異世界陸軍活動記

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今やらずして

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「うん‥‥うなあああああっっ‥‥が」

 ベッドの上で目が覚め、おかしな声を出しそのまま伸びをする。新しくダブルベッドに変えたため、伸ばした手足がはみ出ることなく朝を迎えた。
 まだ少し寝ていたい気分でもあったが、起きなければ昼夜逆転生活になりそうなので眠い目をこすりながら腹に力を入れ、「ふっ!」と腹筋をするように勢いよく上半身だけ起き上がった。
 ふぅ‥‥と一つため息を付き、そのまま『洗浄』魔法を体にかける。便利な『洗浄』魔法はこれ一つで体を綺麗にしてくれて、シャワーを浴びる必要もないし歯磨きをする必要も無い、何とも便利な有難い魔法である。
 そのままベッドから立ち上がりカーテンを開けると物凄く明るい景色が目に映る

「うわぁ‥‥」

 太陽は既に真上に来ており、普通に起きる時間を既に過ぎていた。一応規則正しい生活を心がけているのだが、昨日の昼についつい昼寝をしてしまい、そのせいか眠りに付けたのは多分深夜を過ぎてからだと思う。
 窓の外の天気は今日も晴れ、いつもの代わり映えの無い景色であるが、ここまでほぼ一年中変化がないと少しうんざりしてくる。
 この世界の天気は女神が徹底した管理をしており、天候はほぼ晴れになっている。
 時たま大地が渇いてくると女神はその力によって雨を降らせる、人々はそれを女神の恵みと言い感謝を捧げる。
 だが俺からしたら雨の日は女神の顔を思い出してしまい、もやっとした感じになってしまう。
 最近では晴れの日でも気に食わないし、雨の日なんかはもっと気に食わないと思うようになってきた、どちらにしろ気にくわない。
 空を見ていても楽しくないので、取りあえず朝‥‥昼食でも取ろうか?

 寝室から出て短い廊下を通り、リビングのドアを開けると、何やら忙しい様子

「おはよ」

「あっおはようハヤト、今日は随分とゆっくりだったね」
 今や当然のように朝から家にいるコトン、忙しそうに動いている。
 俺の家で

「昨日昼寝しちゃったからね、寝るのが遅かったんだよ」
 そのまま食事の為にテーブルに着くと、ラグナが昼食を持って来てくれた

「おはようございます旦那様、少しばかり騒がしいですがもうすぐで終わりますので」
 そしてすぐさまコトンの指示で何かの作業に当たる
 
 持って来てくれたのは、蒸かしたパナンと魚の燻製の身をほぐして入れ野菜ふんだんに入れた野菜炒めだった。
 魚を多く買い込んでしまった為、この所毎日毎食魚の燻製が出て来る。
 魚を購入して後で知ったのが、燻製と言うのは大体2カ月程しか持たないらしい。何となく保存食というイメージが強かったので二年くらい持つんじゃないかと勝手に想像しており、大量に買い込んでしまった。
 このままだと腐らせるだけなので急いで消費しなければならず、毎日食卓に出て来る。
 正直旨くてもこう毎日だとうんざりする

「おはようございます旧主よ」
 俺がリビングに入ってくるまでソファーで寝っ転がっていた召喚獣デュラ子が、俺の席の隣に座った

「おはよ」
 今やコトンの召喚獣になったデュラ子だが、コトンと同じく毎日俺の家にいる

「ふむ‥‥旧主が食事を取るなら私ももう一度取ろうか、済まないがラグナよ私にも同じものをくれないか?」

「もう一度って何? もう昼食取ったの」

「先ほど既に取っております、ですが旧主の食事を見ているとまた食べたくなりまして」
 
 つまりデュラ子は今日3回目の食事となる。
 召喚獣は食べなくとも生きていけるので食事自体無駄ではあるが、大量に買い込んでしまった魚を消費するのには助かっている

「食べたいなら仕方ないね」

 そこへ
「どうぞお嬢様」
 多分デュラ子が言うと見越して一緒に準備してきたのだろう、俺と同じ物がデュラ子の前に出て来た

「うむ」
 頷くデュラ子は直ぐにパナンに手を伸ばす

 まあそれはいいとして

「コトンは一体何やってるのウチで、勝手に家具の配置とか変えてるんだけど」

 ラグナの手を借り、家具の位置を変えたり飾りをしたりとしているが‥‥

「ふぁるじ━━」
 口に入れた直後に聞いてしまったので発音が出来な方様子、喋るのを一旦諦めモグモグと咀嚼し飲み込んだ。
「主の両親がいらっしゃるのでその準備でしょう」

「そうなんだ‥‥」

 ‥‥

 ‥‥

 ‥‥?

 何故? と出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。この家は俺の家であってコトンの家ではない。親が来るのなら普通はコトンの家に来るのが当たり前なのでないのでしょうか? でも俺の家に来るらしい。
「うーん‥‥」
 と小さくため息を付きうな垂れてしまった

 ハッキリと言った方がいいのだろうか? 

