異世界陸軍活動記

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リテアの竜騎士

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「さあ! やって来ました! 全ハルツール国民が待ち焦がれた3年に一度の武闘大会! 今回も全国から選りすぐりの猛者たちが集まってきております!」

「あの‥先輩?」

「毎回、軍からの候補者が優勝を飾る大会、しかし大きな番狂わせが過去に無かったわけではありません、さあ、今大会はどうなるんでしょうか? 司会はわたくしウエタケ・ハヤト、解説は先行隊所属ポンドラスに起こし下さっております、早速ですがポンドラス、今大会の見どころをお願いします」

「あ、ん、すみません、付いて行けないっす‥‥いきなりどうしたんすか?」

 ポンドラスは俺の高揚した気分についてこれなかったようだ

 昨日、体調を万全にしておこうと思い、太陽が沈む前に就寝したが、あまりに寝るのが速すぎたため、3時間ほどしか寝られずその後ずっと起きていた。
 明日リテア様にお会いできると思うと興奮してそれ以上寝る事が出来なかった。
 今の俺は明け方前のコンビニの店員ごとく、ただし、俺が出場する召喚の部は試合が明日なので、体調とかどうでも良かったのだが‥‥

「今日は大事な日だからね、地上の女神とうたわれたあのリテア様とまたお会い出来るんだ、これが興奮せずにいられないよね?」

「地上の‥‥女神っすか? あれ? またって言いましたよね、以前どっかで会ってるんすか?」

「以前、護衛を務めさせてもらった事があってね━━」

「あっ! あれやっぱり先輩だったんすね! 見たっす、見たっすよ! 何とか・ゴーンて名前が出てましたけど、部隊でも噂になってたんす、もしかしたら先輩じゃないかって!」

「ゴーンじゃなくてガーンね、フェルド・ガーン」

「何百人とも言われる追手を振り切って、たった一人で守り通したんすよね? やっぱ先輩すげぇっすよ!」

「うむ! まあね!」
 途中意識が無かったので何百人もいたのか分からないけど、そんな風に噂がたっているなら別にそれでもいいかと思う、ちゃんと最後は頑張ったし、噂で出た手柄は独り占めしておこうか

 とか何とか言ってると、同じ部隊のライカが来た
「どうだって?」

「やっぱり駄目でしたよ」
 剣技の試合では、指定された『保護』付きの武器を使わなければならない、そうする事で怪我をせず戦う事が出来る。
 ライカは以前俺が作って上げた練習用の刀、それを使用したかったらしく、先程まで交渉していたがやはりダメだったようだ

「そっか、駄目なものは仕方ないね、まぁ、指定された物でも楽勝でしょう?」

「ええ、負けはしませんよ」

 今大会で、ウチのハヤト隊の連中は応援には来ていない、応援に来ても勝敗は変わらないからだ。
 元々、軍の力を見せつけるための大会で、今までも圧倒的な差で『剣技の部』『召喚の部』で共に優勝をしていた。
 常に戦っている軍人に一般人が勝てるはずも無く、例えるならプロの選手にアマチュアが挑むようなもの、それでもこの大会は人気があり、ハルツールの国民の殆どが見ているという、3年に1回というのも関係しているのだろう

 ただし‥‥ごく稀にだが、一般人が軍人を倒し優勝する事があり、負けてしまった軍人は一生ネタにされるようになる。
 一方、優勝した一般人にはもれなく軍からのスカウトがかかる

『剣技でライカ、召喚で俺、優勝が確定しているから別に応援とか必要ないよ、こんな出来レース見ても面白くないだろう? 家でゆっくりとしてな』

 部隊の皆にはそう言ってこなくてもいいよ、と言っておいたが、そしたら本当に来ないとは思っても無かった。
 同じく召喚の部で出る事となったポンドラスには、部隊の人間が応援に来ているというのに‥‥

 ちなみに、召喚の部で出る俺とポンドラスだが、決勝戦で丁度当たるようになっている、正直ポンドラスが俺に勝てる可能性は少ない、ポンドラスには悪いが、俺にとってはポンドラス如きだ

