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第3章:氷解のゆりかご
第45話:爆発する不安
触れそうなほど近いアルヴィスの唇から放たれる熱い吐息が、セシルの冷え切った肌を焼く。
逃げ場のない腕の中で、セシルは恐怖と、それ以上に耐えがたい「混乱」に身を震わせた。自分を射抜くアルヴィスの激しい瞳。その光は、セシルにとって慈悲などではなく、自分という荷物を手放せない男の、呪いのような「固執」に見えた。
「……っ、やめてくれ、アルヴィス……! これ以上、私をかき乱さないでくれ……ッ!」
セシルは、震える両手でアルヴィスの強固な胸板を全力で押し返した。
心臓が肋骨を突き破らんばかりに打ち鳴らされる。突然の拒絶に、アルヴィスの動きが止まる。だが、その腕が緩むことはない。それどころか、逃がさないとばかりに、指先がセシルの細い肩に食い込んでいく。
「なぜ……! なぜ私を助けた! なぜあの日、あのまま雪の中で死なせてくれなかったんだ!」
喉を引き裂くような叫びが、静まり返ったリビングに響き渡った。
セシルの瞳からは、堪えきれない涙が溢れ出した。視界が歪み、目の前のアルヴィスの顔さえ、自分を責め立てる幻影のように見えてくる。
「あそこで消えていれば、私は最後に……『聖王』として死ぬことができた。アドレアンの民も、バルトロも、皆が望む通りに終わらせることができたはずなんだ。なのに、なぜ君は私を連れ戻した! 特別な力もなく、未来もなく、ただ生きているだけの……こんな『空っぽの器』を拾い上げて、君なにがしたいんだ!」
セシルの叫びは、救いに対する感謝ではなく、生かされたことへの根源的な恐怖だった。
何も持たない自分に、これ以上の時間を、これ以上の世話を焼き続けられても、お返しできるものなど何一つない。それどころか、生かされたせいで「独りになりたくない」という浅ましい未練が芽生えてしまうことが、セシルには恐ろしかった。
「君が私を連れ出したせいで、私は……また失うのが怖くなった! 君がこうして側にいることに慣れてしまったら、いつか君が私を疎ましいと思ったとき、私は今度こそ狂ってしまう……! だったら、いっそ最初から……助けたりしないでほしかった!!」
激しい感情の奔流に、アルヴィスは言葉を失ったように目を見開いた。
セシルが求めていたのは、アルヴィスが必死に与えようとしている「継続した生」ではなく、誰にも知られず、これ以上傷つかずに済む「終わり」だったのか。
アルヴィスは、震える声で絞り出す。
「……死なせてくれなかった…だと……? 貴方は、私に……また、貴方を見捨てて行けと言うのか……!」
一週間の不在という「裏切り」が脳裏をかすめ、アルヴィスの瞳に狂気的な光が混じる。
二人の間に、目に見えない深い亀裂が走る。セシルは肩を上下に揺らし、激しい拒絶の瞳で、自分を縛り上げる愛しい守護者を見つめ返した。
逃げ場のない腕の中で、セシルは恐怖と、それ以上に耐えがたい「混乱」に身を震わせた。自分を射抜くアルヴィスの激しい瞳。その光は、セシルにとって慈悲などではなく、自分という荷物を手放せない男の、呪いのような「固執」に見えた。
「……っ、やめてくれ、アルヴィス……! これ以上、私をかき乱さないでくれ……ッ!」
セシルは、震える両手でアルヴィスの強固な胸板を全力で押し返した。
心臓が肋骨を突き破らんばかりに打ち鳴らされる。突然の拒絶に、アルヴィスの動きが止まる。だが、その腕が緩むことはない。それどころか、逃がさないとばかりに、指先がセシルの細い肩に食い込んでいく。
「なぜ……! なぜ私を助けた! なぜあの日、あのまま雪の中で死なせてくれなかったんだ!」
喉を引き裂くような叫びが、静まり返ったリビングに響き渡った。
セシルの瞳からは、堪えきれない涙が溢れ出した。視界が歪み、目の前のアルヴィスの顔さえ、自分を責め立てる幻影のように見えてくる。
「あそこで消えていれば、私は最後に……『聖王』として死ぬことができた。アドレアンの民も、バルトロも、皆が望む通りに終わらせることができたはずなんだ。なのに、なぜ君は私を連れ戻した! 特別な力もなく、未来もなく、ただ生きているだけの……こんな『空っぽの器』を拾い上げて、君なにがしたいんだ!」
セシルの叫びは、救いに対する感謝ではなく、生かされたことへの根源的な恐怖だった。
何も持たない自分に、これ以上の時間を、これ以上の世話を焼き続けられても、お返しできるものなど何一つない。それどころか、生かされたせいで「独りになりたくない」という浅ましい未練が芽生えてしまうことが、セシルには恐ろしかった。
「君が私を連れ出したせいで、私は……また失うのが怖くなった! 君がこうして側にいることに慣れてしまったら、いつか君が私を疎ましいと思ったとき、私は今度こそ狂ってしまう……! だったら、いっそ最初から……助けたりしないでほしかった!!」
激しい感情の奔流に、アルヴィスは言葉を失ったように目を見開いた。
セシルが求めていたのは、アルヴィスが必死に与えようとしている「継続した生」ではなく、誰にも知られず、これ以上傷つかずに済む「終わり」だったのか。
アルヴィスは、震える声で絞り出す。
「……死なせてくれなかった…だと……? 貴方は、私に……また、貴方を見捨てて行けと言うのか……!」
一週間の不在という「裏切り」が脳裏をかすめ、アルヴィスの瞳に狂気的な光が混じる。
二人の間に、目に見えない深い亀裂が走る。セシルは肩を上下に揺らし、激しい拒絶の瞳で、自分を縛り上げる愛しい守護者を見つめ返した。
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