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大地の章
漆、龍王会談(中)
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漆、「龍王会談」(中)
――龍王会談、前夜。時刻は亥の刻を半分過ぎた。
エイルとテムは、セツカの命に従い、リナリア王への謁見を求めたが、何度願おうともフロン元帥は「すまない。できない」を繰り返すばかり。この攻防は昼まで続き、危うくエイルが兵士に力づくで追い払われようとした時にヤンジンが現れた。
「真君!!」
「真君……? まさか、清源妙道真君ヤンジン様か……!?」
驚くフロンに、ヤンジンは「如何にも」と不敵な笑みを返し、エイルを引きずっていた兵士に剣印を組んだ手を向けると、二人の兵士はかくりと膝の力を失ってその場に座り込んだ。
「なにをする!!」
「なに? 海の皇太子に無礼を働いたのはそちらだろう。俺様が『なにか』をした証拠はないが、貴殿らが恩義ある王子に憚ることなく、強制送還しようとした件に関してなら、このヤンジンがしかと見届けたがな」
フロンはぐっと言葉に詰まった。エイルの方にはテムもいる。笑みを絶やさない高名な仙人のことだ。きっとエイルへの無礼は映像に収められているはずだと覚った。
「フロン・リー元帥、地上との大戦を控えておきながら、セツカ姫が戻った海と事を荒立てたくはあるまい。おとなしくリナリア王に伝えろ――龍王会談の席に座れ、とな」
「……それをお伝えすれば、使者殿と貴方様はお帰りになるのか?」
「さてなあ、エイルは知らんが、俺は空に久しく来ていない。もうしばし滞在したいものだ。ああ、寝床ならその辺りで適当に眠るゆえ、気遣いはいらん」
鷹揚を装いつつも厚かましい。ヤンジンの横柄な態度を見かねたのか、それとも身分に屈したのか、一陣の風がさわりと吹いた。
「蒼い風……リナリア王とお見受けする」
『清源妙道真君ヤンジン様、エイル王子、部下の非礼と斯様な形式でお声をかける私の無礼、平にお詫び致します。ですが、こちらにも謁見できぬ深い子細あってのこと。明日の龍王会談には臨ませて頂きますゆえ、どうか本日はお引き取りくださいませ……どうか……』
「陛下、それ以上力を使われては……!!」
『フロン、その方々のお見送りをよろしくお願い致しますね』
それきり、リナリアの声は途絶えた。フロンは、泣き出しそうな顔をして「我が王よりのお言葉、数々の礼を欠いたが確かにお届けした。お引き取りを」と一礼する。
エイルの意味深な視線にひらりと手を振って、ヤンジンは「あいわかった。東方王様にはそう御伝えしよう」とエイルの肩を掴み、仙界に続く泉に入って消えた。
フロンは、ただ黙したまま動こうとはしなかった――。
久遠城の寝室では、荒い呼吸をしながらリナリアがタオ老師から吸い飲みで水を与えられていた。
「これで良かったのよね? タオ」
「ああ、そうだとも。さあ、もうおやすみ」
リナリアは、大恩あるエイルと国民であるテムに「ごめんなさい」と呟いて、眠りの淵に沈んでいった。
タオはすすり泣きながら、変わり果てたリナリアの頬を撫ぜる。
「すまないねえ……すべてこのババが罪を背負っていくから安心しなさい。今は安らかにお眠り……」
タオは子守歌を口ずさみながら、静やかに泣き濡れて皺だらけの手でリナリアの頬を何度も撫でた。
◇
仙界の泉に出たと同時にエイルはヤンジンに「助かりました」と深く息を吐いた。
「ロンであろうとも、あの場の説得は無理だったろうな。もうリナリアには起き上がる力もないと判断したが、詳しく聞かせてくれぬか?」
ヤンジンの質問に、エイルが怪訝な顔をすると、背後から「けほっ」と小さな咳が聞こえた。
