学園ギャンブル

暗闇坂九死郞

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下克上回り将棋

第2話 

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 キノコ頭が路地裏で学ラン三人組から金品を巻き上げた上、姿を撮影し終えるのを待って、わたしたちは揃って学校に向かうことにした。

「僕なんかを待っていて良かったんですか? 今からじゃ確実に遅刻ですよ、えーと……」

吉高よしたか菜々子ななこ。それより君のことを教えてよ、キノコ君」

「……その呼び方はやめてください。僕は花屋はなや友成ともなりといいます。ちょうど僕もあなたのことが気になっていたところです」

「それってまさか口説いてるつもり?」

「どうして吉高さんは僕を警察に突き出すのをやめたのですか?」

 花屋はわたしの軽口を無視して、真顔でそう尋ねる。

「うーん。理由はいくつかあるけど、花屋君があまり悪そうな奴じゃないって思ったのが一番かな。わたしが警察を呼ぶことをチラつかせても、君はわたしに暴力を振るおうとはしなかった。君は女の子に対しては紳士的な態度で接する人間なんだと思ったんだ」

「それは買いかぶりです。僕は暴力で他人から金を奪うような卑劣な人間ですよ」

「理由その2は例の学ラン三人組に同情の余地がなかったこと。三人がかりで一人に襲いかかっておいて、それで返り討ちにあったとしても、それは自業自得というか身から出た錆でしょ。というか、あいつらが君にこてんぱんにされて内心スカッとしたんだと思う。そして理由その3は君の力を見込んで、手伝ってほしいことがあるから」

「さっきもそんなことを言っていましたね。ですが、もし僕があなたの頼みを断ったらどうします?」

「君はきっと断らないよ」

 わたしがそう言うと、花屋は不思議そうにわたしの顔を見ていた。

「今度は君のことを聞かせて。花屋君はどうしてあんなことをしてたの?」

「特に理由はありません。あそこでカツアゲをしていた連中と同じで、遊ぶ金欲しさの短絡的な犯行ですよ」

「はい、ダウト。ただお金が欲しいだけならあんな危険なことをしなくても、普通にアルバイトでもすればいいじゃない」

 花屋は表情を変えずにポリポリと頬を掻く。

「……そうですね。言うなれば自分の力を試していた、といったところでしょうか」

「力を試す?」

「自分の読みがどれくらい正確なのか。知恵で相手を上回ることができるのかどうか。そういうことを諸々試したかったのだと思います」

「……よくわからないけれど、あんなこと続けてたら命が幾つあっても足りないと思うんだけど。もしかして君、破滅願望でもあるんじゃない?」

「あるいはそうなのかもしれません」

 花屋は冗談とも本気とも付かない口振りでそう言った。

「それはそうと、もったいぶらずにそろそろそちらの狙いを教えてくださいよ。吉高さんは僕に何をさせたいのです?」

 わたしはひとつ咳払いをして、本題に入ることにした。

「今日の放課後、君にはわたしと一緒に将棋部の体験入部に参加してほしいの」

「将棋部?」

「そこで、とあるギャンブルが行われているらしいんだ」

「ちょっと待ってください。確かに僕はヒリヒリするようなギャンブルが好物ではありますが、将棋はそこまで強くありませんよ」

「安心して。将棋部で行われているギャンブルとはいっても、賭け将棋のことではないみたいだから。体験入部に参加する生徒の中には、ろくに将棋のルールを知らない人も当然いるだろうしね。実はそのギャンブルでわたしの友達が大負けしたみたいなの」

「まさかとは思いますが、そこで負けた金を取り返して来て欲しいとでも頼まれたわけではありませんよね?」

 わたしは図星を突かれて思わず言葉に詰まった。

「……ほ、ほら、わたしクラス委員長だから、皆に頼りにされているというか、何というか」

「頼りにされているというより、僕には体よく利用されているだけのように見えますがね。あなたの友人がいくら負けたのかは知りませんが、そもそもそんなこと同じクラスメイトに相談するようなことではないでしょう。教師か、場合によっては警察に相談すべきです」

「……そ、それはその、そうできない事情があって」

「どんな事情です?」

「……相談に来たその子、家が結構厳しいみたいでさ」

「要するに、親には自分が賭け事で大金を失ったことを知られたくない、といったところですか」

 花屋は呆れたように溜息をつく。

「何かを取り戻す為に更にギャンブルをするというのは正直あまり感心しませんが、まァいいでしょう。それで、ゲームの内容は?」

「詳しくはわからないんだけど、回り将棋っていう遊びなんだって」

「……回り将棋ですか。なるほど」

 花屋は顎に手を当てて、何やら考え込んでいる様子だ。

「吉高さん、悪いことは言いません。あなたはこの件から手を引くべきです。それから相談に来たその友人とやらとは早々に縁を切った方がいい」

「……え? それじゃあ花屋君は?」

「僕ですか? そりゃまァ、僕は行きますけど」

 花屋はそれが当然であるかのようにそう言った。

「いやいや、わたしが言い出しっぺなのに花屋君にだけ行かせて、わたしが何もしないというわけにはいかないでしょ」

「そうですか。それなら仕方ありませんね。僕がどれだけ力になれるかはわかりませんが、あなたが勝てるよう精いっぱいサポートさせていただきます。その代わり、僕の指示には必ず従ってもらいますよ。いいですね?」
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