【完結】少女探偵・小林声は渡り廊下を走らない

暗闇坂九死郞

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少女探偵・小林声はプールサイドを走らない

第15話

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 翌日、ふみは早朝の校門の前に立っていた。
 雲一つない、気持ちのいい快晴だ。

「お、ちゃんと来たみたいやな。偉い偉い」

 ふみ香が振り返ると、そこにはニタニタ笑いの白旗しらはたが立っていた。

「……白旗先輩、おはようございます」

「おはようさん」

「……先輩、何かいいことでもありました? もしくは、何か企んでません?」
 ふみ香は白旗の顔をジロジロと眺める。

「人聞きの悪いこと言わんといて欲しいなァ。俺はただ美里のことが心配で無理にでも顔合わせて話したかっただけやのに」
 白旗は上機嫌で笑っている。

「……何か怪しいんですよねェ」

「オッホン、それはそうと美里みさと、放課後予定開けといてくれへんか?」

「……開けるも何も、今日は真っ直ぐ帰るつもりですけど」

「実は小林こばやしと茶する約束を取り付けたんや。お前も一緒に来い」

「……え? 白旗先輩が誘ったんですか?」

「何や、俺が茶に誘って悪いんか? こないだの一件で小林には借りができたからな。助手の恩義は俺の恩義でもある」

「……とか何とか言って、本当は小林先輩とお茶がしたかっただけなんですよね?」
 今度はふみ香ニヤリと笑う。

「……なッ、何でやねん!?」

「それで私のことをダシに使って誘ったまでは良かったものの、いざ二人きりで会うとなると途端に憶病風に吹かれたと」

「……ち、ちゃうわい!! ボケェ!!」
 白旗が顔を真っ赤にして否定する。

「でもまァ白旗先輩にしては頑張った方ですね。仕方ないので私もついて行ってあげます」

「……何やねん、急に元気になりよってからに。調子狂うわ」
 白旗はブツクサ言いながら口を尖らせる。

 ふみ香は白旗と東校舎の階段を上って将棋部の部室へと向かって行く。一週間ぶりの校舎は何時も通り無機質で、日常の中にありながらどこか得体の知れない不気味さを孕んでいた。
 ふみ香は地上のプールを見下ろす形で窓の外をじっと見ていた。そのとき、プールの中に、

「……白旗先輩」

「何やねん、あわよくば同じグラスにストローさして飲みたいとかそんなん全然思ってへんからな!!」

「……プールの中に、その、死体が」

「……何やて!?」

 白旗は上ってきた階段を駆け下りて、一直線にプールの方へ向かって走って行く。

「ま、待ってください!!」
 ふみ香も慌てて白旗の後を追う。

 くして、美里ふみ香はまたしても死体の第一発見者となってしまった。

     〇 〇 〇

 プールに水は入っていなかった。そして、空の水槽の中に全裸の少年の死体があった。頭から血を流しており、目を開いたまま仰向けに倒れている。

「……コイツは二年の望月もちづき真司しんじや」
 白旗が死体をじっと見つめて言う。

「……知っている人なんですか?」

「ああ、クラスメイトやからな。特に話したことはないけど。確か一昨日夜中に五、六人でプールに忍び込んで勝手に泳いだことがバレて、停学になっとった筈や」

 そう言われると確かに、金に染めた短髪に浅黒い肌は如何にもヤンチャしてそうな印象だ。

「また夜中にプール入ろうとして、水が抜かれたことに気付かず頭打って死んだんやろなァ」

「どんだけプールが好きなんですか!! 水泳部ですか!!」

「いや、確かバスケ部やったんやないかな」
 白旗はふみ香の突っ込みに真顔で答える。

「……それに一人で夜中にプールに忍び込むなんてことあります?」

 ふみ香の考えでは、は禁じられた行為を大勢に自慢することで自分のプライドを守っている。自分に怖いものはないというアピールをすることで、周囲からの畏怖を集めるのだ。
 それなのに、望月は一人でプールで死んでいる。一人で禁じられた行為をしても、証人がいなければ武勇伝にはならない。

「せやかて他にこの状況をどない説明すんねん? 死斑《しはん》の度合いから見ても死後八時間から十二時間ってとこやし、実際に死んだんも昨日の夜遅くやと思うで」

「……死亡推定時刻については私も同感だな。警察の鑑識が調べないことにはハッキリしたことは言えないが、白旗の言うことに概ね間違いはないだろう」
 何時の間にか小林はプールの水槽の中にいて、死体の前にしゃがみ込んでいた。

「……な、何でここに小林がおるんやッ!?」

「さっき私がLINEラインのトークで教えておいたんですよ。白旗先輩も会いたかったでしょ?」
 ふみ香は白旗に向かってウィンクする。

「……アホ、余計なことすな!!」

「だが、これは単純な事故なんかではない。何者かによる残忍な殺人事件だ」
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