七羽人

南戸 宇一郎

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序章 光のゲート

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 壁の窪みにはめ込まれているたたみ半分ほどの大きさのパネル。
 正方形の空間の四方を囲むように配置された四本のオベリスク。
 洞窟の奥まったところにある時空間瞬時移行装置“おいでやすドア”は、たったそれだけのもので成立しているようだった。
 しかも、どちらも透明なガラスを思わせる素材で作られており、どこにも物理的な基盤がなかった。
 ニューヤマタリアンの人たちは、本当にすごいわ………!?
 坂下葵は圧倒されつつも、息つく間もないままにアクセスを続けた。
 端末の画面には目まぐるしく数値や記号が幾重にも立ち表れては消え、それと合わせて複雑な数式が入り乱れた。
 そのほとんどは初めて見るものばかりだったので、まったく未知のプログラムコードが使われていることが改めて分かった。
 その端末とパネルとは独自の方法で接続されていた。
 光線を用いたエアケーブル方式で、考案したのは葵だった。
 何度となく試行錯誤を重ね、ようやく確立するに至った離れ業でもあった。
 だから、おいでやすドアが稼働するかどうかは、全て葵の技量にかかっていた。
 そして、そんな葵の後ろ姿を三人の男女が見つめていた。
 そのうちの一人は、四十代前半ほどの男性。
 聡明そうな面立ちに、深みを湛えた眼差し。
 中身の詰まったバッグを手に持っている源川たすくだった。
 その隣には、オーバーオールを着た十歳くらいの男の子、つくし。
 まるで鼻歌でも歌っているかのような様子で、石の上に座りながら足をプラプラさせている。
 さらには、二人から数歩離れたところにいる一人の女性、ミランダ・キース。
 年齢は三十前後で、軍属っぽい制服は近づきがたい雰囲気を醸し出し、その真剣な表情をチラリとさえ崩さない。
「これは、神さまにお願いするしかないね」
 と、つくしが気楽な口調で言ったが、源川とミランダは重々しい緊迫感に包まれていた。
 お願い、動いて………!
 そんな二人の視線と期待と重圧を背負った葵は、祈るような気持ちで四回続けて想定アクセスコードを入力した。
 その直後、低い電子音が伝播するかのように壁が共鳴し始め、パネルに三つの項目が表示された。
 起動した………!?
 葵は手早く入力してそれぞれを設定した。
 現在年月日:二〇六二年一月一日
 移行年月日:二〇三八年一月一日
 目標地座標:QPRTTVT83?5129KM7CX55ZG415
 すると、四本のオベリスクが内側から発光し、四方から放たれた閃光の交差する空間に薄い扉を思わせる光のゲートが現れた。
 それを見た源川は驚き、ミランダは目元をピクリと上げる。
「おー!? アオイ、すごいね!」
 ただ一人、つくしだけが手を叩いて喜んでいたものの、葵は構わずにすぐさま源川に呼びかけた。
「博士、準備完了です!」
「分かった………」
 源川は緊張した面持ちになると、深呼吸をするように一度ゆっくりと息を吐いた。
「念のために、持ち物をチェックしたほうがいいね。忘れ物はない?」
 ところが、つくしは、まるでピクニック感覚だった。
「大丈夫だ………」
「“ここでっせフォン”も?」
「必要なものは、ここに全部入っている………」
 そう言って、バッグを持ち上げてみせる源川。
「じゃあ、あとは博士がうまくやるだけだね」
 簡単そうにそんなことを言うつくし。
 だが、相手をしている余裕のない源川は、それに応じずにゆっくりと葵の前まで近づいた。
「では、行ってくる………」
「………」
 葵がうなずくと、やや赤みがかった髪がふわりと揺れ、丸メガネ越しに瞳が潤んでいるのが分かった。
「まるで夫婦漫才の別れのシーンみたいだね? でも、博士と葵は、まだ一度も手をつないだこともないけど」
 そんな中、つくしがまたもや場違いなことをサラッと口にしたが、一言も返ってこない。
「あれ? 今日はツッコミはないの?」
 やはり、無反応。
 二人は静かに見つめ合っていた。
 源川と葵は一回りほどの年齢差があったが、固い信頼で結ばれていた。
「戻ってくる時も、頼む………」
「はい………」
 やがて名残惜しそうに最後の言葉を交わし終えると、源川は葵の前から離れてゲートのほうに進んだ。
 が、いよいよその中に足を踏み入れようとしたところで、一度振り向いた。
 見つめるしかできない葵。
 呑気そうにヒラヒラと手を振るつくし。
 源川はしっかりと二人のことを記憶にとどめると再び背を向け、意を決してゲートをくぐった。
 その姿が光の向こうに見えなくなった数秒後、四本のオベリスクの閃光が同時におさまり、ゲートが消えた。
「………!?」
 葵は思わず声を上げそうになりながらもとっさに手で口を押さえると、目を閉じた。
「あーあ、行っちゃったね………」
 つくしは、また足をプラプラさせながら言った。
「………」
 そして全てを見届けたミランダは、硬い表情のまま、一人、先にその場を去った。
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