のんきな男爵令嬢

神無ノア

文字の大きさ
60 / 99
調合師教育計画

赴任者

しおりを挟む

 俗にいう「落ちこぼれ神官」が赴任することとなり、皆が落ち込むかと思ったのだが。
「高飛車じゃなけりゃどうでもいい」
「前任の枢機卿様よりの方じゃなければ、歓迎だわ」
 という、どうしようもない感想と共に歓迎された、アルフレード(四十歳)。外見は六十を超えているんじゃなかろうかというほど老いていた。故に、年齢は重要らしい。
「……なるほどねぇ。レイスがグールを生み出していると。で、それ以外何も知らんのかね」
 食堂で出された塩水を飲んで一息付けたアルフレードは住民に向かって訊ねた。
「そのあたりは公爵様たちの領分だからなぁ」
「公爵?」
 ぴくりと、アルフレードのまとう空気が変わった。
「そうだろうよ。ここはオヤヤルヴィ公爵領の一部だろう? お前さん何言ってやがる」
 相手をしている店主は、憎しみを込めたアルフレードに対してこともなげに答えた。
「……いや」
「俺らとしちゃ、どうでもいいけどよ。ここは迫害されないんだからな」
「そうそう。混血だからって搾取される側じゃないし」
「混血?」
 聞き捨てならない言葉が聞こえたと言わんばかりに、アルフレードは問い返した。
「おうよ。俺らの殆どはローゼンダール帝国とグラーマル公国の混血児だ」
「……グラーマル、王国?」
 帝国内で「混血」という言葉が示すのは、ローゼンダール帝国とグラーマル王国両国の血をひいているもの以外いないはずだ。
「なんたって公爵家嫡男の婚約者はアベスカ男爵領のお嬢だしな」
 一応、どこまで情報を公開してもいいかという許可を貰っている、店主である。
「アベスカ……男爵領……だと?」
 先ほどまでの勢いがなくなり、アルフレードの顔から血の気が引いた。
「お許しくださいぃぃぃ!! あそこの領地だけは勘弁ですぅぅぅ!!」
 がたんと勢いづけて立ち上がったと思ったら、机の下でガタガタと震えだした。
「お嬢、どういう脅しをしたんだ?」
 ここにマイヤがいたら「失礼な」と言っただろうが、当の本人は採取組を連れて出かけている。

 念のためマイヤに訊ねたものの「わたくし存じ上げませんけど」という答えだけが返ってきたという。
 とりあえず、ヴァルッテリがいる時に聞いてみようかという話になった。


「その話に出てくる女性、間違いなくレカですわね」
「え? 女主人って言ってたけど」
「お母様があの家で女主人の真似事をするとでも? 二十年前となると、お祖母様は他界しておりますので、消去法としてレカしか考えれませんわ」
 女主人の代理が出来る侍女など相違ない。当時リーディアに従っていた女性で、そこまでやってのけた人物となれば、レカしかいないのだ。
「聖職者相手に何やってんの」
「失敬な。脅していませんわ。領民から金を奪っていた神官に鉄槌を下しただけではありませんか」
 ものは言いようともいう。

 豊かになった領地から少しでも金が欲しいと、派遣された新任神官が欲を持った。そして、その金で聖国のお偉いさんに贈り物をと考えていた。
 それを木っ端みじんにしたというのがアベスカ男爵領側の言い分で、神官側の言い分は「いきなり前線に立たされた挙句、こき使われた」というものだ。

 どちらも事実だ。もっとも、そのGOサインを出したのは当時の執事、セヴァトスラフと、男爵であるダニエル。言いやすいと思って組したはずのレカに大ダメージを食らったというところなのだが。
「お金が欲しいのなら働けばいいだけですわ。お布施が欲しいのなら、それ相応の見返りというものが必要だと思いませんこと?」
 にっこりと微笑むマイヤ。

 それを実行すべく、マイヤは神殿に向かった。

 そして、アルフレードの心をぼっきりと折って差し上げていた。
「お嬢様の仰せのままに」
 それしかしばらく言わないアルフレードに、住民たちは不思議そうに首を傾げていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヴ「マイヤ、いったいどんな脅しを……」
マ「脅しなんてしておりませんわ。お話合いをしただけですもの。ねぇ、ベレッカ」
べ「お嬢様のおっしゃる通りです」
マ「そうですわねぇ。アベスカ男爵領での彼の方の評判とか、そのあと赴任した方の評判などをお伝えしただけですけど」
ヴ「(絶対違う!!)」

取りあえず、書くも恐ろしい話をしたと思ってくださいませ<(_ _)>
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

処理中です...