異世界陸軍活動記

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戦いの前の

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「今日から2か月間はお遊びかー、腕が鈍っちまう、中央にもどりたいぜ」
 大きなあくびをし、手持ち無沙汰に足元に落ちていた木の枝を、器用にバトンのように回す

「なーに残念そうにしてんのよブライ、こっちの任務に付けて一番喜んでいたのはあんたじゃない、仮入隊の間の1年間は楽できるー、とか言ってたくせに」
 同じく落ちていた木の枝を手首だけで振り回すニーア

「確かにその時は喜んだけどさー、東部後方って言ったら碌な魔物が出てこないだろ? そうしたら半人前に俺達のすげー所とか見せられないじゃんかよ、ブライは凄いなー、とか、ブライは強くて頼りになるーとか、ニーアとタウロンだってそんな風に言われたいだろ?」

「まぁ‥‥‥‥言われたいわね!」

「確かに」

「だろ!? これからずっと同じ隊でいるんだ、最初ぐらいは思いっきり尊敬されたいからな」

「最初ぐらいって何よ最初って、あたしは違うわよ、ずっとだから!」

「しかし、この期間が過ぎても私たちの隊に残るとは限りませんよ?」

「だからだよ! 俺達のいいところを見せて、カナル隊にずっと居たいって思わせなきゃいけないだろ?」

「そー考えると、いっそのことマシェルの兵でも出てこないかなーとか思うわね」

「縁起でもない、私たちは魔物専属ですよ?」

「お! いいかもしんないな、どっかにマシェルの兵とか転がってないかな?」

「はぁ‥‥‥‥二人とも」


 ◇


「ハヤト、矢の方は補充したか?」

「ええ、100本ほど入ってます」

 ブライ・ニーア・タウロンが外で話をしている時、俺はハルツール移転門にあるの軍の倉庫内で、装備の確認・補充をしていた。

「防具を持ってきたぞ!!」
 後ろからいきなり大声を出されてビクッ! となる、声の主はオリバーだ。正直大声を出すのはやめてほしい、また心臓が悪くなりそうな気がする、でもこの人はこの声量が普通だそうだ。

「あ、ありがとうオリバー」

「うむ!! でも我々と同じ軽鎧でいいのか? 召喚隊用の防具もあったぞ!!」

「召喚隊用だと防御に少し心許ないし、あのフードが視界を遮るから不安なんです」

 召喚隊用の防具は一般兵士との防具と違い、金属部分が少ない分、軽くできている。
 常に後方にいて守られている召喚隊は、接近の防御力よりも遠距離魔法に対する防御の方が重要となる、そして召喚隊用の頭を守る防具にはフードが付いており、左右の視界を遮るような作りになっている、これは、戦術兵器的な立ち位置の召喚隊は、周りの戦況に振り回されることなく、命令された敵だけを叩くことに集中させるためにこういう作りになっている、競走馬が使うブリンカーの用な物だろうか?

 一度装着してみた事があったが、左右の視界が少し狭まることによって、実際かなり集中できた、しかし、それを付けたまま刀を振るうとなると、視界の端が見えなくなるのでかなり不利になる、これは剣技の授業で確認している。
 先行隊に入隊する召喚者のほとんどは一般の兵と同じ装備にするそうだ、中には召喚隊の装備を選ぶ者も少数はいるらしい。

 一般兵士用の防具は、視界が広く邪魔にならない兜、急所をカバーするような胸当て、腕は甲側の部分のみ金属製で覆われている、足も同様だ表側だけに金属が配置されている、どの防具も見た目よりは軽い。

「ほらハヤト、保存食も持ってきたわよ2箱で2か月分ね、まだ入るでしょ?」
 
 支給される食料、レーションとも地球で言われているが、ここでの名前は保存食である、軍だけではなく一般でも同じ物がスーパーで売られている。
 貧乏学生などがよくお世話になる食料でもある

「ありがとうお姉ちゃん、まだまだ余裕はあるよ」

 ミラことお姉ちゃんは、歓迎会の席で俺のお姉ちゃん宣言をした、酔った勢いだろうと思い特に気にもしなかったが、次に会った時に「ミラ」と名前を言ってみたが無視された、「お姉ちゃん」と呼んでみたところ。
「何?」
 と、笑顔で返事が戻ってきた、どうやら歓迎会の時のあの設定はまだ生きているらしい。
 
 メンドクサイ女の人だと思ったが、俺の兄さん曰く

『社会には理不尽な要求をしてくる人もいるけれど、新人の時は言う事を聞いておかないとだめだぞ』

 と、忠告された事があったのでそれに従う事にする、兄さんの言う事に間違いは無いのだ

 ミラをお姉ちゃんと呼んで以来、周りに誰がいようが、俺はお姉ちゃんと呼び続けた。

「お前結構、心が強いんだな」
 と、ブライに言われたが、幼少の時とはいえ女装して町中に出た俺に、正直怖いものはないんだ。

「じゃー俺のことも兄貴って呼べよ」
 と言われたがそれはお断りしておいた、俺の兄さんは一人しかいないのだ。


「では準備できたな、移転門に向かうぞ」
 カナル隊長の言葉で軍の管理する倉庫から出る、

「二人とも、隊長たちが出てきましたよ」
 タウロンが一緒に外で待っていた二人に声を掛ける、その後ろではブライとニーアが木の枝で打ち合いをしていた。

「ようやく出てきたか、日が暮れるかとおもったぜ」
 ブライは持っていた木の枝を、後ろにポイと投げ捨てる

「早くいこうよー、あたしの凄さを知ってもらわないといけないからね」

「ほら、ハヤトの準備は終わった出立するぞ」
 隊長に続き、他の隊員もその後に続いた


 ◇


 移転門とは

 女神が人々のために建てた、と言い伝えられている瞬時に移動できる手段であり、大陸の緩衝地帯を除く、北部と南部に等間隔で建てられている、過去には緩衝地帯にもあったが、それは女神によって取り壊された。
 
 現在、北部と南部の移転門は繋がっておらず、互いの国を移動することは出来ない、敵国側の移転門を制圧することが第一の目標とされており、ここを落とされると瞬時に自国領内に兵や物資を送り込まれるため、移転門の周りは要塞になっている。

 要塞内部の中央にその門はあった、とても巨大で縦横10メートルほどだ、飾り気は全くなく、四角い白いチョークの用な柱が2本、その上にもう1本かぶせてある、とても質素なものだった。

「ハヤトは移動制限が掛けられていたから、移転門は初めてだったな?」

「はい」

「特に心配することは無い、使用連絡もしてあるから後はくぐるだけだ」

 そう言って隊長、他の隊員は次々門をくぐる、不思議なもので門の間の風景は特に変わった物はない、光ってもいないし揺らいでもいない、門の後ろの背景があるだけだが、人が通ると人だけがキレイに消える、移転先の門に行ったのだろう。

「ほら、ハヤトいこう?」

 お姉ちゃん設定のミラに後ろから肩を押され、一緒に門をくぐる、瞬きしたら景色が変わっていたぐらい一瞬だった、移転先の砦の中らしい、同じような構造だったが微妙に違う。

「こっちよ」
 ミラが手招きをする。
 
 ハルツール側の移転門と比べるとかなり物々しい感じを受けた、兵の数は多く、いかにも歴戦の兵士という風貌の人が目立つ、それもそのはず、東側は魔物の数は少ないし出現する物も弱い、しかし、マシェルモビアとの戦争の中ではここが最前線の移転門になる、ここから緩衝地帯に向け北上する。

 マシェルモビアも同じ、魔物が比較的弱い東部からハルツールを攻めようとするので、大陸東部は激戦地となるのだ、俺たちの任務はそのルートを確保する事になる、人・物資を安全に移動できるように、ということで魔物の殲滅が任務となる。
 ちなみに大陸の西部と中央部は、とある理由で進軍不可能となっている

 砦から出ると今度は軍用車両での移動となる、竜翼機を使い移動をする事もあるが、今回は軍用車両での移動となる。
 この軍用車両、実は俺が仮入隊した事により支給された物のようだ。要するに、新しく車を貰ったのでそれで行きたい、という事だった。

「ハヤト、これから車で2日ほど移動した場所にある二つ目のキャンプ地に向かうぞ、今回はそのキャンプ地周辺での任務になる、ただその前に寄り道だ、ここの砦には門以外にも魔法陣が2つある、そこでお前が契約をしてから出発だ」

「魔法陣ですか! どの魔法になるんでしょうか?」

「『身体強化』と、召喚獣『ミオロゼ』だ」

「強化が取れるんですか! 前から欲しかったんですよね」

「ていうかあれだね、君は取れることを前提にして言うんだね」
 横にいたニーアが顔を覗き込むように訪ねてくる、それをミラが顔面を掴み押し戻す。

「何となくなんだけど、失敗するとは思えなくて」

「お前は召喚者なんだからよー、召喚の契約の方に反応しろよ」

「2カ月したら一旦学校にもどるでしょ? その時に剣技の先生に一泡吹かせてやりたくて」

「あー‥‥あの人か、俺の時はいなかったけど、めちゃくちゃな人だってのは話に聞いてるよ」

「一度も刀を当てたことが無くて」

「まー、そんな人だったら、一発ぐらいはぶっ飛ばしてやりたいもんな」
 ブライはうんうん頷いてくれる

「では、最初は強化の魔法陣に行こうか、そのあとはお楽し‥‥ゴホン! 召喚の魔法陣に行こう」

「隊長、お楽しみって言いかけましたよね?」

「そうか? 覚えてないな」
 



 ◇


 
「ホントにさっくりといったねー君は」
 さっくりと『身体強化』の契約を済ませ部屋を出る。

「次はお待ちかねの召喚の契約だな!! 私は初めて見ることが出来るから楽しみでな!! 期待してるぞ!!」
 
「そーいやぁそーだな! 俺も見たことが無いんだよ期待してるぞ!」

「あたしもだよ! 頼むよ、期待してるからね」

「同じく期待してます」

「この隊にも箔が付くからな、頼むぞハヤト期待してる」

 オリバー・ブライ・ニーア・タウロン・隊長が目をキラキラさせて「期待している」とは言うが、どの意味での期待だろうか?
 無事に召喚契約が出来るかどうかか? いや、違うなちょっとだけニヤついている感があるから、「おもしろ召喚者」としての期待だろう。

「ハヤトなら大丈夫よ、絶対契約出来るから」

 ミラは本当の意味での期待なんだろう、ニャついてない本物の笑顔だ
「お姉ちゃんに言われるとホントに自信がつくよ、ありがとう」

「うん! もし駄目だっととしても、お姉ちゃんの胸の中で思いっきり泣いてもいいからね」

 え!? ええっ! いいの? ホントにいくよ?




 ギィー、と召喚の間の扉を開ける、以前契約した3体の召喚の魔法陣と同じで色は黄色だ、魔法陣の横には係の人が一人佇んでいる。

「へーぇ、中はあの教会と結構違うもんだな、ありゃ~何年前だったかなー」

 この6人は全員召喚の素質が無い、軍学校で素質が無しと判断され一般の兵になった。しかし、あの宗教施設の召喚魔法陣には全員触れたことがあるのだろう、そしてそれっきり召喚施設には立ち入ったことが無いので、懐かしそうに部屋の中を見回していた。

 俺は壁に映し出される映像を見る、名は『ミオロゼ』双頭の生き物で、体は大型、犬のような体つき。
 てか、これ知ってる!

 映像を確認した後、ゆっくりと後ろを振り返る、視界の先にはニコニコ顔の6人がいる

「もしかしてとは思うんですが、おもしろ召喚者はまた変なモノを召喚するんじゃないだろうか、とか期待していませんか?」
 6人とも一斉にビクッ! とした、あぁお姉ちゃんもやっぱり思ってたか。

「期待を裏切るようで申し訳ないんですが、今回は普通の契約をさせてもらいますから」

 自分でもよくわからないが、何故だか勝ち誇った顔で6人の顔を見渡してから魔法陣に向かう。
 
 後ろで
「そんな訳ないじゃん」
 とか小声で聞こえるけど、今回は本当に自信がある、双頭に犬の体、ときたらアレしかいない、『オルトロス』だ。

 膝をつき、魔法陣に手を触れ、魔力を流す。
 
 オルトロスか‥‥‥‥子供の頃、犬とか飼いたかったなーと思い出す、親に犬が欲しいとねだったことがあったが、両親とも動物嫌いで許可は下りなかった、そんな時、たまたま公園に子犬の捨て犬がいて、学校帰りに給食の残りとかをあげていたが、いつの間にかいなくなっていた。
 大人になった今なら、その子犬がどうなったか何となく察しがつくが、あの時は必死に探したっけ。

 魔法陣が光の柱を発生し中に煙が充満する、考え事をしている間に魔法陣が起動したようだ。
 後ろの方からは「おおー!」と声がする、カナル隊の人たちは契約を成功するのを見たことが無いから、感動しているようだ

 やがて煙が引き、魔法陣の中が見えてくる、ミオロゼは大型の召喚獣であり4メートルほどもある
 しかし‥‥‥‥煙が晴れた魔法陣の中にはその巨体が無かった、今まで契約に失敗したことが無かった自分は、何が何だか分からず体が一瞬硬直してしまった、失敗したのが分かり口から息が漏れる。

 そりゃー失敗することもあるか、何でも契約出来ると少し自惚れていたかも━━
「「ワン!」」

「うわぁ!」
 いきなり目線の下からの声、驚きの声を上げてしまいその場から飛びのいた。
 
 魔法陣の中には二つの獣の頭
「成功したか!」 

「あれ? 小さ‥‥‥」 
 しかし体も2つある,体高が40センチ位の茶色と黒の2匹

「「 ワン! ハッハッハッハッ 」」

「‥‥‥‥」
 犬です、目の前に柴犬がいます、尻尾振ってます


「「「 クスクスクス! 」」」
 後ろからの何かを堪えるような声、隣にいるこの場を管理する人だけは驚愕の表情だった。

「犬‥‥‥‥」
 ぽつりとつぶやいてしまう

「「「ギャーッ ハッハッハッハッ!!!!」」」


「‥‥‥‥契約を果たせ、オル‥トロス‥‥‥‥」
 契約の言葉も名前も適当だ、後ろを振り向きたくないし、もう今日は帰りたい

「流石だなハヤト! 期待を裏切らない! ヒーーーっヒ!」
「プーッ!!」
「「「ぶははははhhhh・・」」」


 ◇

 おもしろ召喚者としての責務を無事に果たし、軍用車両でキャンプ地に向けて出発する。
 
 移動中というのはかなり暇なものである、本を読んだり、人によっては武器の簡単な手入れをしたりする、それしかやることが無い、そう聞いていた。

 だが今日は違っていた。

「よしよしよし!」
 茶色の柴犬が『オル』、そして黒色が『トロス』

 この召喚獣で分かったことが、「何もできない」 だ。要するにただの犬

 何もできないというなら役に立たないということか? と言われるとそれは違う、現に役に立っている。

「ワォーン」

 俺に腹を撫でまわされている茶色の『オル』は、気持ちよさそうにあお向けになりウットリと目を閉じている、ちなみにこいつはオス。

「「 可愛ーい!! 」」
 黒色の『トロス』は女性二人にじゃれ付いている、こいつはメス。

 他の男性隊員4人も、オル&トロスを撫でまわしたりして甘やかしている

 移動の2日間、カナル隊は全く暇を持て余すことなく、楽しい時間を過ごすことが出来た。そして俺は、召喚の魔法陣から召喚獣ではなく、愛玩動物を出した人物として伝説となった。
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