傾国童女〜これから国を滅ぼします〜

絃屋さん  

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モンスター

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最初は小さな物音だった。
入り口の扉が壊されて、部屋が荒される音がする。
木の棒のそれよりは、低い音が何度か響く。
慌ただしく家具が倒れ、部屋の中を歩き回る音がする。
ガラスが割れる。
集中すれば、家の中の様子は想像できた。
侵入してきた男が暴れまくり、錯乱したお母様が金切り声をあげている。
「なんなの、いったいあなたは!」
また、鈍い音がする。
「どこにやった、ハンナを閉じ込めたのはお前か!」
「ハンナなんて知らないわ」
「うるさい、この家の何処かにハンナが!」
男は家の中を探すが、この部屋は隠し部屋になっているので、見つけられない。
「何の恨みがあって、こんな事を」
「どうして、なぜハンナを連れ去った!」
男は、お母様に詰め寄る。
「知らない。何を言ってるのかわからないわ」
「嘘をつくな」
男は容赦なくお母様の顔を殴る。
見えている訳ではないが、なんとなく音で分かった。
「ひぃ」
お母様は這って逃げ出して、外に出る。
手当り次第に物を掴んでは暴れる男は、私の部屋の位置の見当をつけられない。
しばらく暴れているとお母様が戻ってくる。
「ホーキンスさん、あいつよ。あの浮浪者が突然、家に入ってきて暴れているの」
「おい、暴れるのをやめろ。大人しくしろ」
「はぁはぁ、邪魔するな!」
男は壊れた椅子の足を投げて威嚇する。
「殺してちょうだい、ホーキンスさん危険よ。今すぐ、撃ち殺して」
「奥さん、ちょっと待って、落ち着きましょう。相手は丸腰だ」
「そんな事いって、あの醜い顔をみて、危険よ」
「ハァハァ」
男の体力はもうあまり長く持ちそうにない。
そして、お母様がつれてきたハーネスさんは猟銃を持っていた。
「とにかく落ち着け。何が望みだ」
「ハンナをどこに隠した」
「奥さん、ああ言ってるが」
「いいから、今すぐ、あの浮浪者を撃って。私はあの男に暴力をふるわれたんですよ」
男はお母様の方に歩きだした。
「おい、止まれ。撃つぞ」
「ハァハァ、ふざけやがって」
しかし、男は前進する。
まだ、銃口は向けられているだろう。
「奥さん!」
「お願い、ハーネスさん。撃って」
引き金を引く事はできた。
ただ、ハーネスさんも人間を撃ったことは無かった。
そこで、躊躇うハーネスさんの猟銃をお母様は無理やり奪った。
「お、奥さん、やめなさい」
「貴方がやらないなら、私が殺すわ」
男もそれを察知し、先程よりも素早くお母様に襲いかかる。
バン!
銃声が響く。
銃の反動のせいで、弾は男には当たらなかったようだ。
音だけでは、弾がどこに当たったかよく分からない。
男は逆上し手にしていた家具の破片で殴りかかる。
さらに続けて銃声が響く。
当たったかどうかは分からない。
「な、なぜ」
「だ、だめだ。それは」
もう一発、銃声が響く。
なんとか音だけで状況を想像しようとしてみるがそれは難しい。
少しだけ、部屋の中が静かになる。
男が撃ち殺されたのだろうか。
「はぁはぁ、ハンナ……」
隠し扉が開いた。
私は力なく壁に寄りかかっていたが、その男に微笑みかける。
「ありがとう」
男の頭からは血が流れているが、それは撃たれたからではなく、暴れまわるうちに自ら傷つけたものだろう。
男の背後では、ハーネスさんが猟銃を構え直す姿が見えた。
「ハンナ……」
私は男の両頬に手を伸ばす。
意識は私に集中している。

「きゃぁぁ、助けてハーネスさん!」
しかし私は、叫ぶ。
バン!
それが合図となり、男は撃ち抜かれる。
男は信じられないという表情のまま崩れ落ちる。
「ありがとう、さようなら、私のモンスターさん」
私は少しだけ涙を流した。



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