見れば、空色の絹の長袍を着た少年が四つん這いになっていた。
「だ、誰ですか?」
「リナリアの息子。天空神龍族の皇太子フギ・ロフ殿下とお見受けする」
「は、はい。はじめまして。エイル王子、清源妙道真君。僕は、お二人に母をお助け頂きたく参りました」
フギの名前に、エイルは「て、天空の王子!?」と自信よりも一回り近く小さな王子を見据えた。
「真君、いつの間に拉致したんですか!?」
「人聞きの悪い……久遠城の窓から抜け出す姿が見えたから安全確保しただけじゃねえか――して、フギよ。手短に話そう。リナリア王を助けて欲しいとは、空石に殺されかけている母から、秘宝を離して欲しいという意味か?」
フギは立ち上がると、こくりと頷いた。ヤンジンは「やれやれ」と、逆に近くの路石に腰かける。
「……母様にとっては、タオ老師が母のようなものでした。三龍大戦の引き金になって死んで二人は、タオ老師の娘と孫です。母とタオ老師のご息女は母の親友でした。母は、大戦が始まってから泣き暮らすタオのおばあ様があまりにも不便で地上と争い始めたのです」
「つまりタオ老師の怨恨を晴らすために、リナリア王は空石を取り込んだのか? どうしてそこまでするんだ? しかも、誰も止めようとはしない!! 可笑しいじゃないか!!」
エイルの怒りに、フギは肩を落とす。ヤンジンはエイルの尻をぺしりと叩いた。
「タオ老師は……久遠城に住まう者すべてのおばあ様です。僕もお慕いしています。でも、僕は大戦で父上を失いました。もう……戦争は嫌だ」
「タオ老師は先代和王の頃から天空神龍族の要職にある。お前の気持ちも解るが、たった一人の占術師の老婆の恨みを、国が丸ごと受け止められるものなのか? 俺にはそこがわからん」
ヤンジンの言葉に、フギは「騙されたんです!!」と声を大にして詰め寄る。
「五百年前、確かに空と地上が主張する領空域は曖昧でした!! でも、あの日、タオ家のお二人が飛んでいた場所は、地上も認めた空の領域でした。それなのに、地平龍王ジュウゼンは手下の子供を使って、『歓待』と称した贈り物があると飛んでいる二人に告げたそうです。母が止めるのも聞かず、娘は地上に近づいて――」
「領域侵犯として焼き殺された、か……」
「はい、そうです。仙界や地上にも記録は残っていません。利用された地平龍人の親子も殺されましたから。風で死んだタオ家のお二人を監視していた天空兵すら、通説がまかり通るような映像に間者が書き換えてしまった!! 怪しんだタオのおばあ様が占うまで、真実は葬られたままだったのです……!!」
「なるほど……つまり三龍大戦は全世界を欺いた手口ってか。海が防衛に徹したのは、エイシャ王だけが真実を知っていたから、か」
しかし、ジュウゼンはもういない。タオの行き場のない哀しみをリナリアは一人で背負い込み、世界はまた戦争の方角へと舵を切ろうとしている。
歯がゆいのは、もう大戦の真実の証拠に手をくわえられない点だ。ジュウゼンは王位に就いた時からこの計画を進めていたに違いない。ヤンジンも矜持に傷がついたのか、盛大な舌打ちをした。
「フギ王子、話してくれてありがとう。これは海にも持ち帰って王や姫様にも話す。明日の龍王会談が何事もなく終わるように務めるから、君は早く帰った方がいい。俺みたいな放蕩者じゃない君が消えたら、空はまた大騒ぎだろ?」
フギも納得したのか、両肩に置かれたエイルの手を握った。その力はあまりにも弱く、少しだけ震えていた。
「そうですね……やっぱり僕はまだまだ子供だ。母様が亡くなってしまったら、僕が王にならなければならない。そんな覚悟はなくても玉座に強制的に座らせられるのを、恐れているのが本音です……」
「それは俺も同じだ。明日の龍王会談で父が死んでしまったら、俺も玉座に据えられる。未熟な俺は、嫌でも父と比べられて前も後ろも解らない政に直面する。……でも、そんな自己愛よりも、父上がお亡くなりになる方が、何倍も哀しい」
