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第六章 正体
勝者と敗者
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思いもよらない展開だった。
城ケ崎の推理は完璧だった。残酷館で起きた一連の殺人事件の犯人は、綿貫リエ以外には考えられない。
そしてその恐るべき殺人トリックも、城ケ崎の手によって白日の下に晒された。
探偵と犯人。
二人の雌雄は決したかに思われた。
しかし、綿貫は依然涼しい顔をしている。
「馬鹿な、オレの推理は完全なものだ。犯人は絶対にお前だ。お前にそれを覆すことなどできるわけがない!」
すると、綿貫は可笑しそうに笑いだす。
「あら、あたしが犯人じゃないだなんて一言も言ってないじゃない」
「じゃあ何か、トリックが違うのか? 烏丸、不破、鮫島を殺した方法がそれぞれ別の方法で……」
「いいえ、殺害方法は全て同じよ。三人とも残酷館を下降させることで、首を切断して殺したわ。そうでなければ、回答するタイミングによって正解がコロコロ変わってしまうでしょう? それじゃあ本当の意味でのフェアプレイとは言えない」
「……だったら、何が違う?」
城ケ崎はナイフを構えたまま、綿貫ににじり寄る。
その顔は、今にも綿貫に向かって飛び掛かっていきそうな形相だ。
「推理小説に登場する名探偵には、自分が推理した結論が正解であるか否かを判断する術がない。何故なら、名探偵自身には保有しているデータが推理に必要な全てのデータであるかどうかが分からないから。
所謂、後期クイーン的問題ね。この命題に対して貴方が導き出した答えは、犯人の用意した罠に容疑者全員をかけて、一人だけ生き残った者がいた場合、消去法によってその者が犯人であることが判明するというものだった。予め犯人は一人であるという情報を与えていたとはいえ、大したものだわ。そして事実、犯人を突き止めることに成功したのだから」
「…………」
やはり城ケ崎の推理に穴はない。
犯人は綿貫で正しかったのだ。
だが勿論、わたしは彼のやり方を肯定するつもりはない。城ケ崎がやったことは、人として恥ずべき卑劣な行為だ。
手掛かりを得る為に起こることが分かっていた殺人を見過ごし、あまつさえ死ぬ必要のなかった人間まで死なせたのだから。
この行為が人道に悖ることは言うまでもない。
だがしかし、城ケ崎の出した答えが間違っているかどうかはまだ別の話だ。
城ケ崎は見事に綿貫を追い詰め、綿貫は事実上の敗北を宣言した。
なのに、今わたしの目の前に広がる光景はどうだ?
勝利を収めた筈の城ケ崎が歯茎をむき出しにして怒りを露わにしているのに対し、負けを認めた筈の綿貫は終始涼しい顔をしている。
「おっと、まだ攻撃してきちゃ嫌よ。別に貴方になら殺されても構わないけど、それはあたしの話を最後まで聞いてからにして欲しいわね」
「死にたくなければ無駄口を叩くのをやめるんだな」
城ケ崎が凄む。
「分かったわ」
綿貫は気怠そうに、長い髪をかき上げた。
仕草の一つ一つから余裕が感じられる。
「貴方の敗因は、ずばり貴方に神の視点がなかったことよ。もしもこの世界が三人称の小説だったなら、貴方の勝ちは決して揺るがなかったでしょうね。でもあたしたちの世界は、それぞれの視点からでしか物事を見ることが出来ない。貴方はこの世界に於いて、無知で無力な存在であるということを失念していたのよ」
「何を……」
「ここまで言えばもうお分かりかしら? あたしは本当は綿貫リエではない。支倉貴人なのよ」
城ケ崎の推理は完璧だった。残酷館で起きた一連の殺人事件の犯人は、綿貫リエ以外には考えられない。
そしてその恐るべき殺人トリックも、城ケ崎の手によって白日の下に晒された。
探偵と犯人。
二人の雌雄は決したかに思われた。
しかし、綿貫は依然涼しい顔をしている。
「馬鹿な、オレの推理は完全なものだ。犯人は絶対にお前だ。お前にそれを覆すことなどできるわけがない!」
すると、綿貫は可笑しそうに笑いだす。
「あら、あたしが犯人じゃないだなんて一言も言ってないじゃない」
「じゃあ何か、トリックが違うのか? 烏丸、不破、鮫島を殺した方法がそれぞれ別の方法で……」
「いいえ、殺害方法は全て同じよ。三人とも残酷館を下降させることで、首を切断して殺したわ。そうでなければ、回答するタイミングによって正解がコロコロ変わってしまうでしょう? それじゃあ本当の意味でのフェアプレイとは言えない」
「……だったら、何が違う?」
城ケ崎はナイフを構えたまま、綿貫ににじり寄る。
その顔は、今にも綿貫に向かって飛び掛かっていきそうな形相だ。
「推理小説に登場する名探偵には、自分が推理した結論が正解であるか否かを判断する術がない。何故なら、名探偵自身には保有しているデータが推理に必要な全てのデータであるかどうかが分からないから。
所謂、後期クイーン的問題ね。この命題に対して貴方が導き出した答えは、犯人の用意した罠に容疑者全員をかけて、一人だけ生き残った者がいた場合、消去法によってその者が犯人であることが判明するというものだった。予め犯人は一人であるという情報を与えていたとはいえ、大したものだわ。そして事実、犯人を突き止めることに成功したのだから」
「…………」
やはり城ケ崎の推理に穴はない。
犯人は綿貫で正しかったのだ。
だが勿論、わたしは彼のやり方を肯定するつもりはない。城ケ崎がやったことは、人として恥ずべき卑劣な行為だ。
手掛かりを得る為に起こることが分かっていた殺人を見過ごし、あまつさえ死ぬ必要のなかった人間まで死なせたのだから。
この行為が人道に悖ることは言うまでもない。
だがしかし、城ケ崎の出した答えが間違っているかどうかはまだ別の話だ。
城ケ崎は見事に綿貫を追い詰め、綿貫は事実上の敗北を宣言した。
なのに、今わたしの目の前に広がる光景はどうだ?
勝利を収めた筈の城ケ崎が歯茎をむき出しにして怒りを露わにしているのに対し、負けを認めた筈の綿貫は終始涼しい顔をしている。
「おっと、まだ攻撃してきちゃ嫌よ。別に貴方になら殺されても構わないけど、それはあたしの話を最後まで聞いてからにして欲しいわね」
「死にたくなければ無駄口を叩くのをやめるんだな」
城ケ崎が凄む。
「分かったわ」
綿貫は気怠そうに、長い髪をかき上げた。
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