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マインドシーカー
第9話
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「ねェ、吉高ァ、お願い。松戸から取られたゲーム機を取り返して欲しいの」
昼休み、隣のクラスの彩名芽衣から、そう相談されたわたしは、正直気が重かった。
……ちなみに芽衣は金髪のショートボブに着崩した制服姿の、所謂ギャルである。
四月に将棋部との対決に勝利し、クラスメイトがイカサマギャンブルで奪われたお金を取り戻してきて以来、わたしは校内でも一目置かれる存在になっていた。
実際に将棋部にイカサマ合戦で競り勝ったのはわたしではなく花屋友成なのだが、噂に尾ひれがついた結果、どういうわけか全てわたしの手柄ということになってしまっていたのだ。
その所為で自分のクラスの中だけでなく、隣のクラスからまで相談が来るようになる始末。
元々人に頼られること自体は嫌いではなかったが、誤解によって自分の株がぐんぐん上がっていくのは何とも居心地が悪いものである。
「こんなこと頼めるの、吉高だけなんだよねー」
松戸は一年生を担当する数学教師である。
芽衣が教室で携帯ゲーム機で遊んでいるところを運悪く松戸に見つかってしまい、没収されたという経緯のようだった。
「……でも、没収されたものを取り返すって一体どうやって?」
「松戸から没収されたものを取り返すには、一つだけ方法があるの。それは松戸との勝負に勝つこと」
「……勝負?」
「松戸との勝負は毎回決まっててさ、まず最初に裏返した四枚のトランプの中から一枚を引かされるの。松戸に見られないようにカードを確認したら、そのカードを四枚のカードの中に戻して、充分切ってから返す。松戸が四枚の中から生徒が引いたカードを当てることができれば、松戸の勝ち。逆に生徒が引いたカードを当てられなければ、生徒の勝ちってわけ」
「…………」
つまり、単純計算で生徒が勝つ確率は4分の3。ギャンブルとしては、かなり勝率が高い勝負のように思える。
「あ、吉高、今、楽勝じゃんって思ったっしょ? ところが不思議なことに、松戸はこの勝負で過去に一度も負けたことがないんだって」
「……一度もって、松戸先生はそんなに何回もこの勝負をやっているの?」
「詳しくは知らないけど、三年の先輩の話によると10回以上やって負けたところを見たことがないって」
「…………」
その話が本当なら松戸は何らかのトリックを使って、生徒が選んだカードを知ることができるということだ。
――つまり、イカサマをしているということになる。
「で、その勝負に負けるとどんなペナルティがあるの?」
「通常、没収されたものは一週間後に返却されるんだけど、松戸との勝負に負けるとそれが更に一週間伸びることになるの」
「……一週間で返してくれるのなら、素直にそれを待った方がいいのでは?」
わたしは何とか断りたくて、芽衣にそう言ってみる。
「いいわけないじゃんッ!! ウチが『大魔王クエスト』の新作をどれだけ楽しみに待っていたと思ってんの? 絶対最速でクリアしてやろうと思って、授業中もレベル上げに励んでたっていうのに、よりによって松戸に見つかるとかマジ最悪!! お願い、吉高。力を貸して!!」
「……うーん」
芽衣の話を聞く限り、松戸がゲームでイカサマをしていることは確定しているといっていいだろう。それなら、『下克上回り将棋』で見事に雉野のイカサマを見抜いた花屋であれば、松戸を攻略することも不可能ではないように思える。
ただ問題は、花屋がこの勝負を引き受けてくれるかどうかである。
これまでに花屋がやってきた勝負は、何れも金銭が絡んだものだった。今回の勝負では勝っても負けても、所持金が変動するわけではない。
……とは言え、勝負事に関して花屋以外に他に頼れる当てもない。わたしは結局、芽衣を花屋に引き合わせてみることにした。
――1年C組の教室にて。
「いいですよ。力をお貸ししましょう」
花屋はこっちが拍子抜けするほどあっさりとわたしたちの依頼を引き受けてくれた。
だがしかし、逆に難色を示してきたのは芽衣の方だった。
「……ちょっと吉高、コイツ誰よ? 本当にこんな奴で大丈夫なわけ?」
「大丈夫も何も、将棋部との勝負に勝ったのは実はわたしじゃなくて、この花屋君なんだから。勝負事に関しては、わたしに頼むより100倍心強いよ」
「……ホントかなァー? こんなパッとしない見た目の奴がァー?」
将棋部から取られた金を取り返してきた件が、全てわたしの手柄になった理由。
それは、わたしが花屋のことを話しても誰も信じなかったからだ。というか、殆どの生徒が花屋の存在そのものを知らなかった。
……どんだけ存在感がないんだよ。
「いや、それが結構頼りになるんだって。こう見えて花屋君は絡んできた他校の不良三人組を、逆にボコボコにするくらい強いし」
「それが信じられないっつってんのッ!!」
「いいでしょう。彩名さんが僕のことをいまひとつ信用できない気持ちはよくわかります。でしたら、今この場で僕と勝負してみるというのはどうでしょう?」
花屋はそこでニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「……勝負?」
「放課後、松戸先生とギャンブルで戦うつもりなんですよね? だったらその予行練習のつもりで一勝負。どうです、彩名さん?」
昼休み、隣のクラスの彩名芽衣から、そう相談されたわたしは、正直気が重かった。
……ちなみに芽衣は金髪のショートボブに着崩した制服姿の、所謂ギャルである。
四月に将棋部との対決に勝利し、クラスメイトがイカサマギャンブルで奪われたお金を取り戻してきて以来、わたしは校内でも一目置かれる存在になっていた。
実際に将棋部にイカサマ合戦で競り勝ったのはわたしではなく花屋友成なのだが、噂に尾ひれがついた結果、どういうわけか全てわたしの手柄ということになってしまっていたのだ。
その所為で自分のクラスの中だけでなく、隣のクラスからまで相談が来るようになる始末。
元々人に頼られること自体は嫌いではなかったが、誤解によって自分の株がぐんぐん上がっていくのは何とも居心地が悪いものである。
「こんなこと頼めるの、吉高だけなんだよねー」
松戸は一年生を担当する数学教師である。
芽衣が教室で携帯ゲーム機で遊んでいるところを運悪く松戸に見つかってしまい、没収されたという経緯のようだった。
「……でも、没収されたものを取り返すって一体どうやって?」
「松戸から没収されたものを取り返すには、一つだけ方法があるの。それは松戸との勝負に勝つこと」
「……勝負?」
「松戸との勝負は毎回決まっててさ、まず最初に裏返した四枚のトランプの中から一枚を引かされるの。松戸に見られないようにカードを確認したら、そのカードを四枚のカードの中に戻して、充分切ってから返す。松戸が四枚の中から生徒が引いたカードを当てることができれば、松戸の勝ち。逆に生徒が引いたカードを当てられなければ、生徒の勝ちってわけ」
「…………」
つまり、単純計算で生徒が勝つ確率は4分の3。ギャンブルとしては、かなり勝率が高い勝負のように思える。
「あ、吉高、今、楽勝じゃんって思ったっしょ? ところが不思議なことに、松戸はこの勝負で過去に一度も負けたことがないんだって」
「……一度もって、松戸先生はそんなに何回もこの勝負をやっているの?」
「詳しくは知らないけど、三年の先輩の話によると10回以上やって負けたところを見たことがないって」
「…………」
その話が本当なら松戸は何らかのトリックを使って、生徒が選んだカードを知ることができるということだ。
――つまり、イカサマをしているということになる。
「で、その勝負に負けるとどんなペナルティがあるの?」
「通常、没収されたものは一週間後に返却されるんだけど、松戸との勝負に負けるとそれが更に一週間伸びることになるの」
「……一週間で返してくれるのなら、素直にそれを待った方がいいのでは?」
わたしは何とか断りたくて、芽衣にそう言ってみる。
「いいわけないじゃんッ!! ウチが『大魔王クエスト』の新作をどれだけ楽しみに待っていたと思ってんの? 絶対最速でクリアしてやろうと思って、授業中もレベル上げに励んでたっていうのに、よりによって松戸に見つかるとかマジ最悪!! お願い、吉高。力を貸して!!」
「……うーん」
芽衣の話を聞く限り、松戸がゲームでイカサマをしていることは確定しているといっていいだろう。それなら、『下克上回り将棋』で見事に雉野のイカサマを見抜いた花屋であれば、松戸を攻略することも不可能ではないように思える。
ただ問題は、花屋がこの勝負を引き受けてくれるかどうかである。
これまでに花屋がやってきた勝負は、何れも金銭が絡んだものだった。今回の勝負では勝っても負けても、所持金が変動するわけではない。
……とは言え、勝負事に関して花屋以外に他に頼れる当てもない。わたしは結局、芽衣を花屋に引き合わせてみることにした。
――1年C組の教室にて。
「いいですよ。力をお貸ししましょう」
花屋はこっちが拍子抜けするほどあっさりとわたしたちの依頼を引き受けてくれた。
だがしかし、逆に難色を示してきたのは芽衣の方だった。
「……ちょっと吉高、コイツ誰よ? 本当にこんな奴で大丈夫なわけ?」
「大丈夫も何も、将棋部との勝負に勝ったのは実はわたしじゃなくて、この花屋君なんだから。勝負事に関しては、わたしに頼むより100倍心強いよ」
「……ホントかなァー? こんなパッとしない見た目の奴がァー?」
将棋部から取られた金を取り返してきた件が、全てわたしの手柄になった理由。
それは、わたしが花屋のことを話しても誰も信じなかったからだ。というか、殆どの生徒が花屋の存在そのものを知らなかった。
……どんだけ存在感がないんだよ。
「いや、それが結構頼りになるんだって。こう見えて花屋君は絡んできた他校の不良三人組を、逆にボコボコにするくらい強いし」
「それが信じられないっつってんのッ!!」
「いいでしょう。彩名さんが僕のことをいまひとつ信用できない気持ちはよくわかります。でしたら、今この場で僕と勝負してみるというのはどうでしょう?」
花屋はそこでニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「……勝負?」
「放課後、松戸先生とギャンブルで戦うつもりなんですよね? だったらその予行練習のつもりで一勝負。どうです、彩名さん?」
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