真に幼い王子の不安を解ってやれるのは、同じ王子であり、「王の息子」であるエイルだった。
ヤンジンはのっそりと立ち上がると、躊躇うフギの背を押して、泉の中へと誘った。
「エイル王子、またお話ししてください」
「喜んで」
二人の王子は、そう約束を交わす。フギは泉の中に消えて行った――。
「真君、俺は海に帰りますが……真君は、どうなさるおつもりですか?」
「東方王様と西王母様に話すつもりだ。その後は、また地上に戻る。リナリアが龍王会談へ参加する旨は言質が取れた。どう行動に出るかは向こう次第ゆえ、エリン、エイシャ王とセツカ姫、それとロンにひとつ伝言を頼みたい――」
「なんでしょう?」
「『会談の場に封じの結界を張る。三龍の秘宝に、龍でない我らがどれほど対抗できるかは不明だが、埃を被った時空の秘術を用いてリナリア王をお救いしたく存ずる。肉石と桜真珠も力を秘されて望まれるべし』――これだけで伝わる。詳しくはロンにでも聞け。頼んだぞ」
いつもの余裕が感じられないヤンジンにエイルが「お伝えしますが」と、横を通り過ぎようとしたヤンジンの腕を掴んだ。
「真君、俺は星であなたの真意を読んでみせますよ。リナリア王をお救いする為に、他の誰かが犠牲になるような方法ではありませんよね? そんな戦場の最前線に行くような眼はやめてくれませんか」
エイルの真摯な眼に、ヤンジンはふと笑い、癖を知らないまっすぐな黒髪を掻き交ぜた。
「俺様を誰だと思ってやがる、クソガキ」
いつもの余裕の笑みを浮かべたヤンジンは「絶対ですよ!!」と叫ぶエイルに手を上げて答えた。
――腹が立つ。ロン以上の青二才だと思っていたのに、きちんと「王子」の眼をしやがって。
「俺様も甘く見られたもんだ――仕込みなんざ、もうとっくに済ませてんだよ」
ヤンジンは聞く者もいない霧の道を進む――。
その眼も、吊り上がった口角も、獲物を発見した猛禽類のそれだった。
続...
――龍王会談、前夜。時刻は亥の刻を半分過ぎた。
エイルとテムは、セツカの命に従い、リナリア王への謁見を求めたが、何度願おうともフロン元帥は「すまない。できない」を繰り返すばかり。この攻防は昼まで続き、危うくエイルが兵士に力づくで追い払われようとした時にヤンジンが現れた。
「真君!!」
「真君……? まさか、清源妙道真君ヤンジン様か……!?」
驚くフロンに、ヤンジンは「如何にも」と不敵な笑みを返し、エイルを引きずっていた兵士に剣印を組んだ手を向けると、二人の兵士はかくりと膝の力を失ってその場に座り込んだ。
「なにをする!!」
「なに? 海の皇太子に無礼を働いたのはそちらだろう。俺様が『なにか』をした証拠はないが、貴殿らが恩義ある王子に憚ることなく、強制送還しようとした件に関してなら、このヤンジンがしかと見届けたがな」
フロンはぐっと言葉に詰まった。エイルの方にはテムもいる。笑みを絶やさない高名な仙人のことだ。きっとエイルへの無礼は映像に収められているはずだと覚った。
「フロン・リー元帥、地上との大戦を控えておきながら、セツカ姫が戻った海と事を荒立てたくはあるまい。おとなしくリナリア王に伝えろ――龍王会談の席に座れ、とな」
「……それをお伝えすれば、使者殿と貴方様はお帰りになるのか?」
「さてなあ、エイルは知らんが、俺は空に久しく来ていない。もうしばし滞在したいものだ。ああ、寝床ならその辺りで適当に眠るゆえ、気遣いはいらん」
鷹揚を装いつつも厚かましい。ヤンジンの横柄な態度を見かねたのか、それとも身分に屈したのか、一陣の風がさわりと吹いた。
「蒼い風……リナリア王とお見受けする」
