67 / 69
蝋燭小屋の密室 小林声最初の事件
第67話
しおりを挟む
「一つずつ順を追って説明致しましょう。まず、先刻説明した蝋を溶かして密室を作り上げたというトリックは全てデタラメです。貴方を油断させ、この部屋からなくなったあるものを戻しに来させる為のね。尤も、今の今まで誰がここへやって来るかまではわかりませんでしたが」
「……ところで小林、そのあるものって結局何だったんだ?」
俺は小林に質問する。
「おっと、鏑木にはまだ説明していなかったな。それを説明するには、まずこの蝋燭小屋の本当の密室トリックを説明する必要がある」
「…………」
小林が俺に真相を黙っていたのは、恐らく犯人の目の前で密室トリックの解明をしたかったからだろう。
もはや探偵というよりただのサディストだ。
「この小屋の唯一の出入り口である引き戸の鍵は、内側からしか鍵を掛けることができない打掛錠でした。それも上から錠を錠受けに下ろすことで施錠するタイプのものです。犯人が密室を作るには、この打掛錠を攻略しなければならなかった」
「攻略するも何も、鍵は内側からしか掛けられないんだろう? だったら犯人は密室から出られないじゃないか」
「あのな鏑木、それを何とかするから密室トリックなんだろうが。いいか、ここでのポイントは錠を空中に固定したまま小屋を出ることができれば密室が出来上がるということだ。そしてその為に犯人が利用したのは火と風の力だ」
「火と風?」
「犯人は錠に糸を括り付け、凧を揚げたのだ」
小林は決め顔でそう言った。
「……凧? ってあの正月に揚げるあの凧のことか?」
「そう。その凧であっている」
それだけではさっぱり意味がわからない。
「凧を揚げるったって、大体あれは外でやるものだろう? 風のない室内でやれるようなものじゃ……」
そこで俺は気がつく。
「そうか、エアコンか!!」
「ご名答。犯人はエアコンを送風MAXにして小型の凧を揚げた。凧が揚がる揚力で、錠は空中に浮いたまま錠受けに落ちることはない」
「じゃあ、引き戸の前に落ちていた燃えカスは……?」
「床に用意した蝋燭の火によって燃えた凧の残骸だろう。紙や糸に油を染みこませて燃えやすいよう細工したようだが、完全に痕跡を消すことは難しかったようだな」
小林の冷たい視線が油汗に塗れた日浦亙を貫く。
「……くッ、それが何だって言うんだ!? 確かにそれで密室は破れるかもしれない。だが、今お前が説明したトリックはやろうと思えば誰にでもできた筈だ!! たとえば、そこにいる雨宮《あまみや》にも!!」
「ええ、全くその通りです。折角密室の謎が解けたというのに犯人が誰だかわからないのでは名探偵の名折れです。だから今回は苦肉の策としてこのような罠を仕掛けさせて戴きました」
「……何が苦肉の策だ。ノリノリで楽しんでた癖に」
「何か言ったか鏑木?」
「いや、何も」
「……オッホン、ご所望とあらば決定的な証拠を示しましょう。それはこの部屋からなくなり、今貴方がその手に握っているもの。そう、エアコンのリモコンです!」
「うッ!?」
小林に指摘されたことで、亙は驚いて握っていたリモコンを床に落としてしまう。
「凧揚げのトリックで密室を脱出した貴方は、リモコンを持って小屋の窓がある位置まで移動、開けておいたカーテンの隙間からエアコンの送風を解除した」
なるほど。窓のカーテンに隙間ができていたのは、窓の外からリモコンの赤外線をエアコンに向けて飛ばす為だったのだ。
殺害現場にあったエアコンは骨董品レベルの古さだった。IoTなどという洒落た機能は当然付いていない。
「……でもどうして亙さんが殺害現場からエアコンのリモコンを持ち出す必要があったんだ? 送風を止めたいなら、タイマー機能を使えばいいじゃないか。この部屋のエアコンがいかに古くても、流石にタイマー機能が付いてないなんてことはないだろう?」
「……鏑木、お前探偵にはてんで向いてないが、ワトソンとしては中々に見所があるな」
「ほっとけ」
「確かに鏑木が言うことは正しい。だが犯罪者の視点で見れば、それは必ずしも正解とは言えない」
「……どういうことだよ?」
「お前が考えることくらい、犯人が考えないわけがないということだ。タイマー機能のことは当然亙さんの頭にもあった筈だ。それでも亙さんは直接自分で電源を切ることを選んだ。それは、折角作り上げた密室が完成する前に破壊されることを恐れるあまりの行動だった」
「恐れる?」
「切タイマーをかけるには古い型のこのエアコンでは、最低1時間は送風を続けなければならない。その間にもしも雨宮さんが遥さんを訪ねでもしたら、折角の仕掛けは台無しになる。自殺の偽装工作も全ておじゃんだ」
「……それだけじゃないさ」
項垂れた亙が諦めたように低く笑って言う。
「自分の手で作り上げた密室だ。鍵がちゃんと掛かっているか、自分で確認したくなるのが人情だろう? 私にはそれをする為に1時間待つということがどうしてもできなかった。待てなかったんだよ」
「ご同行願えますね?」
桶狭間警部が日浦亙をパトカーに連行する。
「それはそうと、どうしてエアコンのリモコンって古くなると黄色くなるんでしょう?」
「…………」
名探偵の問いに答える者は誰もいない。
「……ところで小林、そのあるものって結局何だったんだ?」
俺は小林に質問する。
「おっと、鏑木にはまだ説明していなかったな。それを説明するには、まずこの蝋燭小屋の本当の密室トリックを説明する必要がある」
「…………」
小林が俺に真相を黙っていたのは、恐らく犯人の目の前で密室トリックの解明をしたかったからだろう。
もはや探偵というよりただのサディストだ。
「この小屋の唯一の出入り口である引き戸の鍵は、内側からしか鍵を掛けることができない打掛錠でした。それも上から錠を錠受けに下ろすことで施錠するタイプのものです。犯人が密室を作るには、この打掛錠を攻略しなければならなかった」
「攻略するも何も、鍵は内側からしか掛けられないんだろう? だったら犯人は密室から出られないじゃないか」
「あのな鏑木、それを何とかするから密室トリックなんだろうが。いいか、ここでのポイントは錠を空中に固定したまま小屋を出ることができれば密室が出来上がるということだ。そしてその為に犯人が利用したのは火と風の力だ」
「火と風?」
「犯人は錠に糸を括り付け、凧を揚げたのだ」
小林は決め顔でそう言った。
「……凧? ってあの正月に揚げるあの凧のことか?」
「そう。その凧であっている」
それだけではさっぱり意味がわからない。
「凧を揚げるったって、大体あれは外でやるものだろう? 風のない室内でやれるようなものじゃ……」
そこで俺は気がつく。
「そうか、エアコンか!!」
「ご名答。犯人はエアコンを送風MAXにして小型の凧を揚げた。凧が揚がる揚力で、錠は空中に浮いたまま錠受けに落ちることはない」
「じゃあ、引き戸の前に落ちていた燃えカスは……?」
「床に用意した蝋燭の火によって燃えた凧の残骸だろう。紙や糸に油を染みこませて燃えやすいよう細工したようだが、完全に痕跡を消すことは難しかったようだな」
小林の冷たい視線が油汗に塗れた日浦亙を貫く。
「……くッ、それが何だって言うんだ!? 確かにそれで密室は破れるかもしれない。だが、今お前が説明したトリックはやろうと思えば誰にでもできた筈だ!! たとえば、そこにいる雨宮《あまみや》にも!!」
「ええ、全くその通りです。折角密室の謎が解けたというのに犯人が誰だかわからないのでは名探偵の名折れです。だから今回は苦肉の策としてこのような罠を仕掛けさせて戴きました」
「……何が苦肉の策だ。ノリノリで楽しんでた癖に」
「何か言ったか鏑木?」
「いや、何も」
「……オッホン、ご所望とあらば決定的な証拠を示しましょう。それはこの部屋からなくなり、今貴方がその手に握っているもの。そう、エアコンのリモコンです!」
「うッ!?」
小林に指摘されたことで、亙は驚いて握っていたリモコンを床に落としてしまう。
「凧揚げのトリックで密室を脱出した貴方は、リモコンを持って小屋の窓がある位置まで移動、開けておいたカーテンの隙間からエアコンの送風を解除した」
なるほど。窓のカーテンに隙間ができていたのは、窓の外からリモコンの赤外線をエアコンに向けて飛ばす為だったのだ。
殺害現場にあったエアコンは骨董品レベルの古さだった。IoTなどという洒落た機能は当然付いていない。
「……でもどうして亙さんが殺害現場からエアコンのリモコンを持ち出す必要があったんだ? 送風を止めたいなら、タイマー機能を使えばいいじゃないか。この部屋のエアコンがいかに古くても、流石にタイマー機能が付いてないなんてことはないだろう?」
「……鏑木、お前探偵にはてんで向いてないが、ワトソンとしては中々に見所があるな」
「ほっとけ」
「確かに鏑木が言うことは正しい。だが犯罪者の視点で見れば、それは必ずしも正解とは言えない」
「……どういうことだよ?」
「お前が考えることくらい、犯人が考えないわけがないということだ。タイマー機能のことは当然亙さんの頭にもあった筈だ。それでも亙さんは直接自分で電源を切ることを選んだ。それは、折角作り上げた密室が完成する前に破壊されることを恐れるあまりの行動だった」
「恐れる?」
「切タイマーをかけるには古い型のこのエアコンでは、最低1時間は送風を続けなければならない。その間にもしも雨宮さんが遥さんを訪ねでもしたら、折角の仕掛けは台無しになる。自殺の偽装工作も全ておじゃんだ」
「……それだけじゃないさ」
項垂れた亙が諦めたように低く笑って言う。
「自分の手で作り上げた密室だ。鍵がちゃんと掛かっているか、自分で確認したくなるのが人情だろう? 私にはそれをする為に1時間待つということがどうしてもできなかった。待てなかったんだよ」
「ご同行願えますね?」
桶狭間警部が日浦亙をパトカーに連行する。
「それはそうと、どうしてエアコンのリモコンって古くなると黄色くなるんでしょう?」
「…………」
名探偵の問いに答える者は誰もいない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる