50 / 86
第3章:氷解のゆりかご
第48話:死の処刑人
しおりを挟む
「……は、あ……っ、げほっ……、……ぁ……っ!!」
叫びすぎた喉が引き裂かれ、肺が過剰な酸素を拒絶するように痙攣を始める。セシルは自分の喉元を、まるで見えない枷を抉り出そうとするかのようにかきむしった。
指先は冷たく痺れ、視界の端からじわじわと不吉な闇が侵食してくる。
「……セシル! 落ち着いてください、セシル!」
アルヴィスが焦燥に満ちた声を上げ、崩れゆくセシルの身体を抱きとめようと手を伸ばす。だが、今のセシルにとって、その大きな掌も、騎士らしい逞しい腕も、自分を追い詰め、自由を奪う檻にしか見えなかった。
「……触るな! 離せ……っ、私に構うな……!!」
セシルは狂ったように首を振り、アルヴィスの腕から逃れようと床をのたうち回った。
呼吸が浅く、速くなる。吸い込もうとするたびに胸が痛み、脳が「死」の警鐘を鳴らし続ける。だが、パニックに陥った心は、その窒息しそうな苦しささえも、「無力なまま生きている罪」への罰のように感じ、無意識に受け入れていた。
「どうせ……っ、君もいつか私を捨てるんだろう!? バルトロのように、民のように、価値がなくなった私を見て、あざ笑い、見捨てる日が来るんだろう……! だったら、今すぐ終わらせてくれ……っ。お願いだ、アルヴィス……!」
セシルは震える手で、アルヴィスの腰に佩かれた剣の柄に縋り付こうとした。
常に完璧に手入れされている、冷たく重厚な鋼。それだけが、今の自分をこの「施しを受ける惨めさ」から解放してくれる唯一の救いに見えた。
「いっそ殺せ……! 君の手で、今すぐ私を殺してくれ!! 憐れまれるのも、義務で生かされるのも、もう耐えられない……! こんな無様な姿を、君に晒し続けたくないんだ……っ!!」
涙と汚物で顔をぐちゃぐちゃに濡らし、かつての「聖王」の面影など微塵もない姿で、セシルは喉が潰れるほどに泣き叫んだ。 助けてほしいのではない。ただ、この「空っぽの器でしかない自分」という耐えがたい現実から、逃がしてほしかった。
「……殺せ! アルヴィス! 私を連れ出した責任があると言うなら、殺してくれ……っ!!」
錯乱した叫びが、狭いリビングに木霊する。
アルヴィスは、自分に向けられた剣の柄を、そして自分を「処刑人」に指名して泣き崩れる愛しい人を、絶望に満ちた瞳で見つめていた。
セシルの身体が、激しい過呼吸の末にガクガクと大きく震え、そのまま糸が切れたように前のめりに倒れ込む。 床に叩きつけられる寸前、その身体を抱きしめたのは、セシルが「殺せ」と願った、あの日心中を命じたはずの男の腕だった。
叫びすぎた喉が引き裂かれ、肺が過剰な酸素を拒絶するように痙攣を始める。セシルは自分の喉元を、まるで見えない枷を抉り出そうとするかのようにかきむしった。
指先は冷たく痺れ、視界の端からじわじわと不吉な闇が侵食してくる。
「……セシル! 落ち着いてください、セシル!」
アルヴィスが焦燥に満ちた声を上げ、崩れゆくセシルの身体を抱きとめようと手を伸ばす。だが、今のセシルにとって、その大きな掌も、騎士らしい逞しい腕も、自分を追い詰め、自由を奪う檻にしか見えなかった。
「……触るな! 離せ……っ、私に構うな……!!」
セシルは狂ったように首を振り、アルヴィスの腕から逃れようと床をのたうち回った。
呼吸が浅く、速くなる。吸い込もうとするたびに胸が痛み、脳が「死」の警鐘を鳴らし続ける。だが、パニックに陥った心は、その窒息しそうな苦しささえも、「無力なまま生きている罪」への罰のように感じ、無意識に受け入れていた。
「どうせ……っ、君もいつか私を捨てるんだろう!? バルトロのように、民のように、価値がなくなった私を見て、あざ笑い、見捨てる日が来るんだろう……! だったら、今すぐ終わらせてくれ……っ。お願いだ、アルヴィス……!」
セシルは震える手で、アルヴィスの腰に佩かれた剣の柄に縋り付こうとした。
常に完璧に手入れされている、冷たく重厚な鋼。それだけが、今の自分をこの「施しを受ける惨めさ」から解放してくれる唯一の救いに見えた。
「いっそ殺せ……! 君の手で、今すぐ私を殺してくれ!! 憐れまれるのも、義務で生かされるのも、もう耐えられない……! こんな無様な姿を、君に晒し続けたくないんだ……っ!!」
涙と汚物で顔をぐちゃぐちゃに濡らし、かつての「聖王」の面影など微塵もない姿で、セシルは喉が潰れるほどに泣き叫んだ。 助けてほしいのではない。ただ、この「空っぽの器でしかない自分」という耐えがたい現実から、逃がしてほしかった。
「……殺せ! アルヴィス! 私を連れ出した責任があると言うなら、殺してくれ……っ!!」
錯乱した叫びが、狭いリビングに木霊する。
アルヴィスは、自分に向けられた剣の柄を、そして自分を「処刑人」に指名して泣き崩れる愛しい人を、絶望に満ちた瞳で見つめていた。
セシルの身体が、激しい過呼吸の末にガクガクと大きく震え、そのまま糸が切れたように前のめりに倒れ込む。 床に叩きつけられる寸前、その身体を抱きしめたのは、セシルが「殺せ」と願った、あの日心中を命じたはずの男の腕だった。
6
あなたにおすすめの小説
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。
黒茶
BL
超鈍感すぎる真面目男子×謎多き親友の異世界ファンタジーBL。
※このお話だけでも読める内容ですが、
同じくアルファポリスさんで公開しております
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
と合わせて読んでいただけると、
10倍くらい楽しんでいただけると思います。
同じ世界のお話で、登場人物も一部再登場したりします。
魔法と剣で戦う世界のお話。
幼い頃から王太子殿下の専属護衛騎士になるのが夢のラルフだが、
魔法の名門の家系でありながら魔法の才能がイマイチで、
家族にはバカにされるのがイヤで夢のことを言いだせずにいた。
魔法騎士になるために魔法騎士学院に入学して出会ったエルに、
「魔法より剣のほうが才能あるんじゃない?」と言われ、
二人で剣の特訓を始めたが、
その頃から自分の身体(主に心臓あたり)に異変が現れ始め・・・
これは病気か!?