『清源妙道真君ヤンジン様、エイル王子、部下の非礼と斯様な形式でお声をかける私の無礼、平にお詫び致します。ですが、こちらにも謁見できぬ深い子細あってのこと。明日の龍王会談には臨ませて頂きますゆえ、どうか本日はお引き取りくださいませ……どうか……』
「陛下、それ以上力を使われては……!!」
『フロン、その方々のお見送りをよろしくお願い致しますね』
それきり、リナリアの声は途絶えた。フロンは、泣き出しそうな顔をして「我が王よりのお言葉、数々の礼を欠いたが確かにお届けした。お引き取りを」と一礼する。
エイルの意味深な視線にひらりと手を振って、ヤンジンは「あいわかった。東方王様にはそう御伝えしよう」とエイルの肩を掴み、仙界に続く泉に入って消えた。
フロンは、ただ黙したまま動こうとはしなかった――。
久遠城の寝室では、荒い呼吸をしながらリナリアがタオ老師から吸い飲みで水を与えられていた。
「これで良かったのよね? タオ」
「ああ、そうだとも。さあ、もうおやすみ」
リナリアは、大恩あるエイルと国民であるテムに「ごめんなさい」と呟いて、眠りの淵に沈んでいった。
タオはすすり泣きながら、変わり果てたリナリアの頬を撫ぜる。
「すまないねえ……すべてこのババが罪を背負っていくから安心しなさい。今は安らかにお眠り……」
タオは子守歌を口ずさみながら、静やかに泣き濡れて皺だらけの手でリナリアの頬を何度も撫でた。
◇
仙界の泉に出たと同時にエイルはヤンジンに「助かりました」と深く息を吐いた。
「ロンであろうとも、あの場の説得は無理だったろうな。もうリナリアには起き上がる力もないと判断したが、詳しく聞かせてくれぬか?」
ヤンジンの質問に、エイルが怪訝な顔をすると、背後から「けほっ」と小さな咳が聞こえた。
見れば、空色の絹の長袍を着た少年が四つん這いになっていた。
「だ、誰ですか?」
「リナリアの息子。天空神龍族の皇太子フギ・ロフ殿下とお見受けする」
「は、はい。はじめまして。エイル王子、清源妙道真君。僕は、お二人に母をお助け頂きたく参りました」
フギの名前に、エイルは「て、天空の王子!?」と自信よりも一回り近く小さな王子を見据えた。
「真君、いつの間に拉致したんですか!?」
「人聞きの悪い……久遠城の窓から抜け出す姿が見えたから安全確保しただけじゃねえか――して、フギよ。手短に話そう。リナリア王を助けて欲しいとは、空石に殺されかけている母から、秘宝を離して欲しいという意味か?」
フギは立ち上がると、こくりと頷いた。ヤンジンは「やれやれ」と、逆に近くの路石に腰かける。
「……母様にとっては、タオ老師が母のようなものでした。三龍大戦の引き金になって死んで二人は、タオ老師の娘と孫です。母とタオ老師のご息女は母の親友でした。母は、大戦が始まってから泣き暮らすタオのおばあ様があまりにも不便で地上と争い始めたのです」
「つまりタオ老師の怨恨を晴らすために、リナリア王は空石を取り込んだのか? どうしてそこまでするんだ? しかも、誰も止めようとはしない!! 可笑しいじゃないか!!」
エイルの怒りに、フギは肩を落とす。ヤンジンはエイルの尻をぺしりと叩いた。
「タオ老師は……久遠城に住まう者すべてのおばあ様です。僕もお慕いしています。でも、僕は大戦で父上を失いました。もう……戦争は嫌だ」
「タオ老師は先代和王の頃から天空神龍族の要職にある。お前の気持ちも解るが、たった一人の占術師の老婆の恨みを、国が丸ごと受け止められるものなのか? 俺にはそこがわからん」
ヤンジンの言葉に、フギは「騙されたんです!!」と声を大にして詰め寄る。
「五百年前、確かに空と地上が主張する領空域は曖昧でした!! でも、あの日、タオ家のお二人が飛んでいた場所は、地上も認めた空の領域でした。それなのに、地平龍王ジュウゼンは手下の子供を使って、『歓待』と称した贈り物があると飛んでいる二人に告げたそうです。母が止めるのも聞かず、娘は地上に近づいて――」
