虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第2章

第46話:加速する過保護

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 昨日の今日だ。それにあんなに気まずい、それこそ領主としての威厳をかなぐり捨てたような醜態を晒したのだから、ヨハンはしばらく顔を出さないだろう――そう高を括っていた僕の予想は、驚くほどあっけなく裏切られることとなった。

 扉が開く重厚な金属音は、その日を境に、驚くべきことに「毎日」のように塔の静寂を破るようになったのだ。

「レリル、入るぞ。今日はさらに防寒性の高い羊毛の毛布の替えを持ってきた。それから、この椅子だ。王都で流行している腰を痛めにくい人間工学に基づいた構造らしい。あっちのガタが来ている古臭い椅子などは今すぐ捨てて、今日からはこっちを使え」 

「えっ、あ、あの……ヨハン様? 昨日もお会いしましたし、そんなに家具ばかり増やされても……」 

「『様』は付けなくていいと何度も言っただろう! 貴殿は人の話を聞いているのか? ほら、それより茶を淹れたぞ。北の希少な薬草をブレンドしたものだ。貴殿は基礎代謝が低い、もっと意識的に水分と栄養を取る必要があるんだ」

 もはや、単なる食材の配達や管理などという次元はとうに通り越していた。 来ない日の方が珍しいのではないか、もしかして彼はこの塔の近くに住み着いているのではないかという頻度で、彼は当然のように塔を訪れるようになった。

 気づけば、かつては蜘蛛の巣と埃しかなかった殺風景な石造りの部屋には、王都の第一級の貴族が使うような上質な彫刻が施された家具や、繊細な意匠の食器が並び、食卓には絶えず湯気を立てる滋味豊かなスープと、焼きたての香ばしいパンが並ぶようになっていた。 僕は、彼がいつ広大な領地を治める領主としての膨大な仕事をこなしているのか、本気で心配になるほどだったけれど、いつしか彼の足音を聞き分け、自然と彼の分の夕食も用意して帰りを待つことが、僕にとって日常の当たり前な風景に溶け込んでいた。

「また、そんなにたくさん持ってきて……。僕は一人では食べきれませんよ」 

「何度言わせるつもりだ、これはあくまで『管理責任』の一環だ。貴殿がいつまでもそんなにひ弱なままでいては、抽出される魔石の質に多大な影響が出るからな。俺は領民の冬の暮らしを守るために、合理的かつ冷徹な判断をしているだけだ」

 相変わらず、どこからどう見ても無理がある不器用な建前。 けれど、言葉の鋭さとは裏腹に、彼が僕を見つめる瞳は、出会った頃のすべてを凍てつかせる冷徹な氷の色など微塵も残っていなかった。そこには今、パチパチとはぜる焚き火のような、穏やかで、そしてどこまでも深い慈愛の光が、静かに、けれど力強く宿るようになっていた。
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