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第5章
第139話:世界の歪み
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「てか、その子連れてきた世界、結構くるってきてるみたいだよ?」
説教が行われている間ずっと、手遊びでもするかのように指先で何かを操作しているようだった事務方風の神が、事も無げにその言葉を放った。
その瞬間、俺の思考は真っ白な空間に放り出された時以上の衝撃を受け、思わず掠れた声が漏れた。
「……は?」
俺が元いた、あの世界のことか。
事務風神は俺をさらったいい加減な神を指差し、呆れたように、あるいは同僚のミスを嘲笑うかのような調子で言葉を続ける。その眼差しには、一国の、いや一世界の命運が左右されているという緊張感など微塵も存在しない。
「君さ、力使い続けるのめんどいからって、いつも自分が満足した展開になったらすぐに祝福(バフ)かけるのやめるせいじゃん。そのせいじゃないー?」
「うわっ、ほんとだ! えーっと、なになに……。ん? 『魔導士長』? が、なんかしたみたい。誰だっけ、そんなキャラいたっけ」
神が事も無げに口にしたその役職名――その名前に、俺の意識は一瞬で凍りついた。
魔導士長ルクシオ。
俺を裏切り、俺からすべてを奪い、そして俺に「生きてくれ」と泣きついた、あの忌々しくも縁の切れない男。俺を辺境の塔へと追放し、自分だけは「正義」の側に残ったあの男の名だ。
(!? ルクシオが!? どうして、あいつが……!)
あいつは、俺という「悪役」が排除された後の清浄な世界で、王太子や聖女と共に、日の当たる場所で笑って暮らしているはずじゃなかったのか。神の書いた「ハッピーエンド」という脚本において、主役の側近であるあいつは、安泰な余生を約束されていたはずだ。
確かに、俺がいなくなればあいつは傷つくだろう。あの泣き虫のことだ、しばらくは立ち直れずに塞ぎ込むことも予想していた。けれど、神が強制的に「ハッピーエンド」へ導くというのなら、その不条理な力で、あいつの悲しみすらも上書きして、どうか健やかに、幸福な日常へと連れ戻してやってほしい――俺はどこかで、そう願っていたのだ。
泥を啜り、汚名を背負って消えていくのは俺一人でいい。あいつはそれを見届けた後、時間の経過と共に俺のことなど忘れ、光の差す「正しい側」の世界で、穏やかに立ち直っていくべき人間だったはずだろう。
だが、俺の目の前にいる神たちは、空中に浮かぶ不可視の「画面」を覗き込むような仕草をしながら、顔を見合わせてケラケラと楽しげに笑い合っている。まるで、喜劇の登場人物が予定外のドジを踏んだのを観劇しているかのような、無邪気で残酷な笑い声だ。
「あはは! この魔導士長、必死すぎ! 君が考えたシナリオが終わって世界は平和になったんじゃなかったの? 君が代わりに入れた魂も魂でなんか問題起こしてるし、完全にバグっちゃってるじゃん」
「ほんとだー。ただ塔で大人しくしててくれればよかったのにー。魔導士長もなんでそんなに頑張ってんだろー? あーあ、物語の整合性がめちゃくちゃだよ」
神たちが交わす軽薄なやり取りの裏で、俺の脳内はルクシオのことで一杯になった。
神たちが指先一つで、誰かの人生を「キャラ」として消費し、笑いの種にしている間にも、ルクシオは――。
説教が行われている間ずっと、手遊びでもするかのように指先で何かを操作しているようだった事務方風の神が、事も無げにその言葉を放った。
その瞬間、俺の思考は真っ白な空間に放り出された時以上の衝撃を受け、思わず掠れた声が漏れた。
「……は?」
俺が元いた、あの世界のことか。
事務風神は俺をさらったいい加減な神を指差し、呆れたように、あるいは同僚のミスを嘲笑うかのような調子で言葉を続ける。その眼差しには、一国の、いや一世界の命運が左右されているという緊張感など微塵も存在しない。
「君さ、力使い続けるのめんどいからって、いつも自分が満足した展開になったらすぐに祝福(バフ)かけるのやめるせいじゃん。そのせいじゃないー?」
「うわっ、ほんとだ! えーっと、なになに……。ん? 『魔導士長』? が、なんかしたみたい。誰だっけ、そんなキャラいたっけ」
神が事も無げに口にしたその役職名――その名前に、俺の意識は一瞬で凍りついた。
魔導士長ルクシオ。
俺を裏切り、俺からすべてを奪い、そして俺に「生きてくれ」と泣きついた、あの忌々しくも縁の切れない男。俺を辺境の塔へと追放し、自分だけは「正義」の側に残ったあの男の名だ。
(!? ルクシオが!? どうして、あいつが……!)
あいつは、俺という「悪役」が排除された後の清浄な世界で、王太子や聖女と共に、日の当たる場所で笑って暮らしているはずじゃなかったのか。神の書いた「ハッピーエンド」という脚本において、主役の側近であるあいつは、安泰な余生を約束されていたはずだ。
確かに、俺がいなくなればあいつは傷つくだろう。あの泣き虫のことだ、しばらくは立ち直れずに塞ぎ込むことも予想していた。けれど、神が強制的に「ハッピーエンド」へ導くというのなら、その不条理な力で、あいつの悲しみすらも上書きして、どうか健やかに、幸福な日常へと連れ戻してやってほしい――俺はどこかで、そう願っていたのだ。
泥を啜り、汚名を背負って消えていくのは俺一人でいい。あいつはそれを見届けた後、時間の経過と共に俺のことなど忘れ、光の差す「正しい側」の世界で、穏やかに立ち直っていくべき人間だったはずだろう。
だが、俺の目の前にいる神たちは、空中に浮かぶ不可視の「画面」を覗き込むような仕草をしながら、顔を見合わせてケラケラと楽しげに笑い合っている。まるで、喜劇の登場人物が予定外のドジを踏んだのを観劇しているかのような、無邪気で残酷な笑い声だ。
「あはは! この魔導士長、必死すぎ! 君が考えたシナリオが終わって世界は平和になったんじゃなかったの? 君が代わりに入れた魂も魂でなんか問題起こしてるし、完全にバグっちゃってるじゃん」
「ほんとだー。ただ塔で大人しくしててくれればよかったのにー。魔導士長もなんでそんなに頑張ってんだろー? あーあ、物語の整合性がめちゃくちゃだよ」
神たちが交わす軽薄なやり取りの裏で、俺の脳内はルクシオのことで一杯になった。
神たちが指先一つで、誰かの人生を「キャラ」として消費し、笑いの種にしている間にも、ルクシオは――。
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