異世界陸軍活動記

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ケンタ君の憂鬱

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 ケントゥアルクゥ・アルカシャーツこと、『ケンタクン』

 彼は初等部の時、今の隊長であるハヤトにケンタ君と呼ばれ、それ以降その名が定着してしまった。同じクラスメイトはもちろんの事、親や親戚まで彼の事をそう呼ぶ。
 ガッチリとした体に精悍な顔立ち、誰よりも率先して動く性格な為、初等部から高等部までずっとクラスや学年のリーダーだった。
 運動神経も良くその上頭も良かった彼は、周りから将来どんな職業に就いて立派な大人になるのだろうと期待を受けていた。
 公務員か? 会社の重役にまで出世するのでは? まさか都市の代表に?

 そんな期待を受けていたが、彼自身は自分の中にその答えを初等部の時から見つけていた



 『それじゃあケンタ君も元気でね、さよなら』
 
 初等部の途中でいなくなった一人の大人の人、最初は走る事も出来ず、同じクラスの女の子とずっと座っているだけの弱い男の人。
 ただある日を切っ掛けに走り回り、自分達のような子供と一緒になって走っていた男の人

 『うん‥‥』
 ただそう答える事しか出来なかった自分

 そして周りには別れを惜しんで泣いている子、寂しそうにしている子、いつ帰って来るの? と状況が分かって無い子。
 ハヤトと呼んでいた男の人がいなくなった次の日、初等部のクラスはとても暗く感じた

 それから約1年後、そのハヤトが軍学校に入学したと聞いた時、ケントゥアルクゥ・アルカシャーツが始めて触れた職業の名であり、その日から軍という『職業』を意識した

 ケントゥアルクゥ・アルカシャーツ、通称ケンタクンはその後、軍学校に入る事になる。
 成績は優秀でトップ3に入る程、ここでも将来を有望視されゆくゆくはリクレク隊にへとの話もあった。だがその数年後リクレク隊はほぼ壊滅、後に再編成するほどの大きな大敗をハルツールは期した

 そして‥‥












「よお、コトン久しぶりだな」

「うん、久しぶり」

 ケンタクンはコトン・ラティウスと同じ部隊に配属される事となる。
 以前は物事をハキハキ答え、前向きな性格をしているコトンだったが、久々に会う彼女はまるで別人のようだった。
 将来は結婚すると心に決めていたハヤトが、マシェルモビアで戦死し失意の底にいた彼女。唯一の救いがハヤトが契約した召喚獣『デュラハン』が彼女の側に居たからだろう。
 もしデュラハンがいなかったら‥‥どうなっていたかは分からない

 そして、そんな時にウエタケ・ハヤトの生存が確認された。
 その時号泣し、泣き崩れたコトンの姿は一生忘れることは無いだろう‥‥

 だから‥‥コトンには幸せになってほしいと思う






 でも━━


「それでグース隊長が、うちの村で収穫できるクオルシが一番美味しいって言ってくれて」

「へ、へぇーそうなのか」
 ケンタクンは軍用車を運転しながら、レンダルの話に相槌をうつ

「‥‥」

「レンダルが入れてくれたクオルシは最高に美味しいよって、褒めてくれるんだよね」

「そ、それは凄い」
 相槌を打ちつつも、バックミラーで無言のコトンの様子をうかがっていた

「‥‥」

 これから戦地へ軍用車で向かう途中、車内の空気は最悪だった。
 この悪い空気の原因は、まず隊長であるハヤトが車に乗り込み、その後レンダルがハヤトの席の左側に座った事から始まる。
 以前からハヤトの左側にいるというこだわりを持っていたコトンにとって、それは許しがたい事だった。
 流石にもう大人なのでそこを変わってほしいとは言わなかったが、それでもレンダルに対する目が完全に敵として認定されていた

 ハヤトとの思い出話にふけるレンダルを、ケンタクンは相槌をうちつつコトンの様子をうかがう。
 まばたきせず、じっとレンダルを見つめるコトンに恐怖を少し覚える。
 その視線をレンダルは気づいてはいないが、ケンタクンはしっかり認識しており、この車の中で唯一全体を把握していた

 どうして自分がこんなにも気を使わなければならないのだろう、そう理不尽を感じながら、コトンが爆発しないようにレンダルと話を合わせていた

 レンダルは悪い奴ではない、最初ハヤトに『グース隊長』と言った時は思わず『あっ』と声を出してしまったが、よくよく話を聞いているとレンダルはとても純粋な人間であり、悪意などは全くと言って無かった。
 むしろ憧れの方が大きく、尊敬の念が伝わってくる。
 それが分かっているからコトンも何も言わないのだ。
 いや、少しは何か言えよと思うが、口を開いたら開いたで毒を吐くかもしれない
『私の方がハヤトの━━』
 そんな競い合うようなことを言いそうだ。そんな事になったら車内の空気は最悪なものになるだろう。
 今でこそ最低なのに

 前のハヤト隊のエクレールポジションになっているケンタクンは、この場の空気をどうにかしようと懸命に頑張る。
 こんな時は当のハヤトが居てくれればいいのだが━━

『‥‥何か嫌な予感がするから俺は召喚獣で先に向かう事にする、三人はこのまま車で目的地に来てね。ケンタ君は安全運転でお願い』
 と言い、途中で車を降り召喚獣で飛び去っていた



 隊長‥‥勘弁してよ

 ハヤトと再会した際、フルネームで自分の名前を言われた時は何故か全身に雷が流れる思いをした。心が震えるような高揚感を得た。
 ハヤトの活躍はもちろん知っていたが、ケンタクンのハヤトの印象とは初等部の時の印象と、軍学校に飾ってあるキャラクターがプリントされた服で、召喚獣にまたがっている間抜けな写真のイメージしかない。
 だが久しぶりに会い、自分の名前を呼ばれた時、ハヤトの印象は一変した
 『ああ‥‥これが本物の英雄か』

 と‥‥、それまで掻い潜ってきた戦いがその顔や目、佇まいにすべて出ていた。その立ち姿そのもの、そしてその言動がまさに英雄と感じる程洗練されていた。
 この人の部隊に入れるのかと感動を覚えた程だった

 だが‥‥歴戦の戦いを掻い潜ってきた為、危機管理能力がずば抜けて高いのかこの場からもう立ち去っている。この危険な場所に見事部下だけ残し自分は逃げていた

 いまケンタクンの中では、隊長は『逃げた』事になっている。最初あった時のハヤトに感じた感情も少しずつ真逆のものに変わろうとしていた時、軍用車に取り付けられている通信機から連絡が入った

 『クロノ隊よりの報告で、ガッチに敵の対空砲確認。敵部隊規模は5個小隊から中隊規模』

「「「━━っ!」」」

 それは今まさに自分達が向かう場所の途中にあり、同時に先に召喚獣で向かっている隊長であるハヤトが通過、もしくは既に通過しているである場所だった。
 空から向かっているハヤトはいくら歩兵がいたとしても関係ない。だがその中に対空砲が含まれている、ハヤトにとっていま最も危険なのはその対空砲だった

「ケンタクン! もっと速度を出して、早くハヤトの所に!」
 コトンが叫ぶが

「駄目だ! 相手は中隊規模とも言ってるんだ。まずは周囲にいる部隊と合流する。ケンタクン、通信機をこっちに!」
 もしもの時には指揮を頼むと言われているレンダルが、運転席側に手を伸ばす

 レンダルに通信機を渡すと、周囲にいるであろう部隊と連絡を取り始めた。ハヤトの所に急げと言ったコトンだが、レンダルに自分の言った事を否定されても不満を訴える事はなかった。コトンも感情ではハヤトの所へ急ぎたいのだろうに‥‥。深部を抜けてきた人間はやはり違うなとケンタクンは感じた。
 そう思ってバックミラーでコトンの顔を見ると‥‥

 凄い睨んでる! しかもさっきよりも物凄い眼球を剥き出して! 
 
 多分コトンはかなり根に持つタイプなのだろう、ケンタクンは何となくコトンの性格が分かったように感じた

 それよりも‥‥凄いな隊長。
 嫌な予感というのはこの事か、まさかハルツールが完全に抑えている場所に、敵の兵士が入り込んでいたとは‥‥。
 これが歴戦の兵士の勘ってやつか


 一度落ちかけていたケンタクンのハヤトへの評価は、更に上がる事となる








 一方

 そのハヤトは


「ぐっ‥‥ギギギっ‥‥うーっ‥‥寒い、し、死ぬ‥‥」

 超高高度の上空で寒さと酸素の薄さで死にそうになっていた
 
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