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第4章
第92話:矛盾と幸福
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暗闇の中で、僕は自分の手のひらをそっと見つめた。魔力を通すたびに指先の輪郭が青白く、透けるように光り、これまで「呪われた証」として忌み嫌われてきたこの手。
けれど、この冷たい光の向こう側に、いつかヨハンが慈しみ守り続けてきたこの領地の人々と、言葉を交わし、穏やかな朝を迎えられる未来があるのだろうか。彼らの頑なに閉ざされた心の氷を、僕のこの小さな体温で溶かせる日が、本当にいつか訪れるのだろうか。
「……僕、すごく矛盾してるね、レイブン。あんなに怖がっていたはずなのに」
枕元にいたレイブンが、僕の心の迷いを映すように、不思議そうに小さな首を傾げて金色の瞳を瞬かせた。
ほんの少し前までの僕は、自分の存在そのものがヨハンの重荷であり、この命を投げ出すことこそが彼への唯一の報いになると信じ込んでいた。自分を消し去り、純度の高い魔石に加工される準備をすることだけが、僕に許された最後の献身だと疑わなかった。
けれど今は違う。あんなに恐ろしかったはずのこの世界で、ヨハンの温かい眼差しに包まれながら、一分一秒でも長く、彼のそばで生きてみたいと願っている。
(ヨハンは、僕に『自分を自分より大事にして守る』って、あんなに切実な声で言ってくれた。それなのに、僕は勝手に魔石になって消えようとして……。もしあの日、僕が本当に死を選んでいたら、あの人をどれほど深く、一生癒えないほど傷つけるところだったんだろう……。僕の命の灯が消えることが、あの人にとってどれほどの絶望と孤独を意味するか、僕は何も分かっていなかったんだ)
ヨハンが何度も、痛ましいほど必死な眼差しで「ただ穏やかに生きてほしい」と繰り返してくれた、その言葉の一つひとつに宿っていた真実の重みが、今さらになって熱を帯び、凍えていた胸の奥底まで染み渡っていく。
外界から遮断された石畳の冷たい塔の中でも、僕は、自分がどれほど温かく、そして深く愛されている場所にいたのかを、ようやく心の底から理解し始めていた。
「つぎにヨハンに会ったら、まずはちゃんと謝らなきゃ。僕、自分のことばかり見て、勝手なことばかり考えてたって。……そして、今度こそ逃げずに伝えなきゃ。僕も、貴方の隣で、貴方の守る世界のために、一緒に戦いたいって」
ただ守られるだけの、弱く震える存在のままでは終わりたくない。この美しい領地のために、そして何より、僕を一人の「人間」として認め、名前を呼んでくれたヨハンのために。この忌み嫌われてきた強大すぎる魔力を使って、僕にできることが、僕にしか救えない命がきっとあるはずだ。
僕は、埃を被った暗い書庫に眠る膨大な魔導書の山と、そこに記された「大魔法使いレリル」の英知を一つひとつ反芻し、静かに、けれど鋼のような決意を固めた。
もう、これ以上自分を化け物だと蔑んで卑下したりはしない。この過酷な運命や恐怖から逃げるために、安易に死を選ぶという卑怯な道は、二度と選ばないと誓った。
「ありがとう、ヨハン。……僕、生きてみるよ。どんなに苦しくても、君のそばで。君の隣に立つにふさわしい自分になるために」
ヨハンが握ってくれた、あの分厚くて熱い手の平の感触、その指先の確かな力強さを掌に思い出しながら、僕はこれまでにない深い安心感と共に、穏やかな、深い眠りについた。
けれど、この冷たい光の向こう側に、いつかヨハンが慈しみ守り続けてきたこの領地の人々と、言葉を交わし、穏やかな朝を迎えられる未来があるのだろうか。彼らの頑なに閉ざされた心の氷を、僕のこの小さな体温で溶かせる日が、本当にいつか訪れるのだろうか。
「……僕、すごく矛盾してるね、レイブン。あんなに怖がっていたはずなのに」
枕元にいたレイブンが、僕の心の迷いを映すように、不思議そうに小さな首を傾げて金色の瞳を瞬かせた。
ほんの少し前までの僕は、自分の存在そのものがヨハンの重荷であり、この命を投げ出すことこそが彼への唯一の報いになると信じ込んでいた。自分を消し去り、純度の高い魔石に加工される準備をすることだけが、僕に許された最後の献身だと疑わなかった。
けれど今は違う。あんなに恐ろしかったはずのこの世界で、ヨハンの温かい眼差しに包まれながら、一分一秒でも長く、彼のそばで生きてみたいと願っている。
(ヨハンは、僕に『自分を自分より大事にして守る』って、あんなに切実な声で言ってくれた。それなのに、僕は勝手に魔石になって消えようとして……。もしあの日、僕が本当に死を選んでいたら、あの人をどれほど深く、一生癒えないほど傷つけるところだったんだろう……。僕の命の灯が消えることが、あの人にとってどれほどの絶望と孤独を意味するか、僕は何も分かっていなかったんだ)
ヨハンが何度も、痛ましいほど必死な眼差しで「ただ穏やかに生きてほしい」と繰り返してくれた、その言葉の一つひとつに宿っていた真実の重みが、今さらになって熱を帯び、凍えていた胸の奥底まで染み渡っていく。
外界から遮断された石畳の冷たい塔の中でも、僕は、自分がどれほど温かく、そして深く愛されている場所にいたのかを、ようやく心の底から理解し始めていた。
「つぎにヨハンに会ったら、まずはちゃんと謝らなきゃ。僕、自分のことばかり見て、勝手なことばかり考えてたって。……そして、今度こそ逃げずに伝えなきゃ。僕も、貴方の隣で、貴方の守る世界のために、一緒に戦いたいって」
ただ守られるだけの、弱く震える存在のままでは終わりたくない。この美しい領地のために、そして何より、僕を一人の「人間」として認め、名前を呼んでくれたヨハンのために。この忌み嫌われてきた強大すぎる魔力を使って、僕にできることが、僕にしか救えない命がきっとあるはずだ。
僕は、埃を被った暗い書庫に眠る膨大な魔導書の山と、そこに記された「大魔法使いレリル」の英知を一つひとつ反芻し、静かに、けれど鋼のような決意を固めた。
もう、これ以上自分を化け物だと蔑んで卑下したりはしない。この過酷な運命や恐怖から逃げるために、安易に死を選ぶという卑怯な道は、二度と選ばないと誓った。
「ありがとう、ヨハン。……僕、生きてみるよ。どんなに苦しくても、君のそばで。君の隣に立つにふさわしい自分になるために」
ヨハンが握ってくれた、あの分厚くて熱い手の平の感触、その指先の確かな力強さを掌に思い出しながら、僕はこれまでにない深い安心感と共に、穏やかな、深い眠りについた。
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