 召喚の部では、召喚獣を何体も出す事が可能で、召喚出来る数で勝る俺に負けは無いのである。
 中には出してはいけない召喚獣が2体ほどあるけれど

「先輩そろそろっす」
 ポンドラスが時計見て、開会式の時間であると教えてくれる

「そっか、ならもう行こうか、ライカは開会式が終わったらすぐ試合だけど頑張ってね、言われるまでも無いだろうけど」

「はい、優勝してきますよ」
 流石はライカ、自身に満ち溢れている

 ちなみに、鍛冶屋で職人さんに「刀を見せろ」とせがまれたのは、このライカが以前から俺の刀の事を話していたらしい、何となくそうだろうと思っていたけど、やっぱりそうだった

 開会式ではライカは剣技の部なので、俺とポンドラスとは並ぶ場所が違う為ひとまず別れる事となった。

 ・・・・・

 ・・・・・

「‥‥先輩、一番前ってのはやっぱり嫌っすねぇ」
 ポンドラスが小声でささやいてくる

「‥‥まあね、異様に目立つし」
 
 この武闘大会は開会式からハルツール中に放送される為、撮影用の魔道具が既に動いている、整列した俺とポンドラスは最前線に立たされ、ばっちり魔道具に映っていた。
 前に遮る物が無いのは少々落ち着かない、だが、今回武闘大会の開催を宣言するのはあのリテア様だ。
 そうなると最前列でリテア様のご尊顔を拝見出来るというもの、そう思えばこの最前列も悪くはない
 
「先輩、タスブランカの代表ってどんな人っすか?」

「どんな人って、そりゃ‥‥気高く可愛らしく、自己犠牲の精神を持っていて、まさに次期ハルツール主席の座に申し分ない御方だよ」

「へぇ~先輩がそこまで言うんなら、相当‥‥あっ、来ましたよ」

「なにっ!」

「先輩、声デカいっす」

 デカくもなるよ、『あの』リテア様だ。またお会いできるとは‥‥

 後ろに軍が用意した2人の女性の護衛を付け、まるで春に流れる風のようにあの方がお姿を現した

「な‥‥何とお美しくなられて‥‥」

 久方ぶりにお会いしたリテア様は、『生命の契約』期間が終わっており、以前の10歳程の姿ではもうなくなっていた。
 体付きは15歳程の体に成長し、愛くるしいお姿から、とても美しい女性へと変わられていた。身長も伸び、スラリとしたその体‥‥スラリ‥‥‥

 残念ながら縦には伸びたが、横の方が伸び悩んでいるようだ

 大丈夫ですリテア様の体はまだ成長期ですから、諦めないで!

 開会の宣言の為、ステージの階段へ足を掛けようとしたが、不意にこっちの方を見たリテア様と目が合った。その時リテア様はニッコリとほほ笑んだ

「先輩、こっち見て笑ったっすよ」

「その中にお前は入ってない、俺だけにほほ笑んだんだ」
 よかったぁー、忘れられてなかった

 そのままステージに上るかと思いきや、リテア様は方向を変えこっちに歩いてきた。後ろに付いている護衛も突然の事で慌てている

「先輩、こっち来たんすけど、何でですか?」

「い、いや、俺も知らん」
 予想外の事に、俺とポンドラスにも緊張が走る、周りの出場者もどよめいていた

 そしてそのまま俺の目の前まで来たリテア様は
「久しぶりね、フェルド」



 その言葉でウエタケ・ハヤトの名は捨てた


 
 ◆◇◆

 ハヤト隊の隊員の一人であるエクレールは、朝の日課である素振りを終え、ソファーで寝転がっていた。
 昼前だというのに、服は寝間着のまま髪はボサボサ、お菓子を食べながらダラダラと過ごす。

 いつもは何事にもきっちりしている彼女だが、たまにこんな日もある、いつもきっちりしていたら息が詰まるという理由で、休暇の際には一日くらい意図的にこんな日を作ったりしていた。それがたまたま今日がそうだった。
 今日は誰も来る予定はないし、家で隊長とライカの試合でも見ていようと、ソファーに陣取っているのだ。
 手の届く範囲にはチョコレートを箱ごと用意してある、これで試合を見ながら‥‥‥

 ピンポーン!

「はぁ~誰だ? 一体」

 ピンポーン!

「‥‥‥まだ着替えてもないし、居留守を使うか」

 ピンポーン!
 ピンポーン! 
 ピンポーン! 
 ピンポ! 
 ピンポ! 
 ピン! 
 ピン!
 ピ!
 ピ!
 ピ!

「あーっ! うるさい!」

 もう恰好なんてどうでもいい、せっかくの一日を台無しにしようとしている、迷惑な訪問者に文句でも言ってやろうと、玄関まで行き、力の限り思いっきりドアを開けた。

「いきなり誰だ! こっちは休暇ぁ! ‥‥‥ソルセリー」

 ドアを開けると、右手にガントレットはめたソルセリーが、そこに立っていた。

 殴られる

 咄嗟に思ったが、エクレールが殴られる事はなかった。

 
 ・・・・

 ・・・・

「そうか‥‥でもまだ駄目という訳では無いのだろう?」

「ええ」

 エクレールは、遂にハヤトに思いを告げたとソルセリーに聞いた。
 ハヤトの答えは『今はその事について、まだ返事をする事はできない』だった。一見断られたように見えるが実際はそうではない

 『まだ』と言われたから
 良い答えが貰えたわけではないのに、ソルセリーは落ち込んでなどいなかった。いつも道りの彼女にエクレールはホッとする、無理にそう演じているかもしれないが、もしかしたら長年言えなかったことを言う事が出来、スッキリしている部分もあるのだろう、時折笑顔を見せるソルセリーと会話を重ねていた

「それにしても貴女がそんな恰好でいるなんてね‥‥」
 奇麗に整えた髪と、優雅な服装のソルセリーとは対称に、寝間着姿のボサボサの髪、人には見せたくない姿だったが、開き直っているエクレールにはもうどうでもいい事だった

「わ、私だってこんな気持ちの日もあるんだ」
 エクレールはそんな事よりも、ソルセリーが右腕にはめているガントレットの方が気になっており、触れてもいいものかどうか? 判断に悩んでいた。
 触れると話が長くなりそうだが、そろそろ試合が始まる頃だったので控える

「まあいいわ、そんな事よりそろそろ始まるわよ」

「おっと、そうだったな」
 
エクレールが当初しようと思っていた事、武闘大会の視聴の時間になった。視聴するには一人増えたが穏やかモードのソルセリーだから楽しく視聴できるだろうとその時は思っていた。

 映像には会場が映し出され、剣技の部で出るライカと、召喚の部で出る隊長が数秒映る。
 ライカは直立のままその場で姿勢を正しており、隊長であるハヤトは、視線は前を向いていながらも、隣にいる人物と話をしている様だった。
 声までは拾えていないが口が小さく動いている

 チラリとソルセリーの表情を除くが、特に変わらずいつものソルセリーだった。

 良かった、いつものソルセリーで‥‥‥‥

 隊長であるハヤトの姿を見ても、特にいつもと変わらぬソルセリーを見て、エクレールは安堵する

「ん? タスブランカの代表は本人か? 前見た時と違うんだが」
 前見た時よりも、見た目が違うように思える

「それはそうよ、『生命の契約』期間が過ぎたんだから、今から体の方が成長しているんでしょう」

「ああ、そうか‥‥どうりで、あっ、花騎士だな」

「そうね、いつ見ても派手ね」

 軍の部隊で唯一、女性だけの部隊『花騎士』と呼ばれる彼女達は、本来軍や国の儀式・式典などに出席をする専用の部隊、まだ首相になる前のゴルジアが提案し、軍がそれを受け編成された

 本来儀式などに出席するだけでよかったのだが、最初の花騎士の隊長を務めた女性が、
『儀式に出席するだけでは納得いかない、我々も軍人なのだから戦地に赴きこの国の民を守る』

 そう軍本部に申請をし、それが受理され大陸東部の一番安全な場所に配属された。だが、安全な場所であるにもかかわらず、花騎士は2人が死亡、その他の隊員は全て行方不明になった。
 それが大体40年ほど前、軍は花騎士が全滅したと断定、その日から5年後に新しい花騎士が編成され、それが今につながる、それ以来、花騎士に編入される女性は戦場に送られることも無く、儀式や式典などだけに参加する事になった。
 ちなみに花騎士は、容姿端麗な女性から選ばれ、男性兵士なら誰でも憧れるという、しかし、他の女性兵士からは良く思われていない所がある


「ソルセリーが一族の出身でなければ、今頃はあそこにいたのかもしれないな」
 
 見た目で言ったらソルセリーも引けを取らない、いや‥‥今の花騎士よりも見た目では勝っているだろうな、もしかしたら軍で一番の美女ではないか?

「そうね」
 
 全く否定はしなかった。その自信を羨ましく思っていると、タスブランカ代表がステージに上がらず、選手の方へと歩みを進める

「何だ?」
 突然の事で撮影者も慌てたのか映像がブレ、ガサガサという音と同時に音声が聞こえてきた

『久しぶりね、フェルド』
 タスブランカ代表の声が聞こえてくる

 代表の声を拾っているのか?
 
 この時エクレールは何となく嫌な予感がした。もう嫌な予感しかしない

『リテア様もお元気そうで何より』
 ハヤトは頭を垂れ片膝を付き、胸に右手を添えている

 すると代表は、ハヤトの目の前に右手の甲を見せて差し出した。少し驚いたハヤトは、そっとその出された手を取り手の甲に‥‥口づけをした。

「んがぁぁぁぁぁ!!」
 軍で一番の美女とは言えないような鼻声を出し、ソルセリーは目を見開いていた。

 ただそこで終わらなかった。
 代表は少しだけモジモジした後、ハヤトに顔を上げさせ‥‥ハヤトの額にキスをした。

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」
 もうエクレールもソルセリーも声を出せない、会場がどよめいている音声だけが部屋に聞こえていた

『フェ、フェルド、貴方の試合は明日からだったわね』

『はい』

『なら私の護衛を務めなさい』
 代表は『収納』から鞘に納められた一本の剣を取り出した。形から見て細身の剣

『仰せのままに‥‥‥‥』
 ハヤトは両手で剣を受け取ると、深々と頭を下げる

『ついてきなさい』

『はい』

 代表が背を向けると、ハヤトがその後ろに付き、慌てて花騎士の2人もハヤトの後に続く‥‥‥‥

 ‥‥‥‥これはまずい! そう思いエクレールはソルセリーの顔を伺う、目を大きく開けたままプルプルと体を揺らしていた。

「ソ、ソルセリー大丈夫━━」
 そう言いかけたその時

「あああああああ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁあ゛!!」
 悲鳴にも似た声を上げ立ち上がり、右手に装着しているガントレットで、映像を映し出していた魔道具を殴りつけた

 ガシャーン!

「ああっ! 私の家の━━」
「あんな! あんなダイモみたいな女のどこがいいのよ!」
 ソルセリーは殴りつけ、壊れた魔道具に更にガントレットを叩きつける

「ダイモ女が! ダイモ女が! バカーァァァァ!」
 
 エクレールは、手の付けられなくなったソルセリーに茫然としながらも、徐々に細かくなっていく魔道具を見守る事しか出来なかった

 ちなみにダイモとは、長く細い野菜で、体の凹凸の少ない女性の事を『ダイモのような体つき』と言う事がある

 魔道具が壊れた事で、その後のライカの試合を見る事が出来なかったが、その日の夕方、落ち着きを取り戻したソルセリーから「ごめんね」とお詫びの言葉と、最新式の魔道具が送られる事になった。

 その後
「明日も来るわ」
 そう言い残し帰って行った

 エクレールは最新魔道具の映像の美しさや、多種な機能を確認しそのすばらしさを堪能したあと、家で一番古い、洗濯用の魔道具をリビングに移動させた
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