虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第5章

第145話:ヨハンの戦い

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「そこで奴は、俺に擦り付けられた罪の一つが、とある貴族の汚職だったということを突き止めたらしい」

 鴉の放ったその一言に、僕は言葉を失った。

 ストルムベルク領は、冬の厳しさと魔物の脅威に常に晒されている過酷な土地だ。領主であるヨハンは、自分の民を守り、自身の生活を維持するだけでも手一杯だったはずだ。それなのに……。 

 彼は僕のために、王都の闇に触れるような、そんな危険な調査まで独断で行ってくれていた。僕が知らない間に、彼は僕という存在の潔白を信じ、動いてくれていたのだ。

「さすが導きの神といった所か。俺が領主の館へ降り立ったときには、ちょうど自身の潔白証明と、その貴族の告発報告書を書き上げている真っ最中だった」

「えっ、さすがに早すぎないか……? 汚職の証拠を辺境の地から掴むなんて、並大抵のことではないはずだが」

 ルクシオが驚愕の声を上げるのも無理はなかった。王都から遠く離れた北の果てで、中央の貴族が隠蔽した事実を暴き出す。それは本来、優秀な隠密を何人も使ってようやく成し遂げられるような偉業だ。すると鴉は、愉快そうに喉を鳴らした。

「ああ。俺が窓から入り込んだときには、領主と部下の騎士が、寝不足で凄まじい顔をしながら机に向かっていたぞ。周囲には吐き気を催すほどの書類の山が築かれていた」

 ヨハンだけでなく、アイルまで頑張ってくれていたんだ。 

 不器用で、けれど真っ直ぐなあの二人が、血眼になってペンを走らせている姿。それを想像するだけで、僕の凍りついていた心には、消えることのない温かい灯火が宿るようだった。彼らは「レリル」という人間を見捨てなかった。神様がどう言おうと、彼らの目には僕が「悪」ではないと映っていたのだ。

「その後、突然喋りだした鴉を見て『死ぬ気で働いたせいで、とうとう幻覚が見えるようになったか』と言って天を仰いでいた姿は見ものだったがな。部下の騎士に至っては、神に祈りを捧げ始めていた」

 鴉はくつくつと、皮肉めいた笑いを漏らす。それはどこか、自分を信じてくれた人間に対する、彼なりの不器用な敬意のようにも聞こえた。

 ルクシオは、ヨハンという男の行動に複雑な表情を浮かべていた。自分が「本物のレリル」を救おうと暗躍していた間に、全く無関係のはずの北の領主が、別の角度からレリルの名誉を挽回しようとしていた事実。

 鴉は羽を一度大きく広げ、ストルムベルクで起きた「もう一つの物語」……神の脚本にも、ルクシオさんの計算にもなかった、人間たちの執念の記録を語り始めた。
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