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第2章 勇者視点
第2話:勇者の宣告
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次に意識を取り戻したのは、硬い石造りの部屋の中だった。冷たく、静かな場所。森の屋敷の温もりとは真逆の、厳かで、拒絶的な空気が漂っていた。
俺の身体は、いつの間にか清潔なリネンに包まれていたが、首にはノアールがつけてくれた革の首輪だけが虚しく残っていた。鎖は奪われたが、この首輪だけが、彼との唯一の繋がり、そして、彼に裏切られた証だった。
部屋には窓がなく、高い天井から差し込む光だけが、そこが王城の奥深くであることを示していた。
俺が目を覚ますと、すぐに数人の大人が部屋に入ってきた。その中心にいたのは、騎士団長とは違う、より威厳のあるローブをまとった老人だった。彼らは皆、俺の瞳に映る金色の光を、まるで珍しい鉱物のように、熱心に見つめていた。
老人は、俺の目の光をまるで宝石のように見つめ、静かに言った。
「目を覚ましたか、勇者よ」
「勇者……?」
老人は優しく、しかし有無を言わせない口調で語り始めた。
「お前の瞳の色は、選定の光。古文書に記された、闇を滅ぼす勇者の証だ。お前は、この世界を救うために選ばれたのだ」
俺は、自分の瞳の色が「不吉」だと罵られ、森に捨てられたことを思い出した。それを今、「世界を救う光」だと?あまりにも身勝手な言い草に、胃の腑がねじれるような嫌悪感が湧いた。
「俺は、勇者なんかじゃない。俺は……」
「静かに」と老人は俺の言葉を遮った。「お前が魔物の子の愛玩品であったことは、気の毒なことだ。だが、その愚かな過去はもう忘れなさい。お前には、この世界の未来がかかっている」
そして、老人はそばに控えていた騎士団長に目配せをした。騎士団長は冷酷な笑みを浮かべながら、俺の首に残っていた革の首輪に手を伸ばした。
「これは、魔王の子が与えた、穢れの象徴ですな。勇者様には、このような汚物は相応しくない」
「触るな!」
俺は必死に抵抗した。それはノアールとの、唯一残された絆であり、同時に俺の裏切りに対する怒りを思い出すための目印だった。しかし、大人の力には敵わない。騎士団長は容赦なく、俺の首から首輪を乱暴に引きちぎった。革が破れる音が、乾いた部屋に響いた。
「返せ!それは……っ!」
俺が叫ぶ前に、騎士団長は手に持った首輪を、学者が用意していた真鍮製の盆の上に投げた。そして、学者が用意していた瓶から、透明な液体を首輪にかけ、火をつけた。
ボッ!
青白い炎が、革の首輪を瞬時に包み込んだ。革が焼ける異臭が鼻腔を突き、俺は激しい怒りと屈辱に、身体を震わせた。ノアールとの温かい記憶が、炎の中で、形を失っていく。彼の残した痕跡が、この大人たちによって消されたのだ。
「これで、過去との繋がりは完全に断たれた。勇者様は、清らかな身となった」
騎士団長は満足げに笑った。俺は、その冷酷な行為に、言葉を失った。
老人は、その光景を静かに見届けた後、再び俺に向き直り、説明を始めた。
「君が発現させた力は、光魔法の中でも最も希少で強力な『聖炎』の類い。我々はこの力を、王家伝来の文献に基づき、数年かけて増幅、訓練させる。目標は、予言の魔王の討伐だ」
「予言の魔王……」
その言葉を聞いた瞬間、冷たいものが背筋を走った。
「その魔王の名は、ノアール。君を森の屋敷に隔離していた、あの少年だ」
老人は、ノアールの名を口にする際に、一瞬、深い悲しみを滲ませた。
「彼は、王族の血を引きながらも、生まれた時から世界を闇に沈めるという恐ろしい予言を背負っている。我々は彼を森に幽閉し、善行を学ぶことで予言を覆させようとした。しかし、君を鎖で繋ぎ、外界から遮断しようとした時点で、彼の心が既に闇に傾倒していることは明らかになった」
「違う!ノアールは……!」
俺は必死に叫ぼうとしたが、言葉にならなかった。ノアールが俺を傷つけることを何よりも恐れていた事実と、俺を裏切って鎖を解いた行為が、俺の頭の中で激しく矛盾した。
老人は、俺の感情などお構いなしに話を続けた。
「我々は、君の力を利用し、ノアールが完全に魔王へと覚醒する前に、彼を排除する。それが、彼の王族としての血筋への、最後の慈悲なのだ」
俺は全身の血が逆流するのを感じた。俺を助け、初めて居場所をくれたノアールが、この世界の敵であり、俺の討伐対象だと、一方的に宣告されたのだ。そして、その討伐のための道具に、俺が選ばれた。
俺は、ノアールが俺を手放した裏切り、俺の首輪を焼いた屈辱、そして俺を道具として扱う世界への憎しみが、心の中で絡み合うのを感じた。
「……わかった。俺は、勇者になろう」
