茶師のポーション~探求編

神無ノア

文字の大きさ
14 / 25
富士樹海迷宮編

役割分担

しおりを挟む

 第一層目の駆逐が一段落すると、持ち寄った食材、水、薬草をブルーノの前に皆が置いた。
「流石に魔力マナ足りない」
「私が支援するわ。あと数人が支援すれば何とかなるけど、食事は……」
「飯は手の空いた奴らで作るぞ」
「テント補強は俺に任せろ」
「ベッドメイキングはこっちに」
 マイニが支援を打ち出せば、他の探求者たちもすぐに乗り出した。

 ブルーノに支援するのは妖精・精霊と契約した支援魔法持ち。そして、浄化された水と薬草と使い、すぐさまポーションを作るのは薬師。料理が得意な者は料理を。
 皆があっさりと役割を決めていく。
「こうなると、俺のアイデンティティはなくなるんだよなぁ」
 ぼそりと弟子が呟く。
「悠里のアイデンティティは料理。あの時もうまかったし」
 そういうのはブルーノで。ただ、今回他のパーティに弟子よりも料理が上手な者も当然いる。
「弟子、暇なら薬草のすり潰しを」
「へーい」
 今回作るポーションの数はとてもではないが、マスター一人では手が回らない。他のメンバーでは、薬師という職種では駆け出しばかりだ。
「あと、水を」
「ほーい」
「弟子、気の抜ける返事を止めてください」
「えー。気を紛らわすという面でもいいじゃんか。師匠、気ぃ張りすぎ」
 迷宮で気を抜くということが命取りになると教えているにもかかわらず、これだ。
「てかさ、適度に気ぃ張るのはいいと思うんだ。師匠が何を警戒しているか分かんないけど、もう少し俺らも頼ってよ。師匠が第一線を退いた時よりも、少しは成長したと思ってるよ」
 その言葉に、マスターは息を吐きだした。
「仕方ないでしょう。私が今作っている子のポーションが、皆さんの命を預かる一線だと思うと、気も抜けないものですよ」
「そっかぁ。じゃあ、戦闘では俺らを頼ってよ」
「そうさせてもらいますね。私も昔ほど身体は動きませんので」
 わざとらしく言えば、その場にいた者たちが皆朗らかに笑っていた

 なのだが。弟子の悪い癖が一つ。厭きやすいのだ。
「ししょー、あとどれくらいー?」
 この問いも何度目となるのか。周囲が苦笑していた。
「そうですねぇ。……食事も出来たそうですし、一度休憩いたしましょう。皆に二本ずついきわたるくらいは作りましたので」
「どんだけ作ってんの」
 ぼそりと弟子が言うが、マスターは聞こえないふりをした。
 他の薬師もいるため、何とか全員に五本ずついきわたるくらいは出来ていたようである。
 一人頭五本で足りるのか、と言われれば否だ。

 だからと言って闇雲に増やすわけにもいかない。マスターのようにマジックバックやら、インベントリを持っている探求者ばかりではないのだ。
 軽く食事をとった後、茶を注いでひと呼吸おく。マスターにとって茶を淹れるという行為が、心を落ち着かせる動作でもある。

「さて、明日はどこまで進める?」
「迷宮の状況からして、急ぐべきなのは分かる。しかし、準備が」
「噴火につながってしまう大暴走だとしたら……」
 誰が言ったのかは分からない。だが、誰一人「あり得ない」とは言えなかった。

 富士山噴火の前兆に怯えた魔獣が大暴走を引き起こしたとしたら。
 ここに来ている者たちは、その可能性を考慮に入れている。口に出さなかっただけで。そして、その可能性を否定したいのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...