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第3章:氷解のゆりかご
第47話:憐れみへの拒絶
「……答えろ、アルヴィス。君が今、私の足を拭い、食事を運び、こうして私の我が儘を黙って聞いているのは、一体何のためだ」
セシルは、目の前に膝をつくアルヴィスの胸ぐらを、震える手で掴み寄せた。
アルヴィスの身体は微動だにしない。ただ、その鋼のような肉体から放たれる熱が、セシルの冷え切った指先にじりじりと伝わってくる。それがまるで「生」の暴力のように思えて、セシルはいっそその熱を振り払いたかった。
「……それが、私の責務だからです」
アルヴィスが絞り出すように答えたその言葉が、セシルの胸に毒となって回る。
『責務』。その響きが、セシルには何よりも残酷に聞こえた。
「ああ、やっぱりそうなんだな。君は、主を失った騎士のまま、あの日雪山で見捨ててしまった『王』を、今度こそ完璧に守り抜くことで自分を許そうとしているだけなんだ。君が守っているのは私じゃない。君自身の、騎士としての『矜持』だろう?」
「セシル、それは……!」
「違うと言えるか!? 君のその献身も、その優しい眼差しも、すべては不憫な私への『施し』に過ぎない! 義務や忠誠心で救いを与えて、それで満足か? 私が一生、君に感謝して、君の足元で怯えながら生きていくのを眺めるのが、君の望む未来なのか!」
セシルの言葉は、もはや悲鳴だった。
愛が欲しい。けれど、その愛が「騎士が王に捧げる忠誠」であったり、「強い者が弱い者に向ける憐れみ」であったりするのなら、そんなものは死んでも受け取りたくなかった。そんな不確かな、役割に縛られた情愛は、いつかまた「役割」が終われば消えてしまうものだからだ。
「そんなものなら……そんな『可哀想なセシル』を愛でるだけの偽物の救いなら、今すぐ捨ててくれ! 君の優しさに触れるたび、私は自分が惨めな愚か者であることを突きつけられるんだ! 憐れみで抱かれるくらいなら、いっそ君のその剣で、今すぐ私を殺してくれ……っ!」
セシルは狂ったようにアルヴィスの胸を叩き、泣き叫んだ。 二度と、価値を測られたくない。二度と、誰かの「都合の良い対象」になりたくない。 彼にとっての自分が「騎士として救わねばならない残骸」でしかないのなら、その優しさは刃よりも鋭く、セシルの魂をズタズタに切り裂いていく。
「出て行け……! 私を独りにしてくれ! 君の正義感で、私の死に場所まで奪わないでくれ……ッ!!」
拒絶の言葉を叩きつけるたび、セシルの視界は白く染まっていく。
これほどまでに激しく感情を爆発させたのは、二十年の人生で初めてだった。セシルは自分の胸をかきむしり、酸素を求めて喘ぐ。
目の前にいるアルヴィスの顔が、歪んで見えなくなる。
自分が今、どれほどアルヴィスの心を、そして自分自身の最後の居場所を破壊しているか。パニックに陥ったセシルの脳は、もうそれを理解する余地さえ残っていなかった。
セシルは、目の前に膝をつくアルヴィスの胸ぐらを、震える手で掴み寄せた。
アルヴィスの身体は微動だにしない。ただ、その鋼のような肉体から放たれる熱が、セシルの冷え切った指先にじりじりと伝わってくる。それがまるで「生」の暴力のように思えて、セシルはいっそその熱を振り払いたかった。
「……それが、私の責務だからです」
アルヴィスが絞り出すように答えたその言葉が、セシルの胸に毒となって回る。
『責務』。その響きが、セシルには何よりも残酷に聞こえた。
「ああ、やっぱりそうなんだな。君は、主を失った騎士のまま、あの日雪山で見捨ててしまった『王』を、今度こそ完璧に守り抜くことで自分を許そうとしているだけなんだ。君が守っているのは私じゃない。君自身の、騎士としての『矜持』だろう?」
「セシル、それは……!」
「違うと言えるか!? 君のその献身も、その優しい眼差しも、すべては不憫な私への『施し』に過ぎない! 義務や忠誠心で救いを与えて、それで満足か? 私が一生、君に感謝して、君の足元で怯えながら生きていくのを眺めるのが、君の望む未来なのか!」
セシルの言葉は、もはや悲鳴だった。
愛が欲しい。けれど、その愛が「騎士が王に捧げる忠誠」であったり、「強い者が弱い者に向ける憐れみ」であったりするのなら、そんなものは死んでも受け取りたくなかった。そんな不確かな、役割に縛られた情愛は、いつかまた「役割」が終われば消えてしまうものだからだ。
「そんなものなら……そんな『可哀想なセシル』を愛でるだけの偽物の救いなら、今すぐ捨ててくれ! 君の優しさに触れるたび、私は自分が惨めな愚か者であることを突きつけられるんだ! 憐れみで抱かれるくらいなら、いっそ君のその剣で、今すぐ私を殺してくれ……っ!」
セシルは狂ったようにアルヴィスの胸を叩き、泣き叫んだ。 二度と、価値を測られたくない。二度と、誰かの「都合の良い対象」になりたくない。 彼にとっての自分が「騎士として救わねばならない残骸」でしかないのなら、その優しさは刃よりも鋭く、セシルの魂をズタズタに切り裂いていく。
「出て行け……! 私を独りにしてくれ! 君の正義感で、私の死に場所まで奪わないでくれ……ッ!!」
拒絶の言葉を叩きつけるたび、セシルの視界は白く染まっていく。
これほどまでに激しく感情を爆発させたのは、二十年の人生で初めてだった。セシルは自分の胸をかきむしり、酸素を求めて喘ぐ。
目の前にいるアルヴィスの顔が、歪んで見えなくなる。
自分が今、どれほどアルヴィスの心を、そして自分自身の最後の居場所を破壊しているか。パニックに陥ったセシルの脳は、もうそれを理解する余地さえ残っていなかった。
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