38 / 45
第8章
第2話:融合の可能性
しおりを挟む
海辺の廃墟は、王城から遥かに離れ、追跡の魔力が届きにくい場所だった。俺は、ここをノアールを独占するための新たな檻と定めた。
ノアールは、鎖に繋がれたまま、光の牢獄の傷が癒え始めたことで、少しずつ気力を取り戻していた。
俺は、食料や魔導具の調達のため、廃墟を一時的に離れることがあったが、戻るたびに、まずノアールの鎖を強く引き寄せ、彼が逃げていないことを確認する。
「お前が生きている。それが、俺のすべてだ」
俺の行動は、支配というよりも、切実な確認作業に近いものになっていた。
ある日、俺が戻ると、ノアールは鎖に繋がれたまま、廃墟の隅に座り込み、何かを熱心に調べていた。それは、俺が王城から奪い出した、古い予言の文献だ。
「何をしている」
俺が冷たい声で問うと、ノアールは顔を上げ、彼の瞳に、かつての魔王としての知識の光が宿っているのを見た。
「この鎖について、調べているんだ、セレ」
ノアールは、王城の騎士団長が言った「光と闇の融合」という言葉に、深く囚われているようだった。
「僕たちの鎖が解ける条件は二つ。一つは、僕の許し。もう一つは、光の魔力と闇の魔力の完全な融合だと。そして、この古い文献には、その『融合』について記されている」
俺は、鎖を握る手に力を込めた。鎖が解けることは、俺の孤独が再開することを意味する。
「融合などありえない。光と闇は、互いを打ち消すために存在する」
俺は断定したが、ノアールは静かに首を振った。
「かつての魔導師団は、魔王の力を恐れ、光と闇を敵対関係として定義づけた。しかし、本当の予言は違った。『光と闇が、互いの本質を認め合い、対等の愛で結びつく時、世界に新たな理が生まれる』。この記述は、『融合』の真の意味を示している」
ノアールは、鎖に繋がれたまま、俺の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「つまり、セレ。この鎖は、僕の闇を縛っているのではない。君の支配欲を、僕に縛り付けているんだ」
「黙れ!」
俺は激昂し、ノアールの頬を強く叩いた。彼の蒼白な頬に、すぐに赤い痕が残る。
「お前は、俺の感情を支配欲で片付けるな!お前が俺を裏切った憎しみは、俺の存在そのものだ!」
俺はそう怒鳴りつけたが、手を上げた後の激しい自己嫌悪が、一瞬で俺の心を支配した。
(俺は、何をしている? 俺は、彼を支配したいのではない。ただ、彼が俺のそばにいるという、確証が欲しいだけだ)
ノアールは、叩かれた頬を押さえもせず、俺の動揺を静かに見つめた。
「セレ。君が本当に僕を憎んでいるなら、なぜ僕を光の牢獄から救い出した? なぜ、この鎖を破壊できないことに、そんなに焦っている?」
彼の問いは、俺自身の感情の核心を突いた。
俺の行動は、憎悪の復讐ではない。それは、「ノアールがいない世界」を恐れる、俺の未熟で歪んだ愛だった。
「…俺は、お前を許さない」
俺は、そう絞り出すのが精一杯だった。俺の瞳の聖炎は、憎悪ではなく、混乱と悲哀の色を帯びていた。
ノアールは、俺のその弱さを見た上で、そっと俺の手に触れた。鎖が、俺たちの間に物理的に繋がっている。
「鎖が解ける時、それは、君が僕を支配するのではなく、僕たちの間に対等の関係が生まれた時だ。その時、君は初めて、勇者としての役割や、王城の責任ではない、君自身の本当の光を見つける」
俺は、その言葉に反論できなかった。ノアールは、鎖に繋がれたまま、俺を支配する鎖を解く鍵を、俺自身に委ねたのだ。
ノアールは、鎖に繋がれたまま、光の牢獄の傷が癒え始めたことで、少しずつ気力を取り戻していた。
俺は、食料や魔導具の調達のため、廃墟を一時的に離れることがあったが、戻るたびに、まずノアールの鎖を強く引き寄せ、彼が逃げていないことを確認する。
「お前が生きている。それが、俺のすべてだ」
俺の行動は、支配というよりも、切実な確認作業に近いものになっていた。
ある日、俺が戻ると、ノアールは鎖に繋がれたまま、廃墟の隅に座り込み、何かを熱心に調べていた。それは、俺が王城から奪い出した、古い予言の文献だ。
「何をしている」
俺が冷たい声で問うと、ノアールは顔を上げ、彼の瞳に、かつての魔王としての知識の光が宿っているのを見た。
「この鎖について、調べているんだ、セレ」
ノアールは、王城の騎士団長が言った「光と闇の融合」という言葉に、深く囚われているようだった。
「僕たちの鎖が解ける条件は二つ。一つは、僕の許し。もう一つは、光の魔力と闇の魔力の完全な融合だと。そして、この古い文献には、その『融合』について記されている」
俺は、鎖を握る手に力を込めた。鎖が解けることは、俺の孤独が再開することを意味する。
「融合などありえない。光と闇は、互いを打ち消すために存在する」
俺は断定したが、ノアールは静かに首を振った。
「かつての魔導師団は、魔王の力を恐れ、光と闇を敵対関係として定義づけた。しかし、本当の予言は違った。『光と闇が、互いの本質を認め合い、対等の愛で結びつく時、世界に新たな理が生まれる』。この記述は、『融合』の真の意味を示している」
ノアールは、鎖に繋がれたまま、俺の瞳を真っ直ぐ見つめた。
「つまり、セレ。この鎖は、僕の闇を縛っているのではない。君の支配欲を、僕に縛り付けているんだ」
「黙れ!」
俺は激昂し、ノアールの頬を強く叩いた。彼の蒼白な頬に、すぐに赤い痕が残る。
「お前は、俺の感情を支配欲で片付けるな!お前が俺を裏切った憎しみは、俺の存在そのものだ!」
俺はそう怒鳴りつけたが、手を上げた後の激しい自己嫌悪が、一瞬で俺の心を支配した。
(俺は、何をしている? 俺は、彼を支配したいのではない。ただ、彼が俺のそばにいるという、確証が欲しいだけだ)
ノアールは、叩かれた頬を押さえもせず、俺の動揺を静かに見つめた。
「セレ。君が本当に僕を憎んでいるなら、なぜ僕を光の牢獄から救い出した? なぜ、この鎖を破壊できないことに、そんなに焦っている?」
彼の問いは、俺自身の感情の核心を突いた。
俺の行動は、憎悪の復讐ではない。それは、「ノアールがいない世界」を恐れる、俺の未熟で歪んだ愛だった。
「…俺は、お前を許さない」
俺は、そう絞り出すのが精一杯だった。俺の瞳の聖炎は、憎悪ではなく、混乱と悲哀の色を帯びていた。
ノアールは、俺のその弱さを見た上で、そっと俺の手に触れた。鎖が、俺たちの間に物理的に繋がっている。
「鎖が解ける時、それは、君が僕を支配するのではなく、僕たちの間に対等の関係が生まれた時だ。その時、君は初めて、勇者としての役割や、王城の責任ではない、君自身の本当の光を見つける」
俺は、その言葉に反論できなかった。ノアールは、鎖に繋がれたまま、俺を支配する鎖を解く鍵を、俺自身に委ねたのだ。
1
あなたにおすすめの小説
ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために
ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話
※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。
追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」
身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。
死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。
カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。
「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」
献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。
これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り
結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。
そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。
冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。
愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。
禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる