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四
一
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梵天丸から名を改め、政宗は翌年、祝言をあげることになる。
名を愛。政宗の一つ下の少女だ。この縁談を取り付けてきたのは、もちろん輝宗で、あろうことか「政宗と愛の間に産まれた二人目以降の子供に田村の家を継がせる」という約束までして。
頭が痛くなる、というのはこのことだ。
救いなのは、愛の父親である清顕が政宗をたいそう気に入っているということだろうか。そして、何故か輝宗と清顕は馬が合うのだ。
問題は、政宗と愛の間だ。この時政宗は十三、愛は十二だ。子を成すには早すぎるし、どう見ても険悪なのだ。
「東の方様、田村御前がいらっしゃいました」
「左様か」
すぐに入るよう、促した。
「失礼いたします、お義母様」
嫁いですぐに、義は愛に「義母」と呼ぶよう言った。愛はあっさりとそれを守ったのだ。
「そなたに聞きたいことがあった故な」
「わたくしに、でございますか?」
「左様。其方、もしも伊達と田村の間で戦が起きたら、如何する?」
愛とその乳母が凍りついた。
「……わ……分かりませぬ」
「左様か。それを聞くに、不肖の子は未だ其方が認められる男ではないということじゃな」
あれほど話し合えと言ったのに。それを無視して竺丸や家臣たちと稽古三昧。頭が痛くなるというものだ。
「その口ぶりから察するに、お義母様は選ばれたのですか?」
怯えながらも、愛は義の目を見据えた。「鬼姫」と呼ばれた義を見据える女は少ない。その心意気を義は称賛に値すると思った。
「そうじゃの。わたくしの場合は、婚儀の日に決めた。伊達のために死力を尽くすと。そのうえで兄にも協力すると」
何度伊達と最上の間で戦が起きようとも、この身を挺して戦を止める。それが義の決意だ。
「わたくしも、そこまで強く……」
「ならずともよい。其方のやり方で政宗と田村を支えればよいのじゃ。
同じようなことを愛がやったら、政宗は嘆くはずだ。
政宗のつけた縁談の条件は「気が強すぎないこと。それでいてしっかりした女子」だったはずである。どんな理想を持っているのかと、義と喜多で説教したものだ。
「これより其方の侍女になる喜多じゃ。政宗の乳母を務め上げた女子じゃ」
「喜多と申します。田村御前様、よろしゅうお願いいたします」
「……え?」
伊達のしきたりである、乳母を侍女にするという話を愛にすれば、ついてきた乳母が怒り出した。人質ではないのか、と。
「そこまで言わぬ。喜多の弟二人はいずれも我が君と政宗の側近。戦の話もあっさり拾うぞ」
「お義母様に必要ないのですか?」
「喜多ほど気の利く侍女もおらぬ。しきたり故、仕方あるまい」
仕方あるまい。三春から嫁いできたばかりの愛へつけるにはもってこいだ。
「左様でございましたか。愛姫様、ここは喜多殿に侍女になっていただきましょう」
「え?」
「代わりに、殿たちと同じように、東の方様と愛姫様ご両人につく侍女ということでよろしいかと」
乳母は何かを悟ったらしい。部屋に戻れば愛にも説明するはずだ。
「わたくしは構わぬ」
「わかり、ました」
「其方も知っておろうが、あの子の右目は天然痘でやられた。それを気味悪がる女子もおる。それゆえ、頑ななのかもしれぬな」
まずは二人の間にあるわだかまりを解くことだ。子供はそれからでいい。
そう申し付けると、二人は喜多を連れて部屋を出た。
次は政宗への説教だ。
名を愛。政宗の一つ下の少女だ。この縁談を取り付けてきたのは、もちろん輝宗で、あろうことか「政宗と愛の間に産まれた二人目以降の子供に田村の家を継がせる」という約束までして。
頭が痛くなる、というのはこのことだ。
救いなのは、愛の父親である清顕が政宗をたいそう気に入っているということだろうか。そして、何故か輝宗と清顕は馬が合うのだ。
問題は、政宗と愛の間だ。この時政宗は十三、愛は十二だ。子を成すには早すぎるし、どう見ても険悪なのだ。
「東の方様、田村御前がいらっしゃいました」
「左様か」
すぐに入るよう、促した。
「失礼いたします、お義母様」
嫁いですぐに、義は愛に「義母」と呼ぶよう言った。愛はあっさりとそれを守ったのだ。
「そなたに聞きたいことがあった故な」
「わたくしに、でございますか?」
「左様。其方、もしも伊達と田村の間で戦が起きたら、如何する?」
愛とその乳母が凍りついた。
「……わ……分かりませぬ」
「左様か。それを聞くに、不肖の子は未だ其方が認められる男ではないということじゃな」
あれほど話し合えと言ったのに。それを無視して竺丸や家臣たちと稽古三昧。頭が痛くなるというものだ。
「その口ぶりから察するに、お義母様は選ばれたのですか?」
怯えながらも、愛は義の目を見据えた。「鬼姫」と呼ばれた義を見据える女は少ない。その心意気を義は称賛に値すると思った。
「そうじゃの。わたくしの場合は、婚儀の日に決めた。伊達のために死力を尽くすと。そのうえで兄にも協力すると」
何度伊達と最上の間で戦が起きようとも、この身を挺して戦を止める。それが義の決意だ。
「わたくしも、そこまで強く……」
「ならずともよい。其方のやり方で政宗と田村を支えればよいのじゃ。
同じようなことを愛がやったら、政宗は嘆くはずだ。
政宗のつけた縁談の条件は「気が強すぎないこと。それでいてしっかりした女子」だったはずである。どんな理想を持っているのかと、義と喜多で説教したものだ。
「これより其方の侍女になる喜多じゃ。政宗の乳母を務め上げた女子じゃ」
「喜多と申します。田村御前様、よろしゅうお願いいたします」
「……え?」
伊達のしきたりである、乳母を侍女にするという話を愛にすれば、ついてきた乳母が怒り出した。人質ではないのか、と。
「そこまで言わぬ。喜多の弟二人はいずれも我が君と政宗の側近。戦の話もあっさり拾うぞ」
「お義母様に必要ないのですか?」
「喜多ほど気の利く侍女もおらぬ。しきたり故、仕方あるまい」
仕方あるまい。三春から嫁いできたばかりの愛へつけるにはもってこいだ。
「左様でございましたか。愛姫様、ここは喜多殿に侍女になっていただきましょう」
「え?」
「代わりに、殿たちと同じように、東の方様と愛姫様ご両人につく侍女ということでよろしいかと」
乳母は何かを悟ったらしい。部屋に戻れば愛にも説明するはずだ。
「わたくしは構わぬ」
「わかり、ました」
「其方も知っておろうが、あの子の右目は天然痘でやられた。それを気味悪がる女子もおる。それゆえ、頑ななのかもしれぬな」
まずは二人の間にあるわだかまりを解くことだ。子供はそれからでいい。
そう申し付けると、二人は喜多を連れて部屋を出た。
次は政宗への説教だ。
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