28 / 45
第6章 魔王視点
第1話:嵐の中の抱擁
しおりを挟む
セレは、俺の首に繋がれた鎖を掴んだまま、教会の壁を打ち破り、闇夜の中を駆けた。俺の肩は騎士団の矢で射抜かれ、痛みと出血で意識が朦朧としていたが、彼の光の魔力の奔流が、俺を無理やり引きずっている。
俺の耳に届くのは、彼の荒い呼吸と、彼の瞳の金色の光が闇を切り裂く音だけだ。
「離してなんかやらない……絶対にな」
彼は、何度も同じ言葉を繰り返した。それは、俺に向けた支配の宣言であり、彼自身の孤独への恐怖を打ち消すための呪文のようだった。
数時間、彼は止まらずに走り続けた。王城の追跡の気配が完全に消えたと確信すると、彼は古い山道の、岩陰の小さな洞窟へと俺を引きずり込んだ。
洞窟の中は、湿った土と冷たい空気で満たされていた。セレは俺を地面に乱暴に横たえると、すぐに洞窟の入り口に、以前の教会よりも複雑で強固な結界を張り巡らせた。
「動くな。ここにいろ」
彼は、俺の首の鎖を洞窟の奥の太い岩に巻きつけ、再び固く結びつけた。その行為は、彼がどれほど俺の存在を、手元に確実につなぎとめておきたいと願っているかを物語っていた。
俺は、鎖に繋がれたまま、肩の傷から流れ続ける血を無視して、彼を見上げた。
「セレ……なぜ、王城の罠だと分かっていながら、戻ってきたんだ。僕を置いて、逃げればよかったのに」
俺の問いかけに、セレは激昂した。
「馬鹿を言うな!お前は俺の獲物だ。他の誰にも、指一本触れさせてたまるか!お前を殺していいのは、俺だけだ!」
彼は、俺のすぐそばに座り込むと、激しい怒りのまま、俺の傷口を乱暴に調べ始めた。その指先は震えている。怒りではなく、極度の不安からくる震えだった。
「…血が出すぎだ。お前は、このまま死ぬつもりか」
彼の瞳は、俺の傷に注がれているが、その奥にあるのは、俺の命への懸念ではなく、俺を失うことへの恐怖だ。
彼は、自分のローブを乱暴に引き裂き、俺の肩の傷口に、止血のための光の魔力を流し込みながら、布を強く押し付けた。
「これで、王城はお前を滅却し、俺を裏切り者として追う。お前のせいで、俺は居場所を失ったんだ」
彼はそう言ったが、彼の表情には、解放感が混じっていた。もう、王城の命令に従い、勇者という道具として生きる必要はない。彼は、俺という復讐の鎖と、二人きりになったのだ。
俺は、彼のその歪んだ感情を理解した。彼は、自由を求めていたのではない。彼が求めていたのは、俺との排他的な関係であり、孤独な支配だった。
「……ごめん、セレ。僕のせいで」
俺が謝罪すると、セレは突然、俺の身体を強く抱きしめた。それは、教会での衝動的な抱擁よりも長く、深く、そして熱を帯びたものだった。
「謝るな。俺に謝る権利がお前にあると思うな」
彼の声は、俺の耳元で掠れていた。それは、憎しみの声ではなく、まるで泣き出しそうな、孤独な少年の声だった。
「お前は、俺に償い続けろ。お前はもう、どこにも行けない。俺の檻の中で、一生涯、俺のそばにいるんだ」
彼は、俺に命を救われたのではなく、俺に新たな逃げ場を与えられたのだ。この深い闇の洞窟の中で、鎖に繋がれた俺と、俺に執着する勇者。俺たちの共依存の逃亡劇が、始まった。
俺の耳に届くのは、彼の荒い呼吸と、彼の瞳の金色の光が闇を切り裂く音だけだ。
「離してなんかやらない……絶対にな」
彼は、何度も同じ言葉を繰り返した。それは、俺に向けた支配の宣言であり、彼自身の孤独への恐怖を打ち消すための呪文のようだった。
数時間、彼は止まらずに走り続けた。王城の追跡の気配が完全に消えたと確信すると、彼は古い山道の、岩陰の小さな洞窟へと俺を引きずり込んだ。
洞窟の中は、湿った土と冷たい空気で満たされていた。セレは俺を地面に乱暴に横たえると、すぐに洞窟の入り口に、以前の教会よりも複雑で強固な結界を張り巡らせた。
「動くな。ここにいろ」
彼は、俺の首の鎖を洞窟の奥の太い岩に巻きつけ、再び固く結びつけた。その行為は、彼がどれほど俺の存在を、手元に確実につなぎとめておきたいと願っているかを物語っていた。
俺は、鎖に繋がれたまま、肩の傷から流れ続ける血を無視して、彼を見上げた。
「セレ……なぜ、王城の罠だと分かっていながら、戻ってきたんだ。僕を置いて、逃げればよかったのに」
俺の問いかけに、セレは激昂した。
「馬鹿を言うな!お前は俺の獲物だ。他の誰にも、指一本触れさせてたまるか!お前を殺していいのは、俺だけだ!」
彼は、俺のすぐそばに座り込むと、激しい怒りのまま、俺の傷口を乱暴に調べ始めた。その指先は震えている。怒りではなく、極度の不安からくる震えだった。
「…血が出すぎだ。お前は、このまま死ぬつもりか」
彼の瞳は、俺の傷に注がれているが、その奥にあるのは、俺の命への懸念ではなく、俺を失うことへの恐怖だ。
彼は、自分のローブを乱暴に引き裂き、俺の肩の傷口に、止血のための光の魔力を流し込みながら、布を強く押し付けた。
「これで、王城はお前を滅却し、俺を裏切り者として追う。お前のせいで、俺は居場所を失ったんだ」
彼はそう言ったが、彼の表情には、解放感が混じっていた。もう、王城の命令に従い、勇者という道具として生きる必要はない。彼は、俺という復讐の鎖と、二人きりになったのだ。
俺は、彼のその歪んだ感情を理解した。彼は、自由を求めていたのではない。彼が求めていたのは、俺との排他的な関係であり、孤独な支配だった。
「……ごめん、セレ。僕のせいで」
俺が謝罪すると、セレは突然、俺の身体を強く抱きしめた。それは、教会での衝動的な抱擁よりも長く、深く、そして熱を帯びたものだった。
「謝るな。俺に謝る権利がお前にあると思うな」
彼の声は、俺の耳元で掠れていた。それは、憎しみの声ではなく、まるで泣き出しそうな、孤独な少年の声だった。
「お前は、俺に償い続けろ。お前はもう、どこにも行けない。俺の檻の中で、一生涯、俺のそばにいるんだ」
彼は、俺に命を救われたのではなく、俺に新たな逃げ場を与えられたのだ。この深い闇の洞窟の中で、鎖に繋がれた俺と、俺に執着する勇者。俺たちの共依存の逃亡劇が、始まった。
1
あなたにおすすめの小説
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる