好かれる男が俺を好きな理由

朝日奈由

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6.狂気(南)

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ひろ……先輩。


先輩が帰った後、それ程長くはいなかった先輩の見えない痕跡を辿った。
先輩が居るだけで、何かに触れてるだけでそれを意識していた自分をはっきりと覚えている。
まだ洗われていないさっきまで先輩が飲んでいたコーヒーの残ったマグカップを見つめた。

「協力するって言っておいて下心しかないじゃん……」

キッチンのシンクに一つだけ置かれたマグカップをそのままにして自分の寝室に足を運ぶ。
先輩が一晩だけ使ったベッドは、その事実だけで違う面影を見せる。

「俺……今日からベッドで寝れないかも」

四年ぶりの再会を果たし、たった 一晩で幼かったあの頃以上の関係を生んだ。
しまいこんだはずの気持ちが溢れているのか、しまい込んだと勘違いしているのか甘えた考えが自分を翻弄する。
先輩にさえこの気持ちをしられなければ今以上に関係が壊れることはないと高を括らせ、欲望とそれを先行させるずるい考え方が頭の中を駆け巡る。
今よりもっと先輩との距離が縮まれば、先輩にさえこの気持ちをしられなければ、今はそれだけでよくて先の事を考える余裕はない。
自分にとっては先輩と少しでも関わっていられる現状の方が欲しくてたまらないからだ。

「やっぱり、俺まじで最低だな……」

真っ白なベッドを触りながら、頭の中は先輩の事で埋め尽くされる。
次に会話をして、顔を合わせる日がいつになるかも分からないのに帰ったばかりの先輩にまだ自分と同じ、自分の空間にいて欲しいと思考を独占する。

「連絡だけ、しておこう」

リビングの机に置いたままにしたスマホから、登録したばかりの先輩の名前を探す。

口先だけ交えるのじゃなく、少しでも形に残しておきたくてどんな文を送るべきかを考える。

【やっぱり少し心配になったので連絡しました。
まだ何か体調がすぐれない場合はいつでもいいので連絡下さい。あと、今日先輩の力になるって言いましたけど何か本当に困った時や誰かを頼りたくなった時にでも連絡してもらえたら嬉しいです。】

どこにでも居るような優しい人の振りをする。
それが今できる一番の限界なんだ。

しまい込まなくていいのならしまいたくはない。
隠さなくていいのなら隠したくない。
男の俺が先輩を好きだと打ち明けても理解してもらえるはずがない。
普通に彼女を作って結婚して子供を作る事に憧れている先輩は、女性が苦手と言う理由がなければきっとその辺の男と同じように生活していたに違いない。
想像するだけで、先輩は俺の人じゃないのにどこに向けたらいいのか分からない嫉妬と怒りから、独占し続けたいと思ってしまう。
だからこそ、卒業して行った先輩を思い続けるのが辛すぎて、寄ってくる女には優しくし、理解ある同じ側の男とは気持ちさえ無いが何度も寝た。
そうやって気持ちの隙間を埋めてきた。

「送ったら、すぐ返ってくるかな……」

先輩と再会し関わり会える状況を無理にでも作り、今まで白く、何にでも柔軟に対応し馴染むように生きて来たはずなのに……先輩のせいで、また黒くなっていく。
頭の中が先輩の事で埋め尽くされ、あの頃のように自分でも分かる狂気じみた思考が体をそうやって動かし協力すると言う言葉は自分にとっては嘘に近いと分かっているから、先輩が女性に対する恐怖心を改善したとしてもあの頃のように諦め、手放すなんて気はない。

いつからこうなったのか分からない。
ただ好きで好きでたまらなくて、それでも手に入れられない現実から独占的思考を望んで自分を震わす。


プルルル……プルルル……

『……なに?』

送信ボタンを押す手前で止めていたスマホの画面が着信画面へと変わる。
峰房 智也 (みねふさ ともや)
表示された名前をみて、出るか躊躇ったのは衝動的反応と今この状況において俺にとってうってつけの人物だったから。

『あっ、もしもし浩太ー?急なんだけどさ来週の日曜って空いてる?』

『なにもないけど、なんで?』

調子のいい軽い口調と何度も耳元で聞いた声。

『いやさー、お前遠藤さんって知ってる?大学で結構有名な可愛い子なんだけどさ』

『誰それ?知らないけど。その子がなに?』

『お前遠藤さん知らないの??遠藤 梨花!まーいいけど、その子がお前と仲良くなりたいらしくて今度少人数で飲まないかって誘われたんだけど俺からお前の事誘ってくれって言われてて昨日伝えるの忘れてたからさー』

話の内容を聞き、やっぱり電話に出るんじゃなかったと早いうちで後悔した。

『峰房さ、お前俺の事分かってるよな?』

『えっ……。いや、まあ。それ、どういうつもりで言ってんのか知らないけどお前別に女に対しては来るもの拒まずじゃん、急にどうした?』

女に対しては来る者拒まず。
今までそうやって対応してきた。
間違っていない峰房の問いかけに先輩の姿が頭に浮かぶ。

『……いや、やっぱり何もない。悪い、その誘い俺はパスしといて。つか峰房、近いところでどこか空いてる日ない?』

『はっ?俺?俺は、別にいつでも空いてるけど……』

『じゃあ、次の火曜いつものところで』

頭に浮かぶ先輩の姿をはっきりとさせながら、最低だと分かっていても自分の気持ちを収める為には誰かの手をかりて生きてきた。
自分一人でどうにかできるような容量はない。
それも分かってて嫌になり、どんどん自分の事が嫌いになっていく。

『はっ?!お前ここ一ヶ月は無かったくせにまたかよ……まあいいけどさ。来週の火曜な』

『あぁ、頼む』

『で?遠藤さんの誘いは断るのかよ』

『それも、俺は遠慮するからお前らだけで楽しんでこいよ。後、今後そう言う類の話とか頼みとか俺にふってこないようにしてもらっていい?』

『……いや本当お前どうしたんだよ。今までそんな事一度も言ったことなかったのに』

スマホごしに驚きと心配が混じったような声色で聞き返される。

『状況が変わったんだよ、余計な事聞くな』

『ふーん……まあ俺は浩太がいいならいいけどよ。話はそれだけだったからじゃあな』

『あぁ』

簡潔にお互いが言いたい事を伝えたらそれ以上は干渉しない。
それが俺と峰房のルール。
先輩の事が好きすぎるあまり、卒業して行った先輩を思い続けるのが逆に苦しすぎて十代の浅はかな考えをそそのかすように同じクラスだった峰房は俺に衝撃的な提案をしてきたのがきっかけだった。

俺が片思いしている相手が中谷 弘之だと言うことを何故か知っていた峰房はやさぐれまくってた俺に体だけなら好きに使わしてやると意味不明な事を言ってきた。
何が目的でなんのメリットがあって言っているのか少しも分からず拒絶したのは最初だけ。
俺にとってもそれは都合が良かったのは確かだった。
お互いの事は深く詮索と干渉はしない。
それを守りこんな荒んだ関係は高校を卒業しても続いている。

峰房の体を求める時は、俺が先輩に対して何かどうしようもなくなった時。
ふとした時に思い出してどうしようも無くなりそれを人の体を使って埋めようとする。
決まったホテルでお互い目を隠し、先輩の事だけを思って峰房の体を抱く。
汚い。
歪んでる。
何度もそう思いながらこの関係を続けてきてしまったのは俺のせいだ。
後に戻れない程壊れてる。

峰房との通話が終わり、先輩に送信する直前だった文をもう一度読み直し送信ボタンを押す。

「今日中に連絡返ってくるかな……」

そんなふうに思いながら真っ白なベッドに倒れ込むようにしていつの間にか限界を迎えていた睡魔に抗うことなく従った。





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