異種族合法ロリ教師の恋

テルミャ

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4.96cmの恋(真)

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「いやー美味しいですね」
「そ、そうですね」

 味がしない! いや、味はするはずなんだけど、さっきの言葉に脳のリソースが持っていかれて味が入ってこない。私に魅力がある? それも女性として? そんなこと、人間はおろか同族にも言われたことがない。聞き間違いじゃない、よな。え、秋島先生ってそういう趣味なのか?
 フォークに刺したケーキを口に運びながらそんな想像を駆け巡らせる。

「そう言えば、リルア先生はどうして教師になられたんですか?」
「どうして……ですか……」
「あ、もちろん、言えたりしないなら大丈夫です!」
 どうしよう、正直に言うべきか。でもなぁ、人間に言わない方が良いって言われてるしなぁ。

「笑ったりしませんか?」
「それは……内容を聞いてみないと」

 それもそうか。

「ニルヴィア族が魔法を使えるのは、既にご存知ですよね」

 言いながらケーキを刺したフォークを宙に浮かせる。私が使える数少ない魔法。これのお陰で黒板の上の方にもチョークが届く。
 無論私に限らず、ニルヴィア族のほとんどは魔法が使える。言ってもそれほど大げさなものは使えないが。

「私達ニルヴィア族の間では、成人すると同時に長老から神託を頂くんです」
「神託?」

 あー本当にないんだ。こっちからすると信じられないけど。

「予言……みたいなもよですかね。そこでこの先どう生きれば正しいか……言い方を変えると幸せになるかが分かるんですけど」
「ほうほう」
「私は人里で教師をすると良いって言われて、それから必死で勉強して……」

 正確には、

 人の里にて教えるものと一生なるべし、さすれば汝の幸はニルヴィアを豊かにうんぬんかんぬん

 みたいな抽象的なものだった。長老様の言葉分かりづらいんだよなぁ。もう少し分かりやすいものにしてくれれば良いのに。
 とはいえ、改めて我ながら何とも流される人生だ。まぁ、ニルヴィア族は基本皆これなので、私だけ責められるのもおかしな話ではあるが。

「なるほど……」
「やっぱり、変ですよね?」

 予言に流されて生きる。人間からすれば変だろう。

 それに他のニルヴィアはほとんどが里の中で一生を過ごすというのに、何故か私は里の外に行くことを勧められた。
 まあ実際、同族に興味がないから恋愛的な意味では幸せにはなれないんだけど。

「んー、確かに変ですけどそんな笑ったりするようなものでもないですよ。それで?」
「え?」
「幸せにはなれたんですか?」

 幸せ、幸せかぁ……。

「……どうでしょう。生徒達も慕ってくれているし、教師も楽しいし、幸せなんだとは思うんですけど、一番肝心の願いが……」

 そう、一番肝心の願いが叶っていない。俗物的すぎる、私の願い。

「願い?」

 出来れば肉体がたくましくて教師という仕事に理解があって私好みの顔で、私の身体がむしろ理想的みたいなちょっと変わった性癖を持つような、そんな、

「はい……人間の彼氏が欲し………………」
「…………」
「…………」

 あほぉおおおおおおおおおおおお!
 完全に流れで言ってしまった。

 二人の間に流れる沈黙。全身の体温が上がり顔を真っ赤に染めていく。今の状態でこれを言うのはまるで告白に等しい。違うんだ、勘違いしないでくれ。いや、そりゃあなたと付き合えたらいいなあとか思ってるけど、今のは違うんだ本当に。

「私帰りますね!」

 こんなところ居てられるか! 私は家に帰る!
 代金を置いてそそくさと退散しようとする私の腕を、彼の大きな手が掴む。

「待ってください!」

 顔面真っ赤の状態で振り返ると、同じ様に彼も顔を赤らめていた。

「せめて食べ終わるまでは一緒に居ていただけませんか? この店に男一人でいるのは何とも……」

 た、確かに彼の言う通りだ。このまま私が出ていけば、彼は一人でカップル用のケーキを、カップル用のテーブル席に座りながら、カップルに囲まれて食べきらねばならない。誕生日に受ける仕打ちではないだろう。

「わ、分かりました」

 そこから先は、無言でお互いにケーキを食べ続ける、ある種地獄のような時が流れた。一口一口が遠い。幸い味覚は戻ったが、今度はこの後どうするかに悩みっぱなしだった。
 今気づいたことではあるが、私はまだ彼に何もプレゼントしていない。ここのケーキ代を出すという手もあるが、それはおそらく高垣先生のやりたかったことだろう。
 うぅ、気まずさのあまり彼の顔が見れない。今一体どういう顔をしているのだろうか。
 視線をそらしながら食べることおおよそ5分、何とか二人でケーキを平らげた。

