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四
七
しおりを挟む本当に和議なのか。何故かそれだけが頭から離れなかった。
「義、如何した?」
床に入った後の睦言としては如何なものか。だが、輝宗は言える時に言っておけ、と一向に取り合わない。
「いえ、畠山が本当に和議を結ぶ気があるのか、それが気になりまする」
「……ふむ。一理あるな。大内はあれで没落してしまったからな。
約束の期日、政宗には鷹狩に出てもらおう」
「我が君?」
「なぁに、念のためというものだ」
会談をするはずの宮森城付近で。事も無げに輝宗はそう言った。
言わなければよかったのか。言ってよかったのか。それはいまでも分からない。
続きの奥の間に、義は控えた。万が一のことがあれば、畠山と刺し違えるつもりであった。そこまでして、輝宗を守りたかった。
「二本松城からほど近い五村のみでも我が領としていただけるは、ありがたい」
畠山の声が聞こえた。
嘘だ。そう、義の本能が告げた。
「では、愚息にそう伝えておこう」
「ご子息は如何なさった?」
「ほれ、ここにおりますが」
「政道と申します。兄に代わりこの場におりまする故」
「其方の兄は、如何した?」
「政宗には他の方の接待を頼んでおりましてな。その方と鷹狩に行っております」
元から入っていた用事だと、輝宗が笑って言う。
「あのような戦をなさるが、文化人としても高名と聞く。茶をいただきたかったのだが」
わざとらしい畠山の言葉。では、と言うのは政道だ。
「私も兄と同じ師から学んでおりますゆえ、一献如何ですか?」
「いや、遠慮しておこう」
この会話が破滅に向かっているようで、怖かった。そして、わざと政宗と政道の間にしこりを作ろうとしているとも、取れた。
「では、失礼いたそう」
見送りに、そう言う輝宗を止めたかった。
「綱元っ!! 兄上に至急連絡を!!」
何事もなく帰ってくれればよかったものを。それが義のまごうことなき思いだった。それを踏みにじる、政道の叫び声。
あぁ、己の予感が当たってしまった。
「成実! 急ぎ出陣の支度だ!」
「御意」
宮森城にいた腹心たちが急ぎ動き出す。最悪を想定した準備も進んでいた。
最低限の家臣以外が出張らった城に、鉄砲の音が木霊した。
「我が君……」
義はその場に力なく座り込んだ。
政道の指示のもと、成実と政景が畠山とその家臣、そして人質に取られた輝宗を遠巻きに追っていた。
間もなく二本松に入るというその時、政宗が到着したという。
それに驚いたのが、畠山だ。政宗はいないものとして輝宗を人質に取ったのだろう。己の保身をかけて。二本松に入ってから政宗が輝宗を殺めたとすれば、極悪非道として詰るつもりだったはずだ。
だが。
「我が子よ! 我ごと撃て!!」
その言葉が引き金となり、二人は輝宗を撃ったという。
「……父上は私が越えると目標にしていた人です。卑劣な奴らに撃たれるのは我慢ならなかった」
涙を流すことなく、政宗は呟き、政道は己が人質になっていればもっと早く解決したはずだと悔やんだ。
それが図らずとも二人の絆を強めることとなった。
「政道、留守を頼む」
「兄上、お気をつけた」
「もしものことがあったら、愛と母上は頼んだ」
「兄上らしくもない」
「父上の優しさはお前にいったからな。私は進むことしかできない」
初七日法要を済ますなり、政宗は弔い合戦へ赴くこととなった。
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