異世界陸軍活動記

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ドルバ・アメリ ②

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 ハルツールとマシェルモビアの戦いは遥か昔から今日まで続いている。
 その間には戦争が全く無かった期間もあった。それは互いに消耗した力を蓄える為の休戦、そしてある一定の力を蓄えた両者はまた戦争へと突き進む

 だがハルツールは今、蓄えていた力を使い果たし衰退の道を辿っていた






 この大陸は北にマシェルモビア、南にハルツールと別れ、その中間には緩衝地帯と呼ばれる土地が存在していた。
 太古の厄災グラースオルグにより突如魔物が溢れ出し、人が生存する事が困難になった場所である。しかし緩衝地帯でしか育たない植物や鉱石などあり、人は危険を承知でその場所に足を踏み入れていた。
 そして緩衝地帯の中でも、最も危険とされている大陸深部‥‥。
 出現したグラースオルグが大陸を西から東に掛け横断した場所であり、それは天使ネクターが最後に討伐した場所まで続いている。
 大陸西部から中部を越え東部の3割程侵食されたその場所は、力の持つ者でさえ拒む大きな壁であった

 故に相手国に侵略するためには大陸東部からの侵攻しかなく、それまではそこに戦力も集中し国力も同等なために良くも悪くも戦力は均衡を保っていた

 だがそれも5年前のあの日に破られる事になる。
 マシェルモビアは超巨大なオーガ、後にハルツールによって特殊個体オーガ(特殊オーガ)と命名。その特殊オーガを使い次々に砦を破壊。
 そして2年前、その姿をハルツール国内に現し、その異常たる姿にハルツールは恐怖した‥‥‥

 大陸東部で緩衝地帯に最も近い移転門を奪われた事で、一気に兵士や物資をハルツール国内に移動できるようになったマシェルモビアは、特殊オーガを使い、移転門に近い都市2つを落とした。
 それだけではなく、ハルツール側の緩衝地帯を通り中部、西部の都市も落とそうと動いている





 ◆◇

「という訳だ、今の所特殊オーガの情報はない、皆からは何かあるか?」



 所属していた部隊はあの撤退で俺以外全員帰ることは出来なかった‥‥その後、あの作戦に参加した者全員の昇進が決定した。
 無事に帰って来た者達は1階級昇進、亡くなった者は2階級、そして竜騎士の称号を受けた2人は3階級の昇進となった。
 俺は伍長から軍曹に昇進し、新しくサラセ小隊に配属された。元は大陸西部の緩衝地帯に配属されていた部隊だったが、人手が足りず東部緩衝地帯にまで引っ張り出されている。
 人手が足りないというのも、あの作戦で亡くなった1万以上の命が失われただけではここまでにはならない
 
 あの日‥‥大陸東部緩衝地帯でも多くの命が失われた。
 通信が完全に途絶えたことで周りがどのような状況かも分からず、いきなり現れるマシェルモビア軍によって、あの場所にいた兵士達はほぼ全滅したと言われている。
 それにより圧倒的に兵士の数が足りず、大陸の西部、中部の緩衝地帯を守っていた兵士もマシェルモビア軍との戦闘に駆り出される事となった。
 噂では軍学校の生徒も学徒兵として戦争に出すと聞いている。階級が下の俺にもその噂が聞こえてくる位だから、その噂もあながち間違っているとは否定できないだろう。
 その噂は俺だけではなくハルツール国民の間でも流れ、今では軍学校の入学志願者が激減している。
 それまで入学志願者が倍率の30倍を常に超えていた状態だったが、2年前から高等部を卒業したら誰でも入れると言われているほど‥‥誰でも入れるが故にその質もかなり落ちたらしい


「無いようならこれで終わる、各自準備を整えた後任務に向かう」

「「「‥‥‥」」」

 この小隊は士気が低い。
 そもそも兵士にも適性がある、魔法や召喚獣の契約出来た種類や、剣技の腕など向き不向きで対人、もしくは対魔物に分けられる。
 対魔物での方が実力が発揮される、もしくは対人では不安と判断されれば、前線には出ず緩衝地帯付近の村や町への駐留、もしくは東部緩衝地帯にあるキャンプ地周辺の魔物狩りが主な任務になる。
 このサラセ小隊は元は魔物専属の部隊で、対人戦闘などほとんど無かった。それがこの兵士の不足からこちらの方に回されてきていた。
 本人たちも不安でどうしようもないなか、慣れない任務をこなしていた。
 任務から帰ってきたとき、彼らの口からは不満の声しか聞こえてこない程だった



 そろそろ限界だろう‥‥
「隊長少し待ってください」

 この士気の低さは隊にとって致命傷となる、まだ無いとは思うが敵前逃亡する隊員も出てくるかもしれない。その前に━━

「なんだドルバ」

「今日から隊列の先頭は俺にやらせてください」

「‥‥まて、お前は召喚者だ。先頭に立たせる訳にはいかない」

「いえ、やらせて下さい、俺は軍学校卒業後、直ぐに前線に立ちました。数々の戦闘を乗り越え、対人に関してはこの小隊で最も経験があります。だったら前列をするには俺が最適でしょう」

「おいドルバ、それだとお前が危険にさらされるだろう、ここは俺達がやるからお前は隊列の中心に━━」
 
 この小隊に入った初めての召喚者に対して、心配で声を掛けてくる隊員もいるが

「いや俺がやる、召喚者だからって後ろで守られているのは俺の性に合わない。第一、召喚者でも常に先頭に立って単独行動もする召喚者だっているんだ。
 俺はその人の事を良く知っているし、その戦い方も見て来た。だから問題ない、‥‥‥それに、皆不安だろう? 今まで魔物から守ってきた村が自分達がいなくなってしまったからがら空きになってしまった事も心配だし、自分達がこれから戦うのは魔物ではなく人。自分達の戦い方が通用するのかどうかも分からないし。
 今まで守ってきた村がどうなるのかは俺にもどうしようもない、でも対人、マシェルモビアとの戦い方は俺に任せてくれ」

 皆、自信がないんだ。だから不安になる、その不安が士気を下げる原因となる。だったらその不安を少しでも和らげておかないと

「それに俺はあの深部を越えて来た男だぞ、俺に怖い物なんてないからな」
 はっはっはーと無理やり高笑い

「ドルバ‥‥‥」
「‥‥分かった。でもお前の前は俺に任せてくれ、これでもこの部隊の先頭を務めて来たんだ。それ位はする」

「そうか、仕事を奪うのは申し訳ないしな、なら俺は2番手に付けよう」

「そうしてくれ」

「隊長もそれでいいですか?」

「ああ」

 隊列の2番手に付く事が決まり、各自準備に一度戻る。
 戻る際、隊長に肩を掴まれ
「済まないドルバ」
 そう声を掛けられた



 ◆

 サラセ小隊の役割は、大陸東部緩衝地帯を進行する敵軍に対し、建設中の砦を守る事。
 建設中の砦の守護とその周囲の警戒にある。
 東部の緩衝地帯において、魔物は大したことが無い。だが問題なのは敵軍であり、強いて言えば特殊オーガである。
 特殊オーガと遭遇した場合は即時撤退を命令されている。それはあの無敵と言われたリクレク中隊ですら相手にならなかった化物であり、戦闘はもちろん接近も禁止されている。
 接近と言っても、幸い大きさが大きさなので遠くからでも分かるのが救いか‥‥‥

 その守る対象となる砦には対特殊オーガの為の砲台が建設されている。軍艦などに配備されてる大きさより更に大型の物だった。
 完成前に砦を落とされては今までの準備が無駄になる為、建設中の砦には数多くの兵士が守っている。その中でサラセ小隊は周囲の警戒に当たる為、砦を後にした

 上空には味方竜翼機がひっきりなしに飛び、上空から警戒に当たる。
 俺はこれほど忙しく飛び交う竜翼機を見たことが無い、その事が少し胸の辺りをざわつかせていた。大陸西部緩衝地帯にいたサラセ小隊にはもっとざわつきが酷いだろう、気持ちが落ち着かずどうもそわそわしてしまう

 おれはノースの形見でもある天然の魔石が付いている探知用の杖を持ち、周囲の探知をする。
 この杖は天然の魔石が付いている為、異常な性能を発揮する。個人が使用する探知用の道具のどれよりも素晴らしい性能だ。
 しかも性能の価値だけではなく、その金額としての価値も相当で、あまり人前には出したくはない程‥‥、最初この部隊に配属された時、この杖を出していいものか少し考えた程だった

 しかし‥‥その性能を発揮できるのは姿を現している人と魔物に対してであり、当然『潜伏・隠蔽』を使用しているマシェルモビア兵には当てはまらない。
 今では当然のようにハルツール軍で使われている探知方法で、少しやり方が変わったが。
 魔物だけに反応する探知、『潜伏・隠蔽』解除、生命全てに反応する探知。これを繰り返しする事で魔物と解除に反応したマシェルモビア兵を探し出すことが出来る。
 でも、どんなに優れた探知用の杖であっても、『潜伏・隠蔽』解除の魔法の効果範囲は50メートルしか届かない

 そして砦を離れて2日目の昼過ぎ、突如生命探知に反応があった

 
 その時は突然やってくる‥‥‥







「おぉぉぉぉ!」
「援護を!」
「召喚獣に構うな召喚主を狙え!」

 敵の数11

 小隊と小隊の戦いだった。
 解除の魔法が発動したと同時にマシェルモビアからの先制攻撃、戦いの際どうしても相手からの先制攻撃を受けてしまうのはどうしようもない、だがそれを対処出来なければハルツールの兵士としてやっていけない。
 だがしかし、味方は魔物相手の戦いには慣れているが、まだマシェルモビア兵との戦いには慣れていない。
 先制され、それが致命傷となるのは当然だった。
 どの声が味方でどの声が敵なのか? そすら判断できない程の怒号が飛び交う

 接敵したのは多分偵察部隊ではあるが、戦闘をしないとは限らない。マシェルモビアは不利となると直ぐに戦場から離脱をする。
 これは『潜伏・隠蔽』魔法があるからこそ先制出来るのと、離脱してまた魔法を使えば安全に逃げる事が出来る。
 だが今回の先制攻撃でハルツール側が3人やられ、地面に伏して生きているか確認が取れない、確認する暇もない。
 それを好機と見たか一気に畳み掛けて来た


 ・・・・・

 ・・・

 ・



 正直、部隊の前衛などやりたくはない。
 俺はそこまで勇敢でもないし、それだけの技量も無い。
 剣技は人並み、魔法もそこそこ、取り得は召喚だけ。
 そんな俺が目の前の敵兵に勝てるはずが無いのだ

 俺には分かる、目の前にいる敵兵は精鋭中の精鋭だと、じゃなければこんな場所まで、建設中の砦から1日の距離の場所まで出張って来れるはずがない。
 もう既に敵はあの建設中の砦を落とすつもりでいる、完成する前に落とす気でいる。
 ここを乗り切れても今度は一気に大軍をあの場所に向けるだろう、要するにどのみちあの砦を拠点としている自分達はマシェルモビア兵によって討たれる可能性が高い

 つまり、殺される

 でも死ぬわけにはいかない、俺には家族がいるこの場を乗り切り帰らないとここで終わってしまう。
 妻のマースにまた悲しい思いをさせてしまう

 だから━━

「やられるか!」
 敵兵の刀を思いっきり叩き、斬撃を弾いた

 探知魔法を使う余裕などなく、仲間が後何人残っているか敵が何人残っているかすら確認できない。
 ただ俺には敵が2人付いており、魔法と刀が振るわれているという事実だけ。1人は召喚者で相手の双頭のミオロゼが、俺のカーネロと戦っている。
 俺は後ろに跳びながら魔法を放ち相手との距離を取ろうとするが、召喚者ではないもう一人の兵士がそれを許さず同じく魔法に魔法を当て爆発させて無効化を図る。
 出される斬撃を寸前の所で刀でいなすが、2人がかりの攻撃全てを躱せるはずも無く、鎧に次々と傷が増えてゆく

 帰るんだ! 妻の元に帰るんだ! ここで死ぬわけには━━っ!

 そこで丁度視界にもう1人の敵兵が向かっているのが映ったそれに気を取られたのか、それまで運よく斬撃を弾いていた俺の刀だったが、その刀が宙を舞った

 俺の右手首と一緒に‥‥



 左手首まで切飛ばされなかったのは運が良かったのか、いや、どの道右利きの俺には2人の攻撃を左手で堪える程の度量はない。
 切り飛ばされた右手が宙に舞っている間に相手の次の斬撃が振り下ろされる、それを何とか受けようと『収納』から取り出したのは、戦闘が始まる前にしまっておいた探知用の杖だった


 はっ‥‥はは‥、自分で呆れる。
 こんな時にこんな凡ミス、杖なんか出して探知でもしようとしたのか?
 
 自分のアホさ加減を感じながら敵の刀が振り下ろされる瞬間を見るしかなかった。それでも敵の攻撃に反応した左手がそれを受け止めようと杖を構え━━



 カッ!

 刀を振り下ろそうとした敵兵の姿が一瞬光り━━

 

 突然あの人が空からやってきた

 ドスン! と鈍い音がした時には、もう敵兵の体には槍が突き刺さっており、その槍と一緒に落ちて来たその人は、敵兵を貫通した槍を一度消すと、次には槍をもう一度出し、もう1人の敵召喚者に向かって投げつけた。
 投げる前に敵召喚者が光り一瞬動きを止め、それに引き込まれるようにかなりの速度で放たれた槍は召喚者の顔面を直撃し貫く、すると何故か投げつけたはずの槍は貫いた敵兵と共にそのまま投げた本人に戻って来た。
 一緒に付いてきた敵兵をその人は足で蹴飛ばし引き抜くと、俺に向かって来た3人目にそのまま槍を突きだす。
 だが、その敵兵は目標を俺からその人に移しており既に斬撃を繰り出す体制に入っていた。槍を突きだすよりも先に攻撃が届くはずだった。
 だが振り下ろされる刀は、槍の持ち主から槍を中心に放たれた螺旋状に吹き出された『風』魔法により、振り下ろされるはずだった刀を弾かれ、そしてがら空きになった首元に槍が突き立てられた


 そして

「召喚 ドライアド」

 強く黄色く光る魔法陣が現れ、その中から人の形を模った物が現れた。肌は木目調で、髪は葉で出来ており、その姿はまるで木の人形のようだった

 召喚魔法陣から間違いなく召喚獣であるが、あんな召喚獣など見たことが無い。
 その召喚獣はその細い両手を上に掲げると、周りにある木々が生命を与えられたかのように一斉に動き出し━━

「ぎゃっ!」
「あっ━━!」

 周りの木の枝が、根が、敵兵の悲鳴と共に体を打ちのめし、貫いていた。
 枝により貫かれた敵兵はそのまま生贄を祀るように高く掲げられ、まるで倒した獲物を見せつけるように、もしくは褒めてもらいたいようにその召喚した人の前に差し出される

「よし、お前らよくやった。それにしてもノース久しぶりだな、何年ぶりかな? 俺日にち数えてないから何年経ったのかは知らないんだけど」
  
 その人は俺の方を振り返り顔を見た後、視線を前に戻したが、直ぐに二度見した

「えっ‥‥だ、誰?」




 あぁぁ‥‥あぁ‥‥そんな‥‥そんな事‥‥
 
 涙が溢れ、その人の顔が滲む。もっとその人の顔をよく見たいと左手で涙を拭い、俺の目の前で困惑しているその人の目の前で、俺の『収納』の奥底にずっとしまってあった櫛を取り出し、髪を高く逆立てた





「俺っす‥‥先輩、俺っすドルバっす、ま━━また会えて嬉しいっすよ!」 
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