クロノスの子供達

絃屋さん　　

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黒い疑惑

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ゴーフルが目を覚ましてから、しばらく時間が経過していた。
看護士が部屋を出て、ようやく取り乱した感情が落ち着きはじめていた。
相変わらず、天井も壁もファンシーなキャラクターで彩られていた。
着衣は妹のお古であり、下着は先ほど取り替えられたフカフカのオムツに違いなかった。
ゴーフルは視線のやり場に困って自分の指先を見ていた。
「これが私の手、私の身体なのか」
事故が起きた時の記憶を辿る。
時空嵐が発生し、巻き込まれたのが原因だろう。
過去にも、同じような事故に遇った研究者がいたという記録はあった。
そして、彼は自分よりも悲惨な結末を迎えたという。
その研究者は、子供になった後で再び元の年齢に戻ろうと考えたらしい。
だが、その実験は失敗し若くして老衰したのだという。
「ふう、なんだか眠れないなぁ」
小児病棟の消灯時間は早く、夜の８時には部屋の電気は消されてしまった。
先ほどの、粗相の記憶が甦り頬が赤くなる。
「なんとか、歩いてトイレに行こう」
4歳の身体なら、歩いてトイレにも行けるはずだ。
ゴーフルは、１週間眠っていたせいで麻痺した筋肉をなんとか動かそうとした。
懸命に腕を動かしてベットの柵にしがみつくが、足がふらついて上手く立てない。
ヒラヒラしたネグリジェも、まとわりつくオムツも歩くのを邪魔している。
オムツのせいで両足が広がってしまうので、歩き方も赤ん坊がヨチヨチ歩くような格好になってしまう。
恐らく、ゴーフルのプライドがなければ這ってハイハイした方が早く移動できるだろう。
それでも、なんとかゆっくり病室の扉までたどり着けた。
幸い、扉はレール式の引き戸になっており非力な今のゴーフルでも簡単に開ける事ができた。
トイレはどちらか分からないが、ゴーフルは夜の廊下を壁に沿って歩いてみた。
遠くの方がボンヤリと明るいのは看護士が待機している宿直室のようだ。
さらに、その向こうにトイレらしき部屋が見えた。
「ああ、病室から遠いなぁ。あれじゃあ間に合わないよ」
幸いゴーフルは尿意の為にトイレを目指している訳ではなかった。
明日の朝に恥ずかしい失敗をしないように、予防的にトイレに行くつもりだったからだ。
しかし、その為には見つからずに宿直室の前の廊下を通りすぎる必要がある。
宿直室にゆっくりと近づいていくと、中からあの看護士の話す声が聞こえてきた。
「大丈夫。あの子は全く気付いていないわ。全て計画通りに事は運んでいるわ。」
ゴーフルは、息を潜める。
どうやら誰かと電話をしているらしい。
「そうね、機関が彼を見つけられるような証拠は全て処分したから。内通者の見当もついているの」
ゴーフルは、その内容が気になった。
だが、看護士ヘスティアが椅子から立ち上がった為、続きを聞く事は出来なかった。
なぜかゴーフルは、絶対に見つかってはいけないという気がしたのだ。
すぐに引き返し、這いながら自身のベットに戻る事になった。
結局、トイレには行けなかったゴーフルはそのまま眠りについてしまった。

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