「領域侵犯として焼き殺された、か……」
「はい、そうです。仙界や地上にも記録は残っていません。利用された地平龍人の親子も殺されましたから。風で死んだタオ家のお二人を監視していた天空兵すら、通説がまかり通るような映像に間者が書き換えてしまった!! 怪しんだタオのおばあ様が占うまで、真実は葬られたままだったのです……!!」
「なるほど……つまり三龍大戦は全世界を欺いた手口ってか。海が防衛に徹したのは、エイシャ王だけが真実を知っていたから、か」
しかし、ジュウゼンはもういない。タオの行き場のない哀しみをリナリアは一人で背負い込み、世界はまた戦争の方角へと舵を切ろうとしている。
歯がゆいのは、もう大戦の真実の証拠に手をくわえられない点だ。ジュウゼンは王位に就いた時からこの計画を進めていたに違いない。ヤンジンも矜持に傷がついたのか、盛大な舌打ちをした。
「フギ王子、話してくれてありがとう。これは海にも持ち帰って王や姫様にも話す。明日の龍王会談が何事もなく終わるように務めるから、君は早く帰った方がいい。俺みたいな放蕩者じゃない君が消えたら、空はまた大騒ぎだろ?」
フギも納得したのか、両肩に置かれたエイルの手を握った。その力はあまりにも弱く、少しだけ震えていた。
「そうですね……やっぱり僕はまだまだ子供だ。母様が亡くなってしまったら、僕が王にならなければならない。そんな覚悟はなくても玉座に強制的に座らせられるのを、恐れているのが本音です……」
「それは俺も同じだ。明日の龍王会談で父が死んでしまったら、俺も玉座に据えられる。未熟な俺は、嫌でも父と比べられて前も後ろも解らない政に直面する。……でも、そんな自己愛よりも、父上がお亡くなりになる方が、何倍も哀しい」
真に幼い王子の不安を解ってやれるのは、同じ王子であり、「王の息子」であるエイルだった。
ヤンジンはのっそりと立ち上がると、躊躇うフギの背を押して、泉の中へと誘った。
「エイル王子、またお話ししてください」
「喜んで」
二人の王子は、そう約束を交わす。フギは泉の中に消えて行った――。
「真君、俺は海に帰りますが……真君は、どうなさるおつもりですか?」
「東方王様と西王母様に話すつもりだ。その後は、また地上に戻る。リナリアが龍王会談へ参加する旨は言質が取れた。どう行動に出るかは向こう次第ゆえ、エリン、エイシャ王とセツカ姫、それとロンにひとつ伝言を頼みたい――」
「なんでしょう?」
「『会談の場に封じの結界を張る。三龍の秘宝に、龍でない我らがどれほど対抗できるかは不明だが、埃を被った時空の秘術を用いてリナリア王をお救いしたく存ずる。肉石と桜真珠も力を秘されて望まれるべし』――これだけで伝わる。詳しくはロンにでも聞け。頼んだぞ」
いつもの余裕が感じられないヤンジンにエイルが「お伝えしますが」と、横を通り過ぎようとしたヤンジンの腕を掴んだ。
「真君、俺は星であなたの真意を読んでみせますよ。リナリア王をお救いする為に、他の誰かが犠牲になるような方法ではありませんよね? そんな戦場の最前線に行くような眼はやめてくれませんか」
エイルの真摯な眼に、ヤンジンはふと笑い、癖を知らないまっすぐな黒髪を掻き交ぜた。
「俺様を誰だと思ってやがる、クソガキ」
いつもの余裕の笑みを浮かべたヤンジンは「絶対ですよ!!」と叫ぶエイルに手を上げて答えた。
――腹が立つ。ロン以上の青二才だと思っていたのに、きちんと「王子」の眼をしやがって。
「俺様も甘く見られたもんだ――仕込みなんざ、もうとっくに済ませてんだよ」
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