命をすてて人生を救った男

石崎 蒼次郎

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新しい生命を殺して女の人生を救った男

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1945年 日本は戦争に負けポツダム宣言を受諾したころ今でいう北方領土と呼ばれているある小さな島で起こった出来事である。


 ポンポンポン  蒸気船が音を鳴らしながら北海道の本土から少し離れた島に石原 貫太郎と言う一人の医者を乗せて走っていた。

 1945年にソ連は不可侵条約を破り日本に侵攻しポツダム宣言受諾後にも日本の島々を攻撃していた。

 そこにいた日本軍はもうすでに武装解除しており必死の抵抗も空しく撃退していった。

 石原はこの戦闘で負傷した人たちを治療するためにこの地に来たのだった。


船から降りたって一番に見たのは海岸に点在する戦車の残骸だったその光景が戦いの壮絶さを物語っていた。

 海沿いの村では大型のテントが張っておりそれが臨時の治療所となっていた。

 しかし、その治療所では見るに堪えない光景だった、ろくに薬もなくもがき苦しみ体にめり込んだ銃弾を無理やりペンチで麻酔もなく引っこ抜くという荒療治か繰り広げており治療後も包帯が不足しているため傷口からはウジがわく始末だった。

 元軍医の石原でも目をそむけるほどの有様だった。

 そこでまず、けがの重度で患者を分けて重度なものから治療するとした。

 石原は大丈夫だと声をかけていった。

 その日の夜

 重度な患者の治療が一通り終わり石原の歓迎会というわけでテントから離れたところでたき火を囲い宴会をすることとなった。

 ここの村長と思われる人がいった。

「先生、来てくださりありがとうございます、今日の治療所を見ての通りわが島では病院が無く小さな診療所があるだけです、ですからなにとぞおねがいいたします。」

村長の顔は喜びの裏に疲れを感じさせる風体だった。

 そしてそれは、もともといた治療員をはじめとする全員がおなじだった。

 この日は、住民や戦闘に参加した兵士から戦闘当時の事を多く聞くことができた。

 不可侵条約を破ったソ連軍はこの島を含む島々に上陸し攻撃した。

 この島にいた第34守備軍の戦車部隊は武装解除した直後だったためろくな装備もせず出撃して一度は善戦したが相手の物量に次第に圧倒され撃退していった。

 守備隊がいなくなった村にソ連兵は流れ込み建物は略奪され女は強姦されていった。

 この村も被害がでていたが村が完全に荒らされる前にソ連兵に撤退命令がでたのか撤退していった。

 石原はその話のたき火を見ながら聞いていた。

 石原は火を見るたびにフィリピンの戦場を思い出すのだった、そして今日の治療所での出来事がかぶり

石原の熱意に火がついたのだった。

 次の日の早朝から診療所には明かりがともり、昼ごろにはもう重度患者の大半が終ろうとしているところだった。

 石原のもとに一人の若い女性が来たのだった。

 特にけがもなくかといって病気にもみえない彼女に戸惑いながらもどこが悪いんだときいたが答えをきいたとき石原は聞いた自分を恨んだ。

 「私は、、、、中絶を、、おねがいしにきました。」

 そう言いことの次第を語った

 ソ連がこの島に流れ込んだ時に真っ先に襲われたのは女性だったのだがそのときの被害者が彼女だったのだった。

 身寄りもなく一人で生きていくため、燃やす木を探している時に複数のソ連兵に強姦されたのだった。

 彼女は力いっぱい抵抗したが厳しい訓練をした兵士たちになすすべもなく妊娠を強いられたのだった。

 しかし、この島には産婆はいてもそんな事が出来る医者などいるわけなくあきらめかけていたときに石原があらわれ、希望を持ち来たというのだ。

 石原自身はあまり中絶の治療の経験はないが本で読んだことがあった。

 「わかった、まず妊娠からどれくらいかわかるか?」

もしかしたら手遅れかもしれないと思いながらきいた。

 しかし、聞いた時ほっとすると同時に危機感をおぼえた。

 なぜなら、彼女がいったのはもう中絶できるぎりぎりの月日だったからである。

 その日は石原の止まっている民家に彼女を安置させた。

 夜になり、もう一人の治療員に相談した。

 「するべきだろうか?」

 聞いた時の治療員は驚いた様子だったが無理もない。

この状態で中絶治療など母体が死ぬ可能性が高過ぎてやらないのが当たり前で普通あきらめるところなのだ。

しかし石原は半分受諾した状態におどろいたのだ。

 「なにをいってんだ!やったらどうなるか君の方がわかるだろ!」

 そんなことは分かっているといおうとしたとたん。

 「きみはそんなことわかっていると思っているだろうが、それならなぜやるんだ。」

 理由腐るほどあるが一番は

 「俺は、彼女の心の未来を殺したくないのだよ、このまま出産させれば彼女はわけの分からんソ連兵の子供を育てることになる、その彼女の気持ちを考えるともう・・・・、それにもう時間が無いんだ!!」

 彼は納得していない様子だったが好きにしろといって離れて行った。

 次の日、石原は彼女に明日治療を行うとつたえた。

 彼女は安堵したかとみえた。

 その日は午前中に他の患者の治療を大方おわらせて午後は中絶治療の準備に追われた。

 万が一のために血液型があう自分の血液をビンにためて用意し、治療法をねった。

 あの夜彼女の所に行き言った。

 「明日は、君は死ぬか生きるかの瀬戸際に立たされるが、がんばってくれ。

君が持っているもう一つの命をなくすことで君は・・・君の心と未来は生きてくるんだ。」

 そう言い残しその日は寝ることとした。


 夜も明けていないころ、治療室の明かりがともりそこに一人の影が映った。

 そして、夜が明けたころ手術が始まった。

 麻酔をかけ、腹を押した。

 この場合もう早産をさせるしかなかった。

 麻酔ももう関係ない。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 そしてもうすこしと言うところで、大量に出血したのだった。

 急いで止血し無いといけないのに全くとまることを知らない、血を供給していった。

 止血が終わり、中絶が終了したところで心肺が停止した。

 石原は必死で心臓圧迫を行い彼女は息を吹き返した。

 そして、これにより石原は彼女の心と未来を守ったのだった。

 その後も、石原は島の人々を治療し、未来をまもっていったのだった。


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