうだ。

 俺は手をぶんぶんと左右に振る。
「違う! ……ああいやその、なんというか……」

 不安そうな顔を向けられ、俺は額を抑えた。そうしてついさっきドルチェに言われた一言を思い出す。
 ――ソフィアちゃん、ほめられるのが好きだから。

 ならば。
 つまりここは、俺が勇気を出さなければならないようだ。

 息を大きく吸い、
「に、似合ってるんだ。あんたは、すごく……綺麗だと思うよ。だから、……その、恥ずかしくて目をそらしてしまった。勘違いさせてごめん」

 しっかり、ソフィアの目を見て言う。
「……なんだ、そうだったのね。ふふ」

 よかった、とソフィアは胸を撫でおろしていた。
 俺はにやけそうになる口を必死で我慢した。ああああ。心の中で叫ぶ。顔があついのは日差しのせいで、すぐにでも逃げ出したいのはきっと走りたいから。

「それじゃあ行きましょう? トーヤくん」 
 不意にソフィアから手を握られ、心臓がはねる。

「手……!」
「いいでしょう? せっかく仲直りしたんだもの、きっとこうしたほうが思い出になっていいと思うの。駄目かしら?」

「な、なるほどな。それなら大丈夫だ!」
 いやぜんぜん死にそうだった。

 それからしばらくソフィアと話し、とりあえず通りを回ってみることになった。気になったものがあればその都度寄っていくといった感じで。
 祭りの喧騒は相変わらずだった。

 とんがり帽子をかぶった魔法学生たちが炎や氷の魔法で見世物を行っており、子供たちが目を輝かせてそこに集まっている。羽飾りの帽子をかぶった行商人たちは、どの商店の品物が安いとか、この地域ではこの品物が高く売れるとか、そういった情報交換をしている。

 ソフィアが魔法学生を見ながら、学外活動かしら、とつぶやいた。
 この世界には魔法学校という施設があるらしい。貴族と金持ちの子供だけが通える学校で、そこで学ぶことによって、様々な魔法を扱えるようになれるのだ。そしてネフェロが持っていた魔法陣の書かれた書は、その魔法学校で使われる教科書なのだとか。

 ネフェロが以前楽しそうに話していたのを思い出す。
 決して言葉にはしないが、きっとあいつの夢は魔法使いになることなのだろう。だから魔法の書はあいつにとって夢を実現するための唯一の切符なのだ。

「そういえばあんたも魔法を使えるみたいなことを言ってたけど、魔法学校に通ってたのか?」
「……うーん、」

 ソフィアは口元に人差し指を添えて、空を見上げる。
「学校、というよりは家庭教師かしら。これでも前は魔王だったから、すごく大きなお城に住んでいたの。その時に、高名な魔法使いの方から魔法の使い方を教わったのよ」

「習得は難しいのか?」
「おぼえることが多いのは事実よ。でもそれさえ乗り越えてしまえば誰にでも扱うことのできる技術なの。だから、勉強すればトーヤくんも使えると思うわ」

「そうか、それはいいことを聞いた」
 だったら、ネフェロもいつかは魔法を使えるようになるということだ。よかった。

「あら、あっちでは劇をやっているみたいね?」
 ソフィアが通りの向こうにある人だかりを指さす。 

「劇か……銀騎士ローレンスの話だよな?」
「ええ、今日の主役だもの。主人のために全てを捨てた伝説の英雄。騎士といえばローレンスっていうのは、この町の人々がずっと言っていることらしいわ」

「へえ、ローレンスはこの町に関係のある英雄なのか?」
「ええ。ローレンスがいたころ、今から二百年くらい前ね。ちょうどこの町の場所には王の住む城があったの。そして悪逆の神が城を破壊して王を殺すため、地上に降りたった。ローレンスはその神と戦って、勝利をおさめたのよ」
「すごいんだな……神と戦って勝っちゃうのか……」

「それだけ英雄というのは強大な存在なの。魔王なんか霞んでしまうくらいには」
「そういえばこの町で魔王の話を聞いたことがないな……。魔王ってくらいだから、もっと恐れられてそうだけど」
 俺がそういうと、ソフィアは口元を手で隠しておかしそうに笑った。

「魔王が人間を滅ぼそうと躍起になっていたのは、もう何百年も昔の話よ。悪逆の神と英雄が登場してからは、魔王なんてちっぽけな存在になってしまったんですもの。今では魔国っていう小さな国をおさめている弱小君主のことを、魔王って呼ぶの」

「なるほど、それならあんたが恐ろしくないのにも頷ける」
「ふふ、ありがとう。ねえ、せっかく話題にも上がったことだし、劇を見てみない? あなたにも銀騎士のことを知ってほしいわ」 

「そうだな。わかった」
 ソフィアに手をひかれながら、人の波をかき分けて進む。すると前列の方に少しだけ隙間が開いている場所があり、俺とソフィアはそこへするりと入っていった。しかし人が多いせいか思ったよりも身動きが取りづらく、ソフィアと肩がくっつく距離まで近づいてしまった。

 我ながら耐性がないとは思うが、そんなことで顔が熱くなってしまった。
 しかし一方、ソフィアは全く気にしていないようで、なにやら真剣な顔で劇に見入っていた。俺としてはそっちの方が助かるのだが。

『――悪逆の神よ! 我が女王への忠誠は、こんなものでは折れぬぞ!』
 銀色の騎士の声が響く。歓声がわっと大きくなる。

 劇は早くも終盤に差し掛かっているようで、まがまがしい仮面をかぶった役者と、銀色の鎧を着こんだ役者が互いに様子を見ていた。後方で並んだ楽器隊が、猛々しい音を奏でる。

 俺は子供の頃に見たヒーローショーを思い出した。
「すごいな。これはみんな集まるわけだ。ところでこれはなんの場面なんだ?」

「悪逆の神が降りてきて、英雄と対峙する場面ね。ちなみに女王というのは、ローレンスが忠誠を誓っている人のこと。ローレンスはその人のために命を捨てて神に挑むことを決意するの。一説によればローレンスとその王女は実は恋仲だったとか」

「くわしいな」
「理由があるのよ。あなたにもあとで聞いてほしい」
 ソフィアの瞳が俺を映す。深い赤は真剣さを醸し出していた。

「わかった」
 何か重要なことなのだろう。心しておいたほうがいいかもしれない。

『――終わらせる、貴様の神話を!』

 舞台の中で、銀の騎士は剣を振り上げた。
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