のんきな男爵令嬢

神無ノア

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調合師教育計画

赴任者

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 俗にいう「落ちこぼれ神官」が赴任することとなり、皆が落ち込むかと思ったのだが。
「高飛車じゃなけりゃどうでもいい」
「前任の枢機卿様よりの方じゃなければ、歓迎だわ」
 という、どうしようもない感想と共に歓迎された、アルフレード(四十歳)。外見は六十を超えているんじゃなかろうかというほど老いていた。故に、年齢は重要らしい。
「……なるほどねぇ。レイスがグールを生み出していると。で、それ以外何も知らんのかね」
 食堂で出された塩水を飲んで一息付けたアルフレードは住民に向かって訊ねた。
「そのあたりは公爵様たちの領分だからなぁ」
「公爵?」
 ぴくりと、アルフレードのまとう空気が変わった。
「そうだろうよ。ここはオヤヤルヴィ公爵領の一部だろう? お前さん何言ってやがる」
 相手をしている店主は、憎しみを込めたアルフレードに対してこともなげに答えた。
「……いや」
「俺らとしちゃ、どうでもいいけどよ。ここは迫害されないんだからな」
「そうそう。混血だからって搾取される側じゃないし」
「混血?」
 聞き捨てならない言葉が聞こえたと言わんばかりに、アルフレードは問い返した。
「おうよ。俺らの殆どはローゼンダール帝国とグラーマル公国の混血児だ」
「……グラーマル、王国?」
 帝国内で「混血」という言葉が示すのは、ローゼンダール帝国とグラーマル王国両国の血をひいているもの以外いないはずだ。
「なんたって公爵家嫡男の婚約者はアベスカ男爵領のお嬢だしな」
 一応、どこまで情報を公開してもいいかという許可を貰っている、店主である。
「アベスカ……男爵領……だと?」
 先ほどまでの勢いがなくなり、アルフレードの顔から血の気が引いた。
「お許しくださいぃぃぃ!! あそこの領地だけは勘弁ですぅぅぅ!!」
 がたんと勢いづけて立ち上がったと思ったら、机の下でガタガタと震えだした。
「お嬢、どういう脅しをしたんだ?」
 ここにマイヤがいたら「失礼な」と言っただろうが、当の本人は採取組を連れて出かけている。

 念のためマイヤに訊ねたものの「わたくし存じ上げませんけど」という答えだけが返ってきたという。
 とりあえず、ヴァルッテリがいる時に聞いてみようかという話になった。


「その話に出てくる女性、間違いなくレカですわね」
「え? 女主人って言ってたけど」
「お母様があの家で女主人の真似事をするとでも? 二十年前となると、お祖母様は他界しておりますので、消去法としてレカしか考えれませんわ」
 女主人の代理が出来る侍女など相違ない。当時リーディアに従っていた女性で、そこまでやってのけた人物となれば、レカしかいないのだ。
「聖職者相手に何やってんの」
「失敬な。脅していませんわ。領民から金を奪っていた神官に鉄槌を下しただけではありませんか」
 ものは言いようともいう。

 豊かになった領地から少しでも金が欲しいと、派遣された新任神官が欲を持った。そして、その金で聖国のお偉いさんに贈り物をと考えていた。
 それを木っ端みじんにしたというのがアベスカ男爵領側の言い分で、神官側の言い分は「いきなり前線に立たされた挙句、こき使われた」というものだ。

 どちらも事実だ。もっとも、そのGOサインを出したのは当時の執事、セヴァトスラフと、男爵であるダニエル。言いやすいと思って組したはずのレカに大ダメージを食らったというところなのだが。
「お金が欲しいのなら働けばいいだけですわ。お布施が欲しいのなら、それ相応の見返りというものが必要だと思いませんこと?」
 にっこりと微笑むマイヤ。

 それを実行すべく、マイヤは神殿に向かった。

 そして、アルフレードの心をぼっきりと折って差し上げていた。
「お嬢様の仰せのままに」
 それしかしばらく言わないアルフレードに、住民たちは不思議そうに首を傾げていた。

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ヴ「マイヤ、いったいどんな脅しを……」
マ「脅しなんてしておりませんわ。お話合いをしただけですもの。ねぇ、ベレッカ」
べ「お嬢様のおっしゃる通りです」
マ「そうですわねぇ。アベスカ男爵領での彼の方の評判とか、そのあと赴任した方の評判などをお伝えしただけですけど」
ヴ「(絶対違う!!)」

取りあえず、書くも恐ろしい話をしたと思ってくださいませ<(_ _)>
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