学園ギャンブル

暗闇坂九死郞

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下克上回り将棋

第4話

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 ――将棋部の部室内。

 雉野きじの犬飼いぬかい鬼塚おにづか、わたしの四人が机の上の将棋盤を取り囲むようにして座っている。

「それでは各人、『歩』を盤の隅に配置してゲームスタートだ。駒は出目によって反時計回りに進めていく。それでは鬼塚君から始めてくれ」

 雉野から四枚の金将を渡され、鬼塚は将棋盤の上に振った。出目は3。まずまず順調な滑り出しといえそうだ。

 二番手のわたしが駒を振る。出目は1。こちらはかなり微妙な滑り出し。

猿渡さわたり、悪いんだが一階の自販機で缶コーヒーを買ってきてくれないかな?」

 雉野が二年の猿渡に言う。

「……えー。またすか部長。カフェインの摂りすぎで夜眠れなくなっても知りませんからね」

 猿渡は毬栗いがぐり頭を掻きながら、不承不承といった様子で部室を出て行った。

 序盤は特に何事も起こらず、各々が手堅く『歩』を進めていき、続々と『香』に出世を果たしていく。

 そんな中、事件が起きたのは十五巡目と十六巡目。雉野が二連続で『裏駒』を出したのだ。これで雉野は一気に40マス進むこととなった。

「悪いね。一足早く『桂』に昇格させてもらうよ」

 雉野が缶コーヒーを片手にニヤリと笑う。

「……ちッ」

 七三眼鏡の犬飼がつまらなそうに四枚の金を手の中で弄んでいた。

「…………」

 ――まずい。
 まだ『香』になったばかりのわたしとしては、早めにこの差を縮めておきたいところである。

 わたしの番になって駒を振る。出目は3。雉野の『桂』と同じマスに止まった。

「雉野さんに決闘を申し込みます!!」

「……いいだろう。受けて立つよ」

 この決闘に勝てば、わたしは『桂』に昇格し、雉野は『香』に降格する。
 一気に形勢逆転。下克上が果たされるというわけだ。

 まずはわたしが先に駒を振る。
 横の『立ち駒』とオモテ面が二つ出たことで出目は7。

「おっしゃ、これで雉野さんは降格だ!!」
 鬼塚が何故か我がことのように喜んだ。

「……それはどうかな?」

 続いて雉野が出したのは、なんとまたしても全てウラ面の『裏駒』。7対20で、決闘は雉野に軍配ぐんばいが上がる。

「……三連続で『裏駒』だと!? 幾ら何でもそれはおかしいだろ!!」

 流石にこれには鬼塚も不自然さを感じ取ったようだ。雉野に顔を近づけて至近距離でメンチを切る。

「……ふん、言い掛かりをつけるのはよしてもらいたいな、鬼塚君。何なら四枚の金を調べてみるかい?」

「当然だッ!!」

 鬼塚が盤上の四枚の駒を一枚ずつ拾い集めて、マジマジと眺めている。

「…………」

 わたしも隣で覗き込んで確認するが、駒には特に異常はないように見える。雉野の手元をじっと見ていたので、どこかで駒をすり替えたわけでもなさそうだった。

 しかし、だからといって雉野が何もしていないとは思えない。何らかのイカサマをしていることは間違いなかった。

 ――雉野はどうやって意図的に『裏駒』を出しているのか?

「どうした、吉高よしたかさん? 君の番だよ。早く駒を振ったらどうだい?」

「…………」

 ……マズイマズイ。絶対にマズイ。

 下克上に失敗したことでわたしは『歩』に降格、雉野は『銀』に昇格した。
 もしこのまま雉野に上がられてしまったら、わたしは負けた代償として4000円を支払わなければならない。

 アルバイトをしていないわたしにとって、4000円は決して安い金額ではない。何としても雉野の上がりを阻止しなければならない。

 ――そのとき。

「申し訳ありません、吉高さん。遅くなりました」

「……花屋はなや君ッ!!」

 本来、わたしと共にゲームに参加する予定だった花屋友成ともなりが救世主のごとく現れる。

 不良の学ラン三人組の心理を見抜いて、見事返り討ちにした花屋の洞察力なら、雉野の『裏駒』を出すイカサマを見抜くことができるかもしれない。

 しかし、勝敗は既に決していると言っても過言ではない状況だ。
 雉野があと一度でも『裏駒』を出せば、勝負はついてしまう。

「将棋部の皆様、初めまして。僕は一年の花屋と申します。雉野先輩、次の吉高さんのターンから僕が代打ちしても構いませんか?」

「……まァいいでしょう。この土壇場から逆転できるものなら、ぜひとも見てみたいものだね」

 雉野は余裕の表情だ。

「ありがとうございます。というわけで吉高さん、今から一階の自販機でを買ってきてもらえませんか?」

「……え? 今から?」

「大至急お願いします」

「…………」

 代打ちを引き受けてくれた花屋から頼まれては、わたしとしては断れない。
 本当なら雉野のイカサマを相手に花屋がいかにして対応するのか見たいところなのだが……。

「心配いりませんよ、吉高さん。雉野先輩が意図的に『裏駒』を出すことは多分もうできませんから」

「……え? それはどういう意味?」

「それはを買って戻ってきた後で説明します。では、ここらで反撃開始と参りましょうか」
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