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第4章
第74話:愛ゆえの攻防
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「……アルヴィス。それは流石に、やりすぎだと思うよ」
セシルは、目の前に広げられた「薬屋開業・防犯計画書(仮)」と銘打たれた分厚い紙束を見て、深いため息をついた。
アルヴィスが元騎士団長としての本領を発揮し、一晩で書き上げたものだ。そこには、店の入口に設置する特注の鉄格子や、不審者を瞬時に制圧するためのトラップ、さらにはセシルが常に持ち歩くべき護身用の毒物(非致死性)のレシピまでが、整然とした筆致で記されていた。
「何を仰るのです、セシル。薬屋となれば、病で心身が弱った者だけでなく、良からぬ企みを持つ輩が薬を奪いに来る可能性も否定できません。特に貴方のその……美貌は、無防備に晒すべきではない」
「誰が奪いに来るっていうの。ここはリーゼンだよ? みんな、ネルソンさんやアイリスさんみたいな優しい人たちばかりじゃないか」
「表面上の優しさに騙されてはいけません。彼らの孫や親戚に、どんな不届き者が混じっているか分かったものではない。入口には私が立ち、一人ずつ身元を確認してから通すべきです」
「それじゃ薬屋じゃなくて、検問所だよ!」
セシルは可笑しくてたまらず、同時に少しだけ呆れて声を上げた。
アルヴィスは真剣だ。セシルが「外の世界」と関わりを持つことが、彼にとっては期待半分、不安が百倍といったところなのだろう。
「それにこれ、見てよ。『セシルの接客中は、アルヴィスが背後に一歩引いた位置で常に抜剣の構えで待機する』って……。そんな怖いお店、誰も入ってこれないよ」
「……威圧感こそが最大の防御です。貴方に指一本触れさせないためには、それくらいの覚悟が必要だと」
「アルヴィス。僕がやりたいのは、街のみんなが困った時にふらっと立ち寄れる場所なんだよ。君がそんなに怖い顔をして立っていたら、お年寄りたちが緊張して血圧が上がっちゃう」
セシルがクスクスと笑いながらアルヴィスの頬を両手で包み込むと、アルヴィスは大きな犬が叱られたような、何とも言えない切ない表情になった。
「……私は、ただ。また貴方が傷つくのが、怖いのです」
その本音に、セシルの胸がキュッと締め付けられる。
過保護すぎるのは、それだけあの「追放」の日の光景がアルヴィスにとっても深い傷跡になっているからだ。自分を守れなかったという後悔を、二度と繰り返したくないという執念。
「……分かってるよ。アルヴィス、君が心配してくれるのは、僕が誰より知っている」
セシルは背伸びをして、アルヴィスの眉間に寄った皺をそっと指で撫でた。
「でも、今の僕は五年前とは違う。君がそばにいてくれるだけで、僕は世界で一番安全なんだ。だから、鉄格子じゃなくて、窓には可愛い花を飾ろう? その代わり、お店のカウンターは君が作ってくれた丈夫な木製にするから」
「……花の、飾り……ですか」
「そう。君が庭で育ててくれた花。……ねえ、いいでしょう?」
首を傾げて覗き込むセシルの上目遣いに、最強の騎士団長はあっさりと陥落した。
「……分かりました。鉄格子は諦めます。ですが、店内の隅に私が座る椅子だけは、必ず設置させてもらいますよ。そこから一歩も動かず、貴方を見守ると誓います」
「ふふ、それなら許可するよ。僕の特等席の護衛官さん」
微笑ましい「喧嘩」は、セシルの完勝で幕を閉じた。
一歩ずつ、けれど確実に。二人の新しい暮らしの形が、笑い声と共に具体的に動き始めていた。
セシルは、目の前に広げられた「薬屋開業・防犯計画書(仮)」と銘打たれた分厚い紙束を見て、深いため息をついた。
アルヴィスが元騎士団長としての本領を発揮し、一晩で書き上げたものだ。そこには、店の入口に設置する特注の鉄格子や、不審者を瞬時に制圧するためのトラップ、さらにはセシルが常に持ち歩くべき護身用の毒物(非致死性)のレシピまでが、整然とした筆致で記されていた。
「何を仰るのです、セシル。薬屋となれば、病で心身が弱った者だけでなく、良からぬ企みを持つ輩が薬を奪いに来る可能性も否定できません。特に貴方のその……美貌は、無防備に晒すべきではない」
「誰が奪いに来るっていうの。ここはリーゼンだよ? みんな、ネルソンさんやアイリスさんみたいな優しい人たちばかりじゃないか」
「表面上の優しさに騙されてはいけません。彼らの孫や親戚に、どんな不届き者が混じっているか分かったものではない。入口には私が立ち、一人ずつ身元を確認してから通すべきです」
「それじゃ薬屋じゃなくて、検問所だよ!」
セシルは可笑しくてたまらず、同時に少しだけ呆れて声を上げた。
アルヴィスは真剣だ。セシルが「外の世界」と関わりを持つことが、彼にとっては期待半分、不安が百倍といったところなのだろう。
「それにこれ、見てよ。『セシルの接客中は、アルヴィスが背後に一歩引いた位置で常に抜剣の構えで待機する』って……。そんな怖いお店、誰も入ってこれないよ」
「……威圧感こそが最大の防御です。貴方に指一本触れさせないためには、それくらいの覚悟が必要だと」
「アルヴィス。僕がやりたいのは、街のみんなが困った時にふらっと立ち寄れる場所なんだよ。君がそんなに怖い顔をして立っていたら、お年寄りたちが緊張して血圧が上がっちゃう」
セシルがクスクスと笑いながらアルヴィスの頬を両手で包み込むと、アルヴィスは大きな犬が叱られたような、何とも言えない切ない表情になった。
「……私は、ただ。また貴方が傷つくのが、怖いのです」
その本音に、セシルの胸がキュッと締め付けられる。
過保護すぎるのは、それだけあの「追放」の日の光景がアルヴィスにとっても深い傷跡になっているからだ。自分を守れなかったという後悔を、二度と繰り返したくないという執念。
「……分かってるよ。アルヴィス、君が心配してくれるのは、僕が誰より知っている」
セシルは背伸びをして、アルヴィスの眉間に寄った皺をそっと指で撫でた。
「でも、今の僕は五年前とは違う。君がそばにいてくれるだけで、僕は世界で一番安全なんだ。だから、鉄格子じゃなくて、窓には可愛い花を飾ろう? その代わり、お店のカウンターは君が作ってくれた丈夫な木製にするから」
「……花の、飾り……ですか」
「そう。君が庭で育ててくれた花。……ねえ、いいでしょう?」
首を傾げて覗き込むセシルの上目遣いに、最強の騎士団長はあっさりと陥落した。
「……分かりました。鉄格子は諦めます。ですが、店内の隅に私が座る椅子だけは、必ず設置させてもらいますよ。そこから一歩も動かず、貴方を見守ると誓います」
「ふふ、それなら許可するよ。僕の特等席の護衛官さん」
微笑ましい「喧嘩」は、セシルの完勝で幕を閉じた。
一歩ずつ、けれど確実に。二人の新しい暮らしの形が、笑い声と共に具体的に動き始めていた。
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