虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第1章

第30話:温もりレクチャー

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 翌日、塔の底にある重厚な扉が「ガコン」という重苦しい音を立てて再び開かれた。 現れたヨハンは、昨日よりもさらに眉間に深い皺を刻み、近寄りがたいほどの凄まじい威圧感を全身から放っていた――が、その逞しい腕には、およそ一人の人間が抱える量とは思えないほどの、山のような薪の束と、見たこともない奇妙な道具の数々が抱えられていた。

「本当に……持ってきてくれたんだ……」

 僕が信じられない思いで呆然と立ち尽くす中、ヨハンは一切の言葉を発することなく、塔の壁際で長い年月放置され、厚い埃を被っていた古い石造りの暖炉へと迷いのない足取りで向かった。 彼はその無骨で大きな手で、手際よく薪を組み上げると、持ってきた小箱から細い棒状の道具――この世界のマッチのようなものを取り出し、その先端を箱の側面に勢いよく擦りつけた。

 シュッ、という乾いた摩擦音が響き、淡いオレンジ色の小さな火が灯る。

「いいか、よく見ておけ。まずはこの燃えやすい乾燥した木の皮に火を確実に移し、そこから徐々に小枝へ、そして太い薪へと火を育てていくんだ……」

 ヨハンは煤で汚れるのも厭わず、冷たい石床の上に膝をつき、驚くほど丁寧に、かつ真剣な眼差しで火の熾し方を説明し始めた。 そのあまりに熱心な教え方は、かつて僕を化け物と蔑んだ冷酷な辺境伯の姿とはあまりにかけ離れていた。それはまるで、初めて外の世界に独りで出る子供を心配し、生活の知恵を根掘り葉掘り教え込もうとする、過保護すぎる親の姿そのものだった。

「薪はとりあえず二ヶ月分を下の階に用意させたが、冬の厳しさによっては足りなくなるかもしれん。少しでも減りが早いと思ったら、次の徴収を待たずにすぐに報告しろ。それから、定期的に窓を開けて換気をすることを忘れるな。不完全燃焼で煙を吸いすぎれば、寝ている間に死ぬことになるぞ。貴様、わかっているのか?」

「は、はい……わかりました」

「火の粉が爆ぜて床に散らぬよう、この鉄の柵は必ず隙間なく閉めておけ。それと、夜通し無闇に燃やし続けるのは薪の無駄だ。寝る前には火の勢いを落とし、熾火の状態にして……」

 次から次へと、堰を切ったように溢れ出す細かな生活上の注意点。 昨日までの、あの魂を凍りつかせるような恐ろしいまでの冷徹さは、一体どこへ消えてしまったのだろうか。 あまりにも真面目に、そして必死な形相で「火の正しい扱い方」を説き続ける彼の姿を目の当たりにして、僕は困惑を通り越して、胸の奥から妙なおかしさが込み上げてくるのを抑えられなくなった。

(……この人、本当は、ものすごく真面目で……お節介な人なんだな)

「まるで心配性の母親みたいじゃないか……」と、不謹慎にも心の中でツッコミを入れたくなってしまうようなその過保護な振る舞いに、僕はこれまでの張り詰めていた緊張の糸が、ふっと柔らかく解けていくのを感じた。

「ふふっ……、あはは……」

 気づけば、僕は思わず声を漏らし、小さく、けれど心からの笑みをその顔に浮かべていた。 この過酷な異世界に放り込まれ、死の恐怖と孤独に怯え続けてきた僕にとって、心に一筋の安らぎを感じて笑ったのは、これが初めてのことだった。

 その瞬間。

 それまで熱心に薪の配置について説明を続けていたヨハンが、魔法をかけられたかのようにぴたりと動きを止めた。 彼は、僕の不意の笑い顔を、まるでこの世で最もあり得ない奇跡でも目撃したかのような、あるいは美しすぎるものに息を呑んだかのような、複雑で強烈な表情で見つめていた。

「……? あの、どうかしましたか? 僕の顔に、何かついてますか?」

 僕が不思議に思って首を傾げると、ヨハンははっと我に返ったように、弾かれたように視線を斜め下へと逸らした。 彼はなぜか、その厳つい顔に似合わず耳のあたりを真っ赤に染め上げると、膝についた煤を払うのも忘れて、乱暴な動作で立ち上がった。

「……とにかく、今教えた通りにしろ! 俺は忙しいんだ、もう行く!」

 彼はそれだけを荒々しく叫ぶと、背後を一度も振り返ることなく、足早に、それこそ何かに追い立てられて逃げるような勢いで塔を去っていった。 嵐が過ぎ去ったようなあまりに極端な去り際に、僕はただ「一体なんなんだろう、あの人は」と、呆気に取られて首を傾げるしかなかった。

 けれど、静まり返った暖炉の中では、パチパチとはぜる心地よい木の音と共に、確かな、そして優しい温もりが、僕の凍えきっていた部屋と心を溶かすように広がり始めていた。
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