持病があっても騎士団に入団できるのか!?
と不安になるラルフ。
ラルフは無事に専属護衛騎士になれるのか!?
ツッコミどころの多い攻めと、
謎が多いながらもそんなラルフと一緒にいてくれる頼りになる受けの
異世界ラブコメBLです。
健全な全年齢です。笑
マンガに換算したら全一巻くらいの短めのお話なのでさくっと読めると思います。
よろしくお願いします!
死に戻り騎士は愛のために願う 〜10回だけの奇跡〜
湯川岳
BL
「一生苦しむがいい。その呪いは俺からのプレゼントだ」
幼い頃に出会った友から呪いを貰ってしまったユーリ。
時は流れ、シューベルト家次男のアルトを追って騎士団に入隊をし、副団長まで上り詰めたユーリ。
毎日アルトの世話をしていく内に心惹かれていく。
「キスしてみろよ。それでオレが嫌じゃなければ……考えてやってもいい」
ユーリはアルトに口付けをする。そして呪いがこの時を待っていたかのように発動してしまった。
意識が乗っ取られ、目を覚ませばそこにあったはずの幸せは鮮やかな赤で染まっていた。
その日を境に始まったのは、暗くて長い道のりだった。
※アルト編、ユーリ編。どちらから先に読まれても大丈夫です。
エンディング異なります。それもお楽しみ頂けたら幸いです。
※最後はハッピーエンド確定。4話までだいぶ暗めの話なので苦手な方はお気をつけ下さい。
※タイトル変えてみました。
旧:死に戻り騎士の願い
表紙素材:ぱくたそ
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
『聖クロノア学院恋愛譚 』記憶を失ったベータと王族アルファ、封印された過去が愛を試すまで
るみ乃。
BL
聖クロノア学院で、記憶と感情が静かに交差する。
「君の中の、まだ知らない“俺”に、触れたかった」
記憶を失ったベータの少年・ユリス。
彼の前に現れたのは、王族の血を引くアルファ・レオンだった。
封じられた記憶。
拭いきれない心の傷。
噛み合わない言葉と、すれ違う想い。
謎に包まれた聖クロノア学院のなかで、
ふたりの距離は、近づいては揺れ、また離れていく。
触れたいのに、触れられない。
心を開けば、過去が崩れてしまう。
それでも彼らは、確かめずにはいられなかった。
――やがて、学院の奥底に眠る真実が、静かに目を覚ます。
過去と向き合い、誰かと繋がることでしか見えない未来がある。
許し、選びなおし、そしてささやかな祈り。
孤独だった少年たちは、いつしか「願い」を知っていく。
これは、ふたりの愛の物語であると同時に、
誰かの傷が、誰かの救いへと変わっていく物語。
運命に抗うのは、誰か。
未来を選ぶのは、誰なのか。
優しさと痛みが交差する場所で、物語は紡がれる。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
オレにだけ「ステイタス画面」っていうのが見える。
黒茶
BL
人気者だけど実は人間嫌いの嘘つき先輩×素直すぎる後輩の
(本人たちは気づいていないが実は乙女ゲームの世界である)
異世界ファンタジーラブコメ。
魔法騎士学院の2年生のクラウスの長所であり短所であるところは、
「なんでも思ったことを口に出してしまうところ。」
そして彼の秘密は、この学院内の特定の人物の個人情報が『ステータス画面』というもので見えてしまうこと。
魔法が存在するこの世界でもそんな魔法は聞いたことがないのでなんとなく秘密にしていた。
ある日、ステータス画面がみえている人物の一人、5年生のヴァルダー先輩をみかける。
彼はいつも人に囲まれていて人気者だが、
そのステータス画面には、『人間嫌い』『息を吐くようにウソをつく』
と書かれていたので、うっかり
「この先輩、人間嫌いとは思えないな」
と口に出してしまったら、それを先輩に気付かれてしまい・・・!?
この作品はこの1作品だけでも読むことができますが、
同じくアルファポリスさんで公開させていただいております、
「乙女ゲームの難関攻略対象をたぶらかしてみた結果。」
「俺が王太子殿下の専属護衛騎士になるまでの話。」
とあわせて「乙女ゲー3部作」となっております。(だせぇ名前だ・・・笑)
キャラクターや舞台がクロスオーバーなどしておりますので、
そちらの作品と合わせて読んでいただけたら10倍くらい美味しい設定となっております。
全年齢対象です。
BLに慣れてない方でも読みやすいかと・・・
ぜひよろしくお願いします!
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる