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四
八
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後年、「人取橋の戦い」と呼ばれる戦は政宗の負け戦となった。
戦を仕掛けてくくる、というのが畠山でも分かっている。何も備えをしないわけがない。
二本松城に籠城した義継の遺児は、佐竹達を待っていたのだ。そして、逆に包囲されるようになり、命からがらで逃げたという。
どれくらい悔しかっただろうか。だが、それでも、政宗は何も言わなかった。
「景綱と成実を呼び」
「御意に」
侍女が下がり、卓の代わりに碁盤を置いていく。
「片倉小十郎景綱、参上いたしました」
「伊達藤五郎成実、参上いたしました」
二人から聞きたかったのは、ただ一つ。今回の戦に関してだ。
「景綱、成実。其方らの働きがあってこそ政宗の命は救われた。母として礼を言わせてほしいのです」
「ありがたき。ですが、一番の功労者は鬼庭殿にござりますれば」
小十郎は己の手柄ではない、そう言外に言うが、「我こそは伊達政宗也」と囮をしなければ、命を落としていてもおかしくなかった。そうすれば、伊達は混乱に陥ったはずだ。
「分かっておる。良直が殿を務め、其方たちがおったからこそ、伊達は無事であった。政宗とて分かっておるはず」
「政宗様は未亡人に今良直様が拝領している領地をそのまま俸禄として授けるようです」
良直の訃報というのは、どれくらい痛手なものか。
喜多にとって実父であるはずだが、平然としていた。
「元々母との離縁自体が男が産まれなかった故でございますから」
「左様か」
「はい。『次代を守るものがいなくて鬼庭の名前は名乗れない』そう言って片倉の家に私と母を預けましたので。本人は『輝宗様をお守りすることこそ、我が使命』と常々言っておりましたから、不満はあるでしょうが」
「……確かに、そのような勢いは昔からありましたわね」
戦の時、伊達の殿を守るのは己の役目と決めていた節がある。年と共に身体が動かなくなり、己から家督を譲っていた。だが、輝宗の重臣であったことには変わりはない。
今回、己から戦に出たいと申し出たと聞いている。
おそらくは輝宗の弔い合戦というよりも、己の不甲斐なさを嘆いていたのではと思ってしまう。
己が主と認めたものを守れなかった、と。だからこそ病身でありながら、出陣したのだと。
「良直の墓前にこれを」
輝宗の数少ない遺品を預けた。
「あの子たちにも良直のような家臣が多く集うことを祈るばかりですわね」
誰もいない部屋で、独り言ちた。
戦を仕掛けてくくる、というのが畠山でも分かっている。何も備えをしないわけがない。
二本松城に籠城した義継の遺児は、佐竹達を待っていたのだ。そして、逆に包囲されるようになり、命からがらで逃げたという。
どれくらい悔しかっただろうか。だが、それでも、政宗は何も言わなかった。
「景綱と成実を呼び」
「御意に」
侍女が下がり、卓の代わりに碁盤を置いていく。
「片倉小十郎景綱、参上いたしました」
「伊達藤五郎成実、参上いたしました」
二人から聞きたかったのは、ただ一つ。今回の戦に関してだ。
「景綱、成実。其方らの働きがあってこそ政宗の命は救われた。母として礼を言わせてほしいのです」
「ありがたき。ですが、一番の功労者は鬼庭殿にござりますれば」
小十郎は己の手柄ではない、そう言外に言うが、「我こそは伊達政宗也」と囮をしなければ、命を落としていてもおかしくなかった。そうすれば、伊達は混乱に陥ったはずだ。
「分かっておる。良直が殿を務め、其方たちがおったからこそ、伊達は無事であった。政宗とて分かっておるはず」
「政宗様は未亡人に今良直様が拝領している領地をそのまま俸禄として授けるようです」
良直の訃報というのは、どれくらい痛手なものか。
喜多にとって実父であるはずだが、平然としていた。
「元々母との離縁自体が男が産まれなかった故でございますから」
「左様か」
「はい。『次代を守るものがいなくて鬼庭の名前は名乗れない』そう言って片倉の家に私と母を預けましたので。本人は『輝宗様をお守りすることこそ、我が使命』と常々言っておりましたから、不満はあるでしょうが」
「……確かに、そのような勢いは昔からありましたわね」
戦の時、伊達の殿を守るのは己の役目と決めていた節がある。年と共に身体が動かなくなり、己から家督を譲っていた。だが、輝宗の重臣であったことには変わりはない。
今回、己から戦に出たいと申し出たと聞いている。
おそらくは輝宗の弔い合戦というよりも、己の不甲斐なさを嘆いていたのではと思ってしまう。
己が主と認めたものを守れなかった、と。だからこそ病身でありながら、出陣したのだと。
「良直の墓前にこれを」
輝宗の数少ない遺品を預けた。
「あの子たちにも良直のような家臣が多く集うことを祈るばかりですわね」
誰もいない部屋で、独り言ちた。
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