「で、では出ますか」
「そうですね」

 お会計を済まそうと席を立つと、あの店員が今度もまた申し訳なさそうにやってきた。今度は一体何だというのか。

「あの……お写真、取らせて頂いても?」
「写真……?」
「当店ではあちらのケーキを頼んだ方にお写真をお願いしてまして……」

 彼女が指差した先を見ると、ここに来店したであろうカップル達の写真が大量にボードへと貼られている。
 え、あそこに貼られるってこと? いや絶対に無理だが。
 ここは学校からそう離れていない、生徒に見られる可能性もゼロではないのだ。教師同士がそういう関係であることは特に問題ないとは思うが、勘違いで生徒の玩具にされるのは非常に困る。

「ちなみに、ご協力いただいた方にはカップケーキサイズのシフォンケーキを2つプレゼントしております!」

 あー、そうきたか。そうなってくると話は少々変わってくる。

「どう……します?」

 秋島先生がこちらを覗き込んでくる。別にケーキが欲しいわけではない。秋島先生も同じだろう。ただ、お婆ちゃんのために諦めたあの背中を思い出すと、これだけでも食べさせてあげたい気持ちがある。

「その……、これはもちろん断ってくれていいんですけど……」
「高垣先生のために、ですよね?」

 どうやら察してくれたらしい。彼には負担をかけるが……

「じゃあお願いします」
「ありがとうございます! では、そちらの方に並んでください!」

 入口近くの少し空いたスペースに案内され、二人で並んで立つ。お互いに直立不動で、ガチガチに緊張しているのが見て分かるほどだ。

「あの……このまま撮って大丈夫ですか?」
「大丈夫です」

 流石に貼られているカップルのように、キスしたり、抱き合ったりなど出来るわけもない。大前提としてカップルですらないのだ。

「かしこまりました! じゃあ撮りますよー、3、2……」

 その瞬間、破裂音が店内に響き渡る。思わず身体がビクリとするが、どうやら何かのお祝い席でクラッカーを鳴らしたらしい、全く何てタイミングの悪い。
 だが、私の身体が跳ねると同時、秋島先生の巨大な身体が私を抱き締める……というか、何かから庇おうとしてくれていた。おそらく今の破裂音が何か分からず、私を守ろうとしてくれたのだろう。
 あまりにも近い男性の体温に、顔が沸騰してしまう。

「ありがとうございましたー!」

 え、シャッター押した? どのタイミングで?
 店員の声で我にかえった秋島先生は、何事もなかったように身体を直立に戻す。
 気にして、いないのだろうか。それもそうか、私なんて子供みたいなものだし。いかんな、今日は自意識が過剰になりがちだ。

「こちらカップケーキになります!」
「ど、どうも」
「…………」

 秋島先生が無言でカップケーキの入った袋を持ち、そのまま綺麗に180℃ターンすると、店の外に出ていった。
 追いかけて私も店を出る。店の外にはまだまだ大量の客が今か今かと自分の番を待っており、シフォンケーキの味を感じれなかったことを後悔させた。

「はぁ……」
「リルア先生!」
「は、はい!」

 ケーキ屋から離れてしばらくすると、突然秋島先生の声がかかり身体が跳ねる。

「先程は、出過ぎた真似をしてしまい申し訳ありませんでした……」

 直角に身体を折り曲げ謝る秋島先生。そんな律儀にしなくても。

「別に大丈夫ですよ。守ろうとしてくれたんでしょう?」
「ま、まあ……早とちりでしたが……」

 頭を掻きながら肯定する彼の頬はほんのり赤らんでいた。

「いえいえ、でも高垣先生とかにすると痴漢になるので気をつけて下さいね」
「リルア先生は……?」
「私は……まあ嫌じゃなかったので」

 素直な感想を述べてしまう。正直今日はドキドキしっぱなしだ。思ったよりも私はこの人にちゃんと恋をしているらしい。
 本日何度目か分からない沈黙が二人に流れる。

「そ、そう言えば店員さんには悪いことをしちゃいましたね」

 先に耐えきれなくなったのは私。自ら話を反らしてしまう。
 私の言葉に足を止めて疑問符を浮かべる秋島先生。そんな彼を無視しながら話を続ける。

「だってカップルでもないのにあんなメニュー頼んで……」
「だったら本当にしますか?」
「え?」
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