150 / 208
第5章
第149話:覚悟
しおりを挟む
鴉の姿をした本物のレリルは、そこまで語り終えると、ふっと息を吐くように羽を休めた。 その小さな体からは想像もつかないほどの密度で、彼は自分の不在の間に起きた現実を、そしてヨハンたちの献身を、僕の目の前に突きつけてきた。
「……こういうことだ。俺は、俺にできることはやった。次は、お前の番だ」
黄金の瞳が、真っ直ぐに僕を射抜く。 その瞳には、かつて「悪役」として世界に絶望していた冷たさはもうなかった。代わりに宿っていたのは、託されたバトンを僕に押し付けるような、乱暴で切実な信頼だった。
「ヨハンが……」
胸の奥が熱い。 彼は自分の潔白を証明することよりも先に、僕の無実を信じ、そのために証拠を集め、今は身代わりとなってアイルを領地に残し、王都へと走ってくれている。 神が用意した「正義」の物語になど見向きもせず、一人の人間として、僕という「器」を救おうとしてくれているのだ。
(僕に、何ができるだろう)
魔力はあっても、使い方は未熟だ。本物のレリルのような圧倒的な強さもなければ、ルクシオのような賢さもない。 けれど、ヨハンが守ろうとしてくれているこの身体は、今、間違いなく僕の魂が宿る「現実」だ。
鴉がバサリと羽を広げ、僕の肩に鋭い爪を立てた。耳元で、冷徹な声が響く。
「いいか。魂を入れ替えた後、俺がこの身体に戻って魔物をすべて片付ける。だが、そのためには今の『罪人』という立場が邪魔だ。表に出れば騎士団に囲まれ、魔物と戦うどころではなくなるからな」
鴉の黄金の瞳が、じっと僕を見据える。
「お前が王太子の元へ行き交渉しろ。ヨハンが持ってくる証拠を使い、魔物被害を食い止める条件として、レリルの一時的な自由を認めさせるんだ。……加護を失い、魔物への対処も後手に回っている今の王太子なら、お前の言葉に耳を傾けるはずだ」
命令だった。けれど、それは僕をこの身体から追い出すためではなく、僕がこれからもこの世界で生きていくために、僕自身の手で「無実」を勝ち取ってこいという、彼なりの最短ルートなのだと理解した。
「……わかった。やってみるよ」
僕は小さく、けれどはっきりとした声で応えた。 隣で僕らを見つめていたルクシオが、僕の手をそっと握りしめる。その手もまた、期待と不安で微かに震えていた。
「さあ、始めよう。僕たちの物語を」
僕は顔を上げ、鴉の瞳を見返した。 レリルとして僕が王太子との交渉の場へと立つ。 それが、僕を信じてくれた人たちへの、たった一つの恩返しになるはずだから。
「……こういうことだ。俺は、俺にできることはやった。次は、お前の番だ」
黄金の瞳が、真っ直ぐに僕を射抜く。 その瞳には、かつて「悪役」として世界に絶望していた冷たさはもうなかった。代わりに宿っていたのは、託されたバトンを僕に押し付けるような、乱暴で切実な信頼だった。
「ヨハンが……」
胸の奥が熱い。 彼は自分の潔白を証明することよりも先に、僕の無実を信じ、そのために証拠を集め、今は身代わりとなってアイルを領地に残し、王都へと走ってくれている。 神が用意した「正義」の物語になど見向きもせず、一人の人間として、僕という「器」を救おうとしてくれているのだ。
(僕に、何ができるだろう)
魔力はあっても、使い方は未熟だ。本物のレリルのような圧倒的な強さもなければ、ルクシオのような賢さもない。 けれど、ヨハンが守ろうとしてくれているこの身体は、今、間違いなく僕の魂が宿る「現実」だ。
鴉がバサリと羽を広げ、僕の肩に鋭い爪を立てた。耳元で、冷徹な声が響く。
「いいか。魂を入れ替えた後、俺がこの身体に戻って魔物をすべて片付ける。だが、そのためには今の『罪人』という立場が邪魔だ。表に出れば騎士団に囲まれ、魔物と戦うどころではなくなるからな」
鴉の黄金の瞳が、じっと僕を見据える。
「お前が王太子の元へ行き交渉しろ。ヨハンが持ってくる証拠を使い、魔物被害を食い止める条件として、レリルの一時的な自由を認めさせるんだ。……加護を失い、魔物への対処も後手に回っている今の王太子なら、お前の言葉に耳を傾けるはずだ」
命令だった。けれど、それは僕をこの身体から追い出すためではなく、僕がこれからもこの世界で生きていくために、僕自身の手で「無実」を勝ち取ってこいという、彼なりの最短ルートなのだと理解した。
「……わかった。やってみるよ」
僕は小さく、けれどはっきりとした声で応えた。 隣で僕らを見つめていたルクシオが、僕の手をそっと握りしめる。その手もまた、期待と不安で微かに震えていた。
「さあ、始めよう。僕たちの物語を」
僕は顔を上げ、鴉の瞳を見返した。 レリルとして僕が王太子との交渉の場へと立つ。 それが、僕を信じてくれた人たちへの、たった一つの恩返しになるはずだから。
66
あなたにおすすめの小説
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
神子の余分
朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。
おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。
途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。
【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました
キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。
けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。
そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。
なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」
それが、すべての始まりだった。
あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。
僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。
だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。
過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。
これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。
全8話。
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる