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リボーン
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わたしが叫ぶと、それに呼応するように山の上から強い風がびゅうっと吹いてきて、わたしの小さな身体の中を通り過ぎていくような感覚を覚えた。
さっきまで話していた、神様じゃないナニカがわたしに直接触れたような気がした。
「貴女は誰なの? 」
「その問いはさっき聞いた」
獣の姿から、それは人に近い姿に変っていた。
「なんだか、おかあさんみたい。本物の」
「ぶふぁ、なんだそれは。お前の母親はあの鬼ばばぁだろう」
かなり失礼な言い方をされたが、嫌な気持ちにはならなかった。
「こんなに冷たいのに、温かくて」
「それはお前がまだ生きているからだろう」
「そうじゃなくて、貴女の手が温かいってこと」
「本当にお前は、図々しいやつだ」
「そう、ですか? 」
「お前の願いを叶えてやろう」
その手、身体によってわたしは抱きしめられていく。
こんなに温かいのに、わたしの心は氷のように冷たい。
祠の中にあった小さな石にヒビが入った音がした。
そこに石があることを、わたしは知らなかった。
「手を伸ばせ」
わたしは扉を開く。
そこには、本当に小さな石の塊があった。
手にとって、大きな岩に叩きつけた。
ヒビがなければ、びくともしなかったかもしれない。
「まだだ」
声に従って、わたしは更にその石を打ちつける。
一回、二回、三回。
そして、四回目にはとうとう、その石は砕け散って粉々になった。
「はぁ、はぁはぁ」
「人間とは、本当に愚かで、哀れで、阿呆な生き物よな」
身体のへその辺りが強く熱を持ち始め、全身へと熱が巡り始める。
息苦しさで、呼吸が乱れ、全身の筋が強張っていくのが解った。
「あぁぁぁぁぁぁ」
内側から炎が駆け巡り、火照った肌が上気して目の前が白くなっていく。
「ん、ぁああ、あんん」
内側から弾け飛び肉体が壊れそうだ。
「んぁ、あ、あーあぁぁ」
強張っていた筋が今度は酷く痙攣し、両足がピンと伸び切って止まる。
「はぁはぁはぁ」
身体の中に稲妻が走り、味わったことのない脳が痺れる感覚に襲われる。
だらりと舌が伸び切って、目は虚ろになり、手足に力が入らなくなる。
大きな硬直のあとに急に身体が弛緩
していく。
「はぁはぁはぁ」
「耐えたようだな」
ナニカではなく、それは私の口から発せられた言葉だった。
「はぁはぁ、わたし、ワシは」
「肉体の方に合わせるのなら、そうだな、私とするか」
私は一つになったのだ。
「私はヒルダ。この国をやがて、滅ぼすだろう。だが、今は少し休みなさい」
急激な身体の変化で疲れた私は、祠に一番近い洞窟で眠ることにした。
藁が敷き詰められており、お供えものの古い酒瓶には雨水が溜まっていた。
それを一口呑んで乾きを潤した。
五日間ほど眠り、起きている間に水を飲んだ。
何も食べないと、この体は衰弱していくが、今はとにかく眠って体力が回復するのを待つことにする。
特別な素質を持つものでなければ、生身の肉体に霊魂を宿す事は難しい。
下手をすれば、ショックで肉体が弾け飛ぶ可能性もあった。
だが、なんとかヒルダの、私の体は耐えきった。
「齢十二の肉体がこれほどの傷を負うような仕打ちを受ける国か……なんというか虚しい平和じゃのう」
六日目の朝に、私は目を覚ます。
「おはようございます」
統合された意識としての私は洞窟の奥へと進んだ。
明らかに人工的に作られた、階段を登ると少し広がった空間に出た。
天井がなく、空から柔らかい光が降り注いでいた。
そこには見たこともない、アケビやビワのような実が生っていた。
一口食むと瑞々しい果汁が溢れ、甘美な味が広がった。
不思議な事に、乾ききっていた肌も潤い、骨と皮ばかりであった肉体に程よく柔らかい脂肪がついた。
かといって、腕には余計な贅肉はなく、栄養失調で膨らんでいた腹は逆に引き締まっている気がする。
さらに奥に進むと、澄んだ涌き水からできた滝があり身体汚れや傷口の血垢をこそぎ落とすことができた。
代謝が良くなり、老廃物が流れ出し、水にくぐれば髪にしなやかな柔らかさが生まれた。
生まれ持った顔が大きく変化した訳ではないが、もともと持っていた少女らしさを取り戻せたのかもしれない。
「なんだか生まれ変わったみたい」
と口にした自分の声も明るく感じられた。
また、光の間には、染料のとれる植物もあり肌の光沢感を出すこともできた。
ぷっくりとした唇にも薄く紅を塗り、眉を整えれば、見違えるような美少女がそこに現れた。
水に映った自分の姿に、どことなくナニカの面影も感じる。