俺の瞳の奥で、金色の光が、強く、冷たく輝いた。それは、訓練を受けることを受け入れた、世界への復讐心に満ちた光だった。ノアールを討つという役目を受け入れることで、俺は再び彼の元へ辿り着く。その時、この鎖を焼き、俺を裏切った世界に、どう報いるか。その執着だけが、俺の行動原理となった。
俺の身体は、いつの間にか清潔なリネンに包まれていたが、首にはノアールがつけてくれた革の首輪だけが虚しく残っていた。鎖は奪われたが、この首輪だけが、彼との唯一の繋がり、そして、彼に裏切られた証だった。
部屋には窓がなく、高い天井から差し込む光だけが、そこが王城の奥深くであることを示していた。
俺が目を覚ますと、すぐに数人の大人が部屋に入ってきた。その中心にいたのは、騎士団長とは違う、より威厳のあるローブをまとった老人だった。彼らは皆、俺の瞳に映る金色の光を、まるで珍しい鉱物のように、熱心に見つめていた。
老人は、俺の目の光をまるで宝石のように見つめ、静かに言った。
「目を覚ましたか、勇者よ」
「勇者……?」
老人は優しく、しかし有無を言わせない口調で語り始めた。
「お前の瞳の色は、選定の光。古文書に記された、闇を滅ぼす勇者の証だ。お前は、この世界を救うために選ばれたのだ」
俺は、自分の瞳の色が「不吉」だと罵られ、森に捨てられたことを思い出した。それを今、「世界を救う光」だと?あまりにも身勝手な言い草に、胃の腑がねじれるような嫌悪感が湧いた。
「俺は、勇者なんかじゃない。俺は……」
「静かに」と老人は俺の言葉を遮った。「お前が魔物の子の愛玩品であったことは、気の毒なことだ。だが、その愚かな過去はもう忘れなさい。お前には、この世界の未来がかかっている」
そして、老人はそばに控えていた騎士団長に目配せをした。騎士団長は冷酷な笑みを浮かべながら、俺の首に残っていた革の首輪に手を伸ばした。
「これは、魔王の子が与えた、穢れの象徴ですな。勇者様には、このような汚物は相応しくない」
「触るな!」
俺は必死に抵抗した。それはノアールとの、唯一残された絆であり、同時に俺の裏切りに対する怒りを思い出すための目印だった。しかし、大人の力には敵わない。騎士団長は容赦なく、俺の首から首輪を乱暴に引きちぎった。革が破れる音が、乾いた部屋に響いた。
「返せ!それは……っ!」
俺が叫ぶ前に、騎士団長は手に持った首輪を、学者が用意していた真鍮製の盆の上に投げた。そして、学者が用意していた瓶から、透明な液体を首輪にかけ、火をつけた。
ボッ!
青白い炎が、革の首輪を瞬時に包み込んだ。革が焼ける異臭が鼻腔を突き、俺は激しい怒りと屈辱に、身体を震わせた。ノアールとの温かい記憶が、炎の中で、形を失っていく。彼の残した痕跡が、この大人たちによって消されたのだ。
「これで、過去との繋がりは完全に断たれた。勇者様は、清らかな身となった」
騎士団長は満足げに笑った。俺は、その冷酷な行為に、言葉を失った。
老人は、その光景を静かに見届けた後、再び俺に向き直り、説明を始めた。
「君が発現させた力は、光魔法の中でも最も希少で強力な『聖炎』の類い。我々はこの力を、王家伝来の文献に基づき、数年かけて増幅、訓練させる。目標は、予言の魔王の討伐だ」
「予言の魔王……」
その言葉を聞いた瞬間、冷たいものが背筋を走った。
「その魔王の名は、ノアール。君を森の屋敷に隔離していた、あの少年だ」
老人は、ノアールの名を口にする際に、一瞬、深い悲しみを滲ませた。
「彼は、王族の血を引きながらも、生まれた時から世界を闇に沈めるという恐ろしい予言を背負っている。我々は彼を森に幽閉し、善行を学ぶことで予言を覆させようとした。しかし、君を鎖で繋ぎ、外界から遮断しようとした時点で、彼の心が既に闇に傾倒していることは明らかになった」
「違う!ノアールは……!」
俺は必死に叫ぼうとしたが、言葉にならなかった。ノアールが俺を傷つけることを何よりも恐れていた事実と、俺を裏切って鎖を解いた行為が、俺の頭の中で激しく矛盾した。
老人は、俺の感情などお構いなしに話を続けた。
「我々は、君の力を利用し、ノアールが完全に魔王へと覚醒する前に、彼を排除する。それが、彼の王族としての血筋への、最後の慈悲なのだ」
俺は全身の血が逆流するのを感じた。俺を助け、初めて居場所をくれたノアールが、この世界の敵であり、俺の討伐対象だと、一方的に宣告されたのだ。そして、その討伐のための道具に、俺が選ばれた。
俺は、ノアールが俺を手放した裏切り、俺の首輪を焼いた屈辱、そして俺を道具として扱う世界への憎しみが、心の中で絡み合うのを感じた。
「……わかった。俺は、勇者になろう」
俺の瞳の奥で、金色の光が、強く、冷たく輝いた。それは、訓練を受けることを受け入れた、世界への復讐心に満ちた光だった。ノアールを討つという役目を受け入れることで、俺は再び彼の元へ辿り着く。その時、この鎖を焼き、俺を裏切った世界に、どう報いるか。その執着だけが、俺の行動原理となった。
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