74 / 99
調合師教育計画
ヴァルッテリ、同僚にまで憐れまれる
しおりを挟むヴァルッテリは未だ近衛騎士団に所属中である。
半年前の婚約お披露目以降、マイヤを連れて夜会等に出席していない。そして、マイヤはある意味引きこもりライフを満喫しているため、女性陣の茶会にすら出席していない。
「……ヴァル、お前婚約していたよな」
伯爵家次男の同僚、ニーロが食事中にこっそりと訊ねてきた。いや、普通に聞いてもらっても構わないのだが。
「しているよ」
「お前の婚約者ほとんど見かけないんだけど」
「見かけたいたら怖いな」
移転魔法も使えない女性が、帝都にいたら大問題である。実母あたりが連れてくるということも考えられるが、マイヤ本人が集落発展に力を注いでいる。出てくるわけがない。
アベスカ男爵領からついてきた、マイヤの専属お針子たちは現在、オヤヤルヴィ公爵家御用達の店で絶賛修行中である。そして、お針子たちもマイヤが戻ってこないのを気にしていない。
毎度のことながら、それでいいのかと思ってしまう。
「つか、婚約してから半年経過したよな? 結婚どうすんだよ」
「……あーー」
ヴァルッテリも毒されたもので、きれいさっぱり忘れ去っていた。
「おい!」
「いやさぁ、マイヤのペースに合わせていた。……このままだとまずいな」
「まだ、破棄したとかじゃないわけな」
「するわけがない。俺も両親どころか、祖父上まで気に入っている。破棄なぞしようものなら、俺が追い出される」
「お前、一人息子な上に嫡男、しかも白亜色の髪、紫紺の瞳持ちだよな? それを追い出すって」
「当家はやる」
家と領民に迷惑をかけるような者は一族にあらず。それを実行し続けたオヤヤルヴィ公爵家。実際ヴァルッテリの叔父も家系図から切り離されている。
「でぇも、お前が公爵家に迷惑かけたり、領民に迷惑なぞ……」
「王女殿下と婚約中はかけていたよ」
「それは例外だろ、阿呆」
この男も言いたい放題である。だから結婚できないのだと言いたくなるが、ヴァルッテリにあっさり返ってくる言葉のため、言わないでおく。
「……マイヤのことは一言で言い表せない」
「どんな女性だよ」
「取りあえず、俺が冒険者稼業をやるといっても止めない女性」
「本当に男爵令嬢か?」
聞き耳を立てていた他の同僚たちもニーロの言葉に頷いている。
「宰相閣下の理不尽な拷問にも耐える女性」
「屈強な男ですら偽りの自白をするというあの拷問に耐えるだと!? 本当に女性なのか?」
「気が付くと移転魔法を使っていないのに、どこにいるか分からなくなる女性」
「人間か?」
「きちんとした男爵令嬢、つまりれっきとした女性で人間だよ」
「規格外すぎるわ!!」
一部分だけを言ったはずなのに、方々から同情と憐み、そして突っ込みが入った。
「俺、憐みも同情も要らないから、マイヤの心が欲しい」
「どこの詩人だよ!!」
「俺の偽ざる本心です」
「……そのうち、公爵邸に遊び行っていいか?」
「いいけど、マイヤいないし、俺も帰ってない」
一応最近は公爵領から移転魔法で通ってきていることになっている。
「言い方悪かった。お前の婚約者に会いに行っていいか?」
「駄目。マイヤに惚れると困る」
「安心しろ。そこまで規格外の女性、俺どころか俺の実家でも扱いきれん」
そんなこんなで、後日ニーロが来ることになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる