虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨

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第5章

第149話:覚悟

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 鴉の姿をした本物のレリルは、そこまで語り終えると、ふっと息を吐くように羽を休めた。 その小さな体からは想像もつかないほどの密度で、彼は自分の不在の間に起きた現実を、そしてヨハンたちの献身を、僕の目の前に突きつけてきた。

「……こういうことだ。俺は、俺にできることはやった。次は、お前の番だ」

 黄金の瞳が、真っ直ぐに僕を射抜く。 その瞳には、かつて「悪役」として世界に絶望していた冷たさはもうなかった。代わりに宿っていたのは、託されたバトンを僕に押し付けるような、乱暴で切実な信頼だった。

「ヨハンが……」

 胸の奥が熱い。 彼は自分の潔白を証明することよりも先に、僕の無実を信じ、そのために証拠を集め、今は身代わりとなってアイルを領地に残し、王都へと走ってくれている。 神が用意した「正義」の物語になど見向きもせず、一人の人間として、僕という「器」を救おうとしてくれているのだ。

(僕に、何ができるだろう)

 魔力はあっても、使い方は未熟だ。本物のレリルのような圧倒的な強さもなければ、ルクシオのような賢さもない。 けれど、ヨハンが守ろうとしてくれているこの身体は、今、間違いなく僕の魂が宿る「現実」だ。

 鴉がバサリと羽を広げ、僕の肩に鋭い爪を立てた。耳元で、冷徹な声が響く。

「いいか。魂を入れ替えた後、俺がこの身体に戻って魔物をすべて片付ける。だが、そのためには今の『罪人』という立場が邪魔だ。表に出れば騎士団に囲まれ、魔物と戦うどころではなくなるからな」

 鴉の黄金の瞳が、じっと僕を見据える。

「お前が王太子の元へ行き交渉しろ。ヨハンが持ってくる証拠を使い、魔物被害を食い止める条件として、レリルの一時的な自由を認めさせるんだ。……加護を失い、魔物への対処も後手に回っている今の王太子なら、お前の言葉に耳を傾けるはずだ」

 命令だった。けれど、それは僕をこの身体から追い出すためではなく、僕がこれからもこの世界で生きていくために、僕自身の手で「無実」を勝ち取ってこいという、彼なりの最短ルートなのだと理解した。

「……わかった。やってみるよ」

 僕は小さく、けれどはっきりとした声で応えた。 隣で僕らを見つめていたルクシオが、僕の手をそっと握りしめる。その手もまた、期待と不安で微かに震えていた。

「さあ、始めよう。僕たちの物語を」

 僕は顔を上げ、鴉の瞳を見返した。 レリルとして僕が王太子との交渉の場へと立つ。 それが、僕を信じてくれた人たちへの、たった一つの恩返しになるはずだから。
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