【完結】残酷館殺人事件 完全なる推理

暗闇坂九死郞

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名探偵への挑戦状

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 本格ミステリとは、探偵と犯人、あるいは読者と筆者の知恵の攻防である。

 探偵(読者)は事件の謎を解き、犯人を特定すれば勝利。一方、犯人(筆者)は犯行を探偵(読者)に見破らせなければ勝利である。

 ただ、ここに一つ大きな問題がある。

 ――それは探偵と犯人の勝利条件の差だ。

 物語の展開上、多くの場合、最終的に戦いを制するのは探偵となる。

 しかし本格ミステリに登場するどの名探偵の推理も、一見尤もらしく見えはするものの、よく見れば穴の開いた出来損ないのロジックでしかない。仮に事件を解決出来たとしても、それは単に幸運に恵まれただけだ。
 何故なら、探偵には事件解決に必要な情報を全て揃えているか否かを知る術がないからだ。もしも探偵が所有する情報が事件解決に不十分であった場合、当然その推理は見当違いなものになるだろう。

 そして、探偵の推理には常にその可能性が付き纏うのだ。
 言い換えるなら、探偵自身には自分の推理が正しいか否かの判断が出来ないということだ。

 何々、きちんと証拠を見つけていれば推理の正しさを証明出来る?

 ならば、その証拠が真犯人の用意した偽の証拠でないと言い切れる根拠は?

 何々、犯人が自白した場合は探偵の推理の正しさは保証される?

 ならば、その自白が真犯人を庇う為の嘘ではないと言い切れる根拠は?

 ――所謂いわゆる、後期クイーン的問題である。

 この問題を解決しない限り、如何に美しいロジックであったとしても、探偵の推理は幾重もある事件の真相の表層を言い当てたに過ぎない。
 果たして、それで本当に探偵の勝利といえるのだろうか?
 探偵とは本当に称賛され、祝福されるべき存在なのだろうか?

 ――答えは否。
 犯人が完全犯罪を目指すように、探偵もまた完全な推理を目指すべきだろう、と筆者は考えるのである。

 それが出来なくて何が名探偵か。
 何が「本格」か。

 読者と筆者の対決については、特に思うところはない。読者は精緻な洞察と推理であろうと、ヤマ勘や第六感であろうと、メイントリックと犯人を当てればそれで筆者は敗北を認めないわけにはいかない(但し、読者は負けた場合の方が作品をより楽しめるというジレンマはあるが)。

 だが、もしも。
 もしもあなたに一読者としてではなく、名探偵として本作の事件に挑む気概があるのなら、どうすれば必ず正しい真相に辿り着けるかを考えてみて欲しい。
 そして、その答え合わせは本書の結末で。

 それでは、名探偵諸君の健闘を心から祈っている。
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