「これが、私……なの? 」
文字通り生まれ変わった肉体に見惚れて、私は水の前でくるくると舞を踊ってしまった。
さっきまで話していた、神様じゃないナニカがわたしに直接触れたような気がした。
「貴女は誰なの? 」
「その問いはさっき聞いた」
獣の姿から、それは人に近い姿に変っていた。
「なんだか、おかあさんみたい。本物の」
「ぶふぁ、なんだそれは。お前の母親はあの鬼ばばぁだろう」
かなり失礼な言い方をされたが、嫌な気持ちにはならなかった。
「こんなに冷たいのに、温かくて」
「それはお前がまだ生きているからだろう」
「そうじゃなくて、貴女の手が温かいってこと」
「本当にお前は、図々しいやつだ」
「そう、ですか? 」
「お前の願いを叶えてやろう」
その手、身体によってわたしは抱きしめられていく。
こんなに温かいのに、わたしの心は氷のように冷たい。
祠の中にあった小さな石にヒビが入った音がした。
そこに石があることを、わたしは知らなかった。
「手を伸ばせ」
わたしは扉を開く。
そこには、本当に小さな石の塊があった。
手にとって、大きな岩に叩きつけた。
ヒビがなければ、びくともしなかったかもしれない。
「まだだ」
声に従って、わたしは更にその石を打ちつける。
一回、二回、三回。
そして、四回目にはとうとう、その石は砕け散って粉々になった。
「はぁ、はぁはぁ」
「人間とは、本当に愚かで、哀れで、阿呆な生き物よな」
身体のへその辺りが強く熱を持ち始め、全身へと熱が巡り始める。
息苦しさで、呼吸が乱れ、全身の筋が強張っていくのが解った。
「あぁぁぁぁぁぁ」
内側から炎が駆け巡り、火照った肌が上気して目の前が白くなっていく。
「ん、ぁああ、あんん」
内側から弾け飛び肉体が壊れそうだ。
「んぁ、あ、あーあぁぁ」
強張っていた筋が今度は酷く痙攣し、両足がピンと伸び切って止まる。
「はぁはぁはぁ」
身体の中に稲妻が走り、味わったことのない脳が痺れる感覚に襲われる。
だらりと舌が伸び切って、目は虚ろになり、手足に力が入らなくなる。
大きな硬直のあとに急に身体が弛緩
していく。
「はぁはぁはぁ」
「耐えたようだな」
ナニカではなく、それは私の口から発せられた言葉だった。
「はぁはぁ、わたし、ワシは」
「肉体の方に合わせるのなら、そうだな、私とするか」
私は一つになったのだ。
「私はヒルダ。この国をやがて、滅ぼすだろう。だが、今は少し休みなさい」
急激な身体の変化で疲れた私は、祠に一番近い洞窟で眠ることにした。
藁が敷き詰められており、お供えものの古い酒瓶には雨水が溜まっていた。
それを一口呑んで乾きを潤した。
五日間ほど眠り、起きている間に水を飲んだ。
何も食べないと、この体は衰弱していくが、今はとにかく眠って体力が回復するのを待つことにする。
特別な素質を持つものでなければ、生身の肉体に霊魂を宿す事は難しい。
下手をすれば、ショックで肉体が弾け飛ぶ可能性もあった。
だが、なんとかヒルダの、私の体は耐えきった。
「齢十二の肉体がこれほどの傷を負うような仕打ちを受ける国か……なんというか虚しい平和じゃのう」
六日目の朝に、私は目を覚ます。
「おはようございます」
統合された意識としての私は洞窟の奥へと進んだ。
明らかに人工的に作られた、階段を登ると少し広がった空間に出た。
天井がなく、空から柔らかい光が降り注いでいた。
そこには見たこともない、アケビやビワのような実が生っていた。
一口食むと瑞々しい果汁が溢れ、甘美な味が広がった。
不思議な事に、乾ききっていた肌も潤い、骨と皮ばかりであった肉体に程よく柔らかい脂肪がついた。
かといって、腕には余計な贅肉はなく、栄養失調で膨らんでいた腹は逆に引き締まっている気がする。
さらに奥に進むと、澄んだ涌き水からできた滝があり身体汚れや傷口の血垢をこそぎ落とすことができた。
代謝が良くなり、老廃物が流れ出し、水にくぐれば髪にしなやかな柔らかさが生まれた。
生まれ持った顔が大きく変化した訳ではないが、もともと持っていた少女らしさを取り戻せたのかもしれない。
「なんだか生まれ変わったみたい」
と口にした自分の声も明るく感じられた。
また、光の間には、染料のとれる植物もあり肌の光沢感を出すこともできた。
ぷっくりとした唇にも薄く紅を塗り、眉を整えれば、見違えるような美少女がそこに現れた。
水に映った自分の姿に、どことなくナニカの面影も感じる。
「これが、私……なの? 」
文字通り生まれ変わった肉体に見惚れて、私は水の前でくるくると舞を踊ってしまった。
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