4 / 31
第1章:主人公
第4話:無自覚な加害
謁見の間でのレオの「宣告」は、王宮の壁を越え、飢えと不安に苛まれていた民衆の間に毒のように広まった。
翌日、レオはカスティエ公爵の勧めで、王都の広場へと繰り出した。民衆に自分の力を直接見せ、安心させるためだ。レオは、ゲームのイベントをこなすような軽い気持ちで、集まった人々に向かって明るい声を上げた。
「みんな、もう安心して! 僕は、前の王様がやってたみたいに、みんなに苦しみを強いるような魔法は使わないよ。地脈の流れをちょっと『整理』するだけで、この国はもっと豊かになれるんだ!」
レオは、セシルの呪術を「旧式で非効率なもの」として説明し、それを改善した自分を誇った。彼にしてみれば、これはセシルを苦痛から救い、民を喜ばせるための「素晴らしいプレゼン」のつもりだった。
しかし、その言葉を聞いた民衆の反応は、レオの予想とは全く異なるものだった。
「……整理するだけ、だって?」
「あの方が、十二年もかけて治せなかった土地を……勇者様は一瞬で直したのか?」
群衆の中に、さざ波のような動揺が広がる。それはやがて、どす黒い「怒り」へと変わっていった。
「じゃあ、俺たちの子供が病気で死んだ時、あの方が『魔力が足りない』と言って泣いていたのは……全部嘘だったのか!?」
「わざと問題を長引かせて、俺たちに恩を売っていたのか!」
一度火がついた疑念は、止まらなかった。
彼らにとって、セシルは「命を削る聖王」から、一瞬にして「自分たちの無知を利用して権威を保っていた、陰湿な搾取者」へと成り下がったのだ。
「勇者様! 本当に、あの王は無駄なことをしていたんですか!?」
一人の男が叫ぶ。レオは一瞬、その剣幕に気圧されたが、持ち前の「正解を教えたい欲求」が勝った。
「ええと……嘘をついていたかは分からないけど、少なくともやり方はすごく間違ってたよ。僕ならもっと早く、みんなを助けられたと思う。……セシルさんは、一人で魔力を独占して、自分を特別に見せたかっただけなんじゃないかな」
レオのその無邪気な一言が、決定打となった。
「自分を特別に見せたかった」
その解釈は、苦しい生活を送ってきた民衆にとって、最も納得のいく「悪意」だった。
「嘘つきセシルを引きずり出せ!」
「偽りの聖者を処刑しろ!」
広場に怒号が渦巻く。レオは、自分が放った言葉がこれほどの憎悪を呼び起こすとは思わず、頬をこわばらせた。
(あ、あれ……? そんなつもりじゃ……。僕はただ、僕の方が優秀だって言いたかっただけで……)
だが、事態はもう、レオの手を離れていた。
その頃、王宮の奥深く。
セシルは、窓の外から響く地鳴りのような罵声を聞いていた。
「ペテン師!」
「搾取者!」
「死ね!」
かつて自分が血を吐いて守った民たちが、今、自分を殺せと叫んでいる。
セシルは力なく膝をつき、血の混じった痰を吐き出した。
もう、弁明する気力もなかった。レオの持ってきた「正解」の前では、自分の「献身」はただの滑稽な喜劇に過ぎないのだから。
「……陛下。いえ、セシル殿」
背後から、冷たい声がした。カスティエ公爵が、数人の兵を連れて部屋に入ってくる。
「民の怒りは頂点に達しています。貴方がこのまま居座れば、王宮は暴徒に包囲されるでしょう。……勇者様の清廉な御心が、貴方の不浄を暴いてくださった。今こそ、その罪を認め、去る時です」
カスティエの言葉は、まるでセシルの死刑宣告のようだった。
セシルはゆっくりと顔を上げ、公爵の背後に立っているレオを見た。
レオは、気まずそうに視線を泳がせながらも、どこか「自分は正しいことをした」という確信を捨てきれない顔でそこにいた。
「……レオ、くん」
セシルが、消え入るような声で呼ぶ。
「……ありがとう。……君のおかげで、私は……ようやく……」
最後まで言い切る前に、セシルは激しく咳き込んだ。
その絶望の深さに、レオは一瞬、心臓を掴まれたような衝撃を受ける。
(あれ……?僕、また……何か、間違えた……?)
