8 / 9
第一章:旅の始まりと騎士の英雄
7話:お菓子みたいに素敵な子
しおりを挟む
――じゃあ仲直りのしるしに、一緒に遊びましょう?
暑い日差しの中、額ににじむ汗を拭う。通りの喧騒は相変わらずで、そこら中に人が溢れている。背を預けた壁からじんわりと熱が伝わってくる。時折通る馬車が緩やかな風を運んできて、その涼しさだけが救いだった。
ソフィアからの提案を思い出す。一時間ほど前、俺とソフィアが和解した時のこと。俺は少し悩んだけど、頷いた。
――支度をしてきたいの、だから待っていてもらってもいいかしら?
上目遣いにそう頼まれ、美人への耐性がなかった俺はほとんど何も考えずに了承してしまった。今思えば外がこんなに暑いのだから待ちたくないと言えば良かったのかもしれないが、まだ涙が残ってうるんでいた瞳で言われれば、首を横には振れなかった。まさしく不可抗力だ。
ぼーっとすること少し。様々な表情をした人が通り過ぎていく。
そんな風に人の流れに気を取られていると、突然視界の左側から、カラフルな棒みたいなものが前に伸びていった。
急に現れたそれに驚き、俺は棒の伸びてくる元を見ようとして、顔を左に向けようとした。だが棒はそれより早く先の方を曲げ、俺の目元にぐるぐるとすさまじい速さで巻きついてきた。
動けない。
「――あはは、だーれだ?」
何が起こったのかわからず、俺は動けなくなった。
だが聞こえたのは、小さな女の子のようにかわいらしい声だった。
「……ソ、ソフィアか?」
びびって噛んでしまう。
いたずらを仕掛けてきたのだろうか。しかしソフィアがそんなことをするイメージはない。それにソフィアの声はもっと透き通っていて、美しいとすら感じるものだったはず。この声の主はどちらかというとかわいい声。
おそるおそる、俺は目をふさいでいる謎の物質に手で触れた。
表面はつるつるしているが、ところどころべたついている。それにすこし甘い匂いが鼻腔をくすぐっていた。爪でつついてみるとコンコン、と意外にも結構硬そうな音がして、ますますこれが何かわからなくなる。
「ざーんねん。私はソフィアちゃんじゃないよ?」
またかわいらしい声。
視界を奪ったというのに何もしてこないらしい。とりあえず命の危険はないのかも知れない、と俺は胸を撫でおろした。ならばと動いて拘束を外そうとするが、視界を奪っている何かががっちりと頭をホールドしており、逃げることも出来ない。
「だ、誰だ?」
震える声で尋ねると、声の主はあれ? と疑問を浮かべた。
「……もしかして、怖がらせちゃった?」
言葉とともにしゅるしゅると拘束が解けていく。隙間から光が差して目を開けると、目の前では赤と白でらせん状の模様がついたカラフルな棒が動き回っていた。そしてそれが形と大きさを変えながら、いつの間にか目の前にいた人物の手の中に収まるサイズになる。
「ステッキ……キャンディー……?」
杖の形をした飴。元の世界では結構有名なものが握られていた。
「ああこれ? ううん、これはケーンっていう魔法のお菓子なの。すごいでしょ、私が作ったオリジナルのお菓子なんだぁ!」
「……そ、そうか」
魔法と言われればこの不思議な現象にも納得がいく。というかそれ以外ないだろう。
そうして俺は、拘束をしてきた張本人であろうかわいらしい声の主に目を向けた。
すると一瞬で頬がひきつった。
その少女は、この世界では全然見たことがない、すごく独特な格好をしていたのだ。
赤いリボンとフリルで過剰に装飾された白いドレス。腰にまでウェーブしながら下ろされた赤毛は、前髪の一部が白く綺麗に染められている。頭には、団子状に髪が一部結ばれていて、それを留めているのは見間違いでなければ銀色に輝くフォークとナイフだった。
なんとなく、ショートケーキっぽい印象。
長いまつげの目。黒い瞳。低い身長にあったかわいらしい顔立ちは、ソフィアとも負けず劣らずの整い具合だ。
少女がにこっと音が聞こえるくらいの笑みを浮かべる。
「ごめんね? びっくりさせようとしただけで、怖がらせちゃうとは思わなかったの!」
見た目のインパクトが強すぎて言葉があまり頭に入ってこなかった。
「あ、ああそうなんだな」
「うんうん! 許してね!」
「ああ……」
周囲からの視線を感じる。なにあの格好……と喧噪のなかから小さく聞こえた。やはり勘違いとかではなく彼女は異質な存在らしい。
だからと言って、すごい格好だな、とかは言えない。もし怒らせたら何をされるかわかったものではないのだから。
じっと得体のしれない少女を見つめていると、少女は首をかしげた。
「なんでそんなにおっかない顔してるの? もう怖いことはなんにもないよ? ……あ、そっか! 自己紹介がまだだもんね! そりゃあしらない人にはなしかけられたら怖いよね!」
少女は手のひらにこぶしをポンと乗せてうんうんと頷いて、
「私ドルチェっていうの! ソフィアちゃんの……うーん、従者? 友達? ……まあ、付き人でいいや! よろしくねトーヤちゃん!」
「付き人……?」
トーヤちゃんと呼ばれたことについては、あまり深くつっこみたくない。なんとなく疲れそうだから。
しかし、ソフィアにそんなものがいるとは知らなかった。そういえば魔王は領主でもあると言っていたし、元魔王とはいえ付き人くらいはいて当然なのかもしれない。
素性を知れたおかげで、少しだけ警戒心が解けた。
「一度君の部屋にも遊びに行ったんだよ? おぼえてない?」
ドルチェが眉をハの字に曲げて、そう疑問を投げかけてきた。
「俺の部屋に?」
「ソフィアちゃんと一緒にいたの。もしかして気づいてなかった?」
「……ああ、もしかして!」
ソフィアが地下室にやってきた時のことを思い出した。そういえばソフィアの他に、あと二人あの場にはいたはずだった。ならばおそらく、この子がそのうちの一人なのだろう。
「思い出してくれたんだね! あの時は、しゃべっちゃだめってソフィアちゃんに言われてたから話しかけられなかったんだけど、こうして話せて良かった!」
いきなりドルチェに手を握られ、ぶんぶんと上下に振られる。よろしくねトーヤちゃん、と元気な笑顔を向けられた。
しばらくして満足したのかドルチェに手を離される。
俺は完全にこの子のペースに巻き込まれていた。
「ああ、よろしく……? ところで、そのソフィアの付き人が俺になんの用だ?」
「ソフィアちゃんのことでお礼を言いに来たの」
「お礼?」
「そう。さっきソフィアちゃんがようやく帰ってきたの。家を出てった時はひどい顔してたのに、帰ってきたときはすごくすっきりした顔してた。最初乞食をするって行った時はびっくりしちゃったけど、無事に帰ってきてくれて良かった! だからありがとうね、トーヤちゃん!」
どきりと嫌な感じに心臓がはねた。
違う。それは、俺に礼をいう話じゃないはずだ。
視線を落とした。
「君は、ソフィアをとめなかったのか?」
「うん。とめないでって言われちゃったから。私と、もう一人の付き人はソフィアちゃんと契約しているから、ソフィアちゃんの命令には絶対に逆らえないの。なんていうのかな……私たちの間には、そういうすごく大きな力がはたらいているの」
「そう……だったのか」
「うん。まあそうじゃなくとも、ソフィアちゃんはやるって言ったらやる子だから。いくら止めても無駄。正直、トーヤちゃんの部屋に行った時、ソフィアちゃんが罰は受けるって言った瞬間から、こうなることは覚悟してたんだ」
「すまない。俺のせいで」
「ううん、もう謝らないで? ソフィアちゃんがトーヤちゃんを許したんだから、私たちに負い目を感じる必要なんてないよ。その代わり、トーヤちゃんもソフィアちゃんのことを許してくれたんだよね?」
「ああ。色々あったが、結局俺はここで生きているわけだし、恨んだって仕方ないからな」
「だったら大丈夫! この話は笑顔でおしまいにしよ?」
「そうしてくれるなら、ありがとう」
ドルチェの笑顔につられて、俺はとまどいながらも笑うことができた。
それにしても。ドルチェはそう口に出す。
「話してみてわかったけど、トーヤちゃんってすごく素敵な子だね。まるでお菓子みたい」
ほめられているのかと思ったら、急に変なことを言われて思考が止まる。
お菓子? 尋ねるとドルチェは大きく頷いた。
「強火で焦げちゃった部分が、ハチミツみたいに甘くなるから」
「どういうこと?」
シンプルな疑問が口から飛び出した。
ドルチェは思い出すように目を閉じて、人差し指を左右に振って指揮のような身振りを始める。
「バターにハチミツ。小麦粉、溶き卵。あとはお砂糖? オリーブオイルで揚げて、レモンの皮で最後に味付けをすれば……うん、いい感じ! ボーレン!」
「え、なに、ボーレン?」
さっきからドルチェは何を言っているのだろう。
「小さなパンみたいなお菓子なの。手の平で転がせるくらい丸くてかわいらしくて、それに焦がしちゃっても甘くておいしいんだ。私ボーレンは好きだよ?」
「もしかして、俺をお菓子にたとえてるのか?」
「そう。私お菓子が好きなの。あ、そうだ! 今度ボーレン、作ってあげるね」
「あ、ああ、そうなんだ。ありがとう」
わけがわからない。だからとりあえず適当に返事をしておく。
……最近、変な人に出会うことが多くなってきたなぁ。
「もうすぐソフィアちゃんが来るとおもうよ」
「そうなのか。それはありがたい」
するとドルチェが両手をぱんと合わせる。
「ええっと。ここで、ソフィアちゃんと仲良くなるためのポイントを紹介してあげるね!」
「え?」
「かわいいとか、すごいとか、そういうことを思ったら素直に伝えてあげて。ソフィアちゃんほめられるのがすごく好きなの」
「あ、ああそう」
突拍子もない会話の連続に頭が追いつかなくなってきた。
「ということで、私はそろそろ行くね?」
「そ、そうか。わかった」
「うん。じゃあね!」
もう最後の方は全然話を聞いていなかった。そうしてドルチェが手を振って去っていく姿をみてから、ようやく俺の頭の中に言葉が届いた。
「じゃ、じゃあな?」
そう口にした時にはもうドルチェの姿は人ごみの中に消えていた。
「なんだったんだ。今の子……」
つぶやきはむなしく風にさらわれていった。
暑い日差しの中、額ににじむ汗を拭う。通りの喧騒は相変わらずで、そこら中に人が溢れている。背を預けた壁からじんわりと熱が伝わってくる。時折通る馬車が緩やかな風を運んできて、その涼しさだけが救いだった。
ソフィアからの提案を思い出す。一時間ほど前、俺とソフィアが和解した時のこと。俺は少し悩んだけど、頷いた。
――支度をしてきたいの、だから待っていてもらってもいいかしら?
上目遣いにそう頼まれ、美人への耐性がなかった俺はほとんど何も考えずに了承してしまった。今思えば外がこんなに暑いのだから待ちたくないと言えば良かったのかもしれないが、まだ涙が残ってうるんでいた瞳で言われれば、首を横には振れなかった。まさしく不可抗力だ。
ぼーっとすること少し。様々な表情をした人が通り過ぎていく。
そんな風に人の流れに気を取られていると、突然視界の左側から、カラフルな棒みたいなものが前に伸びていった。
急に現れたそれに驚き、俺は棒の伸びてくる元を見ようとして、顔を左に向けようとした。だが棒はそれより早く先の方を曲げ、俺の目元にぐるぐるとすさまじい速さで巻きついてきた。
動けない。
「――あはは、だーれだ?」
何が起こったのかわからず、俺は動けなくなった。
だが聞こえたのは、小さな女の子のようにかわいらしい声だった。
「……ソ、ソフィアか?」
びびって噛んでしまう。
いたずらを仕掛けてきたのだろうか。しかしソフィアがそんなことをするイメージはない。それにソフィアの声はもっと透き通っていて、美しいとすら感じるものだったはず。この声の主はどちらかというとかわいい声。
おそるおそる、俺は目をふさいでいる謎の物質に手で触れた。
表面はつるつるしているが、ところどころべたついている。それにすこし甘い匂いが鼻腔をくすぐっていた。爪でつついてみるとコンコン、と意外にも結構硬そうな音がして、ますますこれが何かわからなくなる。
「ざーんねん。私はソフィアちゃんじゃないよ?」
またかわいらしい声。
視界を奪ったというのに何もしてこないらしい。とりあえず命の危険はないのかも知れない、と俺は胸を撫でおろした。ならばと動いて拘束を外そうとするが、視界を奪っている何かががっちりと頭をホールドしており、逃げることも出来ない。
「だ、誰だ?」
震える声で尋ねると、声の主はあれ? と疑問を浮かべた。
「……もしかして、怖がらせちゃった?」
言葉とともにしゅるしゅると拘束が解けていく。隙間から光が差して目を開けると、目の前では赤と白でらせん状の模様がついたカラフルな棒が動き回っていた。そしてそれが形と大きさを変えながら、いつの間にか目の前にいた人物の手の中に収まるサイズになる。
「ステッキ……キャンディー……?」
杖の形をした飴。元の世界では結構有名なものが握られていた。
「ああこれ? ううん、これはケーンっていう魔法のお菓子なの。すごいでしょ、私が作ったオリジナルのお菓子なんだぁ!」
「……そ、そうか」
魔法と言われればこの不思議な現象にも納得がいく。というかそれ以外ないだろう。
そうして俺は、拘束をしてきた張本人であろうかわいらしい声の主に目を向けた。
すると一瞬で頬がひきつった。
その少女は、この世界では全然見たことがない、すごく独特な格好をしていたのだ。
赤いリボンとフリルで過剰に装飾された白いドレス。腰にまでウェーブしながら下ろされた赤毛は、前髪の一部が白く綺麗に染められている。頭には、団子状に髪が一部結ばれていて、それを留めているのは見間違いでなければ銀色に輝くフォークとナイフだった。
なんとなく、ショートケーキっぽい印象。
長いまつげの目。黒い瞳。低い身長にあったかわいらしい顔立ちは、ソフィアとも負けず劣らずの整い具合だ。
少女がにこっと音が聞こえるくらいの笑みを浮かべる。
「ごめんね? びっくりさせようとしただけで、怖がらせちゃうとは思わなかったの!」
見た目のインパクトが強すぎて言葉があまり頭に入ってこなかった。
「あ、ああそうなんだな」
「うんうん! 許してね!」
「ああ……」
周囲からの視線を感じる。なにあの格好……と喧噪のなかから小さく聞こえた。やはり勘違いとかではなく彼女は異質な存在らしい。
だからと言って、すごい格好だな、とかは言えない。もし怒らせたら何をされるかわかったものではないのだから。
じっと得体のしれない少女を見つめていると、少女は首をかしげた。
「なんでそんなにおっかない顔してるの? もう怖いことはなんにもないよ? ……あ、そっか! 自己紹介がまだだもんね! そりゃあしらない人にはなしかけられたら怖いよね!」
少女は手のひらにこぶしをポンと乗せてうんうんと頷いて、
「私ドルチェっていうの! ソフィアちゃんの……うーん、従者? 友達? ……まあ、付き人でいいや! よろしくねトーヤちゃん!」
「付き人……?」
トーヤちゃんと呼ばれたことについては、あまり深くつっこみたくない。なんとなく疲れそうだから。
しかし、ソフィアにそんなものがいるとは知らなかった。そういえば魔王は領主でもあると言っていたし、元魔王とはいえ付き人くらいはいて当然なのかもしれない。
素性を知れたおかげで、少しだけ警戒心が解けた。
「一度君の部屋にも遊びに行ったんだよ? おぼえてない?」
ドルチェが眉をハの字に曲げて、そう疑問を投げかけてきた。
「俺の部屋に?」
「ソフィアちゃんと一緒にいたの。もしかして気づいてなかった?」
「……ああ、もしかして!」
ソフィアが地下室にやってきた時のことを思い出した。そういえばソフィアの他に、あと二人あの場にはいたはずだった。ならばおそらく、この子がそのうちの一人なのだろう。
「思い出してくれたんだね! あの時は、しゃべっちゃだめってソフィアちゃんに言われてたから話しかけられなかったんだけど、こうして話せて良かった!」
いきなりドルチェに手を握られ、ぶんぶんと上下に振られる。よろしくねトーヤちゃん、と元気な笑顔を向けられた。
しばらくして満足したのかドルチェに手を離される。
俺は完全にこの子のペースに巻き込まれていた。
「ああ、よろしく……? ところで、そのソフィアの付き人が俺になんの用だ?」
「ソフィアちゃんのことでお礼を言いに来たの」
「お礼?」
「そう。さっきソフィアちゃんがようやく帰ってきたの。家を出てった時はひどい顔してたのに、帰ってきたときはすごくすっきりした顔してた。最初乞食をするって行った時はびっくりしちゃったけど、無事に帰ってきてくれて良かった! だからありがとうね、トーヤちゃん!」
どきりと嫌な感じに心臓がはねた。
違う。それは、俺に礼をいう話じゃないはずだ。
視線を落とした。
「君は、ソフィアをとめなかったのか?」
「うん。とめないでって言われちゃったから。私と、もう一人の付き人はソフィアちゃんと契約しているから、ソフィアちゃんの命令には絶対に逆らえないの。なんていうのかな……私たちの間には、そういうすごく大きな力がはたらいているの」
「そう……だったのか」
「うん。まあそうじゃなくとも、ソフィアちゃんはやるって言ったらやる子だから。いくら止めても無駄。正直、トーヤちゃんの部屋に行った時、ソフィアちゃんが罰は受けるって言った瞬間から、こうなることは覚悟してたんだ」
「すまない。俺のせいで」
「ううん、もう謝らないで? ソフィアちゃんがトーヤちゃんを許したんだから、私たちに負い目を感じる必要なんてないよ。その代わり、トーヤちゃんもソフィアちゃんのことを許してくれたんだよね?」
「ああ。色々あったが、結局俺はここで生きているわけだし、恨んだって仕方ないからな」
「だったら大丈夫! この話は笑顔でおしまいにしよ?」
「そうしてくれるなら、ありがとう」
ドルチェの笑顔につられて、俺はとまどいながらも笑うことができた。
それにしても。ドルチェはそう口に出す。
「話してみてわかったけど、トーヤちゃんってすごく素敵な子だね。まるでお菓子みたい」
ほめられているのかと思ったら、急に変なことを言われて思考が止まる。
お菓子? 尋ねるとドルチェは大きく頷いた。
「強火で焦げちゃった部分が、ハチミツみたいに甘くなるから」
「どういうこと?」
シンプルな疑問が口から飛び出した。
ドルチェは思い出すように目を閉じて、人差し指を左右に振って指揮のような身振りを始める。
「バターにハチミツ。小麦粉、溶き卵。あとはお砂糖? オリーブオイルで揚げて、レモンの皮で最後に味付けをすれば……うん、いい感じ! ボーレン!」
「え、なに、ボーレン?」
さっきからドルチェは何を言っているのだろう。
「小さなパンみたいなお菓子なの。手の平で転がせるくらい丸くてかわいらしくて、それに焦がしちゃっても甘くておいしいんだ。私ボーレンは好きだよ?」
「もしかして、俺をお菓子にたとえてるのか?」
「そう。私お菓子が好きなの。あ、そうだ! 今度ボーレン、作ってあげるね」
「あ、ああ、そうなんだ。ありがとう」
わけがわからない。だからとりあえず適当に返事をしておく。
……最近、変な人に出会うことが多くなってきたなぁ。
「もうすぐソフィアちゃんが来るとおもうよ」
「そうなのか。それはありがたい」
するとドルチェが両手をぱんと合わせる。
「ええっと。ここで、ソフィアちゃんと仲良くなるためのポイントを紹介してあげるね!」
「え?」
「かわいいとか、すごいとか、そういうことを思ったら素直に伝えてあげて。ソフィアちゃんほめられるのがすごく好きなの」
「あ、ああそう」
突拍子もない会話の連続に頭が追いつかなくなってきた。
「ということで、私はそろそろ行くね?」
「そ、そうか。わかった」
「うん。じゃあね!」
もう最後の方は全然話を聞いていなかった。そうしてドルチェが手を振って去っていく姿をみてから、ようやく俺の頭の中に言葉が届いた。
「じゃ、じゃあな?」
そう口にした時にはもうドルチェの姿は人ごみの中に消えていた。
「なんだったんだ。今の子……」
つぶやきはむなしく風にさらわれていった。
0
あなたにおすすめの小説
無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件
fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。
実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。
追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。
そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。
これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。
異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~
和田真尚
ファンタジー
戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。
「これは神隠しか?」
戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎
ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。
家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。
領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。
唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。
敵対勢力は圧倒的な戦力。
果たして苦境を脱する術はあるのか?
かつて、日本から様々なものが異世界転移した。
侍 = 刀一本で無双した。
自衛隊 = 現代兵器で無双した。
日本国 = 国力をあげて無双した。
では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――?
【新九郎の解答】
国を盗って生き残るしかない!(必死)
【ちなみに異世界の人々の感想】
何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!
戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?
これは、その疑問に答える物語。
異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。
※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる