異世界陸軍活動記

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線香花火

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 店の奥に入ると小さな作業場があり、壁には多分修理待ちの武器防具だと思うが、ズラリと掛けてあった。
 その中に、見た事のある刀が一本

「あれ? この刀‥‥」

 ソルセリ―の3つに折れている槍を作業台にセットしながら職人さんは
「ライカの刀だ、お前の部下だろう?」

「ああ! やっぱり」
 どうりで見た事があるとおもったら‥‥、という事はライカの刀もこの人が作ったのか?

「ライカの刀を手に取って見た事がありますけど、変わってますよね? 普通とは違う」

 ライカの刀は金属と魔鉱石を混ぜて仕上げてある、通常ならそんなやり方では刀が脆くなり、使い物にならない、魔力を通す魔鉱石は本来、金属と混ぜてはいけないのだ。
 

「‥‥アイツの体質は他の奴とは違っていてな、一般的なやり方でも十分なんだが、ああやった方がアイツの力を引き出す事が出来るんだよ」

 ライカは他の人と魔力の使い方が違っていた。
 具体的には説明できないが、通常は触れた場所から導線を伝うように魔力を流す、だがライカは伝えるための導線が無くても魔力を流す事が出来る、例えるなら‥‥‥電子レンジ? 導線が無くても全体的に温まる。

 例えが悪いな‥‥‥‥まぁ、ライカは特殊体質という事で

「よく分かりましたね、特に調べたわけでも無いんでしょう?」

「ふん、何十年やってると思ってるんだ、それ位アイツが前に使っていた刀を見れば、どんな魔力の流し方をしているか分かる」

 そう言っている間に、ソルセリーの槍を3分割にバラバラにし、そしてノギスを使い繋ぎの部分に歪みが出ていないか確認する。
 小型のハンマーで歪みの部分を叩いて調整するが、その動きには迷いが無い

 カン!

 カン!

 全て一発で終わらせる、俺だったら何度も叩いたり確認をするのだが‥‥‥‥

「随分と痛んでるものだな」

 痛んでる? そうか? ソルセリーは殆ど戦ったりしていないし、覚えがあると言ったら‥俺の部屋のドアを突き破ったぐらいかな? 痛むような扱いはしてないような気が‥‥

「5年も持ってこなかったらそうなるか、おい、ソルセリーの隊長なんだろう? お前からもソルセリーに自分の武器を大事にするように言って置け」

「はい‥‥‥‥」
 そりゃ駄目になりますわ、任務が終わったら出しに来てるんじゃなかったっけ?

 幸いにも、槍の中に導線として流し込まれている魔鉱石には異常はないようで、折りたたむ箇所のつなぎ目と、多少の歪み程度で、他には異常はなかった。

 それにしても仕事が早いな、10分程か‥‥

 俺だったら2時間は掛かっていただろう、職人の動きには無駄が一切なかった。あっという間に終了し、3っつに分解した槍を戻していく

 ‥‥‥‥この人に、俺の大剣も直してもらえないだろうか? かなり酷使していたせいか、刃が欠け、いくら直しても握りがぐらつくようになった。

「あの、ここで修理してもらうとして、やっぱり予約をしないと無理でしょうか?」

「そうだな、後がつっかえてるからな、ソルセリーのようにいきなり持って来て、直せと言われても無理だな。‥‥‥‥なんだお前、直してほしい物でもあるのか?」

「はい、剣なんですが自分ではどうしようも無くて」

「武器は自分で手入れしてるんだろ?」

「さっき見せた刀のような、魔力ありきの変わった武器なら大丈夫なんですが、普通の武器・防具は俺の腕では無理なんです」

「ふーん」
 会話している間に、ソルセリーの槍は組み立てが終了していた。
 何度か折りたたんだり、槍の形にしたり確認した後

「どれ、見せろ」
 ソルセリ―の槍を脇によせ、作業台を空けた

「いいんですか?」

 職人はその問いには何も答えず、作業台を指さした。
 
 ここに置けという事だろう、指された作業台の上に『収納』から大剣を取り出し、その場に置く

 大剣を一瞥すると
「付与してあるのは『硬化』だけだな?」

「そうです」

 職人は棚の方に行き、その引き出しから短いチェーンの付いた人工魔石を取り出し、大剣の握りの下の部分、柄頭に取り付ける。あの人工魔石には『重力』が付与されている様だ

 『重力』が付与された魔石のおかげで軽くなった大剣を持ち上げ、刃を中心に確認をしていく、その目は鋭く、歪みや欠けの部分で一瞬手が止まり、そして次の部分に移る。

「随分痛んでるな」

「はい」

「それに‥‥かなり古い物だな、何度か後に手が加えられているが‥‥かなりの骨董品だ」

「へぇーそうなんですか?」
 知らんかった、どうりで作りが変わっていると思ってたけど。

「‥‥これお前の剣だよな? どこで手に入れた?」

「それは殺した奴から奪った物ですね」
 リテア様を狙った不届きもので、俺の手を切り飛ばしてくれた奴、‥‥今思うと、あれってヴァンギエル族だったのかな? 頭が少々大きかったような気がしたけど

「あのなぁ、いくら敵兵とはいえ、殺した相手の武器をいつまでも使うのはどうかと思うぞ、お前ら軍人ならそれ位分かるんじゃないのか?」

 殺害した兵士の武器を使う事は、縁起が悪いとしてそれをためらう人も中にはいる。呪われるとかそんな意味で

「いや、相手はハルツールの人間ですよ、都市の代表候補を暗殺しようとした奴の持ち物です、その剣に手を切り飛ばされましてね、そのせいか‥‥やけに握りが馴染むんで気に入っているんです。
 それにその剣は国家転覆を狙う様な犯罪者の持ち物ですから、その国を揺るがすような犯罪者の家族に返す謂れもないし、それだったら俺が国の為に使用しますよ」

「お、おう‥‥‥‥そうか」

 職人は納得したようだが、実際の所、戦場では敵の武器を奪って使う事が数多くある。敵兵を殺した場合、個人の確認用のタグは回収するが、武器までは回収しない、むしろ使い捨ての武器として使用する者が結構いる、逆に気持ち悪がって使わない者もいるが

 死んだ者が命を預けていた武器を、敵兵が使用する事はその者に対しても冒涜だ。
 なんて言われる事があるが、実際は奇麗ごとだけでは済まないんですよ、この事は実際に戦争をしている者にしか分からないだろう。

 くるくると回しながら確認していたが
「はっきりと言わせてもらうが、元道りにはならないぞ、刃もそうだが、軸の部分がもう歪んでいる」

「そうですか‥‥気に入っていたんですが、新しい物を新調するしかないのか」

「勘違いするなよ、この剣の製法が古すぎて直してもこの姿にはならないって事だ、今のやり方でなら直るし、前よりも性能は良くなる」

「本当ですか!」

「ああ、それでいいんだろ?」

「はい!」
 あれ? 直してくれるのかな?

「期日はライカと一緒でいいんだな?」

「はい、お願いします」
 要予約だった筈なのに、直してくれるみたいだ。
 良かったぁ~


 ・・・・

 ・・・・

「‥‥‥‥何で俺の店で茶なんか飲んでんだ」

「あら? もう終わったのかしら」

 ソルセリーの武器のメンテが終わり、無事に俺の大剣も修理してもらえる事になり、店の方に戻って来てくると、ソルセリーが優雅にお茶を飲んでいた。
 様子からすると、どうやら立ち直ったらしい、いつものお嬢様モードに入っている

「今度はちゃんと持ってくるんだな、ほら」
 折りたたまれた状態の槍を渡し
「代金は軍に請求しておくからな」
 そう言って工房の方に戻って行った

「どう? 隊長、参考になったかしら?」

「うん、参考になったけど、俺には手が届かない領域だね、何年やってもあそこまではなれないよ、あっ、それとライカの刀もここで作ったんだって」

「そう、それはいいとして次の場所に向かいましょうか」

 あれ? 反応が薄い

 ソルセリ―は椅子から立ち上がり、店のドアを開けた




 ◆◇

 ソルセリ―とその部隊を率いる隊長が店を出た時、職人は預かった大剣をじっと見ていた。その道の職人だからこそ分かるこの大剣の素性

「これは‥‥いつの時代の物だ」
 
 剣の軸が既に曲がっており、刃も掛けている、何度か改修された跡があり、直せと言われたら直す事は容易だ。
 しかし、この大剣は職人が知らぬ製法で出来ていた。

「千年‥‥もしかしたらそれ以上過去の‥‥‥‥」




 ◆◇

「ここよ」
 ソルセリ―の運転する車が駐車場に停車する、この場所で今日4件目の目的地になる、がっつり一日中連れまわされる事がもう確定している

 まぁ、別にいいですが

「ここって、美術館だね」

「そうよ、休暇の時はよく友達とここに来るの」

 はい、嘘でーす。ソルセリーに友達はいない、それは今日ソルセリーのお母さんに聞いた。
 というか、お母さんが言ってた

『ソルセリーには小さな頃から家族としかかかわりが無くて、友達を家に連れてきた事も無いんです』

 そんな事を言っていた。
 俺の予想でもソルセリーと親しい友達はいないと予測している、唯一仲がいいとしたら、エクレールしかいない、休暇になるとエクレールの家に押しかけて、なかなか帰ってくれないとエクレールが嘆いていた

 それに『ここは良く来るの』といいつつ道を間違えたり、鍛冶屋では『誰だ?』と言われたり‥‥‥‥
 ソルセリーの休みの過ごし方、その自分なりの予想として、家でゴロゴロしているタイプだと思う、どこかしら世間とズレがあるから間違いないだろう、余り家から外に出ないタイプだ。
 俺もそれに近い物があるが‥‥‥‥

 ただ、見栄を張る所は有るが、ソルセリー自身は素晴らしい女性だと思う。
 女性らしい美しい容姿、それに本来は優しい性格をしているし。
 最初こそ難はあるが、慣れると面倒見がいい、他の隊員達ともそれなりに話をし輪に入って行ける。
 タクティアとはちょっとあれだけど‥‥‥‥

 最後の破壊の一族として、彼女はその血を後世に残さなければならない、いつまでも戦地には連れてはいけない、早く相手を見つけ、家庭に入ってもらわないと‥‥。彼女に好意を抱かれた男性は普通は幸せに思うだろう

「隊長早く入りましょう」
 そう言ってくる彼女は、男性なら一瞬でクラッときそうな笑顔だった。

「うん‥‥」


 ・・・・

 ・・・・

 この世界の芸術は、地球である絵画や彫刻のほかに、魔法を使った芸術品がある。見せる・体験する芸術というやつだろうか?
 魔法を使った芸術と言っても、それほど難しい物でもない、地球でも同じような物もある。
 ライトアップだとか、ちょっと科学的な出し物とか‥‥ただ、この世界の魔法を使った芸術は少しだけ不思議な所がある‥‥が、納得できるって感じかな?

「これなんか凄いわよ」

「良く出来てるねーこれ」

 地球の科学的な出し物だったら、「これってどうなっているんだろう?」と頭を捻る所だが、魔法を使った芸術品だったら、「そんな風に魔法を使っているんだろうね」で終わる。
 
 俺のようにほとんどの魔法を契約出来る人間からしたら、芸術というよりも、「多分こういう感じで魔法を使って、こっちからまた別の━━」みたいな魔法の使い方で見てしまう。
 絶対音感を持っている人が、心から音楽を楽しめないように

 ただ、『消滅』魔法しか使えないソルセリーからしたら、ここはとても不思議で魅力的な場所らしい

「ねぇ! あっちの方も奇麗なのがあるわ」
 楽しいのか子供のようにはしゃぎ、俺の手を掴み引っ張って行こうとする

「あんまり慌てないでよ」
 彼女の笑顔を見ているとこっちも笑顔になる、暫く忘れていたこの‥‥‥‥

「わぁぁ‥‥」
 ウットリした表情で展示物を見るソルセリー

「へぇ‥‥」
 ソルセリ―が見初める程奇麗なその展示物は、魔石から水が湧きだしており、その水と一緒に小さな色とりどりの光の粒子が空中に拡散していく、その光はゆっくりと、そしてフラフラとどこに行くのか分からず、一つ一つが当ても無くさまよった後、『パン』と弾け消滅する
 
 その揺らめく光の姿は蛍のように‥‥蛍の‥‥

 俺は知らぬうちに、右手で自分の胸を抑えていた

 さっきまではしゃいでいたソルセリーは言葉を発せず、ただその光輝く粒子を見つめている

 俺も言葉を発する事はしなかった。ただその消える光を見ていた。
 その光は‥‥そう、まるで線香花火のように儚く消えていく。
 その光はあの時の‥‥‥

 どのくらい時間が過ぎたか? 大して過ぎていないようにも思えるし、かなりこの場に留まっている感じもする。
 二人とも言葉の無い状態が続いたのち、ゆっくりとソルセリーが口を開いた

「隊長‥‥わたし、ずっと‥‥‥いえ‥‥」
 何かを言おうとしたソルセリーだが、一旦言葉を止め、大きく息をはいた

「最初に隊長に会った時、助けに来てもらった時‥‥‥隊長と姉の姿を重ねてしまったの‥‥何故重ねてしまったのかは分からない‥‥でも、それからずっと隊長の事が気になって‥‥頭から離れなかった」

 目の前で消える光を見つめながら、ソルセリーは話を続けた

「その内、隊長がいないと不安になったり‥‥怖くなったりもした。‥‥それで私の心に、思いに気づいたの‥‥‥‥ずっと‥今までずっと言えなかったこと‥‥‥‥」

 ソルセリーは見上げるように俺の目を見つめ

「私‥‥‥‥隊長の事が好きです」
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