だが、その疑問は、カスティエの「勇者様、あのような者の言葉を気になさるな」という声にかき消された。
セシルは、ボロボロになった寝着のまま、兵士たちに両脇を抱えられ、部屋を引きずり出されていった。
レオは、その背中を追いかけることもできず、ただ自分の「正しい力」が宿る掌を、呆然と見つめることしかできなかった。
翌日、レオはカスティエ公爵の勧めで、王都の広場へと繰り出した。民衆に自分の力を直接見せ、安心させるためだ。レオは、ゲームのイベントをこなすような軽い気持ちで、集まった人々に向かって明るい声を上げた。
「みんな、もう安心して! 僕は、前の王様がやってたみたいに、みんなに苦しみを強いるような魔法は使わないよ。地脈の流れをちょっと『整理』するだけで、この国はもっと豊かになれるんだ!」
レオは、セシルの呪術を「旧式で非効率なもの」として説明し、それを改善した自分を誇った。彼にしてみれば、これはセシルを苦痛から救い、民を喜ばせるための「素晴らしいプレゼン」のつもりだった。
しかし、その言葉を聞いた民衆の反応は、レオの予想とは全く異なるものだった。
「……整理するだけ、だって?」
「あの方が、十二年もかけて治せなかった土地を……勇者様は一瞬で直したのか?」
群衆の中に、さざ波のような動揺が広がる。それはやがて、どす黒い「怒り」へと変わっていった。
「じゃあ、俺たちの子供が病気で死んだ時、あの方が『魔力が足りない』と言って泣いていたのは……全部嘘だったのか!?」
「わざと問題を長引かせて、俺たちに恩を売っていたのか!」
一度火がついた疑念は、止まらなかった。
彼らにとって、セシルは「命を削る聖王」から、一瞬にして「自分たちの無知を利用して権威を保っていた、陰湿な搾取者」へと成り下がったのだ。
「勇者様! 本当に、あの王は無駄なことをしていたんですか!?」
一人の男が叫ぶ。レオは一瞬、その剣幕に気圧されたが、持ち前の「正解を教えたい欲求」が勝った。
「ええと……嘘をついていたかは分からないけど、少なくともやり方はすごく間違ってたよ。僕ならもっと早く、みんなを助けられたと思う。……セシルさんは、一人で魔力を独占して、自分を特別に見せたかっただけなんじゃないかな」
レオのその無邪気な一言が、決定打となった。
「自分を特別に見せたかった」
その解釈は、苦しい生活を送ってきた民衆にとって、最も納得のいく「悪意」だった。
「嘘つきセシルを引きずり出せ!」
「偽りの聖者を処刑しろ!」
広場に怒号が渦巻く。レオは、自分が放った言葉がこれほどの憎悪を呼び起こすとは思わず、頬をこわばらせた。
(あ、あれ……? そんなつもりじゃ……。僕はただ、僕の方が優秀だって言いたかっただけで……)
だが、事態はもう、レオの手を離れていた。
その頃、王宮の奥深く。
セシルは、窓の外から響く地鳴りのような罵声を聞いていた。
「ペテン師!」
「搾取者!」
「死ね!」
かつて自分が血を吐いて守った民たちが、今、自分を殺せと叫んでいる。
セシルは力なく膝をつき、血の混じった痰を吐き出した。
もう、弁明する気力もなかった。レオの持ってきた「正解」の前では、自分の「献身」はただの滑稽な喜劇に過ぎないのだから。
「……陛下。いえ、セシル殿」
背後から、冷たい声がした。カスティエ公爵が、数人の兵を連れて部屋に入ってくる。
「民の怒りは頂点に達しています。貴方がこのまま居座れば、王宮は暴徒に包囲されるでしょう。……勇者様の清廉な御心が、貴方の不浄を暴いてくださった。今こそ、その罪を認め、去る時です」
カスティエの言葉は、まるでセシルの死刑宣告のようだった。
セシルはゆっくりと顔を上げ、公爵の背後に立っているレオを見た。
レオは、気まずそうに視線を泳がせながらも、どこか「自分は正しいことをした」という確信を捨てきれない顔でそこにいた。
「……レオ、くん」
セシルが、消え入るような声で呼ぶ。
「……ありがとう。……君のおかげで、私は……ようやく……」
最後まで言い切る前に、セシルは激しく咳き込んだ。
その絶望の深さに、レオは一瞬、心臓を掴まれたような衝撃を受ける。
(あれ……?僕、また……何か、間違えた……?)
だが、その疑問は、カスティエの「勇者様、あのような者の言葉を気になさるな」という声にかき消された。
セシルは、ボロボロになった寝着のまま、兵士たちに両脇を抱えられ、部屋を引きずり出されていった。
レオは、その背中を追いかけることもできず、ただ自分の「正しい力」が宿る掌を、呆然と見つめることしかできなかった。
あなたにおすすめの小説
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。
春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。
チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。
……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ?
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――?
見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。
同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!
黒木 鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。
恋人に好きな人が出来たと思ったら、なにやら雲行きが怪しい。
めっちゃ抹茶
BL
突然だが、容姿も中身も平凡な俺には、超絶イケメンの王子と呼ばれる恋人がいる。付き合い始めてそろそろ一年が経つ。といってもまだキスもそれ以上もした事がない健全なお付き合い。王子は優しいけど意地悪で、いつも俺の心臓を高鳴らせてくる——だけどそれだけだ。この前、喧嘩をした。それきり彼と話していない。付き合っているのか定かじゃない関係。挙句に、今遠目から見つけた王子の側には可憐な女の子。彼女が彼に寄り掛かって二人がキスをしている。
その瞬間、目の前が真っ黒になった。もう無理だ。俺がスイッチが切れたようにその場に立ち尽くした、その時だった。前にいる彼から聞いたこともない怒声が俺の耳に届いたのは。
⚪︎佐藤玲央……微笑みの王子と呼ばれ、常に笑顔を絶やさない。物腰柔らかな姿勢に男女問わずモテる
⚪︎中田真……両親の転勤で引っ越してきた転校生。平凡な容姿で口が悪いがクラスに馴染めず誰とも話さないので王子しか知らないし、これからも多分バレない
※全四話、予約投稿済み。
本編に攻めの名前が出てこないの書き終わってから気が付いた。3/16タイトル少し変更しました。
※後日談を3/25に投稿予定←しました。Rを書くかはまだ悩み中
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
愛されたいだけなのに
まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。
気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。
しかしまた殺される。
何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。