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ダック
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悪路を進み始めてから二時間で、馬車の内部では少し小競り合いが起きていた。
主に商人達が賭けでカードゲームをやっているグループがあり、いかさまがあったと騒ぐ中年男性が暴れていたのだ。
私達や、貴族の母娘はそれには加わらず、小さな声で会話をするようにしていた。
「おかしい、こんなに続くわけがない。イカサマだろ!」
男は負けが続いてイライラしているようだった。
トラブルそのものよりも、車内の空気感に耐えられず貴族の娘がグズり始める。
「うるせぇな、そこのガキを黙らせろよ」
男は相当負けたのだろう、関係のない乗客にまで当たり散らしていた。
「煩いのはアンタだよ、さっきからびゃぁびゃぁと、みっともない声で騒いで」
商人の男がたまりかねて口にする。
「な、なんだと、貴様ら商人風情が」
その言葉に、賭けに参加していない他の商人達もむっとする。
「自分で自分のケツを拭けないやつは賭け事なんてやるんじゃないよ」
「そうだ、そうだ!」
数人の商人が、男を取り囲む。
私はその様子を見ながら不思議な感覚を覚えた。
「気付いた? 」
フレイが耳もとで囁く。
「え、いや。ちょっとおかしいなと思っただけです」
退屈だったので、グループには加わらなかったものの無意識にカードゲームの様子を俯瞰していたので、気付く事ができた。
鴨にされてる男の手札は、実は離れた所に座っている別の商人からは丸見えになっている。
恐らくあらかじめ、咳払いや物音を立てることで仲間にカードの内訳を伝えているのだろう。
「冷静になれば、これくらいのことは子供にだって分かるはずだ」
「私はそもそもルールが分からないので、てっきりそういうものなんだと」
「へぇ、因みにヒルダは何種類くらい分かったの?」
「12、いや13かな」
「上出来ね。なかなか、この短時間でそこまで見抜けないわよ」
「そう……なんですか?」
記号と数字の関係から、大きい数字の方が有利だという事は分かる。
ただ、ある一定の数を超えると逆にペナルティが課される、といったところだろうか。
「他の商人は全員グルですか?」
「いや、どうだろうね。カードをのぞき見ているのは2人。あとは、こういう諍いを収めるのに2人かな」
「馬車使いは知っているんでしょうか?」
「もちろん、いくらか場所代は貰っているでしょうね」
「ふーん、なんかそれだと鴨になっている人が可哀想ですね」
「はは、イカサマに気付かない方が悪いだろうね。このゲームに参加した時点であの人は負けなのよ」
フレイは身もふたもない事を言う。
「あの合図が全部わかっても、私じゃきっと勝てないでしょうね」
「まぁ、この密室ではゲームに勝ったとしてもタダでは帰れないと思うわよ」
「はぁ、相当詰んでますね」
そんな事を話していると、やはり暴れていた男は袋叩きにあっており文字通り身ぐるみを剥がされていた。
「とにかく関わりにならない方がいいって事よ」
「フレイさん、お願いかあるんですけど」
「ん、突然どうしたの?」
「私の一ヶ月分のお給料前借りできませんか?」
「……ヒルダ。私の話ちゃんと聞いてた?」
「上手くいくかは分かりませんが、この馬車代くらいなら、なんとかできるかもしれません」
確実な方法がある訳ではなかったが、私はすでにこの人生という名のゲームに参加してしまっている。
だったら、今やらないという選択肢はなかった。
「わかったわ、流石に相手も子供相手に乱暴な手段は取らないでしょう。ただし、やるからには負ける事は許されないわよ」
「ありがとうございます」
私はいくつかの準備をするために、行動を開始した。
主に商人達が賭けでカードゲームをやっているグループがあり、いかさまがあったと騒ぐ中年男性が暴れていたのだ。
私達や、貴族の母娘はそれには加わらず、小さな声で会話をするようにしていた。
「おかしい、こんなに続くわけがない。イカサマだろ!」
男は負けが続いてイライラしているようだった。
トラブルそのものよりも、車内の空気感に耐えられず貴族の娘がグズり始める。
「うるせぇな、そこのガキを黙らせろよ」
男は相当負けたのだろう、関係のない乗客にまで当たり散らしていた。
「煩いのはアンタだよ、さっきからびゃぁびゃぁと、みっともない声で騒いで」
商人の男がたまりかねて口にする。
「な、なんだと、貴様ら商人風情が」
その言葉に、賭けに参加していない他の商人達もむっとする。
「自分で自分のケツを拭けないやつは賭け事なんてやるんじゃないよ」
「そうだ、そうだ!」
数人の商人が、男を取り囲む。
私はその様子を見ながら不思議な感覚を覚えた。
「気付いた? 」
フレイが耳もとで囁く。
「え、いや。ちょっとおかしいなと思っただけです」
退屈だったので、グループには加わらなかったものの無意識にカードゲームの様子を俯瞰していたので、気付く事ができた。
鴨にされてる男の手札は、実は離れた所に座っている別の商人からは丸見えになっている。
恐らくあらかじめ、咳払いや物音を立てることで仲間にカードの内訳を伝えているのだろう。
「冷静になれば、これくらいのことは子供にだって分かるはずだ」
「私はそもそもルールが分からないので、てっきりそういうものなんだと」
「へぇ、因みにヒルダは何種類くらい分かったの?」
「12、いや13かな」
「上出来ね。なかなか、この短時間でそこまで見抜けないわよ」
「そう……なんですか?」
記号と数字の関係から、大きい数字の方が有利だという事は分かる。
ただ、ある一定の数を超えると逆にペナルティが課される、といったところだろうか。
「他の商人は全員グルですか?」
「いや、どうだろうね。カードをのぞき見ているのは2人。あとは、こういう諍いを収めるのに2人かな」
「馬車使いは知っているんでしょうか?」
「もちろん、いくらか場所代は貰っているでしょうね」
「ふーん、なんかそれだと鴨になっている人が可哀想ですね」
「はは、イカサマに気付かない方が悪いだろうね。このゲームに参加した時点であの人は負けなのよ」
フレイは身もふたもない事を言う。
「あの合図が全部わかっても、私じゃきっと勝てないでしょうね」
「まぁ、この密室ではゲームに勝ったとしてもタダでは帰れないと思うわよ」
「はぁ、相当詰んでますね」
そんな事を話していると、やはり暴れていた男は袋叩きにあっており文字通り身ぐるみを剥がされていた。
「とにかく関わりにならない方がいいって事よ」
「フレイさん、お願いかあるんですけど」
「ん、突然どうしたの?」
「私の一ヶ月分のお給料前借りできませんか?」
「……ヒルダ。私の話ちゃんと聞いてた?」
「上手くいくかは分かりませんが、この馬車代くらいなら、なんとかできるかもしれません」
確実な方法がある訳ではなかったが、私はすでにこの人生という名のゲームに参加してしまっている。
だったら、今やらないという選択肢はなかった。
「わかったわ、流石に相手も子供相手に乱暴な手段は取らないでしょう。ただし、やるからには負ける事は許されないわよ」
「ありがとうございます」
私はいくつかの準備をするために、行動を開始した。
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