虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第5章

第131話:真っ白な空間

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 重い。 

 首を締め付ける魔力封じの首輪が、皮膚を焼き切らんばかりに熱を持ち、俺の魂の根幹である魔力を強引に、そして無慈悲にねじ伏せていた。

 視界の端に映っていたのは、かつての親友、ルクシオの歪んだ顔だ。 

 奴は泣きそうな顔で、それでいて自分の正しさを疑わない独善的な瞳で俺を見ていた。 

「これで君は死なずに済む」 

 そんな吐き気のするような台詞を吐きながら、奴は俺から魔法を、自由を、そして誇りを奪ったのだ。 

 連れてこられた王城の謁見の間で王太子レオナルドが下した判決は「最果ての地への追放」。 

 塔に閉じ込められるだけでなく、ルクシオの発明した魔道具で月に一度魔力を奪われ続けるという、ただ俺のことを魔力の湧き出る資材として扱うかのような生殺しの刑。俺は兵たちに引きずられ、冷たい檻の中に入れられ王都の城門を後にした。意識が混濁する中で最後に見たのは、ルクシオが『魔導士長』という栄えある地位を与えられ、俺が追われる場所で一人立っている後ろ姿だった。

(……ふざけるな。ルクシオ、お前だけは……絶対に許さない)

 いつか、必ず。 

 首輪を壊し、あの塔を這い出してでも、王都に戻って奴のその澄ましたツラを殴り飛ばしてやる。その執念だけを支えに、俺の意識は深い闇へと沈んでいったはずだった。

 だが、次に意識が覚醒したとき、俺は静寂の中にいた。

「いやー、最高の悪役っぷりだったよ!!拍手喝采、まさにスタンディングオベーションものだね!」

 その声が脳漿に直接響いた瞬間、俺は思わず眉を強く顰めた。 

 気づいたとき、俺はどこまでも果てのない、純白の空間に立っていた。 

 上下も左右もなく、重力の感覚さえも曖昧なその場所は、影一つ存在することを許されないほどに明るく、そして不気味なほど無機質だ。

「……は?」

 声の主を探して視線を彷徨わせてみるが、どこまで行っても境界のない白があるばかりで、人影どころか、俺の立ち位置を定義する遮るもの一つ見当たらない。 

 ただ、傲慢なまでに四方八方から、いや、空間そのものが言葉を発しているかのように響き渡るその声。それが、自分を「神」に近い上位存在として定義していることだけは、魔導士としての俺の直感……いや、生存本能が理解させていた。

「たださー困るんだよねー。せっかく後はハッピーエンドに向けて、レオナルドとセレスティアが改革を進めて国を豊かにして完結!! だったのにさー」

 ふざけたような、軽薄極まりない口調。 

 レオナルド。セレスティア。俺を追い詰め、断罪した王太子と聖女。 

 その名が、まるで使い捨ての物語の登場人物であるかのように安っぽく扱われていることに、激しい不快感がこみ上げる。

「きみ、まだ邪魔するつもりだったでしょ」

 神は、先ほどまでのお茶らけた言い方から一気に温度を消した。 
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