 コトンは初等部の時、俺が言った事を間違って聞いてしまったらしく、ラベル島に行くための船で再会した時、将来大きくなったら結婚すると俺が言ったと言っていた。
 それを今でも信じているらしく、俺との距離感がかなり近い。俺は誰とも結婚する気が無いし、もちろんコトンとも一緒になろうとは思ってもいない。
 まさかコトンがここまで想っているとは考えていなかった。再会した時にそれをちゃんと伝えておけばよかったと今思う、時間が経てば経つほどそれが言いづらくなってしまっていた。
 しかもコトンが『カレー風(略)』を食べ倒れた翌日の夜

「旧主はいつもあの料理を食べている、夫婦となるなら主も慣れなければいけないのではないか? そうしないと愛想をつかされるぞ」

 とデュラ子がコトンに言い、意を決したコトンは次の日から俺が食べている物を食べるようになった。ただし、味付けは俺が好む物をよりマイルドにした物、大体10分の1程物をラグナは出している。
 それにもかかわらずコトンは顔を真っ赤に染め、涙を流し苦痛に歪んだ顔をして食べるようになった。
 食事はそんな顔をして食べるものではないと思うのだけれど‥‥

 努力、努力かな? をしているコトンを見ているとますます言いずらくなってきている。そんなこんなで段々と外堀を埋められていくのを見ている事しか出来ない俺は、秀頼と淀の気持ちが分かる気がしてきた。
 大阪城の堀を埋められている時の二人が思っていた事は、今俺が思っているのと同じなのだろうか‥‥

 人生ままならぬものである

 そしてこの後来るであろうコトンの両親に対し、俺が取った行動は

「デュラ子」

「はい」

「今の話俺が聞かなかった事にして欲しい」

「わかりました、して‥‥旧主はどうされるおつもりで」

「出かけてきます」

 俺は逃げた。取りあえず今は逃げようこの後どうなるかは俺にも分からない、明日の事は明日の俺が解決してくれる。
 今日の俺よりも明日の俺の方が人生経験が豊富なのだから、何かしらいい考えが浮かぶだろう。
 だから今日の俺がする事では無いだろうと考える、問題を常に先送りする日本人のように。
 そういえば俺は元日本人だった、なら仕方ないね




 ・・・・

 ・・


 生まれた時からインドア派な俺は、地球に居た時もこの星に居る時もほとんど外出はしていない、地球ではゲームをしていたしこの星では鍛冶仕事とか色々やる事があったので特に外出する事は無かった。出来れば今日も家に居たかったが‥‥

 コトンの両親は多分夜には帰るだろうならそれまで時間を潰すしかない、とは言っても『平日にスーツ姿で公園にいるサラリーマン』のように何もしない訳ではなく、今回はちゃんと目的がある。
 その目的とは、この星のこの国の事を良く知る事である

 自国に破壊兵器を落とす決断をしたハルツール、まさか領土を更地にしてまで使用するとは思わなかった。
 どことなくこの国の事を分かった気でいたが、本当の所までは理解出来ていなかったようだ。
 狂気としか思えないその決断に俺は裏切られたと思っていたが、それはただ単に自分が分かっていなかっただけだと気づく。
 ならばこの国に住まわせてもらっている立場としてはそれを理解しなければならない、手っ取り早くその心を知るにはどうしたらいいか?。
 俺が考えついたのが文化に触れるという事、文学や芸術はたまた歌などこの星にも沢山の文化がある。ならばそれに触れこの国を理解しようと思った。
 
 要するに遊んで時間を潰そうと思う

「取りあえずは‥‥本かな?」

 今までも本は読んではいたが、文学と言えるような古典などには手を出していなかった。日本で例えたら万葉集とか古事記みたいな‥‥て事でやって来ました本屋さん。
 念のためあらかじめマイナのペンダントで姿を変え周りにバレないようにし、ここで古典と呼べる本を買おうと思ったのだが‥‥

「どれが古典なのか分からない」

 買いに来たものの、肝心の古典というものが一体どんなものなのかが分からない。どれが古典でどれが現代なのか、その知識から不足していた

「多分‥‥」
 表紙が古めかしいのが古典だろう、この奥の方にある棚がそうじゃないかな?

 写真も絵も無いタイトルだけが表紙にある本を棚の右から左まですべて取った。今回はこれでいいだろう、読み終わったらまた買いにくればいい。
 さて時間は十分にあるし、公園でこれを読もうか

 

 結果的に『平日にスーツ姿で公園にいるサラリーマン』と同じような事をしている自分を自覚しないまま、公園で本を読み始めていた。
 ハルツール領土内にマシェルモビア軍が侵入してからというもの、ハルツール国内では娯楽で消費しないようになってしまった。
 皆娯楽よりも貯蓄に回し、万が一の時の為に蓄えているという感じだ。なので本やもそうだが、都市や小さな町全てが静かである。
 この公園もいつもは幼い子供と母親がいるだろうと思われるが、人はかなり少ない。
 そのおかげか静かに本を見る事が出来るのだが‥‥

 ベンチに座り『収納』から先ほど購入した本を一冊取り出した。
 タイトルは『天駆ける人』、どことなく時代の一歩先を行く人の話だろうかとタイトルで考えてしまう。
もしかしたら天駆けるだから竜騎士の話かもしれない、なんて想像しながら地味な表紙の本を開いた

 ・・・・

「んー」

 ・・・・

「んー?」

 ・・・・

「んー」

 ・・・・

 ・・・

 ・・

「分からねぇ」

 文字が読めない訳ではない、分からなかったら日報も書けない訳だし生活にも困る。ちゃんと勉強したし読めない訳ではない。
 しかし、分からなかった

 そもそもこの本のジャンルは古文になる。
 古文というのはこの世界では『古い作品』『古い文章』を古文という。日本の作品なら

 『春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山際、少し明かりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。』 
  みたいな文章が本の中にずらりと並ぶ

 Q さて問題です、日本では日本人全員が古文を理解できますか?

 A できません

 そうです学校で勉強して始めて理解できるようになります。勉強しても興味が無かったら一生理解出来る事は無いです。
 日本に住む日本人ですら理解出来ないこの古文

 Q さて次の問題です、こちらの世界では国民全員がこの世界の古文を理解できますか? 

 A できません

 こちらの世界でも学校で勉強をして初めて理解出来るようになります。理解できる人は国民全体の約20%以下になるでしょう。もしかしたら10%を切るかもしれません

 という訳でまともに教育を受けていない俺がこの古い文章を理解出来る訳が無い。それもそのはず、この本に書かれている文章というのは、大陸深部もしくは緩衝地帯で俺が発見した、地下に隠されている魔法陣の側に在った石に刻まれた文章だった。
 竜騎士隊の前のハヤト隊だった頃、この文章を読めたのは部隊の中でも一人だけ、ライカ・ダーモンただ一人。
 ちゃんと教育を受けていても読めない人が多いのに、まともに教育を受けていない俺が読める訳が無い
 
 残りの買った本も確認したが、全て俺が読めない本だった

「返品とか‥‥出来ないかな?」

 そう思いもう一度さっきの本屋さんに行ってみた。
 とそこでたまたま見つけたのが、その古文を現代風に訳した本だった。中身を確認したらそれは俺でもちゃんと読める内容だったので、それをまた数冊買う事にした。
 読めない方の本は返品せず、新しく買った家の本棚に入れておこうと思う、良い肥やしになってくれるだろう

 新しく購入した古文を現代風に訳した本を持ち、また先ほどの公園に戻ってきた。ベンチに腰かけ購入した『天駆ける人』の現代版を取り出し読み始めた

 
 天駆ける人の中身だが、幼馴染の男女が将来を誓い合いそして成長した男女は一緒になった。だが、男の前に自分よりも身分の高い別の女性が現れ、誘われるがままに一夜を共にし、その女性との間に子供が出来るという内容だった

「あれ? 思ってた内容と違う」
 サクセスストーリだと思っていたが恋愛ものだったらしい、その後も見て見たが

 子供が出来た事を知らされた男は暫くは妻となった幼馴染に隠していたが、結局バレてしまう。怒られると思った男は浮気をした身分の高い女の元へと逃げ込むといった内容だった

「ん゛ー」
 思わず唸ってしまった。まだ4分の1程度しか読んでないが、この天駆ける人は恋愛もので、登場人物の男は畜生だという事が分かった。
 それでこの時点で『天駆ける人』のタイトルの意味が推理出来た。間違っているかもしれないが、「天駆ける=逃げる」の意味では無いだろうか?
 古典というから結構立派なお話じゃないかと勝手に思い込んでいたが、実際そうでもなかった

 よくよく考えてみると、日本の古典である源氏物語に出て来る主人公も畜生だった

 どうやら人とは生まれた星は違えど考える事は一緒で、基本成長しないらしい

 そこまで読んだところで日が落ちて来て、少しばかり暗くなったのでそろそろ家に帰ろうと思う。俺の家に来ていたであろうコトンの両親も帰っているだろう。
 この本も今日はもういいや、明日でも読むことにしようかな

 家に帰るとコトンが待っていて、コトンの両親が来ていた事を聞かされた。知っているから逃げたんだけど
「そうなんだ? 知らなかったよ」
 と答えておいた

 次の日、本の続きを読む予定であったが何となく乗り気がしなくて読まなかった。
 まあ明日読めばいいか
 
 また次の日、本の続きを読む予定であったが何となく乗り気がしなくて読まなかった。
 まあ明日読めばいいか

 その次の日━━

 と続いて行き結局のところ休暇中に本を読むことは一度も無かった

 そして気づいた

「あれ? 今日で休暇最後じゃない?」
 知らぬうちに2週間の休暇が終わろうとしていた。何度もカレンダーを確認したがまさに今日が最後の日だった

「そうだよ明日から叔父さんのいるロメに向かう予定なんでしょ?」

「あっ、あ━━っ‥‥」
 学生の頃に誰もが経験する夏休みが終わる時の絶望感が心を支配する、ダラダラと何もせず過ごしていたが何と時間を無駄にしてしまったのかと後悔する。
 休暇の前半は色々と忙しかったが、後半は記憶に残らない程何もしてない
 
 最後の日はずっとこのまま目覚めなければいいなと思いながら眠りについた
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